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二章 贖罪を求める少女と十二の担い手たち~霊魔大祭編~
死の大気
しおりを挟む誰もいない世界――――だが生活をおこなう上で、必要となる都市のシステムは、未だ何の問題もなく、稼働を続けているようである。
この街に住む人々が消え去ってから、いったいどれ程の時間が、経過したというのだろうか?
ゴーストタウン・・・・・・つまりは廃墟化した都市の跡地と言うにしても、この場合はいささか、少しばかり新しすぎた。
謎が謎を呼ぶ――――なに一つ明確な答えを出せぬまま、俺がこの街から消えてしまった人々の行方に、思いを馳せていると、
「クロエ?」
何故か隣にいたクロエが、己の指先に魔力を集中させ、それを上空へと弾くようにして放出する。
ピンポン玉ほどの大きさしかない、極少の魔力の塊が、一直線に青い空を目指して上昇していく様子を、俺は訳もわからずに、見ていることしか出来なかった。
「何か空の上に、気になるものでもあったのか?」
「まあな。少なくともこうして、偽物によって支配された街が造られた、そのヒントが得られるはずだと、思ったまでのことだ」
その威力は走行中の自動車が、壁に激突したぐらいはあるだろうか。しかしクロエの放った魔力の行き先は、物理的な要素を何一つ持たない空の上である。
故に通常ならば行き場を失った魔力の塊は、そのまま上空で勝手に霧散して、消失してしまうかと思われたのだが――――、
「――――消えた?いや、何かにぶつかった・・・・・・のか?」
魔力の塊が地表から遠く離れた、上空のある地点に到達した次の瞬間。数十メートルの広い範囲に見えていた空の色が、一様に曇り空のような、灰色の色へと変化する。
「ほう・・・・・・この程度の衝撃では、流石に壊しきれんか。ならば――――」
たった今起きた不可思議な現象を、目の当たりにしたクロエは、先ほどとは比較にもならない程の量の、強い濃度を秘めた魔力を放出し、その右手の掌に巨大な黒い槍を握り込む。
これからクロエが何をやろうとしているのか、とても知れたものではないが・・・・・・。
とにかくそれはいくらなんでも、少々やり過ぎではないかと、俺がクロエに向かって意見しようとした――――その時、
「既に都市内部の探索作業は、私の魔力による自動感知によって済ましてある。この場所に被害を被る人間が誰もいない以上、多少派手な魔法を行使したところで問題はあるまい。
――――そもそもこの世界は残すところ、あと数時間もしないうちに滅びて、全てが跡形もなく消えてしまうんだぞ?
ならばその最後くらい、私たちの前へと現れた謎の答えを示す役割を、是非とも果たして貰おうじゃないか」
「まあそういうことなら・・・・・・別にいいのか?」
クロエによって言いくるめられた形ではあるが、おれはひとまずその説明に反論はせず、納得することにした。
もしもたった今、目にした光景が、俺の想像通りのものであるならば、この都市の外側に広がる世界の、その真の姿とやらを是非とも、直接見てみたい・・・・・・。
そんな俺の内心の変化を読み取ったクロエが、「念のため魔力による、身体防護は施しておけ」と声を掛けながら、自らの片足を目の前の地面に向けて、力強く踏み込んだ。
クロエが踏み込んだ地点を起点として、四方の地面へと深い亀裂が発生する。投擲を思わせるフォームで、その掌から射出された魔力の槍は、空を駆ける黒き稲妻となって、瞬く間に先ほどと同じ、都市上空の地点にまで到達した。
――――バキバキバキバキッ!!バリンッ!!
異様な破砕音と共に、俺たちの頭上に現れたものは・・・・・・地獄の大釜のように、空へと空いた巨大な大穴。
この都市全体を一つの卵として言い表すならば、クロエの造り出した魔力の槍は、その殼としての役割を果たしていた部分を、内側から完全に破壊してしまったのだろう。
かつてこの世界に住んでいた人類が、都市の外側に築き上げた巨大なドーム。
そこに空いた黒い大穴の部分から、毒々しい色をした雲――――というよりは瘴気に近いものが、俺たちのいる内側の方へと流れ込んでくる。
『――――警告、警告。外気防護シールドノ一部ニ、重大ナ損傷発生。住民ノ皆様ハ、タダチニ都市内部ノ防護シェルターヘ、避難シテクダサイ』
サイレンのような警報音と共に、機械的な音声が都市内部の広範囲へ発せられる。
一目で人体に有害だと分かる、穴の外側から吹いてきた深緑の煙は、あっという間にドーム内にある都市の全てを包み込み、その機能を完全に停止させてしまった。
「――――とんでもない濃度の毒素を、空気中に含んでいるようだ。普通の人間であれば、肌に触れただけでも即死だぞ。
・・・・・・小僧、分かっているとは思うが、魔力による身体防護だけは、絶対に切らすなよ」
「ああ。それにしてもこの毒の煙・・・・・・いったいどれ程の範囲にまで、広がっているんだ?
まさかこの世界全体が既に、毒の大気で覆われてしまっているってことは――――」
「この光景を見れば、その可能性は捨てきれないだろう。ここに住んでいた住人が“人類居住都市”なんて名前を、わざわざ付けている程だ。
毒の外気を遮断する、都市上空に造られた防御シールド・・・・・・その規格と大きさが、小僧の思い浮かべた予測を、現実的なものとして裏付けてしまっている」
「ま、それが分かったところで、この都市から人類が消えてしまった理由を、示す答えにはならないがな」――――クロエはそのように話をしながら、自らの手によって変貌してしまった、変わり果てた街の姿へと視線を移す。
機械などの無機物に対しても、何らかの影響があるのだろうか?
完全に沈黙してしまった都市の設備は、もう二度と再稼働する日など来ないだろう。もはやこの場所で得られる情報は何も残されていない・・・・・・などと俺自身が心の中で、勝手に結論付けていたちょうどその時、
「――――っ!しかしこれは一体、どういう事だ?何故・・・・・・」
不意に驚いた様子をしながら、何やら一人呟いたクロエは、すぐ隣に立っている俺に対して、未だに自らも半信半疑といった口調で、話し掛けてくる。
「たった今、私の魔力による自動感知に反応があった。どうやら今我々がいる場所からある程度離れた地点に、この世界唯一の生存者がいるらしい」
「生存者・・・・・・でもこの世界はあと少しで、完全に消えて無くなってしまうんだろ?だったらそうなる前に、その人の事を俺たちの力で助けてあげたりとかは――――」
「馬鹿言うな。見ず知らずの人間に対して、そんなお節介な事を、我々がしてやる必要など微塵もない。
ないにはない・・・・・・が。――――どうだ小僧?少しばかり気にならないか?
何せ滅びゆくこの世界に、たった一人だけ残された生存者なんだ。そいつならもしかすると、この世界から他の人類が消えてしまった、真の理由を知っているのかもしれないな」
「“気にならないか?”って・・・・・・そんな事を俺に対して言われてもな・・・・・・。――――ってまさか、今からその人の所に、話を聞きにでも行くつもりなのか?」
黒い魔力を放出しながら、転移魔法の準備を進めていたクロエに対して、俺はそのように問い掛けるが・・・・・・既に決定事項なのだろう。あまり話を取り合う気はなさそうだ。
すぐさま形成された魔力の翼が、俺たちの周囲を包み込み、クロエの展開した魔法の術式が、その効力を発揮する。
それから数秒後に、俺たち二人が転移してきた場所。そこは足場が酷く柔らかくて不安定な、人類居住都市の外側に広がる世界。
空気中が死の大気で埋め尽くされ、見渡すもの全てが汚染されている、腐敗した土地だった。
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