異世界転移した町民Aは普通の生活を所望します!!

コスモクイーンハート

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第7章 王家主催のパーティー

第七十話 一悶着

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「おいっ。お前!」
「はい?」
 突然、背後から何やら不機嫌マックスな声がかかる。何だろうと思い、きょとんとしながら結菜はくるりと振り返った。
 魔術師長とフィーナも何が起こったんだと不思議そうに集まっている新人魔術師達を見つめる。
 魔法で作り出していた風球も消えた。
「何?」
「……ッ!な、何ってその……。お、お前ら目障りなんだよ!初級魔法の練習ならわざわざ魔術師長の手を煩わせるなよな!」
 純粋に自分を見上げる結菜の行動はヴァイスにとっては予想外であった。その目には怒鳴ったヴァイスに対するマイナスの感情は一切浮かんでいない。普通なら怒鳴られると不快に思うはずなのに。
 新人魔術師達を率いてきた第一人者でもあるヴァイスは自分の怒鳴り声に振り返った少女の反応に対し狼狽えた。
 このままでは上手く自分の挑発に乗ってくれないかもしれない。売り言葉に買い言葉で決闘に持ち込むことで、結菜を追い出そうと考えていたのだが……。
 ヴァイスが「どうしようか……」と頭をフルスロットルで回転させる。
 その一方で、新人魔術師達が自分に突っかかる理由に全く見当がつかない結菜。
 そのため、ヴァイスの言葉をプラスに受け取った結菜は、てっきり彼らが親切心から言ってくれていると思っていた。
「確かに…。魔術師長さんだって忙しいはずだもんね。ありがとっ。注意してくれて」
 決して注意しようと思って言ったわけではないのに、元気に笑顔でお礼を言う結菜にヴァイスはさらに面食らう。
(本当に意味わかんねぇ。何言ってんだよこいつ………)
 しかし自分が仲間を誘導し、先手きって喧嘩を吹っかけた手前、後ろにいる仲間達に自分の動揺を知られないようにしなくてはならないと思い、ヴァイスはポーカーフェイスを装った。完全武装である。これでバレないだろうと安心したのもあり、調子に乗ったヴァイスは高を括る。
「はっ。そんなこともわかんねぇのかよ。お前には教育が足りないんじゃねえのか?」
 仲間に宣言した通りに喧嘩を吹っかけるヴァイス。偉そうに結菜を見下すヴァイスを流石に黙って見ていられず、フィーナは結菜を庇うようにしてヴァイスの目の前に立った。
「ヴァイス。やめろ。幾ら何でも口が過ぎるぞ。喧嘩を売っているのか?」
「ふっ。特売してやるよ!」
「……っ!ヴァイス!」
 ヴァイスは喧嘩をタイムセールのように売りつける。町のごろつきのような言葉と態度だ。それは後ろの新人魔術師達も同様であった。後ろで囃し立てている。……これでも一応貴族なのだが、彼らの心はここ数日で想像以上に荒んでしまっているようである。なんたってここは天才達が集まっている所だ。仕方がない。
 何とかして宥めようとしているフィーナの言葉に一切耳を傾けようとしないヴァイスと新人魔術師達。
「さぁ、どうすんだよ」
 目をギラつかせながら、やる気満々で結菜を見つめる。他の新人魔術師達もゴクリと喉を鳴らして二人を見守った。
 上手くいけば当初の目論見通り、自分達の本当の実力を示すことで自分達も魔術師長の指導を受けられるかもしれないからだ。あと魔術師でもないのに演習場にいる結菜を追い出せるかもしれない。フィーナのことももちろん気に食わないが、いちゃもんをつけやすいのは断然結菜の方に軍配があがったのだ。
 しかし、結菜は………
(もしかして、私の魔法がまだ未熟だから見かねて手伝ってくれるってこと?一緒に実戦しようってことだよね。うわぁ、いい人達じゃん。やっぱり魔法が好きな人には悪い人がいないんだね!)
 ……斜め上に勘違いをしていた。これは断れない。いや、むしろこの申し出を受けるべきだと。
 結菜は嬉しさ目一杯で目を輝かせた。
「もちろんっ。受けるよ、それ」
「「「「………………あれ?」」」」
 何か思っていた反応とは違うような気がする………とヴァイス達は首を傾げた。しかし、まぁ予定通りには進んでいるようである。しめしめとほくそ笑む彼ら。
「い、いいのか?ユーナ」
「?うんっ」
 フィーナが心配そうに結菜の瞳を見つめるが、そこには不安とかは全くなかった。今日の空模様と同じように晴れ渡っている。
 双方やる気に溢れる様子を見て、傍観していた魔術師長が和やかに告げた。
「皆さん元気ですねぇ。まぁ、ちょうどユーナ様の魔法練習にもなりますし、君達にもいい機会になるでしょうしいいんじゃないですか?」
「魔術師長殿っ⁉」
 フィーナは「何を呑気にむちゃなことを言っているんですか!」と魔術師長に問い詰める。
「まぁまぁ。落ち着いてください、フィーナ姫。さぁて。とりあえず結界を張りますから、演習場から人を出しましょうかね」
 いくら魔法が上手い結菜でも、新人とはいえプロの魔術師といきなり実戦をするなんて正気じゃない。それに怪我をしてからでは遅い。
 フィーナは魔術師長の決断を覆そうと躍起になったが、魔術師長は彼女の猛攻をのらりくらりと躱しながら着々と準備を進めていく。
 魔術師長がローブの袂から水晶玉のような物を出して「水晶宮結界」と唱えた。ガラスのように透明だが丈夫な結界が何重にも張られる。
 ちなみに、この《水晶宮結界》はダンジョンで発見される秘宝である。ダンジョンではダンジョンマスターを倒したり、あるポイント地点に到達するとこういう秘宝を手に入れることができることがある。しかし、それは高難易度ダンジョンに限るが………。
 《水晶宮結界》の性能は文字通り結界を張ること。範囲はちょうど演習場と同じ大きさくらいである。結界で王都を囲みはできないものの、結界は聖属性か光属性なのでなかなか無い貴重な代物なのだ。秘宝という名に値するといっても過言ではない。
 複数人対一人では不公平なので結菜と代表者のヴァイスでの決闘形式が取られることとなった。
 結界の中でヴァイスは杖を持ちながらストレッチをしている。魔法の発動の補助のための杖を渡されながら、フィーナにロンを預けた結菜は魔術師長にアドバイスを貰っていた。
「ユーナ様。先程も言ったように魔法はスキルや魔法石を使用して使うのが魔術師の中でも一般的です。思う存分やってごらんなさい」
「思いっきり?」
「はい。いいですよ。ヴァイスはあれでも魔術師の端くれですから。あなたの思いっきりでもたぶん大丈夫だと思いますよ。全力で立ち向かってくださいね」
「いいの?」
「はい。さぁ、行ってください」
「うん!」
 魔術師長が渡した仮の杖を持って元気いっぱいに走って行く結菜を魔術師長は微笑ましく見守る。
 その横でフィーナはロンを肩に乗せながら、準備運動をしている結菜を心配そうに見つめていた。
 何となくヴァイス達が突っかかる理由を察している手前、自分からは強く言えない。でもユーナに何かある前に私が彼女を守らないと、と決意していた。だってユーナは大切な友達だ。手を固く握りしめているフィーナ。
「大丈夫ですよ。ユーナ様なら。僕にはむしろヴァイス君の方が心配ですねぇ」
「……どういうことですか」
「彼女は強いです。まぁ、ヴァイス君も僕が選んで第一宮廷魔術師団になった者ですからぎりぎり耐えられるでしょうけど」
「はい?」
 確かに結菜は魔法の才があるのは間違いないとわかっていた。しかし、経験値がヴァイスと比べても圧倒的に足りないんじゃなかろうか。純粋な決闘ならヴァイスの方に歩があるとフィーナは踏んでいた。
「大丈夫って……。ユーナよりもヴァイスの方が経験も……」
「彼女は実戦経験がありますよ。この間の討伐で」
「討伐……?…………まさかっ」
「えぇ、そのまさかです。だって彼女は聖女なのだから」
 驚きでフィーナは目を見開いたが、それはどこか納得のいく内容であった。
 結菜の純粋で神聖な魔力に異常な程の魔法の上達の早さ。しかし、昔から魔法に特化していると言われている聖女なら当然な内容である。
 それにあの容姿は確かに言われてみれば噂の聖女に当てはまっていた。何処か頭の中で引っかかっていた謎がようやくほどけていく。ストンッと結菜があの噂の聖女だったのだとフィーナは理解した。
「なら納得です。噂になってますし」
「はぁぁぁっ。最高ですっ。前々から目をつけていたあのユーナ様の魔法を間近で見られるとは!」
「………魔術師長殿?」
 フィーナの話が全く耳に入っていない様子。
 フンスフンスと鼻息荒く魔術師長は結菜とヴァイスが戦う準備が整うのを今か今かと待っていた。やけに機嫌の良い魔術師長の様子を見てフィーナは何だか嫌な予感がした。
 しかし、以前測定をした時から結菜の魔法の才能の鱗片は感じ、待ち望んでいた魔術師長の心は収まらない。
 妙なテンションで始まりの合図をする。
「さぁ、用意は整いました。命に関わるものでなければ構いません。全力で正々堂々と戦ってくださいよ。……それでは始めてください!」
 新人魔術師達が大声でヴァイスを応援する。
 それを聞いて、何事かと思った魔術師塔にいた魔術師達も魔術師長の監督のもとに行われている決闘と聞き及んでギャラリーと化す。
 結菜とヴァイスの勝負が始まる頃には、すでにかなりの人数が演習場に集まっていた。
 こうして、皆が応援する中、結菜とヴァイスの決闘が始まったのであった。



 
 
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