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二章 贖罪を求める少女と十二の担い手たち~霊魔大祭編~
隠されていた真実
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「なに・・・・・・これ・・・・・・」
地上で起きている状況を、数年ぶりに知ることになった私は愕然としました。
何故ならそこは――――私が今いる研究施設に入る前とは、比較にならない程の恐ろしい光景に、様変わりしてしまっていたのですから。
霧よりも濃い深緑色の大気。地表の全てを覆っていたそれは、人類にとって酷く有害なものであり、また決定的な死をもたらすものでした。
酸素濃度は以前の三割以下にまで低下してしまい、とても生身の人間が外で生活していける環境ではありません。
草木すら生存出来ない、強力な毒素を含んだ死の大気。例え高性能の防護服を着用したところで、人類が地上で活動可能な時間は、一分にも満たないでしょう。
それ以外の詳しい情報を得ようにも、各国が保持するネットサーバーが完全に凍結されてしまっているらしく、詳細を調査することすら出来ません。
仕方なく研究施設内部の設備管理システムに、秘匿回線を使用してアクセスしてみた結果・・・・・・建物の地下五階から入口付近にまで、数人分の生体反応が検出されました。
それらの情報を確認した私は、ひとまず先ほど電源を強制停止させた、ロコ君の再起動作業を試みます。
私が知らぬ間に起きてしまった世界の異常。予想外の事態に私は冷静さを完全に失い、それと同時に軽度のパニック的な症状を、引き起こしてしまいました。
(早く・・・・・・早く、早く、早くっ!!――――お願いだから・・・・・・早く再起動してよっ!ロコ君!)
自分で停止命令を出しておいてこれですから、本当に救いようがありませんね。
キーボードを叩く私の指先が恐怖で震え、その瞳からは涙が滝のように、止めどなく流れ出てきます。
普段よりも倍近い時間をかけて、私はなんとかロコ君の機体に内蔵されている、システムメモリの再起動作業を完了させました。
数秒後――――機体の各部に電力が行き渡り、飛行装置を含めたロコ君の全ての機能が、強制停止前と変わらない状態で再稼働を始めます。
ロコ君は機体の調子を確かめるかのように、何度か後部のスラスター部分を開閉させると、すぐ傍で嗚咽を上げながら泣き崩れている私の姿を見てから、本物の人間のように大きくため息を吐きました。
『・・・・・・見たのか?』
「・・・・・・うん」
ロコ君からの質問に対して、私は正面の方向ではなく、真下にあるタイルの床面を見つめながら答えます。
『だから止めとけと言ったんだ。その様子じゃ外で何があったのか、大体の見当はついているんだろ?』
「・・・・・・うん」
どうやらロコ君は・・・・・・全てを分かっているようでした。
私の保有する優れた知能と演算能力は、ほんの僅かな情報の中から最も正解に近い回答を、自動的に導き出します。
だから説明されなくても分かってしまう。外の世界で何が起きたのかを。そして・・・・・・現実から目を逸らし続けてきた私自身が、何をしてしまったのかを。
真実はこうでした。最終的に人類が定住していたこの惑星に残された時間は・・・・・・残り一年と少しだけ。
これはロコ君の開示してくれたデータを元に、私自らが算出した最新予測の結果です。
既に取り返しのつかない段階にまで、惑星の核自体が損傷し、崩壊現象が始まり初めていました。
その影響によって地下深くから猛毒のガスが噴出し、地上の大気と混ざりあって、世界中を覆い尽くしてしまったのです。
しかしなぜ二百年以上もあった、惑星崩壊までのタイムリミットが、そこまで急激に短くなってしまったのか。
――――その原因は全て私自身にありました。
自らの研究を続ける変わりに、その対価として私が人類に提示し続けてきた叡智の力。本来であれば何世紀もかけて、人類が手に入れる筈の高度な技術や知識を、私は絶え間なく継続的に供給することが出来ました。
その結果――――土地の環境破壊や汚染が急速に進み、惑星に残された寿命を、とんでもない速さで縮めていってしまったのです。
勿論、ロコ君は製造者である私に対して、警告をしようとしました。しかし当時の私は自分の研究作業に没頭するあまり、周囲から入ってくる他の情報を、殆ど認識できていなかったのです。
感情を失くして考えることを止めてしまえば、それはもはや機械と同一の存在となります。
数年前に私の精神状態を危惧したロコ君は、その安全性を確保するため、全ての真実を話さずにいることを決意しました。
「もっと早く、俺様の自我が完成されていれば・・・・・・」――――ロコ君はそのように話をしながら、地面に座り込んでいた私に対して謝罪をします。
研究施設に来てから最初の一年間は、まだシステム内の自我が確立しておらず、ずっと機械的な口調のままでしたから。本当にどうしようもなかったのでしょう。
ロコ君の中にあるシステムが形を成した時には、既に全てが手遅れの状態であり、どうしようもなかった・・・・・・というのが事実であり現実でした。
だから悪いのはロコ君ではなく、その事に気づきもしなかった私自身。そして愚かでどうしようもない、人類という高慢な種そのものです。
私たちが五年以上も過ごしてきたこの施設。ここは私の研究のために国連が用意した場所であると同時に、私を外へと出さないように閉じ込めておくための、牢獄でもありました。
建物の各階には埋め込み式の監視カメラが設置されており、その範囲はシャワー室やトイレの室内にまで及んでいたそうです。
その話をロコ君から直接聞かされた時の、私の精神状態ときたら・・・・・・それはもう言葉では言い表せない程に、とてつもなく酷いものでした。
「ヴッ・・・・・・」
他人に私生活の全てを覗かれていた。その事実は当時の私に対して、強いショックと嫌悪感を与えました。
吐き気が込み上げ、私は思わず自らの口元を、震える両手の掌で、強く強引に押さえつけます。
ロコ君の話によると、監視カメラの映像は何年も前から、ロコ君自身が作成した合成映像に切り替えてあったそうですが・・・・・・だからと言って、私の日常生活を見知らぬ誰かが覗いていたという、その事実が変わることはありません。
結局のところ私は、悪い大人たちにとって都合が良いように、ただ利用されていただけなのです。
父や母と同じようにはならないと・・・・・・そう決意しておきながら、こんなことになってしまっていたのですから。なんとも間抜けな話でしょう。
どんなに自分の頭がよくても、ずる賢い大人たちには敵わない。なぜなら彼等は私ですら予測不可能な程に、冷酷で残忍な知的生命体でしたから。
そこを甘く見ていた私自身が、敗北を被るのは寧ろ必然であると言えるでしょう。
自らの置かれた現状を把握した私は次に、両親たちが過去に関わっていた人類救済プロジェクトの研究データを、本格的に最初から調べ出し始めました。
その頃の人類は世界中の至るところに、私が提供した技術を応用して、大気中の毒素を遮断可能な防御シールドを築いていました。
そしてその内部に建造されていた居住都市に、私の求めていた研究に関する記録や資料が、抹消後の僅かな破損データとして残されていたのです。
各国が保有していたネットサーバーは、国という組織自体が解体されていた為、利用することが出来ませんでした。
ロコ君は各居住都市に存在する、施設の管理システムへと簡単にアクセス出来た為、それらの情報体を見つけ出すのに、さほど時間は掛かりませんでした。
私は手に入れた数々のデータを元通りのものに復元し、そこに記録されていた実験に関する資料の全てに、目を通していきました。
――――核融合炉製造実験計画。
それこそが私の両親たちが、惑星を救える唯一の措置として、国連の上層部に示した、具体的な解決策だったのです。
その計画の内容とは、惑星の中心部に存在する核自体を、人工的に製造したエネルギー装置へと置き換える――――というスケールの大きなものでした。
非現実的で無謀な計画の裏には、きっと二人にだけ分かる確かな勝算が伴っていたはずです。
だからこそ私の両親たちは、その人口エネルギー装置の開発と研究に、全身全霊をかけて挑んでいったのでしょう。
復元した炉の見取り図に、初めて目を通してみた私は、そのあまりの完成度に、心の底から驚かされてしまいました。
「凄い・・・・・・やっぱりパパとママは凄い!こんな発想・・・・・・私にだって思い浮かべることが出来なかった。
――――でもここまで完璧な内容の計画なのに、核融合炉自体の初期起動実験には失敗している・・・・・・。あの日、あの事故が起きた瞬間、いったい二人に何があったの?」
父と母の二人が残した研究成果は、この私ですら文句のつけようがない位に、完璧なものでした。
なのに起きるはずのない・・・・・・本来であればあり得ない筈の、大事故が起きてしまったのです。
私はその明らかな矛盾点を追及するべく、更に深く厳重に管理されていた、世界中に存在している人類居住都市の中枢システムに、ハッキングを続けていきました・・・・・・。
――――どれほどの時間が経ったのでしょうか。
数々のデータの復元と解析作業を繰り返していた私はついに、人口エネルギー装置の初期稼働実験に関する詳細が記録された、国連の最重要機密資料を入手することに成功します。しかし――――、
「・・・・・・なにこれ。炉の設計自体に手が加えられているし、何より・・・・・・本体に内蔵されている冷却システムが、パパたちの考えたものと全然違うじゃない!こんな――――」
こんな代物では事故が起きるのは当然だ――――私はそのように呟きながら、呆然とした様子で目の前の画面に映し出された、残酷な真実というものを目の当たりにしました。
人類史上最も甚大な被害をもたらしたであろう、過去に起きてしまった大事故の原因。それは本来完璧であるはずの、両親たちが考案した設計資料に、知識の甘い他の研究者たちが、余計な手を加えていたという、本当にどうしようもないものでした。
「こんな・・・・・・こんなことって・・・・・・」
一部の大人たちの勝手な都合が、私の大切な家族である、両親たちの命を理不尽に奪っていった。その事実は私の心の内に芽生えていた、ドス黒い感情の塊を一気に燃えたぎらせました。
「許せない・・・・・・っ!!」
いい加減に私は我慢の限界でした。私は両親たちにとっての“いい子”でいようと・・・・・・たったそれだけの想いで、ここまで頑張れて来れたのです。
その頑張りを否定する存在は・・・・・・人類という愚かしい生き物は、全員私の目の前から、消し去ってしまいたい。父と母の二人が愛したこの惑星から、未来永劫にわたって追い出してしまいたい――――。
本心からそのように強く願った私は、惑星崩壊までに残された僅かな時間を利用して、生き残った全世界に住む人々に対し、復讐と制裁をおこなうことを心に決めたのです。
惑星が完全に崩壊してしまうまでに残された時間は、ついに半年を切りました。
現在の人類は、新たな新天地へと旅立つために、長時間航行が可能な宇宙船を建造しています。
最後のロールアウトテストも終了し、後は乗組員である人類を乗せれば、すぐにでも出発できるというこの状況。それは自分以外の全人類を、この惑星から追い出してしまいたいと願っていた私にとって、またとない機会でもありました。
彼等の興味は既に、宇宙の彼方に点在している、新たな居住先へと向いています。
惑星の崩壊による衝撃が、銀河系全体を巻き込んで、巨大な時空の歪みを引き起こし、その後には砂粒の欠片すらも残りません。
それはまさにこの世界自体の終焉といっても、過言ではありませんが・・・・・・見苦しくも生にしがみつこうとする人類は、その銀河系の外側に広がる認識外領域へ、逃げ込むことを決定したようです。
私の推測では、宇宙の果てには見えない領域――――つまり未知のエネルギーによって区切られた、フィルターのようなものがあり、その反対側には別の時空及び次元に繋がる何がが、存在しているものと思われます。
全てが仮説に過ぎず、本当のことは分かりませんが、生存領域をあと少しの所にまで、追い込まれていた人類は、私がぶらつかせた目の前の餌に対して、何も考えずにすぐさま食らいつきました。
建造中の宇宙船を航空させるための心臓部――――永久機関式のエンジン製作を依頼された時の、私が思い浮かべた心境といったら・・・・・・それはもう、本当に愉快なものでした。
自分達が騙されているとも知らず、彼等は私の製作した設計図通りに、幾つもの巨大宇宙船を、せっせと建造していきます。
旅立ちの日のおよそ一週間前。当然ですが私の元にも、とある組織から迎えの者たちが送られて来ましたが・・・・・・その頃には既に私の姿は、長きに渡って滞在していた、研究施設内にはありませんでした。
全ての下準備を終えた私はロコ君と共に、半年間の月日を掛けて外界に建造しておいた、最新式の人類居住都市を訪れます。
そこへ移動するために私が使用した飛行船は、既存のどのレーダー装置にも反応しない、特殊な妨害装置が取り付けられていましたから。研究施設から失踪してしまった、私の足取りを追跡することは、実質不可能に近いことでしょう。
地上で起きている状況を、数年ぶりに知ることになった私は愕然としました。
何故ならそこは――――私が今いる研究施設に入る前とは、比較にならない程の恐ろしい光景に、様変わりしてしまっていたのですから。
霧よりも濃い深緑色の大気。地表の全てを覆っていたそれは、人類にとって酷く有害なものであり、また決定的な死をもたらすものでした。
酸素濃度は以前の三割以下にまで低下してしまい、とても生身の人間が外で生活していける環境ではありません。
草木すら生存出来ない、強力な毒素を含んだ死の大気。例え高性能の防護服を着用したところで、人類が地上で活動可能な時間は、一分にも満たないでしょう。
それ以外の詳しい情報を得ようにも、各国が保持するネットサーバーが完全に凍結されてしまっているらしく、詳細を調査することすら出来ません。
仕方なく研究施設内部の設備管理システムに、秘匿回線を使用してアクセスしてみた結果・・・・・・建物の地下五階から入口付近にまで、数人分の生体反応が検出されました。
それらの情報を確認した私は、ひとまず先ほど電源を強制停止させた、ロコ君の再起動作業を試みます。
私が知らぬ間に起きてしまった世界の異常。予想外の事態に私は冷静さを完全に失い、それと同時に軽度のパニック的な症状を、引き起こしてしまいました。
(早く・・・・・・早く、早く、早くっ!!――――お願いだから・・・・・・早く再起動してよっ!ロコ君!)
自分で停止命令を出しておいてこれですから、本当に救いようがありませんね。
キーボードを叩く私の指先が恐怖で震え、その瞳からは涙が滝のように、止めどなく流れ出てきます。
普段よりも倍近い時間をかけて、私はなんとかロコ君の機体に内蔵されている、システムメモリの再起動作業を完了させました。
数秒後――――機体の各部に電力が行き渡り、飛行装置を含めたロコ君の全ての機能が、強制停止前と変わらない状態で再稼働を始めます。
ロコ君は機体の調子を確かめるかのように、何度か後部のスラスター部分を開閉させると、すぐ傍で嗚咽を上げながら泣き崩れている私の姿を見てから、本物の人間のように大きくため息を吐きました。
『・・・・・・見たのか?』
「・・・・・・うん」
ロコ君からの質問に対して、私は正面の方向ではなく、真下にあるタイルの床面を見つめながら答えます。
『だから止めとけと言ったんだ。その様子じゃ外で何があったのか、大体の見当はついているんだろ?』
「・・・・・・うん」
どうやらロコ君は・・・・・・全てを分かっているようでした。
私の保有する優れた知能と演算能力は、ほんの僅かな情報の中から最も正解に近い回答を、自動的に導き出します。
だから説明されなくても分かってしまう。外の世界で何が起きたのかを。そして・・・・・・現実から目を逸らし続けてきた私自身が、何をしてしまったのかを。
真実はこうでした。最終的に人類が定住していたこの惑星に残された時間は・・・・・・残り一年と少しだけ。
これはロコ君の開示してくれたデータを元に、私自らが算出した最新予測の結果です。
既に取り返しのつかない段階にまで、惑星の核自体が損傷し、崩壊現象が始まり初めていました。
その影響によって地下深くから猛毒のガスが噴出し、地上の大気と混ざりあって、世界中を覆い尽くしてしまったのです。
しかしなぜ二百年以上もあった、惑星崩壊までのタイムリミットが、そこまで急激に短くなってしまったのか。
――――その原因は全て私自身にありました。
自らの研究を続ける変わりに、その対価として私が人類に提示し続けてきた叡智の力。本来であれば何世紀もかけて、人類が手に入れる筈の高度な技術や知識を、私は絶え間なく継続的に供給することが出来ました。
その結果――――土地の環境破壊や汚染が急速に進み、惑星に残された寿命を、とんでもない速さで縮めていってしまったのです。
勿論、ロコ君は製造者である私に対して、警告をしようとしました。しかし当時の私は自分の研究作業に没頭するあまり、周囲から入ってくる他の情報を、殆ど認識できていなかったのです。
感情を失くして考えることを止めてしまえば、それはもはや機械と同一の存在となります。
数年前に私の精神状態を危惧したロコ君は、その安全性を確保するため、全ての真実を話さずにいることを決意しました。
「もっと早く、俺様の自我が完成されていれば・・・・・・」――――ロコ君はそのように話をしながら、地面に座り込んでいた私に対して謝罪をします。
研究施設に来てから最初の一年間は、まだシステム内の自我が確立しておらず、ずっと機械的な口調のままでしたから。本当にどうしようもなかったのでしょう。
ロコ君の中にあるシステムが形を成した時には、既に全てが手遅れの状態であり、どうしようもなかった・・・・・・というのが事実であり現実でした。
だから悪いのはロコ君ではなく、その事に気づきもしなかった私自身。そして愚かでどうしようもない、人類という高慢な種そのものです。
私たちが五年以上も過ごしてきたこの施設。ここは私の研究のために国連が用意した場所であると同時に、私を外へと出さないように閉じ込めておくための、牢獄でもありました。
建物の各階には埋め込み式の監視カメラが設置されており、その範囲はシャワー室やトイレの室内にまで及んでいたそうです。
その話をロコ君から直接聞かされた時の、私の精神状態ときたら・・・・・・それはもう言葉では言い表せない程に、とてつもなく酷いものでした。
「ヴッ・・・・・・」
他人に私生活の全てを覗かれていた。その事実は当時の私に対して、強いショックと嫌悪感を与えました。
吐き気が込み上げ、私は思わず自らの口元を、震える両手の掌で、強く強引に押さえつけます。
ロコ君の話によると、監視カメラの映像は何年も前から、ロコ君自身が作成した合成映像に切り替えてあったそうですが・・・・・・だからと言って、私の日常生活を見知らぬ誰かが覗いていたという、その事実が変わることはありません。
結局のところ私は、悪い大人たちにとって都合が良いように、ただ利用されていただけなのです。
父や母と同じようにはならないと・・・・・・そう決意しておきながら、こんなことになってしまっていたのですから。なんとも間抜けな話でしょう。
どんなに自分の頭がよくても、ずる賢い大人たちには敵わない。なぜなら彼等は私ですら予測不可能な程に、冷酷で残忍な知的生命体でしたから。
そこを甘く見ていた私自身が、敗北を被るのは寧ろ必然であると言えるでしょう。
自らの置かれた現状を把握した私は次に、両親たちが過去に関わっていた人類救済プロジェクトの研究データを、本格的に最初から調べ出し始めました。
その頃の人類は世界中の至るところに、私が提供した技術を応用して、大気中の毒素を遮断可能な防御シールドを築いていました。
そしてその内部に建造されていた居住都市に、私の求めていた研究に関する記録や資料が、抹消後の僅かな破損データとして残されていたのです。
各国が保有していたネットサーバーは、国という組織自体が解体されていた為、利用することが出来ませんでした。
ロコ君は各居住都市に存在する、施設の管理システムへと簡単にアクセス出来た為、それらの情報体を見つけ出すのに、さほど時間は掛かりませんでした。
私は手に入れた数々のデータを元通りのものに復元し、そこに記録されていた実験に関する資料の全てに、目を通していきました。
――――核融合炉製造実験計画。
それこそが私の両親たちが、惑星を救える唯一の措置として、国連の上層部に示した、具体的な解決策だったのです。
その計画の内容とは、惑星の中心部に存在する核自体を、人工的に製造したエネルギー装置へと置き換える――――というスケールの大きなものでした。
非現実的で無謀な計画の裏には、きっと二人にだけ分かる確かな勝算が伴っていたはずです。
だからこそ私の両親たちは、その人口エネルギー装置の開発と研究に、全身全霊をかけて挑んでいったのでしょう。
復元した炉の見取り図に、初めて目を通してみた私は、そのあまりの完成度に、心の底から驚かされてしまいました。
「凄い・・・・・・やっぱりパパとママは凄い!こんな発想・・・・・・私にだって思い浮かべることが出来なかった。
――――でもここまで完璧な内容の計画なのに、核融合炉自体の初期起動実験には失敗している・・・・・・。あの日、あの事故が起きた瞬間、いったい二人に何があったの?」
父と母の二人が残した研究成果は、この私ですら文句のつけようがない位に、完璧なものでした。
なのに起きるはずのない・・・・・・本来であればあり得ない筈の、大事故が起きてしまったのです。
私はその明らかな矛盾点を追及するべく、更に深く厳重に管理されていた、世界中に存在している人類居住都市の中枢システムに、ハッキングを続けていきました・・・・・・。
――――どれほどの時間が経ったのでしょうか。
数々のデータの復元と解析作業を繰り返していた私はついに、人口エネルギー装置の初期稼働実験に関する詳細が記録された、国連の最重要機密資料を入手することに成功します。しかし――――、
「・・・・・・なにこれ。炉の設計自体に手が加えられているし、何より・・・・・・本体に内蔵されている冷却システムが、パパたちの考えたものと全然違うじゃない!こんな――――」
こんな代物では事故が起きるのは当然だ――――私はそのように呟きながら、呆然とした様子で目の前の画面に映し出された、残酷な真実というものを目の当たりにしました。
人類史上最も甚大な被害をもたらしたであろう、過去に起きてしまった大事故の原因。それは本来完璧であるはずの、両親たちが考案した設計資料に、知識の甘い他の研究者たちが、余計な手を加えていたという、本当にどうしようもないものでした。
「こんな・・・・・・こんなことって・・・・・・」
一部の大人たちの勝手な都合が、私の大切な家族である、両親たちの命を理不尽に奪っていった。その事実は私の心の内に芽生えていた、ドス黒い感情の塊を一気に燃えたぎらせました。
「許せない・・・・・・っ!!」
いい加減に私は我慢の限界でした。私は両親たちにとっての“いい子”でいようと・・・・・・たったそれだけの想いで、ここまで頑張れて来れたのです。
その頑張りを否定する存在は・・・・・・人類という愚かしい生き物は、全員私の目の前から、消し去ってしまいたい。父と母の二人が愛したこの惑星から、未来永劫にわたって追い出してしまいたい――――。
本心からそのように強く願った私は、惑星崩壊までに残された僅かな時間を利用して、生き残った全世界に住む人々に対し、復讐と制裁をおこなうことを心に決めたのです。
惑星が完全に崩壊してしまうまでに残された時間は、ついに半年を切りました。
現在の人類は、新たな新天地へと旅立つために、長時間航行が可能な宇宙船を建造しています。
最後のロールアウトテストも終了し、後は乗組員である人類を乗せれば、すぐにでも出発できるというこの状況。それは自分以外の全人類を、この惑星から追い出してしまいたいと願っていた私にとって、またとない機会でもありました。
彼等の興味は既に、宇宙の彼方に点在している、新たな居住先へと向いています。
惑星の崩壊による衝撃が、銀河系全体を巻き込んで、巨大な時空の歪みを引き起こし、その後には砂粒の欠片すらも残りません。
それはまさにこの世界自体の終焉といっても、過言ではありませんが・・・・・・見苦しくも生にしがみつこうとする人類は、その銀河系の外側に広がる認識外領域へ、逃げ込むことを決定したようです。
私の推測では、宇宙の果てには見えない領域――――つまり未知のエネルギーによって区切られた、フィルターのようなものがあり、その反対側には別の時空及び次元に繋がる何がが、存在しているものと思われます。
全てが仮説に過ぎず、本当のことは分かりませんが、生存領域をあと少しの所にまで、追い込まれていた人類は、私がぶらつかせた目の前の餌に対して、何も考えずにすぐさま食らいつきました。
建造中の宇宙船を航空させるための心臓部――――永久機関式のエンジン製作を依頼された時の、私が思い浮かべた心境といったら・・・・・・それはもう、本当に愉快なものでした。
自分達が騙されているとも知らず、彼等は私の製作した設計図通りに、幾つもの巨大宇宙船を、せっせと建造していきます。
旅立ちの日のおよそ一週間前。当然ですが私の元にも、とある組織から迎えの者たちが送られて来ましたが・・・・・・その頃には既に私の姿は、長きに渡って滞在していた、研究施設内にはありませんでした。
全ての下準備を終えた私はロコ君と共に、半年間の月日を掛けて外界に建造しておいた、最新式の人類居住都市を訪れます。
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