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第五章 魔王討伐
第153話 激突
しおりを挟む「クカカカカ。良ク ココマデ 来タナ」
「すげぇ。魔王っぽい」
魔王の元まで行くと、ふんぞり返ったエンペラー・リッチが話しかけてきた。
その姿や言動は本当に魔王で、挑発された事も忘れて少し感動してしまったくらいだ。
「オ主ノ 目的ハ 何ダ。我ノ 国ヲ 荒ラシテ 回リヨッテ」
「え? 魔王討伐だけど。男の子なら憧れるよね?」
経験値も凄そうだしさ。そういえば、俺はなんで魔王討伐しようと思ってたんだっけ?
「およ? マジで俺はなんでこんなに魔王討伐にムキになってるんだ?」
「我ガ 知ルワケ 無カロウ」
おっしゃる通り。ちょっと待ってね。頑張って思い出すから。
「迷宮都市に行ったのは、強くなりたいからだよな。確か、魔境って呼ばれてる魔王の縄張りと迷宮で迷って、迷宮都市に行ったはず」
数年前の記憶なので定かではないが。確かそんな感じだった気がする。
「それで迷宮も攻略して、ある程度強くなったと思ったから魔王に殴り込みに行こうってなったんだ」
なんで? 強さの証明? いや、俺はあんまりそんなのに興味はない筈なんだけど。
強くなるのは楽しいけど、自分から率先して戦いたいと思う性格じゃなかったはず。
ましてや、勝てるかも不明な魔王に挑みに行くなんて。
「くっ! その場のノリで決めた感があるな。俺の性格だと楽しそうだからってのもありえる」
全く。自分の性格が嫌になるね。楽しそうな事を見つけてしまうとどうしてもノリでやってみたくなっちゃう。
「お待たせ。自問した結果、楽しそうだからって結論に落ち着きました」
「楽シソウ ダト? オ主ハ 自分ガ 死ナヌトデモ 思ッテルノカ?」
いや、死にそうになったら逃げるし。
恥も外聞もなく逃げるし。まだまだ異世界でやりたい事はいっぱいあるからね。
「ってか、お話とかしてくれる感じ? それなら聞きたい事はいっぱいあるんだけど」
「クカカカカ。オ話カ。我モ 外ノ者トハ 久シク 話シテオラヌ。付キ合ッテ ヤッテモ 面白イガ。ソノ前ニ 我ノ 国ヲ 荒ラシタ 落トシ前ヲ ツケテモラワネバノ」
「ふむん。結局は暴力ね。ならまずは肉体言語でお話しましょうか!」
その途端、エンペラー・リッチから凄まじい魔力の圧が放たれる。
むむ? これは了承という事でよろしいな?
「グレース、妲己、アシュラ、ヴェガは周りの魔物を相手してー。相手の方が数が多いけど協力して頑張ってくれい」
「かしこまりました」
「キュン!」
「ゴギャギャ!」
「………」
グレースは魔剣を抜いて戦闘態勢へ。
妲己はさっそく【虚影魔法】で数を最大限に増やしてるし、アシュラとヴェガは金棒と槍もどきを振り回している。
相手もやる気満々でドラゴン・ゾンビを筆頭に、ジャック・オ・ランタンやら、デスナイト・ディザスターとか他にも色々なアンデッドが立ちはだかる。
「俺とテレサは魔王をしばくぞ。段取りは分かってるな?」
「………ばっちりなの。でも出来ればやりたくなかったの」
すまぬな。テレサには辛い役目を担ってもらう。
ウェインが改良に成功してたら良かったんだけど。あいつ、飽きて別の事を始めてるから。
「今のテレサは五本以上飲むと中毒になるの。出来ればその前に仕留めてほしいの」
俺とテレサはここに来るまでに軽く打ち合わせしてあった。
解析で確認してから、魔法をどうにかすれば勝ち目はあると思ってたからね。
この作戦が成功したら、余裕で勝てるはず。
「よっしゃ! ぶっ飛ばしてやるぞ! カッコいい魔王め! 俺もそんな魔王になりたいぜ!!」
「褒めてるのか貶してるのかわからないの」
「クカカカカ! 悪イ気ハ セヌノ!」
俺は体からブラッド・チェーンを取り出して、エンペラー・リッチに襲い掛かった。
☆★☆★☆★
「では、私達も始めましょうか」
少し離れた所では、魔王と魔王がとうとう激突した。今の所、テレサのお陰で余波は少ないが、それもいつまで待つか分からない。
「ヴェガは無理し過ぎないように。妲己は--」
「キュンキューン!!」
グレースが指示を出そうとすると、その前に妲己が魔法を行使した。
狙いは体長15mは超えているだろう、ドラゴン・ゾンビ。
「獣風情ガ。調子ニノリよって」
魔法と魔法がぶつかり合う。妲己は楽しそうに全部の分身を連れてドラゴン・ゾンビへ接近。
そのまま戦いが始まった。
「獣と腐肉なら獣の圧勝だと思いますが。汚い体と綺麗な毛並み。どちらが上かは明らかです。……あれは妲己に任せましょう。やる気満々ですし。ではアシュラは--」
「ゴギャギャー!!」
一番強そうなドラゴン・ゾンビは妲己が請け負ってくれた。それならその間に他を倒そうと指示を出そうとするが、またしてもその前にアシュラがデスナイト・ディザスターに突進していった。
相手もそれに応戦。魔法戦並みに周囲に被害を出しながら戦闘が始まった。
「………レト様の眷属はどうして、こうも協調性というものがないのでしょう。楽しそうな物を見つけるとそれに一直線です。主人に似たのでしょうか」
ため息を吐きつつ、チラッとヴェガを見る。
ヴェガはグレースをみて、普段は虚な目をキラキラさせながら指示を待っていた。
「あなたは良い子ですね。いずれは染まってしまうのでしょうが。では、私達はその他を相手しましょうか。やれやれ。常識人は苦労しますね」
そんな事を呟きながら、ジャック・オ・ランタンや他のアンデッドに襲い掛かっていった。
それを影で聞いていたウェインは、グレースお姉ちゃんもある一点に関しては常識がないんだけどなと心の中で思っていた。
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