果ての世界の魔双録 ~語り手の少女が紡ぐは、最終末世界へと至る物語~

ニシヒデ

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二章 贖罪を求める少女と十二の担い手たち~霊魔大祭編~

私という人生の結末は・・・・・・

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 その居住都市の中には、作り物ではない本物の緑と、汚染されてない綺麗な真水が大量にありました。研究施設から持ってきたものと合わせて、数ヵ月分の食料類も、ある程度は備蓄してあります。

 私一人で生活していくのであれぱ、十分すぎるほどに恵まれた生活環境。
 廃棄された別の居住都市を、以前いた研究施設から私が遠隔で掌握し、そこで製造した機材やドローンを利用して築き上げた、この惑星最後の楽園です。

 大気中に溢れる毒素が、未だに地下深くにまで浸透していない土地。
 温泉を堀当てる感覚で発見したその場所に、私は両親たちがずっと昔に話していた、私たち家族が住むための新たな居住先を再現しました。

 父の写真に写されていた通りに、灯台をベースとした建物を建造してから、その周囲を透き通った湖で囲います。

 形だけの・・・・・・私たち家族が過去に求めていた、新しい居場所。でも本来一番そこに居て欲しかった筈の二人の姿は、もうこの世の何処を探しても、絶対に見つかることはありません。

 私がすぐ傍の宙に浮かんでいたロコ君に対して、予め伝えておいた合図を送ると、上空を覆っていた防御シールドの表面にある映像が、瞬間的に入れ替わるかのようにして切り替わっていきました。

 白い煙を放出しながら、空へと上がる複数の宇宙船。それはここから遠く離れた地点で、今まさに現在進行形で起きている、本物の光景です。

 この惑星ほしに住む人類全てを乗せた方舟が、次々に白い軌跡を残しながら、真っ暗な宇宙そらの彼方に消えていく・・・・・・それは私が心から望んだ未来であり、復讐という本当の計画の始まりでもありました。

 宇宙船の心臓部――――つまり永久機関式のエンジン本体には、私にしか分からない、特別な細工がしてあります。

 もしも彼等が私が与えた設計図通りに、宇宙船を建造したのであれば、旅立ちを終えてから三週間後の日に、原因不明のエンジントラブルが発生するようになっていました。

 その内容とは航空制御をおこなっている基盤本体を熱暴走させ、そこに隣接しておいた配線を、ほんの数本だけ断線させる――――という簡単なものです。

 宇宙船に搭載されたエンジンの大きさは、幅四十メートル以上にも達するため、初期設計に携わっていた人物以外に、それを修理することは出来ないでしょう。
 私のおこなった仕掛けは、エンジン全体に致命的な損傷をもたらし、そのシステムに埋め込まれている機能の全てを、完全に破壊してしまいます。

 なんて回りくどい方法だ・・・・・・なんて、人によっては思うかもしれません。

 もっと他に――――例えば人類を乗せた宇宙船自体を爆発させるとか。そういった手段も取れなくはなかったのですが・・・・・・私はどうしても彼等にそう易々と、死という安易な逃げ道を用意したくはありませんでした。

 ――――苦痛。

 私が体験してきたこれまでの苦しみを、私以外の他の人類に対しても、同じようにして味あわせる。それが私が思いついた、彼等に対する復讐の選択肢でした。

 これから先の永い時間を、人類は停滞した何もない暗闇の世界の中で、ずっと過ごしていくことになるのです。
 私という存在に依存しきって生きてきた人類にとっては、最も相応しい未来の結末となるでしょう。

 今や新天地を目指して旅立った筈の方舟は、人類という名の生命体を乗せた、宇宙を漂い続ける巨大な棺となったのです。

 人類が向かうその行先に、絶望の未来あれ――――と。私の内側から沸き上がるその想いは、きっと間違いなく明確な形となり、彼等の身に対して降りかかることでしょう。

 「――――ざまあみろ」

 こんな汚い言葉を現実に使ったのは、私自身、生まれてから初めてのことでした。

 これで私の復讐は・・・・・・人類に対しての制裁は完了です。後は彼等の運次第。これ以上の干渉行為は、私自身の望むところではありません。

 寧ろもう全てを忘れてしまって、私に残された僅かな時間を、家族との幸せな記憶に浸りながら、ただ穏やかに過ごしていきたい・・・・・・。

 ――――――――――――――――――――――――――――、
 ――――――――――――――――――――――――――――、
 ―――――――――――――――――――――――――そして。

 あっという間にその日の朝が、やって来てしまいました。

 私が予測したこの惑星ほし最後の・・・・・・世界の終わりの日。その日もいつもと変わらず、私は栄養ブロックによる朝食を取りながら起床します。

 ロコ君と他愛ない内容の会話を続けながら、昼までの時間を過ごしていくのも普段通りの事。別に今日で世界が終わると言っても、特別なことをしなければならない――――なんて事はない筈です。

 あと数時間で自分自身が死ぬのだと分かっていても、不思議と私は恐怖という感情を、覚えたりはしませんでした。何故ならその時の私にとって死とは、最終的に望んでいた手段に他ならなかったからです。

 ――――もうすぐ父と母の・・・・・・二人のいる所にまで逝くことが出来る。

 死んだ後のことなんて、私にもどうなるか分かりません。でも今の私に残されていた希望は、もうそれだけしかないんです。母がよく私に作ってくれていた、自家製のバタースカッチを自前で用意して。私はロコ君と一緒に惑星が終わるその時を、ただ座ってゆっくりと待つことにしました。

 ――――私は何のために、この世に生まれてきたんだろう。

 私がいてもいなくても、この惑星ほしに訪れる未来は変わらない。それが早いのか遅いのか・・・・・・結局のところ、その程度の違いでしかなかったのです。

 ――――なんて意味のない人生だったんだろう。

 後悔ばかりしているな・・・・・・と、その時の私は思いました。この天才と呼ばれた私ですら、人間という存在が隠し持つ、その本質を見誤ってしまったと。

 その結果がこの無様な結末であり、全ての答えでもあるのだと、私は今更ながらにようやく、理解することが出来ました。

 「・・・・・・ねえロコ君。神様って本当にいると思う?」
 『あん?何だってそんな急に・・・・・・。まあ存在するのかしないのか、なんて聞かれたら、俺様の答えは勿論“存在しない”だ。
 人間ならともかく機械である俺様が、そんなもの信じられる訳ないだろう。
 ――――唯一、神と同等の存在を示せと言われでもしたら、きっと俺様は自分の製造者である、お前の名前を告げるだろうよ』

 私からの意味のない質問に対して、ロコ君は律儀に答えを返してくれました。

 私自身が神様なんているわけないと、本当は分かっているのに・・・・・・それから私たち二人は黙ったまま、惑星ほしの終わりが訪れる、その瞬間をただ待ち続けました。

 『――――おい、シエラ。異常事態発生だ。防御シールドの一部が消失してしまっている。
 だが外にある筈の毒素を含んだ空気が、この居住区域内に入ってくる様子は、今のところみられない。こいつはいったい・・・・・・』
 「――――っ!!どういうこと?あのシールドには宇宙船と同じ素材が使われている筈だけど。それにちょっとやそっとの衝撃じゃ、壊れることなんてまず絶対に――――」
 『壊れることは絶対にない。それは俺様も良く分かっている。だがな・・・・・・消失した・・・・と言っただろう?なんの前触れもなく突然だ。
 それにこの居住区域の中を、今も歩きながら移動している奴らがいやがる。生体反応は検出できないが、この動きは明らかに人間のそれだ。
 ――――シエラ、どうやらお前以外にまだ、この惑星に残っていた奴らがいたみたいだぞ』
 「嘘・・・・・・」

 ロコ君からの報告に慌てた私は、少し離れた場所に見えている草原の大地に、自らの視線を移します。

 すると確かにそこには、僅かに動く小さな影が二つだけありました。その人たちは橋もないのに、湖の表面を歩くようにして、こちら側へと向かって来ているようです。

 信じられないその光景に驚きながらも、私は椅子に座ったまま冷静に、現状起きている状況を分析し始めました。

 (どういうこと?この場所以外の居住都市には、もう誰も人類なんて残っているはずがないのに・・・・・・。まさか私が把握していない都市が、今もこの惑星ほしの何処かに残されていたってことなの?)

 考えてみても分からない。それほど今のこの状況は、私にとってイレギュラーなことでしたから。
 思考する時間を浪費して、何も明確な予測結果を見出だせないまま、私は目の前にまでやって来た、その二人の人物と邂逅します。

 「・・・・・・嘘・・・・・・本当に?」

 若い男の子と小さな女の子の姿が、私のすぐ目の前にありました。

 男の子の方は私と同い年ぐらいの年齢でしょうか。私は同世代の・・・・・・しかも異性である男性と会話をする機会なんて、これまで一度たりとも経験したことがありません。

 なので何を話したらよいのか分からず、私が困惑していると・・・・・・黒い髪の女の子の方が、バタースカッチが入れられている容器を、熱心に見つめ続けている様子が視界に入ってきました。

 「・・・・・・良ければ、好きに食べて下さい。その――――私、今から人数分の紅茶を淹れてきます・・・・・・から」
 「そうか?悪いな気を使わせてしまって。――――では遠慮なく、中身を頂くとしよう」

 ひとまず私がそのように勧めると、女の子が大人びた口調でお礼を言ってきます。見た目は幼いはずなのに、まるで自分よりも年上の人物と、会話をしているかのような感覚でした。

 私は紅茶を淹れるために席を立ち、すぐ近くにあった建物内へと移動します。
 室内に待機させておいたロコ君に、人数分の紅茶を配膳させながら、私はもしかしたらあの二人は人間ではない・・・・・・神様のような存在ではないのかと、勝手に思い始めていました。

 (だって生体反応も検知できないし、湖の上を歩くなんて事、科学的には絶対に不可能だもの!)

 自分の席に戻った私が二人の話を聞いてみると、どうやら彼らはこの世界が滅ぶことになった原因を、たった一人だけこの惑星ほしに残っていた私の所にまで、わざわざ聞きにきたらしいです。

 更に話を聞いていくと、どうやら目の前にいる彼等は二人揃って、魔法使いという不思議な力を扱える存在だということが分かりました。

 「魔法使い・・・・・・ですか?でも私、てっきり・・・・・・」

 神様のような存在だと、そう勝手に思い込んでいましたから。多少は私自身も戸惑いはしました。
 でも今更、彼らがどのような存在であろうとも、そこに大した意味などありません。何故ならもうこの惑星ほしに残された時間は、あと一時間も無かったのですから。

 あとは求められた通りに、私はこの惑星ほしで起きた真実を、言葉にして話すだけ。それが死という終わりを迎える前に、私が成さねばならない最後の役目であるのだと・・・・・・そう思ったんですよ。

 これで私の話は終わりです。最後まで聞いて頂いて・・・・・・本当にありがとうございました。




******




 シエラの長い話が終わった・・・・・・いや、終わってしまった。
 
 掛ける言葉が見つからないとは、まさにこのことなのだろう。それほど俺にとって今の話は、衝撃的で大きすぎる内容のものだったからだ。

 ふとシエラの瞳から一筋の涙が流れ、それがゆっくりと頬を伝って地面へと落ちていく。
 透明な宝石の雫――――その輝きに俺が見とれていたのも束の間、シエラは悲しそうな表情を自身の顔に浮かべながら、正面にいた俺たちに対して言葉を告げた。

 「――――いよいよ始まります。この惑星ほしの・・・・・・世界の終わりが」
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