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第1章 転生と出会い
プロローグ
しおりを挟む「ボス。今月の売り上げです」
「あいあい」
豪華に装飾された部屋の一室。ここは各地にある俺の屋敷の一つの執務室だ。
「んあー? この部門の売り上げ落ちてんじゃん。担当だれ?」
「エリザベスです」
あいつか、あんにゃろう。実験狂いでも良いけどノルマぐらいは達成しやがれ。
どうせまた実験のしすぎで、仕事を後回しにしてたんだろう。
優秀なんだけどな。自分の世界に入り込みすぎるのが玉に瑕だ。
「あいつに後で手紙飛ばしといて。これ以上仕事が遅れるなら研究費出してやんないぞって」
「かしこまりました」
うんうん。最古参の秘書だけあって、カタリーナは優秀だな。エルフという事もあって緑色の綺麗な髪をした美人さんだし。特に切れ長のキリッとした目がビューティフル。結婚して下さい。
他の部下達もこれぐらい優秀ならやりやすいのに。いや、みんな優秀なんだけどさ。どいつもこいつも癖がありすぎて苦労するんだ。
馬鹿と天才は紙一重とはまさにこの事だね。
「それと情報部からの定時連絡が届いてます」
「なんか直近で急ぎの報告あったっけ?」
「フレリア王国とスパンダ帝国の戦争が終結したとの事。うちの傭兵部門から出した人材に被害は無し。しっかり戦功を上げて、半年以内に帰還するそうです」
「おぉー。良きかな良きかな。どうでも良すぎてすっかり忘れてたぜ。スパンダ帝国は負けたよね? あれだけお膳立てしたんだし」
「皇族や主だった貴族は全て捕虜にしたみたいですね」
エクセレント! 文句なし! 馬鹿な民衆共に革命を煽った甲斐があったってもんだぜ。
あそこの貴族やら皇族は俺との取引を反故にしようとしたからな。しっかり落とし前はつけさせてもらったぜ。
「早速うちの商会の勢力を広げろ。ゴタゴタしてるうちに、俺達が中心の経済圏を確立しないとな」
「既に手配済みです。ホルト直々に現地に赴き差配しておられます」
はい。優秀。もう俺が居なくて良いんじゃないですかね。元からお飾りみたいなもんだけど。
俺はその人に合った職を紹介して、良い感じにしといてねってお願いしてるだけだし。
「ふぁーねむっ。今日の予定ってなんかあったっけ?」
「ボスの本日のご予定は、特にありません。パラエルナ王国の第二王子からパーティーのお誘いはありましたが、お断りさせて頂いております」
あの馬鹿王子か。ほぼ毎日のように何かしらに誘ってきやがる。大方俺を味方にして、王位争いを優位にしたいんだろうが。
特にあいつに味方しても利益になりそうにないし。第一王子の方が優秀って聞くしね。放置一択でしょ。
「じゃあ今日はゆっくりさせて貰おうかな。あ、傭兵達が戻ってきたらパーティーでもやろうか。長い間頑張ってくれたしね」
「手配しておきます」
よろしくー。じゃあお飾りのボスはおねんねしようかな。
最初は苦労したけど、俺がサボっても勢力が増していくシステムを構築して良かったぜ。
構築してくれたのは秘書のカタリーナや他の幹部連中だけど。
俺、みんなに裏切られたら無一文になるだろうな。もっと優しくしよう。働くかはその時になってから考えます。
「レイモンドー! ただいまー!」
「ごはぁ!」
あれから少しして。
派遣されていた傭兵部門の長、俺の組織の幹部でもあるローザが帰ってきた。
帰って来て早々に俺に突撃してくるのは相変わらずだな。身体強化が遅れたら俺の肋骨は粉々になったかもしれん。
「頑張って敵をいっぱい殺してきたよー! 褒めて褒めてー!」
「おーよしよし。良く頑張ったねぇ」
「うっきゃきゃきゃ!」
犬かて。いや、狼の獣人だから間違ってはないけど。キラキラした目で褒めろアピールしてくるので、頭をわしゃわしゃと撫でてやると、子供の様に喜ぶ。この子は何年経っても子供っぽいね。
そのせいで、難しい事を考えずに突撃して失敗してしまう事もあるんだけど。
副長の苦労が目に浮かぶようだ。後でボーナスをあげよう。
「スパンダ帝国はなくなっちゃうねー」
一通り撫で回されて満足したのか、隣のソファに座って少ししんみりとする。
「まぁ、一応俺達古株の祖国だからなぁ」
「スパンダ帝国を離れてもう随分経つけど、それでも生まれ故郷が無くなるのはちょっと悲しいよ」
「ロクな国じゃなかったけどな」
「それでもだよー」
普段は明るいムードメーカーなのに、今日はちょっとテンションが低い。
まぁ、俺達が煽って滅ぼしたみたいなもんだしな。思う所はあるんだろう。
「スパンダ帝国には感謝してるよ。お前達に会えたんだからな。でもそれだけだ。あそこは国として終わってるぞ。潰れた方が世の為人の為だ」
「そうだねー。ローザもレイモンドや他のみんなに会えて良かったよー。助けられてなかったら今頃死んでただろうしねー」
懐かしいな。もう何年前かも思いだせねぇや。
あの頃は必死に生きる事だけを考えてたから。
今でこそ、不老薬を飲んで人生謳歌してるけど。
あの日、前世の記憶を思い出さなかったら、今頃俺や他の部下達はどうなってたんだろうか。
殴られて痛かったのは今でも覚えている。
あの痛みだけは生涯忘れないだろう。
それぐらい、痛くて衝撃的だったんだ。
まさか、俺が異世界転生するなんてな。
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【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
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