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7章、王都奪還編
2、奪還のための道筋を探して①
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王城の真下にある地下迷宮の最深部。会議の間。
そこにたどり着くまでの経路は日ごとに変わる。うっかり間違えてしまっても命を落とすようなことはない。しかし、その行き先は対侵入者用のトラップや牢獄だ。年に数回は、そこにかかる間抜けが出てくるという。
「私は迷宮の最長滞在記録を持っているんだ。あの時は各所に配置されていた食糧で日々を食い繋ぎ、襲い来る無数の罠を潜り抜け……うんたらかんたら」
「そりゃスゴい。未来永劫破られることがなさそうな記録だな」
フレアの話は自慢にもならない。セシルは「騎士団を率いる者としてあり得ません!」と憤慨していた。まさしくその通りだと思う。
ティアが同じ目に遭わないように、居場所を探知できる魔導具を持たせておくべきだろうか?
浮遊する石板の上から降り立ったのは俺、ソフィア、フレアとその副官であるセシル、ヘクターの計五人。
リーゼとティアは、ジェシカに連れられてイルシアが待つ城の方に向かっていった。これから仲良く女子会らしい。羨ましいね。こっちは楽しくもない会議が待っているというのに。
俺たちを迎えたのは老将軍一人だけだった。前回とは違い人数が少ないので、今いるこの空間がとても広く見える。
「予定より到着が遅れましたな。上で何か問題でも?」
「さあ?どうだったかしらね。
――セシル。あなたの口から説明をお願いしてもいいかしら?」
「クッ……!?訓練をおこなっていたのです!彼の指導は、剣士である我々にとっても学ぶべきことが多いので……」
「そういうことよ。
とにかく、これで全員揃ったのだから、そんな目で私たちを見ないでくれないかしら?」
老将軍は変わらず鋭い目つきのままだ。その圧は、傍にいるフレアですらビビらせる程のものである。
(おいっ!そんなに人の服を引っ張るな!)
(何を言っている?引っ張っているのはお前の方だろう!)
後ろの方でわちゃわちゃとやっていると、俺とアルベルドの視線が合った。マズい。怒らせてしまったかも。
その時、またしても浮遊する石板が頭上からゆっくりと降りてきた。
乗っていたのは、窪地にある街中で出会った婆さんだ。リズ・オストレリア。お付きのシシリーも一緒にいる。彼女はセシルの妹だ。こうして見比べてみると本当によく似ている。服装は屋敷で見かけた時と同じメイドの姿。紺と白の布地のみ使われており、派手さはなく従者としての正装に相応しい。
「あっ……!お姉ちゃん!」
思わず声に出たのだろう。「しまった!」とでもいうように、シシリーが自分の口元を両手で塞ぐ。
彼女の粗相を咎められなくてホッとしたのか、セシルは安堵の表情で胸を撫でおろしていた。
「リズおばあさま?どうしてここに……」
「家族の顔を見に来るのに理由がいるかい?数カ月ぶりに目にしたが、元気そうで何よりだよ。
で、そっちの方は私に言いたいことがあるみたいだねぇ?」
リズが、アルベルドの方を見る。
察するに、身分の違いとは別に頭が上がらない関係らしい。
「いえ、決してそのようなことはありませんが」
「ほー?そうかい。
ま、いいさ。今日私が会いたかったのはあんただからね」
「えっ?」
つまり俺だ。
「あれからうまくいったようだねぇ?近頃のあんたの話は、私の耳にまで届いているよ」
「あの時は助かりました。
それで……俺になんの用でしょう?」
「聞けば、そこにいる騎士団長様と試合をして勝ったそうじゃないか。『生涯敗北することはない』と豪語していた割には大したことなくてガッカリしたよ」
「ウギギギギッ!エドワーズ……お前のせいで……!!」
「俺に当たるのはおかしくないか?事実だろ」
「その通りね。フレア、みっともない真似はよしなさい。でないと今後の騎士団長の座が危うくなってしまうわよ?」
「そ……そんな!」
ソフィアの言葉を聞いたフレアは、ショックを受けて固まった。本気でクビにするつもりはないだろう。こんなのでも強さという一点においては他に替えがきかないほど有能なのだ。
「実力は申し分なし。頭も悪くなさそうだ。何より私が気に入っている。
――エドワーズ。あんた、ソフィアの婿になるつもりはないかい?」
「……それは一体どのムコでしょう?」
「二人で婚約をしないか?って聞いているんだよ。何か不都合でもあるなら言ってみな。決めるなら早い方がいいからね」
「おばあさま!話を急ぎすぎだわ。彼にはまだ何も説明をしていないのよ?」
「私の可愛い姪が狙われているんだ。こっちは毎日気が気じゃない。
――あんたなら、ソフィアを守ってくれるだろう?」
俺は、助けを求めるつもりでソフィアを見た。
「ダナル王国は知っているかしら?」
「旅の途中で通ったよ。山の向こう側に大軍がウヨウヨしていたな」
「表向きは、北から入ってくる来る魔物を討伐するため。でも、いずれ時期が来たらこちら側に攻めてくると予想しているわ」
「つまり隣国と戦争になるってことか?」
「そうね。正直大したことないわ。開戦したらこちらが勝つことは容易いでしょうね。でも、そんなことに軍の兵力を割いている余裕はないの」
ソフィアの言葉に、軍のトップであるアルベルドが頷いた。
「我々の目標は国内に巣くう魔物の討伐。ダナルと同時に相手をするのは骨が折れるだろう。戦いが始まれば少なからず犠牲が出る。
消耗戦という形は何としても避けなければならないのだ。そこで――」
「ダナルの王は、私を妃として迎えたがっているわ。だから適当に答えをはぐらかして時間を稼いでいるの。
――殺した相手の娘を欲しがるなんて悪趣味な男。虫酸が走るわ」
「まったくです!ソフィア様の騎士として、この私が必ずやあの者を成敗してみせましょう!」
フレアだけではない。俺以外の全員が怒りに顔を歪めていた。
「今から五年前、各地にある古代魔導具の祭壇が同時に襲撃されたわ。裏で糸を引いていたのはダナル王国。ここファラウブムとは違って、他の二箇所は守り通すことができなかったの。
結果、北の境界を遮る結界の大半が消失してしまったわ」
「結界の内側では魔族の力が大きく弱まる。そこで目につけたのがダナルの愚王だ。簡単にそそのかされたのだろう。我ら人族を裏切る行為、断じて許すわけにはいかない」
「逃げ遅れた人々を逃がすために私の両親たちは尽力したわ。オストレリアの直系のみが結界の作用を維持できるの。
破壊された古代魔導具は元に戻せないから。それも徐々に失われてしまったわ」
そして王都は魔物に飲まれた。二人の最後を見た者はいないらしい。ローレンが俺にしたように全てを託して亡くなったのだろう。
人々から向けられる期待がいかに重いものなのかを理解する。となると、やはり問題なのは黒騎士と親玉である魔族の方か……。
俺は、持ってきた魔導具のポーチを開いてそれを取り出す。修復済みである二機の古代魔導具。『ハーマイルの球体』だ。おそらく以前と変わらない形でそこにある。
「これを返さないといけないな」
「ええ……!ありがとう。触ってみてもいいかしら?」
俺が頷くと、ソフィアがそっと古代魔導具の表面に手を触れた。すると内部の機構がガチャガチャと音を立てて動き始める。温かみを帯びた光が球体全体を包み込みこんだ。
「……ローレン殿に協力を頼まなければ、こうはいかなかっただろう」
「私の弟なら当然さ。性格に難はあるが、こういったものを弄じくり回すことに関しては天才の部類だからねぇ」
ローレンのことをよく知る二人。老将軍とリズは大して驚いていない。
他の者たちは夢の中にでもいるような様子で、かつての輝きを取り戻した古代魔導具に目を奪われている。
「とても……綺麗です……!」
「そうですね。これで今後の戦いに希望が持てるようになりました」
「ウウッ……グスッ!エドワーズ、お前は……お前は本当によくやってくれたなぁ!!」
「感激するのはいいけど、俺の服で鼻を拭くのはやめてくれ」
「この功績を称えて、お二人の石像を作れないか軍の方で提案してみます。反対する者などいないでしょう。エドワーズ様の偉大さを知らしめるため、街の中央区辺りに設置するのが良いかもしれません」
ヘクターが言い出した石像計画は、あとで中止になるように手を回しておこう。
老将軍がテーブルの中央に地図を広げた。オストレリア王国の全土を写したもの。中央と東の二箇所に印がつけてある。
「古代魔導具は然るべき場所に設置しなければならない。王都と『白夜の森』の東側にある祭壇だ。それでようやく本来の機能を引き出せるようになる。
――ヘクター、詳しく説明しろ」
「予想では、進軍を開始すれば二年以内に王都に到達できるでしょう。その間、ダナル王国と開戦状態になった場合は、一時的にこちらの進軍を中止いたします。
各拠点に必要以上の物資を運んでおけば、戦線を維持することは可能ですから。後方の憂いであるダナルを一掃したら、あとは残存兵力をまとめて一直線に――」
「待て待て、待ってくれヘクター!一旦話を止めてくれ」
聞いちゃいられない。内容があまりにも現実的でないからだ。いや、彼らからすれば普通なのだろう。
しかし、俺はこの戦いに一年以上も時間をかける気は更々ない。
「北の境界沿いには何の対策もしてこなかったのか?例えばそう……西から東の端までを全て『聖木』で埋めてしまうとか?」
『聖木』の守護でも魔物を追い払うことは可能である。各地でもそうしているように。
俺の提案に対して、ソフィアは暗い表情をしながら首を左右に振った。
「その手はもう試したわ。だけど……」
「数日もたたない間に、全て切り倒されてしまったのです」
「なんだって?」
セシルの口から出た言葉に愕然とする。数百という数の『聖木』が集まれば、超特殊個体《ノーヴァ》ですら追い払うことができるだろう。なのにそれが効かないという。
「正体は?誰かそいつの姿を見た人はいないんですか?」
「わかりません。要請を受けて騎士団が駆けつけた頃にはもう……。団長がいなければ、私たちも全滅してしまうところでした」
「フフンッ!そのとーおりっ!吹雪に紛れて何処からともなく無数の斬撃が飛んできたんだ。私の剣でも受け止めきれない程の威力だったぞ?
これはその時、奴によってつけられた傷だ」
「なっ!団長、他の方々もいるんですから。人前ではしたないですよ!」
フレアが突然服の裾をまくりだす。腰の辺りに大きな傷痕ができていた。運が良かっただけだろう。あと少し位置がズレていれば死んでいてもおかしかない。
魔族領の奥地にしか生息しない、超特殊個体《ノーヴァ》の中でも飛び抜けるほどに異質な化け物。それが人族の領域内にまで入ってきたのだ。俺とフレア、そこにリーゼとティアを加えても、犠牲なくして討伐することは難しいかもしれない。
「アルベルド将軍はどう思います?」
「数を揃えても死人の山が増えるだけだろう。現状、我々の戦力だけでその魔物を討ち取ることは不可能だ」
「そうですね。でも、どうにかして倒さなければならない相手です。俺に時間をもらえませんか?あと人手も借りたいです。できることなら今すぐに」
「分かった。お前の望む通りに手配をしよう。
――それで構いませんかな?ソフィア様」
「いいに決まっているじゃない。それにしても、先ほどまでとは別人のように顔つきが変わったわね。思わず見惚れてしまったわ」
周りを見回すと全員がポカンとしていた。ソフィアが俺の腕を取る。それから他に聞こえないように口元を近づけてこう言った。
「頼りにしているわね。私の未来の旦那様!」
そこにたどり着くまでの経路は日ごとに変わる。うっかり間違えてしまっても命を落とすようなことはない。しかし、その行き先は対侵入者用のトラップや牢獄だ。年に数回は、そこにかかる間抜けが出てくるという。
「私は迷宮の最長滞在記録を持っているんだ。あの時は各所に配置されていた食糧で日々を食い繋ぎ、襲い来る無数の罠を潜り抜け……うんたらかんたら」
「そりゃスゴい。未来永劫破られることがなさそうな記録だな」
フレアの話は自慢にもならない。セシルは「騎士団を率いる者としてあり得ません!」と憤慨していた。まさしくその通りだと思う。
ティアが同じ目に遭わないように、居場所を探知できる魔導具を持たせておくべきだろうか?
浮遊する石板の上から降り立ったのは俺、ソフィア、フレアとその副官であるセシル、ヘクターの計五人。
リーゼとティアは、ジェシカに連れられてイルシアが待つ城の方に向かっていった。これから仲良く女子会らしい。羨ましいね。こっちは楽しくもない会議が待っているというのに。
俺たちを迎えたのは老将軍一人だけだった。前回とは違い人数が少ないので、今いるこの空間がとても広く見える。
「予定より到着が遅れましたな。上で何か問題でも?」
「さあ?どうだったかしらね。
――セシル。あなたの口から説明をお願いしてもいいかしら?」
「クッ……!?訓練をおこなっていたのです!彼の指導は、剣士である我々にとっても学ぶべきことが多いので……」
「そういうことよ。
とにかく、これで全員揃ったのだから、そんな目で私たちを見ないでくれないかしら?」
老将軍は変わらず鋭い目つきのままだ。その圧は、傍にいるフレアですらビビらせる程のものである。
(おいっ!そんなに人の服を引っ張るな!)
(何を言っている?引っ張っているのはお前の方だろう!)
後ろの方でわちゃわちゃとやっていると、俺とアルベルドの視線が合った。マズい。怒らせてしまったかも。
その時、またしても浮遊する石板が頭上からゆっくりと降りてきた。
乗っていたのは、窪地にある街中で出会った婆さんだ。リズ・オストレリア。お付きのシシリーも一緒にいる。彼女はセシルの妹だ。こうして見比べてみると本当によく似ている。服装は屋敷で見かけた時と同じメイドの姿。紺と白の布地のみ使われており、派手さはなく従者としての正装に相応しい。
「あっ……!お姉ちゃん!」
思わず声に出たのだろう。「しまった!」とでもいうように、シシリーが自分の口元を両手で塞ぐ。
彼女の粗相を咎められなくてホッとしたのか、セシルは安堵の表情で胸を撫でおろしていた。
「リズおばあさま?どうしてここに……」
「家族の顔を見に来るのに理由がいるかい?数カ月ぶりに目にしたが、元気そうで何よりだよ。
で、そっちの方は私に言いたいことがあるみたいだねぇ?」
リズが、アルベルドの方を見る。
察するに、身分の違いとは別に頭が上がらない関係らしい。
「いえ、決してそのようなことはありませんが」
「ほー?そうかい。
ま、いいさ。今日私が会いたかったのはあんただからね」
「えっ?」
つまり俺だ。
「あれからうまくいったようだねぇ?近頃のあんたの話は、私の耳にまで届いているよ」
「あの時は助かりました。
それで……俺になんの用でしょう?」
「聞けば、そこにいる騎士団長様と試合をして勝ったそうじゃないか。『生涯敗北することはない』と豪語していた割には大したことなくてガッカリしたよ」
「ウギギギギッ!エドワーズ……お前のせいで……!!」
「俺に当たるのはおかしくないか?事実だろ」
「その通りね。フレア、みっともない真似はよしなさい。でないと今後の騎士団長の座が危うくなってしまうわよ?」
「そ……そんな!」
ソフィアの言葉を聞いたフレアは、ショックを受けて固まった。本気でクビにするつもりはないだろう。こんなのでも強さという一点においては他に替えがきかないほど有能なのだ。
「実力は申し分なし。頭も悪くなさそうだ。何より私が気に入っている。
――エドワーズ。あんた、ソフィアの婿になるつもりはないかい?」
「……それは一体どのムコでしょう?」
「二人で婚約をしないか?って聞いているんだよ。何か不都合でもあるなら言ってみな。決めるなら早い方がいいからね」
「おばあさま!話を急ぎすぎだわ。彼にはまだ何も説明をしていないのよ?」
「私の可愛い姪が狙われているんだ。こっちは毎日気が気じゃない。
――あんたなら、ソフィアを守ってくれるだろう?」
俺は、助けを求めるつもりでソフィアを見た。
「ダナル王国は知っているかしら?」
「旅の途中で通ったよ。山の向こう側に大軍がウヨウヨしていたな」
「表向きは、北から入ってくる来る魔物を討伐するため。でも、いずれ時期が来たらこちら側に攻めてくると予想しているわ」
「つまり隣国と戦争になるってことか?」
「そうね。正直大したことないわ。開戦したらこちらが勝つことは容易いでしょうね。でも、そんなことに軍の兵力を割いている余裕はないの」
ソフィアの言葉に、軍のトップであるアルベルドが頷いた。
「我々の目標は国内に巣くう魔物の討伐。ダナルと同時に相手をするのは骨が折れるだろう。戦いが始まれば少なからず犠牲が出る。
消耗戦という形は何としても避けなければならないのだ。そこで――」
「ダナルの王は、私を妃として迎えたがっているわ。だから適当に答えをはぐらかして時間を稼いでいるの。
――殺した相手の娘を欲しがるなんて悪趣味な男。虫酸が走るわ」
「まったくです!ソフィア様の騎士として、この私が必ずやあの者を成敗してみせましょう!」
フレアだけではない。俺以外の全員が怒りに顔を歪めていた。
「今から五年前、各地にある古代魔導具の祭壇が同時に襲撃されたわ。裏で糸を引いていたのはダナル王国。ここファラウブムとは違って、他の二箇所は守り通すことができなかったの。
結果、北の境界を遮る結界の大半が消失してしまったわ」
「結界の内側では魔族の力が大きく弱まる。そこで目につけたのがダナルの愚王だ。簡単にそそのかされたのだろう。我ら人族を裏切る行為、断じて許すわけにはいかない」
「逃げ遅れた人々を逃がすために私の両親たちは尽力したわ。オストレリアの直系のみが結界の作用を維持できるの。
破壊された古代魔導具は元に戻せないから。それも徐々に失われてしまったわ」
そして王都は魔物に飲まれた。二人の最後を見た者はいないらしい。ローレンが俺にしたように全てを託して亡くなったのだろう。
人々から向けられる期待がいかに重いものなのかを理解する。となると、やはり問題なのは黒騎士と親玉である魔族の方か……。
俺は、持ってきた魔導具のポーチを開いてそれを取り出す。修復済みである二機の古代魔導具。『ハーマイルの球体』だ。おそらく以前と変わらない形でそこにある。
「これを返さないといけないな」
「ええ……!ありがとう。触ってみてもいいかしら?」
俺が頷くと、ソフィアがそっと古代魔導具の表面に手を触れた。すると内部の機構がガチャガチャと音を立てて動き始める。温かみを帯びた光が球体全体を包み込みこんだ。
「……ローレン殿に協力を頼まなければ、こうはいかなかっただろう」
「私の弟なら当然さ。性格に難はあるが、こういったものを弄じくり回すことに関しては天才の部類だからねぇ」
ローレンのことをよく知る二人。老将軍とリズは大して驚いていない。
他の者たちは夢の中にでもいるような様子で、かつての輝きを取り戻した古代魔導具に目を奪われている。
「とても……綺麗です……!」
「そうですね。これで今後の戦いに希望が持てるようになりました」
「ウウッ……グスッ!エドワーズ、お前は……お前は本当によくやってくれたなぁ!!」
「感激するのはいいけど、俺の服で鼻を拭くのはやめてくれ」
「この功績を称えて、お二人の石像を作れないか軍の方で提案してみます。反対する者などいないでしょう。エドワーズ様の偉大さを知らしめるため、街の中央区辺りに設置するのが良いかもしれません」
ヘクターが言い出した石像計画は、あとで中止になるように手を回しておこう。
老将軍がテーブルの中央に地図を広げた。オストレリア王国の全土を写したもの。中央と東の二箇所に印がつけてある。
「古代魔導具は然るべき場所に設置しなければならない。王都と『白夜の森』の東側にある祭壇だ。それでようやく本来の機能を引き出せるようになる。
――ヘクター、詳しく説明しろ」
「予想では、進軍を開始すれば二年以内に王都に到達できるでしょう。その間、ダナル王国と開戦状態になった場合は、一時的にこちらの進軍を中止いたします。
各拠点に必要以上の物資を運んでおけば、戦線を維持することは可能ですから。後方の憂いであるダナルを一掃したら、あとは残存兵力をまとめて一直線に――」
「待て待て、待ってくれヘクター!一旦話を止めてくれ」
聞いちゃいられない。内容があまりにも現実的でないからだ。いや、彼らからすれば普通なのだろう。
しかし、俺はこの戦いに一年以上も時間をかける気は更々ない。
「北の境界沿いには何の対策もしてこなかったのか?例えばそう……西から東の端までを全て『聖木』で埋めてしまうとか?」
『聖木』の守護でも魔物を追い払うことは可能である。各地でもそうしているように。
俺の提案に対して、ソフィアは暗い表情をしながら首を左右に振った。
「その手はもう試したわ。だけど……」
「数日もたたない間に、全て切り倒されてしまったのです」
「なんだって?」
セシルの口から出た言葉に愕然とする。数百という数の『聖木』が集まれば、超特殊個体《ノーヴァ》ですら追い払うことができるだろう。なのにそれが効かないという。
「正体は?誰かそいつの姿を見た人はいないんですか?」
「わかりません。要請を受けて騎士団が駆けつけた頃にはもう……。団長がいなければ、私たちも全滅してしまうところでした」
「フフンッ!そのとーおりっ!吹雪に紛れて何処からともなく無数の斬撃が飛んできたんだ。私の剣でも受け止めきれない程の威力だったぞ?
これはその時、奴によってつけられた傷だ」
「なっ!団長、他の方々もいるんですから。人前ではしたないですよ!」
フレアが突然服の裾をまくりだす。腰の辺りに大きな傷痕ができていた。運が良かっただけだろう。あと少し位置がズレていれば死んでいてもおかしかない。
魔族領の奥地にしか生息しない、超特殊個体《ノーヴァ》の中でも飛び抜けるほどに異質な化け物。それが人族の領域内にまで入ってきたのだ。俺とフレア、そこにリーゼとティアを加えても、犠牲なくして討伐することは難しいかもしれない。
「アルベルド将軍はどう思います?」
「数を揃えても死人の山が増えるだけだろう。現状、我々の戦力だけでその魔物を討ち取ることは不可能だ」
「そうですね。でも、どうにかして倒さなければならない相手です。俺に時間をもらえませんか?あと人手も借りたいです。できることなら今すぐに」
「分かった。お前の望む通りに手配をしよう。
――それで構いませんかな?ソフィア様」
「いいに決まっているじゃない。それにしても、先ほどまでとは別人のように顔つきが変わったわね。思わず見惚れてしまったわ」
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