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7章、王都奪還編
4、奪還のための道筋を探して③
しおりを挟む早朝、出立の準備を終えてから、窪地の外に広がる森の手前で仲間たちと合流した。人選はセシルに任せてある。
機動性と対応力を重視したパーティー編成。道中は『魔力防御』による身体強化のみで移動することになる。つまり、馬は使わない。
俺、リーゼ、ティアの三人に加わる者たち。見送りに来ていたソフィアとセシルは除く。一人目はフレアだ。戦力としては申し分ない。
隊を案内してくれるのは、リエーナ騎士団所属の騎士ルカルカ。皆は途中で区切ってルカと呼んでいる。鋭い目つきをした眼鏡美女。
オストレリア全土の地理に詳しく、彼女がいれば道に迷うことはないらしい。長期の任務を数多く経験してきたベテランだ。ありがたく頼りにさせてもらおう。
待ち合わせの場所には、驚いたことにシシリーの姿があった。セシルの妹で、本来の役目はソフィアの叔母であるリズ・オストレリアの世話役である。
リーゼやティアと同じ軽装備。初めて会った時に感じていたが、おそらく彼女は強いだろう。立っているだけなのに隙がない。ほんわかとした雰囲気がそれを見事に隠している。
リーゼたちが戸惑うのも無理はなかった。
「逃げ足なら誰にも負けません!精一杯頑張りますよー!!」
「斬新なアピールの仕方だね」
「脚の速さで私の妹に優るのは団長くらいのものです。
この子であれば、きっとエドワーズ様のお役に立てるでしょう」
「脚が速い?だったらあたしと競争しましょうよ!」
さっそくアホが反応する。無論、リーゼが許すわけがない。
「ダメ。出発する前から体を疲れさせるなんてあり得ない」
「えー!お願いリーゼ。一回だけよ、一回だけ!それで白黒はっきりつけてみせるわ」
「あとで好きなだけ走らせてやるから。少しは落ち着いてくれ」
「ムグッ!ハグハグ……」
俺は、ティアの口に持っていた携帯食糧を突っ込んだ。黙らせるにはこれが最も早い。フレア共々、昨日からやたらとテンションが高かった。冒険に出掛けると決まった前の日は決まってそうなる。
おかげで寝かしつけるのが大変だった。
「暗い顔をしているな。なーに、王国最強の騎士である私が付いていくんだ。エドワーズ、お前は大船に乗ったつもりでどっしりと構えていればいい」
「それでも危険なことに変わりはないだろ。『聖木』を切り倒すような化け物がいるんだ。腹の傷は奴につけられたものだろう?
フレアでも敵うような相手じゃない」
「次こそは勝つ!遠くから姿も見せずに攻撃してくる魔物だ。近づきさえすれば、私の剣技で瞬く間に斬り伏せてやろう」
その自信はどこからくるのか。前に一度死にかけていることを忘れたらしい。
セシルは「そうですね」と、フレアの無鉄砲さに呆れることなく頷いた。副官として傍で支えてきた彼女だからこそ、信頼している部分があるのだろう。
「団長の実力を疑うわけではありません。でも、くれぐれも勝手な行動はしないでください。
それと妹を……シシリーのことを頼みましたよ?」
「もうっ!お姉ちゃん、私は子どもじゃないですよ!」
シシリーが恥ずかしそうに声を上げる。気持ちは分からないまでもない。
「任せておけ。私が任務の間にヘマをしたことなんて片手で数えるほどしかなかっただろう?」
「この五年で十七回よ。明らかに片手じゃ足りないわね」
「そんなに正確に覚えているのか?」
「自分の部下の不始末は常に把握しているわ。上に立つ者として当然の義務よ?淑女の嗜みのようなものね」
ソフィアは何てこと無さそうに口にする。少しズレたところがあるお姫様だ。これまで王国の舵取りを一手に担ってきただけはある。
「アルベルドから言伝があるの。魔力を含んだ吹雪を目にしたら、その場所は必ず避けて通りなさい。そうしなければ命はないそうよ?」
「気の利いた忠告、感謝するよ」
「フレアが付いているのだから心配はしてないわ。怪我なく無事に帰ってきなさい」
「ああ、行ってくる」
別れを告げて出立した。まずは北にある魔族領との境目を目指す。整備された道の途中で見えない何かを突き抜けるような感じがした。古代魔導具の結界、その外側に出たのだろう。
どこもかしこも大量の雪に埋もれて進みづらくなっている。だが、ある場所はそれが当てはまらなかった。
国土の三分の一を覆う『白夜の森』。葉の落ちた木々がどこまでも広がっている。枝はどれも針のように鋭く尖っていた。魔物に踏み荒らされた土地。
その痕跡が今も深く残っており、辺りには雪を掻いたような通り道がいくつも出来ていた。
「ティア、さっそく出番だ」
「魔物がいる位置を教えればいいのね?まっかせなさいっ!」
ティアは、遠くの音を拾うことに全神経を集中させる。頭上から伸びたケモ耳がセンサーのようにピクピクと動いていた。
静寂に包まれた森の中で動くものは何もない。生物の呼吸音などは、辺りを流れる強い風の音で消されてしまうだろう。
ティアが正確に聞き取れる範囲は六百メートルにも及ぶ。人の会話に限ればの話だ。実際にはそれ以上ある。
魔力探知は、魔物にもこちらの居場所が知られてしまうリスクがあるのだ。なので安全に付近を索敵できるティアの能力は非常に役立つ。
「どうだ?」
「ンー……この辺りには何もいないみたい。しばらくは真っ直ぐに進んでも安全よ」
北の方角に向かって指を指す。ティアが言うなら間違いないだろう。予想では、そこら中を魔物がウヨウヨしていると思っていたが……。
「まだ都市にかなり近い場所ですから。ほとんどの魔物は近づいてきても、すぐに引き返してしまうんです」
シシリーの説明で腑に落ちる。結界の内側は、魔物にとって毒となるからだ。中心部に近づくほど加護の効果は大きく強まるだろう。ただそこにいるだけで致命的だ。
それこそハエのように群がってくる、数だけが脅威の個体にとっては。
「魔物の痕跡がある以上、油断はできない。退路を確保しつつ、時間をかけて進むのが最善策ってところかな。
――ルカさんはどう思います?」
「……エドワーズ様の判断は正しいものかと。ですが、この状況ではもう少し大胆な選択を取ることが出来るでしょう」
(ありゃ?)
返ってきたのは意外な答え。堅物そうな印象とはまるで違う。遠回しに考えを探るまでもない。かえって気を遣わせてしまったようだ。
フレアの戦力は、超特殊個体《ノーヴァ》種の魔物を単騎で討伐できるほどのもの。加えてこの場にいる者たち、個々の能力は大幅に突出している。
「我々のペースで進めば良いのです。私とシシリーは決して隊の足手まといにはなりませんので」
「ルカさんの言う通りです。これでも王国最強と呼ばれる、リエーナ騎士団の団員ですから。もっと雑に扱ってもらっても結構ですよ?」
「……どうせソフィアの入れ知恵だろ?」
「はいっ!」
シシリーは即答する。そんなことだろうと思ったよ。
「ウホンッ!ゴホン、ゴホン!!(フレアがわざとらしく咳払いをする)
おい、私には何も聞かないのか?」
「必要あるか?」
「そんなのするだけ時間の無駄」
リーゼはバッサリと切り捨てる。フレアの頭の中身は空っぽだが、無能というわけではない。人には適材適所というものがある。要するに何でも使いようだ。
六人で森の中を素早く移動する。このメンバーだからこそ可能な行軍速度。シシリーとルカ、二人の魔力防御はよく鍛えられていた。遅れることなく付いて来れている。
日頃から意味のある訓練を続けてきた証だろう。
「……見つけたわ!この先にウジャウジャいるわよ」
「結界のある場所から数キロは離れたからな。
――ティア、おおよそでいい。数が少ない方向を探ってみてくれ」
結果、西側にある湖の上を通ることにした。ルカの説明によると、この時期の水面は分厚い氷で覆われているので歩くことができるらしい。
大型の魔物の場合、自重によって足場が崩れる。その下は血を凍りつかせるような水温だ。落ちればたちまち全身の体温を奪われて、命の危機に瀕するだろう。
「我々の速さなら敵に囲まれることはない。湖まで一気に突っ切るべきだな」
「剣を振るしか能がない――」
「団長らしい意見ですね!」
「フフンッ!そうだろう。私だってたまには頭を働かせるさ」
フレアは自慢気に胸を張る。ルカとシシリー褒めていないが、そうするより他に道がない。
「どうするつもり?」
「辺りが手薄になるのを待ち続けるつもりはない。数日はかかるだろうし、完全に魔物がいなくなる保証はないからな。
ここからはいつものように、リーゼには頑張ってもらうことになりそうだ」
「やっと暴れられるのね?じゃあ、さっそく突撃よー!」
「いや、ダメだから」
「グエッ!」
美少女らしからぬうめき声。今にも駆け出していきそうなティアを捕まえる。役割の問題だ。シシリーの脚の速さは、言うだけあってかなりのもの。獣人族のティアに匹敵するほどである。
つまり、リーゼのような一撃が重い相方と組ませた場合、その真価を存分に発揮することができるのだ。
(実力がどれほどのものか。お手並み拝見だな)
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