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4章、レストランジの森での戦い

3、ティアの手柄

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 「ふーん?ねえ、エドワーズ。これって――」

 「私たちが参加しても、得することがあまりなさそう」

 「ま、そうなんだけどなー」



 その内容に目を通した二人は、まったく同じ感想を口にする。
 大人数の作戦行動。全員がそうだとは限らないが、その内の大半が実力の伴っていない者たちの集まりだ。
 「自分たちの足を引っ張るかもしれない」と、考えているのだろう。実際、その通りだと俺も思う。



 「聞くところによると、ギルドの目的は沼地に存在する謎のお宝らしい」

 「……お宝?そこにお宝があるの!?」



 予想通り、ティアが真っ先に食いついてきた。
 リーゼの方は、変わらず平常心のまま。お宝というワードに対して、特にこれといった魅力を感じることはないらしい。
 


 「いいじゃない!決めたわ。あたしたち三人も、このギルドの立てた作戦ってやつに参加しましょうよ!!」

 「ちょっとティア。自分勝手に何でも話を決めないで」

 「リーゼの言う通りだ。一旦落ち着け。
 それとな。肝心のお宝に関する情報は、まだなーんにも分かっちゃいないんだぞ?」



 しかし、一度火が付いたティアは、簡単には止まらない。



 「やっぱり昔から、冒険といえば財宝でしょ?それが何であろうと構わないわ。
 あたしたち三人で、謎のお宝とやらを見つけて手に入れるわよー!!」

 「そんなことをしたら、ギルドに目をつけられて終わりだぞ。
 見てみろ。『違反者には罰則金の支払い命令、または拘束措置を取る場合あり』と書いてある。
 ネコババがバレたら、俺たちの冒険者記録を抹消される可能性だっ……て……?」
 
 「どうかしたの?エドワーズ」



 俺の頭の中に、ある考えが浮かび上がる。
 そうか!もしかしたら、そういうことなのかもしれない。
 割に合わないギルドの報酬。なのに、何故こんなにも多くの冒険者たちが、この場所に集まってきているのか。
 


 (あいつらの目的は、最初っから沼地のお宝か……!!)



 だとすれば納得がいく。結局のところバレなきゃいいのだ。
 作戦中に起きた出来事を、ギルド側が逐一把握することは難しいだろう。というか不可能だ。事前にある程度の目星を付けていたとしても、探索しなければならない範囲が広すぎる。


 
 (恐らく、この遺跡とやらに、噂のお宝が存在しているとみて間違いなさそうだな)


 
 ギルドの最重要目的。沼地の遺跡か……。
 手に入れた古代魔導具アーティファクトの所有権に関しても触れられている。その全てをギルド側に完全譲渡。馬鹿げた話だ。ほとんどの奴らは、こう考えるだろう。
 売って金にするのもよし、個人で使えば強力な装備となる。人族の冒険者にとって、魔導具は希少価値のある品だ。それが古代魔導具アーティファクトともなれば尚更である。



 「どうするか決めるのは、あとでもいいだろ。
 今はとりあえず飯だ。飯にしよう。腹が減ったー!」

 「ふぇ?(ティアが口いっぱいに料理を詰め込みながら、驚いた表情をする)」

 「もうっ!ティア……また自分だけ先に食べ始めてる」

 「切り替え早いな」
 


 俺もそこは見習おう。ギルドの作戦決行日は二週間後だ。その時が来るまで、俺たちがこの場所に残る可能性は極めて低い。メリットがないからである。
 内容は古代魔導具《アーティファクト》としか書かれていない。正体不明の沼地の魔物。集められた冒険者たちは、その注意を引かせるための囮だろう。ギルドの本命は別にいるのだ。



 (何にせよ、俺たちには関係のない話だなー)



 大皿の上の巨大な肉の塊が半分以上消えている。目を離すとすぐにこれだ。なのにティアの体型は非常に細い。
 「あんまり食べすぎると太る?気にしたこと無いわよ」――ティアはそう言っていた。世の女性全員を敵に回しそうな答えである。
 
 

 「そういや、二人で外の様子を見て回ってきたんだろ?」

 「うん。沢山お店があった。けど、結局何も買わなかった」

 「えっ?リーゼ、もしかして忘れたの?下着……買っているじゃない!」



 ティアが聞き捨てならないことを言い出した。
 

 
 「ちょっと、ティアッ!」

 「下着……下着ですと?ティア、いい子だから全部で何着買ったのか、俺に教えてくんない?」
 
 「いいわよ!んーっとね……リーゼが四で、多分あたしが十」

 「めっちゃ買うな」

 「だってティアが、自分用の下着を全然持っていなかったから。
 エドワーズには、内緒にしておきたかったのに。私、ティアが考えなしにものを言うのを忘れてた……」

 
 
 リーゼはちょっぴり恥ずかしそうにしている。なかなかレアな光景だ。
 確か以前、俺がお尻をガン見していても気にしなかったのに。どういう基準なのだろう?



 「可愛い系?それともエロい系?」

 「……?よく分からないけど、フリフリしたのと薄い生地のヤツはあったわよ」

 「見たいみたい!」

 
 
 隣の席のリーゼに頭をしばかれた。
 イカン。調子に乗るのはここまでにしておこう。



 「それとね。市場でおかしな人たちを見かけたわよ」

 「へー。ティアにそう言われるってことは、余程おかしな連中だったんだろうな」
 
 「そう、ティアの言う通り。離れた位置から、私たちのことをジロジロ見てた」

 「……話し掛けられなかったのか?」

 「ううん。ティアが睨みつけたら、その人たちすぐどっかに行っちゃったから」

 「イー!!って、してやったわ!」

 
 
 ティアが自慢気にそう報告してくる。何もせずに放っておけば良いものを。余計な行動はトラブルの種になる。
 しかし……ナンパ目的の奴らじゃなかったのか?その程度のことで、リーゼたちを諦めたとは考えにくい。潔すぎる。



 「あたしね、その人たちが話していたこと、ちゃんと覚えてるわよ」
 
 「聞こえたのか?」

 「……人混みの中で、建物数軒分の距離は離れていたのに」



 どうやら獣人族は耳も良いらしい。戦闘中、遠く離れた場所からでも指示を出せるということか。今度、試してみよう。



 「で、そいつらは何の話をしていたんだ?」

 「えっとね。『例の二人組の子どもじゃないのか?』、『両方とも女だぞ。多分違う』、『でも片方は青髪だ』、『連れは黒髪の男のガキだろ』、『こっちを見た。睨んでいるぞ』、『捕まえて話しを聞いてみるか』、『余計なことをするな』、『他を探そう』――言っていたのはこれだけだったわ!」

 「………」
 
 「エドワーズ?」



 ようやくきたか。しかし、まだ断定はできない。
 垂れた釣糸の先が動き出しただけだ。ほんの微かに。撒いた餌につられてやって来た小さな魚。頑丈で大きなサイズの網を用意しよう。決して逃さず、一匹残らず捕まえてしまうのだ。

 

 「まったく!ティア、お前は本当に凄いよ。よーくやった」

 「……?よく分からないけど、役に立ったのなら、まぁいいわ!!」
 
 

 役に立ったよ。大いにな。ティアには感謝せねばならない。
 


 「リーゼ、明日俺と一緒に出掛けるぞ。やることができた」

 「……何かの悪巧み?」

 「かもな」



 窓から外の景色を眺める。高い宿を選んで正解だった。お陰でこの街に滞在している、他の冒険者たちの喧騒に包まれずにすんでいる。今夜はぐっすりと、静かな眠りに就くことができそうだった。
 
 





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