果ての世界の魔双録 ~語り手の少女が紡ぐは、最終末世界へと至る物語~

ニシヒデ

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二章 贖罪を求める少女と十二の担い手たち~霊魔大祭編~

ローツキルト商業エリア3

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 開き直った様子で悪びれもせずに、手に握った菓子を食べ続けているクロエ。

 やがて会計を終えたリセが、小さな盆を手に持った状態で、俺たちがいる場所を目指しながら歩いて来る。

 盆の上にはクロエが食べているものと同じ菓子が数個載せられており、それを目の前にあるテーブルの上に置いたリセは、俺たちと同じく赤い皮製の椅子を手前に引いて、そこに自身の腰を落ち着けた。

 「せっかくなので私たちも一旦、ここで休憩にしましょうか。このお店で売られていたお菓子を、いくつか買ってきましたので、二人とも遠慮せずに食べてみて下さい」
 「じゃあ折角だから一つ貰うよ。――――って、何だこれ!めちゃくちゃうまいな!」

 決して大袈裟ではなく、率直な感想を述べた俺に対して、クロエが「そうだろう?」と声を掛けながら、自慢気な様子で口を開いた。

 「ここの菓子に使われているクリームは、ロジステルという世界で自生している、綿雲という自然食材を材料にして作られている。
 雲のようにフワフワとした花弁の部分には、人の手では再現できない、濃厚な甘みが詰まっていてな。魔法世界で手に入る、数多くの菓子の中でも、かなり人気がある商品なんだ」

 そのシューロークという名前の菓子に使われている生地は、薄そうな見た目の割に、ビスケットのような固い歯ごたえがある。
 極薄の生地の中に詰められているクリームの食感は、泡のように柔らかく、それでいて綿菓子のような弾力性も含まれていた。口に入れた瞬間、強い甘みが口内全体を満たし、波が引くように僅かな後味を残して溶けていく。

 これまで感じたことのない、不思議な甘みを味わいながら、俺がテーブルの端に置かれていた新聞の表紙に目を向けてみると――――“そこには“次回霊魔大祭開催時における、魔法世界連盟議会の招集について”などと書かれていた。



 ――――“次回霊魔大祭開催時における、魔法世界連盟議会の招集について”

 さて、第*****回、霊魔大祭が、いよいよ来年末の冬に取り行われることとなった。
 
 現議会の最高議長であるギルベルト・ロック・ジディアスは勿論の事、今年は円卓の守護者オルトルスの席に名を連ねる魔法使い達の大半も、必ず出席することになるだろう。
 
 その最大の理由とは・・・・・・世間でも噂されている、円卓の守護者オルトルスの序列入れ替えの件が、真実味を帯びてきたからである。
 
 当社の記者が極秘裏に得た情報によれば、既に現執行部アルバの第四部隊隊長である【猛爆の雷シュラーケン】、クレイ・モルドーが、推薦人として選ばれたという話が出てきているとの事だ。
 
 執行部アルバ側としては、身内の息がかかった者を、新たな円卓の守護者オルトルスの席に据えることで、魔法世界全体のパワーバランスを均等に保とうと考えているようだが・・・・・・事態はそう単純なことでは無い。

  昨年失踪した現円卓の守護者オルトルスの第十二席、オーマン・ドリニケルの件が未解決事件となっているのは周知の事実である。
 しかし管理局に所属している一部の魔法使い達の間では、その件に関してどうやら執行部アルバの上層部が、何らかの手がかりを掴んだかもしれない・・・・・・と、まことしやかに囁かれているそうだ。
 
 ドリニケルの失踪が明確に発覚した当時の事、執行部アルバは現存しているほぼ全部隊を動員して、大規模な捜索活動をおこなっている。
 
 しかしその結果得られた情報はというと・・・・・・彼が最後に消息を絶ったと思われる世界に残されていた、ごく僅かの魔力情報だけだった。
 
 それほど大規模な調査をおこなって得られた情報が、たったそれだけのものであるとはとても考えにくい。 おそらく当時の執行部アルバ上層部は、とても世間には公表出来ない、事件に関する何らかの手掛かりを得たのだろう――――――――下記に続く。

 ――――来年に開催される予定の議会の場では、空白となった円卓の守護者オルトルスの席に関して、各方面からの意見交換が交わされるのは、まず間違いないと断定できる。
 そしてここ数十年の間、その動向についての詳細が一切不明である、【常闇の天眼ギベリオン・アイズ】、クロエ・クロベールの円卓の守護者オルトルス追放処分の件に関しても、何らかの進展があるだろう。

 空白となった円卓の守護者オルトルスの新たな席に任命されるのは誰なのか?
 昨年、執行部アルバ上層部のみが掴んだとされる、ドリニケル失踪事件の真相とは?
 その続きは本誌の裏面へ――――



 「・・・・・・げっほ、げっほっ!!」

 記事に書かれている内容の中に、よく知る身内の名前を見つけてしまった俺は、思わず食べていた菓子の一部を喉に詰まらせ、その場で勢いよく咳き込んでしまう。

 リセが気を利かせて運んできてくれたコップの水を飲み干しながら、俺は置いてあった問題の新聞紙を手に取ると、それを目の前にあるテーブルの上へと広げながら、怪訝な顔つきをしてこちらを見ていた、クロエに対して質問をする。

 「なあクロエ、この記事に書いてある名前なんだけど・・・・・・多分、クロエのことで間違いないよな?」
 「はあ?ちょっと見せてみろ。“クロエ・クロベールの円卓の守護者オルトルス追放処分の件に関して”・・・・・・だと?どこのどいつだ、こんな下らん内容の記事を書いた奴は。
 ――――ロイ・ケルルト、ダニアス新聞専属記者・・・・・・か。知らん名だな。おいナイラ、この新聞を発行しているダニアス新聞社とやらに、今すぐクレームを入れてやれ。
 ろくな取材もせずに憶測だけで記事を書くなら、法的手段を持って、お前の会社を訴えてやるとな」
 「なんで一切関係のない私が、あなたの事に関して、いちいちクレームを入れなくちゃいけないのよ・・・・・・。やるなら自分でやりなさい。
 ――――それと念のため教えといてあげるけど、この新聞に書いてある記事の内容は全て事実よ。確かにあなたの円卓の守護者オルトルス追放処分の件に関しては、ここ数年の間、度々噂されているしね。
 自らが率いる派閥も作らず、適当な毎日を送ってきた自分自身に対して、罰が当たったんじゃないの――――って、痛ったあ!ちょっと、いきなり何すんのよ!?」

 機嫌が悪くなったからだろう。クロエが唐突に、クリームが付着したままの両手を伸ばして、すぐ隣に座っていたナイラさんの両頬をつねる。

 するとあっという間にドチャガチャと、テーブルを巻き込んだ争いに発展してしまい、クロエとナイラさんの二人が揃って、互いの頬をつねり合い始めてしまう。

 辺りに菓子のクリームが飛び散り、騒々しい物音を聞きつけた店員が、慌てた様子で入口のレジがある方向から走り寄って来るのが見えた。

 「なあリセ・・・・・・この二人って、いつもこんな感じなのか?」
 「ええ。ナイラさんはクロエが心を許している、数少ない友人の内の一人ですからね。相手がナイラさんでなければ、ここまでクロエが感情を表に出すことはあり得なかったんですが・・・・・・。
 とにかく、これ以上、周りに迷惑をかけない内に、今すぐ二人の喧嘩を止めましょう!」

 それから俺たちは目の前で絡まり合っていた、クロエとナイラさんの双方を引き剥がしてから、大きく移動してしまった椅子やテーブルなどを、元の位置へと戻していく。

 店にいた従業員に対して謝罪をしながら、散らかった店内の片づけを、全員で協力して終えた後。不貞腐れた様子で椅子に座っていたクロエに対し、リセが左右の腕を組みながら、眉間にしわを寄せた状態で口を開く。

 「もうクロエってば!いい加減にして下さい!ちょっと自分の痛いところを突かれたからって・・・・・・感情的になって騒いでも、物事は解決なんて出来ないんですよ?」
 「・・・・・・・・・る・・・くない」
 「はい?・・・・・・今、なにか言いましたか?」
 「だ か ら!――――私は別に悪くないと言っているんだ。そもそも今回の騒ぎで非があるのは、私に対して仕返しをしてきた、ナイラの方だろう!」
 「クロエ・・・・・・それ本気で言ってます?」

 リセが口許を歪めて顔に笑みを浮かべるが、目が笑ってはいない。その声色から察するに、どうやらリセは今回の一連の騒動について、俺の想像以上にお冠のようだった。

 「ねえ、クロエ。わたし今・・・・・・とっても怒ってるんですよ?身内の私たちにだけではなく、関係の無い他所様にまで、これだけ迷惑をかけておいて。
 ――――まさかそんな子供じみた、下らない言い訳が本気で通用するとは・・・・・・考えていませんよね?」
 「あ、ああ・・・・・・無論、そんなことは考えてもいないが――――」
 「そうですか!それを聞いて安心しました!――――でもクロエ。それならそれで、まず何よりも先に、やらなくてはならない事がありますよね。いちいち言葉にして説明しないと分かりませんか?だったら――――」
 「・・・・・・ごめんなさい」

 弱々しくはあるが、はっきりと――――顔を伏せた状態で、謝罪の言葉を口にしたクロエ。
 
 おそらく当の本人は反省などしておらず、たった今取った行動すらも、形だけのものなのだろうが・・・・・・それでもクロエはこれ以上、リセを怒らせる事態になることだけは、避けたかったらしい。

 現在クロエが日常生活を送る上での主導権は、その弟子であるリセが全て掌握している。

 なのでクロエとしては、迂闊な行動によって自分自身が、面倒なペナルティを課せられたくない――――というのが本音だろう。









 




































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