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7章、王都奪還編
5、奪還のための道筋を探して④
しおりを挟むシシリーとリーゼ、二人が前に出る。進行方向にいる数体の魔物がこちらに気づいた。暗がり山の麓で討伐したことのあるハイウルフ。
目の前の個体は後ろ足だけでなく、前足の方も発達していた。通常とは異なる白い毛皮。雑魚と侮ることはできない。トラバサミのような口元を大きく開いて涎を垂らす。
《ガルルルルッ……!》
長期の飢えがその凶暴性を高めていた。すぐさま起き上がり攻撃を仕掛けてくる。
「お任せください!」
シシリーが得物を抜いた。平均的なサイズをした二本のナイフ。正面の魔物を相手にするには心許ない。それは普通に戦った場合の話だ。
――ビュオオオッ!
魔物の爪が風を裂く音。それだけで切れ味がどれ程のものか想像つく。当たれば分厚い鎧と言えど真っ二つになるだろう。
しかし、その攻撃がシシリーを捉えることはない。
《………?》
戦いの最中に、目の前にいる敵の姿を見失う。己の首を差し出すようなものだ。特に彼女のような実力者を前にしたのなら。
「……やりました。さあ、どんどんいきますよ!」
シシリーの宣言通り、ハイウルフの胴からドロリとした液体が吹き出した。地に倒れる頃には息絶えている。続く二体目の攻撃も危なげなく回避した。
ティアには真新しく見えるだろう。自分と似たような戦闘スタイル。その動きを違った視点で目にできるのは貴重な経験だ
「あたしの気のせい?持っている剣が突然伸びたように見えたけど――」
「あれは魔剣だ。自分の魔力を纏わせて刀身を延長したんだろう」
ローレンの仇。黒騎士が使っていたものとよく似ている。黒騎士の方は、馬鹿げた魔力量にものを言わせて漆黒の巨大な腕を生成していた。
シシリーの場合、武器の間合いを多少伸ばした程度で止めている。それで仕留めきれなくても問題ない。継続して敵の注意を引くことが彼女に与えられた役割だ。
「【氷の魔矢】」
リーゼの魔法。無数の氷のつぶてが的確に魔物を射貫いていく。その手に握られた氷の鎌が振るわれた。広範囲を巻き込む斬撃の威力は折り紙つき。
寄ってくるハイウルフの群れを次々と切り伏せていく。
「リーゼ様……スゴすぎます……!」
「シシリーのおかげで、大して魔力を使わずに済んでいる。だからお互いさま」
「お役に立てて嬉しいです!
それにしても先ほどから見事な剣さばき……いえ、鎌さばきですね。そのような大物を軽々と扱えるなんて、まるで団長みたいです!」
「魔力で制御しているから、見た目よりもそんなに重くない。あと、フレアとは一緒にしないで」
前を蹴散らすリーゼの姿を、シシリーと同じ騎士団員であるルカは唖然とした表情で見つめていた。
俺とティアは見慣れたもの。フレアもこちら側だろう。他の者たちからすれば常識はずれだ。圧倒されるのも無理はない。
「な、なんてデタラメな……!リーゼ様は本当に人間ですか?」
「リーゼならあれくらいのこと当然よ。それに、ちっとも本気を出していないわ」
「シシリーも負けてないぞ。リーゼが戦いやすい位置で上手く立ち回っている。剣の腕前に関してはティアより上だな」
「ムムッ!あたしだって、あれくらいのこと出来るわよ!」
「なかなかのものだろう。私の自慢の部下だからな。
――そんな顔をしてもシシリーはやらないぞ?エドワーズに貸すのは今回だけだ。だがまぁ……リーゼかティアのどちらかと交換するという話であれば、考えてやらないこともない」
「エドワーズ……あたし、お姉さまに取られちゃうの?」
「俺がティアを売るわけないだろ?フレアが勝手に言ってるだけだから気にするな」
「団長……見損ないましたよ。帰還したら全てセシルに報告します」
「ち、違うぞルカ!今のはほんの少しだけ心の欲望が漏れてしまっただけだ。大切な部下を交換条件に出すなんて、私がするわけないだろう!!」
「(思ったより周辺にいる魔物の数が少ない……ってことはなかったか。すんなり行かせてくれるわけじゃないみたいだな)」
数メートル先。雪に埋もれた岩場の影で何かが動く。四方八方から奇襲をかけるようにハイウルフの群れが湧いて出た。
シシリーは一切躊躇せずに、その中央目掛けて飛び込んでいく。無謀ともいえる行動だが、なにか考えがあるのだろう。一瞬足を止めてから、背後にいるリーゼに視線を向けた。魔物に襲い掛かられる直前で頭上高くに飛び上がる。伸びた枝を掴み宙で反転。リーゼが示し合わせるように展開した魔法の術式に魔力を込めた。
「リーゼ様、今です!」
「まとめて叩く。【氷山剣】」
地面から生えた氷の剣。密集した状況ではひとたまりもない。十体以上のハイウルフが真上を見上げた体勢で切り刻まれる。
リーゼはともかく、シシリーの方も大分余力を残しているようだ。俺たちのすぐ側に着地した彼女の息は少しも乱れていない。
「これで大体片付きましたね」
「さっきからあれだけ動き回っていたのに、シシリーは疲れていないのか?」
「まだまだ全然戦えますよー。昔参加していた騎士団の訓練に比べれば、このくらいへっちゃらです!」
シシリーは腕を曲げて力こぶを作るポーズをする。先に進むための道は開けた。しかし、リーゼの方は氷の鎌を構えたまま警戒を解いていない。
ティアが何かに気づいたように目を見開く。リーゼにとってはそれだけで充分な理由だ。
「ティア、どうかしたの?」
「……こっちに来るわ。大きくてすっごく速い!そっちの……右側の方からよ!!」
ティアの報告から僅かに間をおいて、その魔物はバキバキと辺りの木々をへし折りながら俺たちの目の前に現れた。
《グロロロロ……!!》
四メートルを超えるサイズの巨大な魔物。ハイウルフの親玉に見えるが全く違う。比較にもならない威圧感。
……超特殊個体《ノーヴァ》だ。ひと目見ただけでそうだと分かる。頭上高くにかざされた白狼の前足に全員の視線が集まった。次の瞬間、目にも止まらぬ速さで振り下ろされる。俺は動かなかった。その一撃を受け止める必要はないと分かっていたから。
「……私が防がなかったらどうするつもりだったんだ?」
「信頼していたからね。結局こうしてフレアが守ってくれただろ?」
白狼の爪は届かない。フレアの剣がそれを遮っていたからだ。リーゼはすでに動き出している。振り払われた氷の鎌は空を切った。図体からは考えられない速度の動き。あれに追いつける者は俺たちの中にいないだろう。
「シシリー!決して迂闊に仕掛けてはいけませんよッ!!」
「わ、わかっていますけど……。物凄く強そうです。私たちで倒せる相手でしょうか?」
「ティアも手伝って。多分、今まで戦ったことのある魔物の中で一番手強い……!」
「ウウッ!これはね……恐いわけじゃないわ。寒さで身体が震えているだけよ。……本当に!」
ティアが強がるのも無理はない。白狼の黄色い両眼がこちらを見据える。リーゼの魔法を当てるのは至難の技だ。どうにかして動きを止める必要がある。
それを簡単にさせてくれる相手ではなかった。
「皆下がっていろ。白狼は私ひとりで倒してみせる」
フレアが落ち着き払った様子で前へと歩き出す。俺は、咄嗟に動こうとしたリーゼの身体を掴んで引き止めた。
「フレア、ダメッ……!
――エドワーズ、どうして止めるの?」
「任せてみよう。危なくなったらすぐに加勢すればいい。きっと大丈夫だ」
「あんなのとお姉さま一人だけで戦わせるの?絶対無茶よ!」
リーゼとティアには無謀な行動に見えるだろう。しかし、この状況ではかえってフレアの邪魔になる。
ルカとシシリーは黙って成り行きを見守っていた。俺と同じ、フレアを信じている。王国最強と呼ばれるその実力を。
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