果ての世界の魔双録 ~語り手の少女が紡ぐは、最終末世界へと至る物語~

ニシヒデ

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二章 贖罪を求める少女と十二の担い手たち~霊魔大祭編~

楽園に残された少女1

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 「ひどいな、これは・・・・・・」
 「ふむ。どうやらこの大気中に含まれている毒素は、全て汚染された地表から、噴出されているようだな」

  滑りのある土地の至る所から、空へと吹き出ていく猛毒の煙。

 本当にこんな場所に、生存者なんて残っているのか?――――と疑いたくなる程、俺たちの目の前にある光景は、並の人間が生きていく環境としては、絶望的なものだった。

 「正面におよそ十二メートル・・・・・・といったところか。よし、小僧。お前の片手を今すぐに、私の右肩の上に乗せろ。そのまま二人並んだ状態で、前方に向かって直進する。――――ついてこい」
 「・・・・・・ああ」

 クロエの指示通りにして、俺たちはゆっくりとその場から、前に向かって歩きだし始めた。

 それはまるで火災の際に発生する色濃い煙の中を、無理やり突き進んでいるかのような感覚に近い。

 地面に接地していた俺の靴底からは、沼地の底を歩いているかのような、ぬめぬめとした気味の悪い感触が伝わってくる。

 「止まれ」

 突然前を歩いていたクロエが、すぐ間近にいる俺に対して、立ち止まるように声を掛けてきた。

 それから自分の肩の上に乗せられていた、俺の掌の表面に、自らの指先を伸ばしてそっと触れると、空いた片側の腕を正面に突き出した状態で、見えない何かを掴み取るかのような仕草をおこなう。

 「・・・・・・対象を構成している物理情報を分解し、私の放出した魔力に置き換えて固定化した。こうして互いの魔力情報を共有している間は、お前でも問題なく、魔力で造られた壁を通過できる筈だ。――――先へ進むぞ」

 先導するクロエの後に続いて、俺が自らの片足を一歩分だけ、前に向かって踏み出すと・・・・・・ふいに身体全体が水に浸かったかのような、不可視の重さと抵抗を、全身に感じ取った。

 (これは・・・・・・クロエの魔力か?――――にしても、重すぎる!)

 魔力によって造られた、透明な壁――――その中を掻き分けるようにして、俺たちは先の見えない、景色の向こう側を目指しながら、ただ前へと突き進んで行く。

 そしてある地点から周囲を満たしていた、魔力による空気の重さが急速に薄れていき・・・・・・進行方向に突如現れた白い光の海へと、俺が飛び込むようにして自らの身体を投げ入れると――――、

 ――――まるで絵画の世界に迷い混んだかのような気がした。

 そう感じてしまう程に、そこには俺が想像もしていなかった、美しい光景が広がっていた。

 緑一色で覆われた、固さのあるしっかりとした大地。上空の巨大な防御シールドに、映し出されていた青空には、本物そっくりの細長い雲が流れている。

 少し離れた地点には綺麗な湖があり、その中心には小さな孤島が一つだけ浮かんでいた。

 孤島の上には灯台のような、煙突状の建物が一軒だけ建っている。

 足下から生えていた草原の葉――――表面の感触は柔らかく、若干の反発性があり、とても偽物であるとは思えない。僅かに漂う湿った土の匂いが、俺の頭に浮かんだその考えを、更に強いものとして意識させてくれる。

 「随分と精巧に作られているんだな。最初の都市で見たものと比べてみると、ここにあるものは、殆ど本物に近いじゃないか」
 「殆ど本物に近い・・・・・・か。その言い方は間違っているぞ小僧。私たちの目の前に見えているもの。その全てが本物の光景だ」

 クロエは淡々と俺に対して、事実のみを告げながら、膝下までの高さがある草原の中を、真っ直ぐに歩いて行く。

 「作り物じゃない・・・・・・?あれほど外にある世界が、毒の大気によって汚染されているのにか?」
 「そこはあまり問題にはならないだろう。何せこうして一切の外気を遮断する、ドーム状の防御シールド内に、亀のごとく閉じ籠っているのだからな。いくらでもやりようはあるだろう。
 ――――しかしそれが分かっていたとしても、流石にこの状況は私自身、予測していなかったがな」

 感心した様子で話しながら、クロエは透明感のある湖の上へと、自らの片足を投げ出した。
 すると微かに波紋のような、魔力の痕跡が水面上に広がっていき、クロエの身体は水中に沈むことなく、その場に浮かび上がるようにして踏みとどまる。

 手招きをするクロエに続いて、俺たち二人は魔力で作られた足場の上を歩いていき、やがて湖の中心部にある、小さな孤島へと上陸する。

 島の地形はかなり極端で、俺たちのいる上陸地点から、先ほど目にした灯台のような建物がある場所まで、数メートルほどの高低差が存在するようだ。

 小高い丘を登るようにして、俺たちは島の建物がある地点を目指して、そこから移動を開始する。

 水気を含んだ草の葉を踏み越えて、島で最も高い場所に位置する、目的地に辿り着いた瞬間。俺の視界に入ってきた光景は、白いテーブルの前に座って、こちら側を眺めている、一人の桃色髪の少女の姿だった。

 「・・・・・・嘘・・・・・・本当に?」

 左右の目を瞬かさせながら、少女はひどく驚いた様子で、小さく言葉を呟いた。

 白衣を着た少女が身に纏う雰囲気は、どことなくミステリアスなものであり、リセと同じく視覚から得られる情報よりも、全体的にかなり大人びて見える。

 お互いが初対面であるにも関わらず、クロエはそれをまったく気にしない様子で、少女の座っているテーブルの前にまで歩いていき、そこに置いてある金魚鉢のような入れ物を指差しながら、少女に対して馴れ馴れしい口調で話し掛け始めた。


















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