虹の魔術師~元最強の異世界出戻り冒険録~

ニシヒデ

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5章、呪われた二ディスの沼地

7、迫る脅威

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 「ああん?そりゃあいったい――」



 「どういう意味だ?」――ガロウジが言い終わる前に、霧の向こう側から装備に身を包んだ一団が姿を現す。
 先頭にいるのは『金星』ランクの冒険者、『双棘』のミレイナだ。つまり、その後ろにいるのは彼女が団長を務めるパーティー、『折れぬ薔薇のつるぎ』だろう。
 

 槍持ち前衛職と魔術師。弓使いは、ミレイナと同じ女性である。
 鋭い矢の先端が、俺たちの方に狙いを定めていた。……穏やかじゃない。
 ガロウジは、ギョッとした表情で辺りを見回したあと、最後には俺の背中の陰に隠れた。子どもを盾にすることに、何の躊躇いもないらしい。
 

 ブレイズの手が、大剣の握り手に触れる。それを見た俺は、リーゼとティアに目配せした。
 ――何もせずに、一旦様子を見よう。
 事態をややこしくするだけである。この場は、お互いに話し合いで解決することが望ましい。余計な邪魔者が入らなければ。



 「まったく……なんてヒッドイところなのかしらッ!」

 (最悪だ。よりにもよって……)
 
 

 サイラスだ。四つ足で地面を這う【影の人形シャドウドール】の上に跨がっている。
 高級そうなマント。首元から垂れ下がるネックレス。両手にズラリとはめられた指輪。肌が白く染まる量の化粧。この場にもっとも似つかわしくない格好だ。


 リーゼが「誰?」と、俺に目で問いかけてくる。
 数メートルの距離が離れているのに、キツい香水の臭いがした。ティアは、遠慮なく自分の鼻を指先でつまんでいる。俺も出来ることならそうしたい。



 「ブレイズ、おかしな考えは起こさないでください。あなたの仲間たちを、誰も傷つけたくはありません」

 「……ミレイナ」

 「あなたは騙されているのです。そこにいる、詐欺師の男に」

 「おいおい、そいつは酷い言いがかりってもんじゃねえのか?えぇ?『折れぬ薔薇のつるぎ』の団長さんよぉ」

 「そこっ!――余計なことをしようとしたら、射ちますよ?」



 弓使いの女性が、武器を構えたまま警告してくる。
 ガロウジは、すぐに俺の背後へと自分の頭を引っ込めた。

 
 
 「相手は子どもだ」
 
 「そんなこと……もちろん分かっています!しかし、あなた達の行為はギルドに対する重大な――」

 「裏切りね!」



 シビレを切らしたサイラスが、二人の会話の間に割って入ってくる。



 「あなたたち、何をグズグズしているの?早くそこにいる連中のことを捕まえてちょうだい!」

 「サイラス様。お言葉ですが、ブレイズは並みの剣士ではありません。このワタシでも、簡単にいく相手では……」

 「驚くほど使えないわね~。ミレイナあなたは何を言っているのかしら?相手はひとりじゃない。どうとでもなるでしょう?」



 どうやら俺たちの存在は、数に入っていないらしい。
 ティアが、カチンッとした様子で、自らの腰にある『神装』を引き抜こうとした。
 ――あいつのこと、やっちゃいましょうよ。エドワーズ!



 「ダメに決まってるだろ」

 「ウギギィ……!な、なんでよぉ?
 エドワーズは、バカにされて悔しくないの?言われっぱなしじゃない!」

 「ティア。サイラスあんなの、私たちが気にする必要はない。安い挑発」


 
 そう言いながら、リーゼが一番腹を立てている様子だった。
 ――ガロウジこの人と同じにしないでほしい。
 「そうよそうよ!」と、ティアが頷く。前に立つブレイズも。ガロウジは、大きく口を開いてポカンとしていた。



 「どう見つけた?」

 「簡単なことですよ、ブレイズ。ワタシの仲間が、追跡用の魔法を仕掛けておきました。彼が持っている酒瓶の裏にです」

 「な、なんだってえ!?」



 ガロウジが、慌てた様子で半透明の瓶をひとつ取り出す。
 ひっくり返してみると、確かにあった。短時間で仕掛けられるものじゃない。前もって用意されていた物だろう。



 「どこで手に入れたんだよ?」

 「あー……こいつはな。酒場のテーブルに置かれていたものを、そのままいただいてきただけだ」

 「盗んだの?それってつまり……泥棒じゃない!」
 
 「そいつは違うぜ、栗色髪の嬢ちゃんよ。こいつは既に買われた酒だ。店の手を離れている。
 持ち主不明で置かれていたんだ。窃盗扱いにはならんだろうよ」

 

 ガロウジの人間性をうまく利用されたな。俺たちと合流する頃には、術式の効果が切れていたと思われる。気づけなかった。
 
 

 「クソッ!あいつらどこに行きやがった!まさか途中で見失うとは……」
 
 「兄貴……多分、あれじゃないですかい?」

 

 またしても複数人の気配が近づいてくる。スキンヘッドの大男、ザジだった。それに付き従う、若い冒険者の男が二人。
 どうやら跡をつけられたのは、ガロウジだけではないらしい。
 
 
 
 「おうおう、こいつは勢揃いじゃねえか。
 ――昨日ぶりだな、ガロウジクズ野郎。このザジ様が、わざわざリベンジしにきてやったぜ。覚悟しやがれ!」

 (まーた厄介なのが増えたな……)

 
 
 ザジは脳筋タイプだ。他人の話になんて聞く耳持たない。
 しかし人気者だな。身から出た錆。ガロウジの蒔いた種が、このタイミングで芽吹くとは。正直ついてない。
 


 「どいつもこいつも……目障りな連中ね!
 いいわ。ミレイナあなたが動かないのなら、ワタクシ自身が直接手を下してあげる」
 
 

 サイラスの魔力が人型の影を形作る。鉤爪のように尖った両手を広げて襲い掛かってきた。
 リーゼとティアが、パッと同時に身構える。俺は、後ろから二人の肩を掴んで引き止めた。その必要はない。何故ならば、



 ――ザンッ!



 ブレイズの大剣が、【影の人形サイラスの魔法】を真っ二つに両断していたからである。



 「ちょっとあなた、一体どういうつもりなの!」

 

 サイラスが激怒する。ブレイズはそれを無視して、背後に立つ俺たちのことを気にするように武器を構えた。



 「安心しろ。お前たち三人には、指一本触れさせん」

 「三人?なぁ旦那、それだと数がひとり足りねえんじゃ?」

 「この状況だ。ガロウジお前のことまで守ってやれる余裕は、俺にない」 

 「そんな……そいつは話が違うぜ!
 このままじゃ、そこにいるノッポのハゲ野郎に殺されちまう!
 ――た、頼むエドワーズ。お前たちの方からも、旦那にどうにかするように言ってくれ!」

 「キー!生意気な連中ね。ちょっとミレイナあなた、いい加減にして頂戴。何のために、ここまで連れてきたと思っているの?
 ――今すぐ、あいつらのことをどうにかして!」
 
 「……ブレイズ。あなたが道を踏み外すというのなら、それを正すのは身内であるワタシの役目です」

 「(身内だって?どういうことだ?)」

 「ハッハー!よく分からねえが、面白くなってきやがった。
 ――全員まとめて、俺様がブッ飛ばしてやる!」



 これは非常にマズい流れだ。「反撃もやむなし」と、言わざるを得ない。
 もはや事態を収めることは、不可能であるかのように思われた。



 「――あっ!?」



 突如、沼地の中に大きな声が響き渡る。
 ティアが驚いた様子で、自らの尻を押さえていた。リーゼが怪訝な顔をする。



 「ティア?」

 「ヤッバいかも。これ……エドワーズッ!!」

 「いきなり何を言って……。まさか、例の『お尻がムズムズ?』」
  
 「そう!それ。急にきたのよ。とにかくこれ以上、この場所にいたら、何だかマズい気がするわ」

 

 ――昔から危ない時があったら、何故かお尻の方がムズムズするのよ。
 ティアの直感。先ほどから嫌な予感を感じているのは、俺も同じだ。それが急速に強まっている。



 「ブレイズ、前を向いたまま聞いてください。
 おそらく、今からこの場所に何かが来ます」

 「何?それは間違いないのか?」

 「はい、多分。ティアの感覚は、ちょっと普通のものとは違うんですよ」

 「……わかった。お前の言葉を信じるぞ、エドワーズ」

 

 ブレイズは迷うことなく、両手で持っていた大剣を背中に納める。
 その行動を見て勘違いをしたサイラスが、勝ち誇った様子でムカつくような笑みを浮かべた。



 「フッ……ウフフフフフッ!なるほど、ようやく観念したのね!」

 「聞け、ミレイナ。ここにいる全員、今すぐにこの場を離れるべきだ」

 「ブレイズ……?」



 わけも分からず困惑していた。無理もないだろう。
 ブレイズの判断力が異常なだけだ。説明をしている時間はない。『折れぬ薔薇のつるぎ』のメンバー、ザジの一行が、俺たちが移動するのを妨げようとして回り込んでくる。



 「待ってください!あなたたちは突然何を――」

 「まさか『金星』冒険者様が、尻尾を巻いて逃げ出そうとするとはな。
 ――ハッ!案外大したことねえじゃねか」

 「(仕方ない。ここはもう、強行突破するしかないな)」

 

 俺は、リーゼに向かって合図を送る。目眩まし用の魔法であればお手のものだ。
 こちらの動きを察したミレイナが、同じパーティーの仲間たちに対して指示を出す。


 
 「……まさか。アルフレッド、あの青髪の子どもの動きを止めてください!」

 
 
 魔術師の男が、魔装具の杖を手前にかかげる。風の檻で、俺たちのことを囲むつもりだろう。



 「そうはさせないわよ!」

 「――ウワッ!?」



 ティアの投げた石ころが、見事に杖の先端部分へと命中する。そのまま持ち主の手元から弾き飛ばした。クルクルと宙を回転しながら弧を描く。



 (なん……だ?あれは……)


 
 その時、魔術師の男の体に、灰色の巨大な物体が纏わりついた。
 ナメクジのように表面がヌメリとしている。その姿は一瞬にして、白い霧の向こう側に引きずり込まれていった。
 
 
 




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