サイコパス、異世界で蝙蝠に転生す。

第四章 迷宮都市ラビリントス

第81話 レト、休息

　
　「ほあ～。もふもふなんじゃー」

　「キュフン」

　こんにちは、レト・ノックスです。
　現在、私は妲己の尻尾に埋もれダラダラもふもふしてる所であります。
　迷宮はどうしたのかって？
　勿論、騒ぎの混乱に乗じて侵入しましたとも。
　受付の人も居なかったし、影に入る事なく堂々と入りました。

　あの後、街がどうなったか知らんが、次に俺がシャバに戻ってくる頃には復興してるだろう。
　黒蝶のボスが死んで、商会が潰れた事もうやむやになってると嬉しいです。

　で、迷宮に入るにあたって、一つ問題があった訳ですよ。
　そう、ウェインとテレサです。
　あの二人をいきなり、50階とかに連れて行ってもまともな戦力にならない。
　浅い階層でレベリングしなければ。
　そう思って現在12階層で魔物達とバトってる訳ですね。

　せっかく転移の双釘を手に入れたから使ってみたかったんですが、魔王の眷属として弱っちくてはいけない。
　という事でしっかりと育成してる訳ですよ。
　グレースが。

　いや、俺もね？　最初は付き添いしてたんですよ？
　でもすぐに飽きちゃって。
　仕方ないよね。俺だもの。

　そこで俺は考えました。
　シャバの世界で働きすぎたから少し休もうと。
　ただ休むだけじゃあ面白くないから妲己の尻尾を思う存分堪能しようと。
　なので、俺は育成をグレースに丸投げして影の中で堂々とサボってる訳です。
　くそ上司の鑑ですわぁ。

　妲己は手伝いたそうにしてたけど、無理矢理引き込みました。
　こいつは日に日に面倒見が良くなっていく。
　お前も少しは休まんといかんぞ。うんうん。
　アシュラが初めて出来た後輩分にやる気を漲らせてたから任せなさい。

　「それを考えると俺はグレースを酷使しすぎでは？」

　普段から俺の面倒を見たり、細かなサポートをしているからな。
　一番休ませないといけない奴だったか。

　「仕方ない。サボるのは今日だけにしてグレースを休ませるか」

　でも、今日はサボる。
　一日中ゴロゴロさせてもらいまーす。




　「いや、レト様が地上にいる間に結構休みましたが？　特にやる事も無かったので、妲己やアシュラとずっとボードゲームをしてたぐらいですし。最近は、ウェインとテレサの面倒を見る事が増えましたが今更子供が増えた所で手間は変わりません」

　レベリングから帰ってきたグレースに休んで良いよと伝えたら、予想外の言葉が返ってきた。
　ははーん？　こいつワーカーホリックだな？
　俺から見るといつも忙しなく動いてるように感じるんだが？

　ん？　あれ？　俺、子供扱いされてる？
　ウェインとテレサと変わらない感じ？
　俺の事じゃないよね？　アシュラだよね？

　「それと、ウェインは戦闘のセンスが驚く程ありませんね。まさかまともに投擲も出来ないとは思いませんでした」

　「うっ…」

　「もうちょっとオブラートに包んで言ってやれよ。すっごいショック受けてるじゃん」

　「いや、私に向かって何度も薬を投げてきましたからね。後ろにいるのに」

　「ご、ごめんなさいなんだぞ」

　ウェインは生産職だもんなぁ。
　仕方ないよね。
　でも男の子なのに、戦闘センスが無いって言われるのは心にクるものがあるよな。
　後で慰めてやろう。

　「ま、ウェインは調合やら錬金やらでもレベルが上がるから無理に魔物と戦う必要はないよな。ユニークスキルのお陰で生産系には全部補正が掛かるんだし、新しくなんかスキルを覚えてそれを練習するのも良いんじゃないか？」

　「そうするんだぞ…」

　裁縫とかさ。
　お前が裁縫スキル覚えてくれると凄く助かる。
　リブラまでわざわざ服を仕立てに行かなくて済むし。

　「後は魔力回復ポーションをなんとか美味しくしてくれ。現状じゃ飲む気にならん」

　「わかったぞ！」

　くっそ不味いからな。ヘドロみたいな味だ。
　ヘドロの味を知らないから感覚的な物なんだけど。
　俺が魔物だからそう感じるのかと思ったけど、グレースも普通の人間だった頃に飲んだ事あるらしく、とても飲めたものではないらしい。
　それでいて効果はあるんだから腹立つよな。

　「で、テレサは？」

　「悪くないですね。体の動かし方はまだまだですが、ウェインより100倍はマシです。魔法もユニークスキルのお陰か、覚えたてにしては効率的に使えてるかと」

　なに？　グレースはウェインの事が嫌いなの？
　ナチュラルに貶めるじゃん。
　ウェイン、泣きそうな顔してるよ？

　「キュンキュン」

　「ゴギャギャ」

　妲己とアシュラが見かねて慰めに行ってるよ。
　どうしてそこまでトゲがあるのか。

　「薬を投げつけられた恨みです」

　大人気ない！　大人気ないよ、グレースさん！
　俺ですら子供には優しいってのに。

　「見て下さい。せっかくレト様に仕立てて貰った服が少し溶けてます」

　え？　どこどこ？
　…………？　俺には溶けてるように見えんが？

　「ここです！　逆側と比較してご覧になって下さい！　こっちの方に薬が飛び散って溶けてるんです！」

　おっと、これはいけない。
　グレースさんの鼻息が荒くなって、目がドロドロし始めている。
　早急に対処せねば。

　「た、確かに。良く見てみれば溶けてるな！　うん！　これはウェインが悪い！」

　「ですよね！」

　すまんな、ウェイン。
　俺はお前を助けてやる事は出来んのや。
　この状態になったグレースは不気味で怖いんです。

　「ほら、ここはウェインに裁縫スキルを覚えて貰って手直ししてもらおう？　そこら辺で怒りは収めてもらって」

　「そうですね…。私も大人気なかったです。いつかしっかりウェインに直してもらいます」

　なんとか溜飲を下げてくれたか。
　これはウェインに頑張ってもらわんといかんな。

　「………グレースお姉ちゃんは怒らせてはダメなの。テレサ、覚えたの」

　うむ。テレサがどうやら一つ教訓を得たらしい。
　良きかな良きかな。