果ての世界の魔双録 ~語り手の少女が紡ぐは、最終末世界へと至る物語~

ニシヒデ

文字の大きさ
44 / 59
二章 贖罪を求める少女と十二の担い手たち~霊魔大祭編~

ローツキルト商業エリア2

しおりを挟む

 中世の面影を色濃く残す旧市街――――洒落た造りの噴水や、正面に見える時計塔などが、まず最初にそういった印象を与えてくれる。

 石材が放つ純粋な色合いのみで統一された通りは、もはや芸術品と呼ぶに相応しい美しさを兼ね備えていた。
 建物の一部や、時計塔の大時計に使用されている金属類。月日を実感させる錆びついた輝きが、それらの光景の中で、一際強い存在感を放っている。

 付近には客引きをする人物などの姿はなく、外周区の通りで頻繁に見かけた、カラフルな色彩の看板も出されていない。

 近くに設置されていた街灯の柱には“第1167区”と書かれた金属製の板が張り付けられており、それが数メートル間隔で、通りの脇に沿うようにして立ち並んでいる。

 ガラス越しに見える店の中には、大量の羽根ペンを含めた筆記道具が陳列されていた。そしてどうやらこのエリアに存在する全ての店が、それに関連した商品を取り扱っているようである。

 「ここはペンに関連した商品を扱うエリアだな。先ほどまで歩いてきた外周区にある通りとは違い、この商業エリアでは、区ごとに扱われる商品のジャンルが違ってくる」

 辺りを珍しげな様子で見回していた俺に対して、声を掛けてきたクロエがある店の手前で立ち止まる。

 中を一緒になって覗き込んでみると、宝石店のように透明なケースの中に並べられたペンが、真っ先に視界へと入ってきた。

 「ケースの右端から順に【自動筆記型羽根ペン】、【変形機構付き開錠万年筆】、【空中投影インク】――――そのどれもが魔道具に匹敵する効果がある代物だ。
 これに酷似した機能を持つ品なら、外周区にある店でも購入出来なくはないが・・・・・・やはり最高品質の物を求めるのであれば、この場所にまで足を運ぶべきだろう。
 魔法世界の様々な有名店の本店や、老舗の店などが集う場所――――それが商業迷宮都市ローツキルトが、魔法世界の中枢都市として世間に認知されている、一番の理由だな」

 つまりローツキルトに存在する商業エリアは、その専門店が集まるエリアごとに区で分けられ、仕切られているらしい。

 該当する区のエリアを隈なく探せば、必ず納得出来る目的の品を、いずれ見つけ出すことが可能な都市構造。
 それらがもたらした産物が、迷宮のように入り組んだ、この都市の姿を造り出したのだろう。

 先を行っていたナイラさんに呼び掛けられた俺たちは、その場を後にして再び歩きだし始める。

 そこから進んだ先に現れたのは、アーチ状に壁をくり抜かれた白い建物。

 その真下を潜り抜けるようにして暫く歩いていくと・・・・・・今度は広く開放感のある、自然に囲まれた街の光景が視界に入ってきた。

 通りの脇に植えられている、数多くの赤茶けた葉を茂らせた木々。少し先には幅十メートルはある、整備された水平の川と橋が見える。それぞれの建物の屋根には煙突がついており、薄い煙を放出し続けながら、辺りに広がる空の景色を覆い隠していた。

 街灯の柱には先ほどと同じく、現在位置を示す金属製の板が取り付けられている。
 
 “第0870区”――――それが示す意味は、この場所が既に“第1167区”ではなく、別のエリアであるということ。
 どうやら知らぬ間に、区の境目ごとに設置された、ゲートロードの中を通過してきてしまったようだ。

 不意に俺の鼻をついたのは、甘く香ばしい焼き菓子の香り。店先に出ている立て看板のどれもが、飲食を連想させるものばかりである。
 【トアツ焼き菓子店】、【シューローク・クリーム専門店】、【ポルアの飴菓子】・・・・・・などなど。

 そういった様々な種類の菓子を扱う専門店がひしめき合う場所――――それがこの“第0870区”エリアが持つ最大の特徴のようだ。

 ペンなどの筆記道具のみを扱っていたエリアとは違い、ここではあらゆる場所の店先を訪れている客の姿が見て取れる。

 需要という意味では商業区画で最初に訪れた場所よりも、こちらの菓子類を扱うエリアの方が人気なのだろう。
 辺りを元気な様子で走り回る、小さな子供の姿もあちこちで見かけることが出来る。そして見覚えのある小柄な背中がその中を突き進んで、通りにある菓子店の内の一つに、入口の扉を開けて入っていった。

 「あれ?――――なあリセ、今のって・・・・・・」

 その事に気づいた俺が、近くにいるリセに向かって訪ねようとすると・・・・・・リセとナイラさんの二人が揃って“しまった”というような顔つきをしながら、苦笑いを浮かべている様子が目に映った。

 「ごめんリセ!忘れていたわ。そういえばこの場所、あの子の好物の店が集まるエリアだったの!」
 「いえ・・・・・・私の方もすっかり忘れていましたから。これはもう最低でも三十分程度は、ここで足止めを食らうのも仕方ないでしょうね」

 リセはやれやれといった風に話をした後、事態を飲み込めずにいた俺に対して、申し訳なさそうな口調で声をかけてくる。

 「とりあえず私たちも行きましょうか。クロエはお金を持ってないので、このままでは無線飲食になってしまいますから」

 それからリセとナイラさん、そして俺を含めた三人が【シューローク・クリーム専門店】と書かれた看板が出ている、店の扉を開けて中に入ると・・・・・・、

 「・・・・・・クロエ?」

 そこにはクロエがシュークリームのような薄い皮製の菓子を、満悦の笑みを浮かべて頬張りながら、食べている姿があった。頬に付くクリームなどお構いなしに、これまで目にした事もないような幸せそうな表情をしながら、両手で握っている菓子にパクついている。

 他の客からは完全にただの子供だと思われているらしく、無我夢中で菓子を食べ続けているクロエに対して、生暖かい視線が周囲から降り注がれていた。

 「クロエは甘いお菓子に目がないんですよ。月に渡しているお小遣いの半分は、これであっという間に消えてしまうぐらいですから。
 大きなお金を持たせたら、きっと際限なく好きなだけ、自分の好物であるお菓子を買うでしょう。だから我が家では店で稼いだ売り上げの全てを、夜香の城の現店主である私が管理することになっているんです」
 「よっぽど好きなんだな。その・・・・・・普通、あれだけ甘いものを食べたら、胸焼けしそうなものだけど」
 「こうして見ていると、その辺にいる小さな子供たちと、何ら変わりありませんよね。
 ――――とにかく私は一度、クロエが食べた商品の会計を済ませてきます。ユウ君とナイラさんの二人は、クロエの座っているテーブルの所で待っていて下さい」

 それだけ告げると、リセはエプロンを着けた店員の元へと、すぐさま歩いて行ってしまう。
 喫茶店のような内装をした店舗の奥――――そこにあったテーブルの椅子に、腰を下ろした俺とナイラさんは、目の前に座っている最年長者に対して呆れた様子で話し掛けた。

 「いきなり消えたから何事かと思えば・・・・・・クロエ、そんなに甘いものが好きだったのか?」
 「・・・・・・まあな。いやー久しぶりのシューローク!昔と変わらず中に入っている特別製のクリームはフワフワだな!
 ――――なんだナイラ、そんな腹が痛いのを我慢するような顔をして。もしかして・・・・・・お前も食いたいのか?」
 「んな訳ないでしょうが!まったくもう、いっつも自分勝手に行動するんだから・・・・・・店に入るなら事前に私たちに対して、声くらい掛けてよ!」
 「そう怒るな。私だってこの店に入ってしまったのは不可抗力なんだ。・・・・・・甘いクリームの香りに釣られて、気がついたらここにいた。なっ?驚きだろう?」






























しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

おいでよ!死にゲーの森~異世界転生したら地獄のような死にゲーファンタジー世界だったが俺のステータスとスキルだけがスローライフゲーム仕様

あけちともあき
ファンタジー
上澄タマルは過労死した。 死に際にスローライフを夢見た彼が目覚めた時、そこはファンタジー世界だった。 「異世界転生……!? 俺のスローライフの夢が叶うのか!」 だが、その世界はダークファンタジーばりばり。 人々が争い、魔が跳梁跋扈し、天はかき曇り地は荒れ果て、死と滅びがすぐ隣りにあるような地獄だった。 こんな世界でタマルが手にしたスキルは、スローライフ。 あらゆる環境でスローライフを敢行するためのスキルである。 ダンジョンを採掘して素材を得、毒沼を干拓して畑にし、モンスターを捕獲して飼いならす。 死にゲー世界よ、これがほんわかスローライフの力だ! タマルを異世界に呼び込んだ謎の神ヌキチータ。 様々な道具を売ってくれ、何でも買い取ってくれる怪しい双子の魔人が経営する店。 世界の異形をコレクションし、タマルのゲットしたモンスターやアイテムたちを寄付できる博物館。 地獄のような世界をスローライフで侵食しながら、タマルのドキドキワクワクの日常が始まる。

処理中です...