見習い騎士の節約レシピ

水鳥ざくろ

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騎士になる夢

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「ふう……」
 
 小屋に入り、カエデは奥にあるベッドに仰向けに倒れ込んだ。マットレスも掛け布団も質素なものだが、身体の疲労を癒すのには十分な効果がある。身体をずらし、使い続けているためによく肌に馴染む枕に顔を埋めると、どんよりと瞼が重くなった。
 
「……騎士管理課、かぁ」

 カエデはひとり呟く。そこは分類するならばエリートが所属する場所で、悪い職場ではないことは誰もが知っている。きっと、給料だって良い。面接と筆記試験のみで審査されるので「騎士」としての才能は問われることはない。実技よりも座学の方が得意なカエデには良い条件だ。だが……。
 
「……俺は、騎士になりたいんだけどなぁ」
 
 カエデはくちびるを尖らせる。ぎゅっと両手で拳を作れば、細い腕の血管が浮き上がった。才能が無い、向いていない。そんなことは誰よりも自分が分かっている。毎年、新しい騎士見習いが入ってくる度に、カエデの胸は重くなるのだ。
 
「……最後の試験になるかも、かぁ……」

 騎士採用試験は年に一度だけ行われる。特に決まった定員は無く、試験の結果が良ければ、誰もが見習いを卒業することが出来る。カエデはいつも実技で落とされてしまい、この年齢まで見習いのままだ。
 
「……膝、痛いなぁ」
 
 もぞもぞと身体を動かし、カーテンの開いた窓の向こうを見つめる。先ほどまでは晴れていたが、いつの間にか今にも雨が降り出しそうなほどに、どんよりと厚い雲が広がっていた。
 
「食欲無いけど、食べなきゃ……」
 
 のそりと立ち上がり、カエデは狭い調理スペースに向かった。質素な小屋だが、料理や風呂といった、生活に必要なことは出来るように設備が整っている。もとは守衛が使っていた小屋だが、新しい守衛所が建設されたことにより取り壊される寸前だったところをカエデが譲り受けたのだ。これは教官による配慮の賜物で、皆より年上のために寮内で少し浮いてしまっていたカエデに「不審者を発見次第報告せよ」と任務を与えてくれたのだ。 おかげでカエデは、寮よりも息のしやすいこの小屋で生活を送ることが出来ている。
 ここでの「独り暮らし」は、もう一年になる。寮には食堂があって好きなものを注文するだけで良かったが、この小屋ではそうはいかない。食事の用意は自分でしなければならないので頭を使う。一週間に一度だけ、街に出ても許される休日を取れるので、その日に一週間分の食材をまとめて買っておかないといけないので大変だ。
 あらかじめメニューを考えて、それを冷蔵庫に磁石で貼っておく。だいたいはローテーションになってしまうので飽きてしまう時もあるが、今は食事の文句を言っている時ではない。自分は今、危うい状況にあるのだと言い聞かせて、カエデはせっせと節約生活を続けている。騎士見習いの僅かな給料を貯め、もしもの時のために備える。母親への仕送りの額が少ないのが悩みだが、いつか、きっと「出世」して大きな家をプレゼントしてみせる、とカエデは心に決めていた。
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