銀色の魔女は黒騎士の手の平で踊る

くろなま

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act35.魔女の夜会-会場前

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帝国での交流会最終日を迎え、エフスターフィイ上邸宅では朝から使用人たちが忙しなく動いている。

本日の夜会、そしてプーシュカの出立の準備だ。

秋の終わりから春までにある社交期、その長期間滞在に比べれば移動に伴う荷物自体は少ない。
しかし今回はオルラン領へ戻るのではなく、シェルシェンと共にロスティスラブ領へと向かう。

プーシュカがお共として連れて行くのは、傍仕えのデュシーカと他プーシュカ付きの女中2名、使用人1名…そしてプーシュカが直接雇用している護衛…最近は使用人見習いという名の雑用も兼任しているゴルディだ。元々プーシュカの供回りとしてデュシーカと一緒に長らく仕えており、気心も知れている為…ラザレフに許可を貰っている。

因みに毒ウサギのプーちゃんは今もプーシュカの生家…エフスターフィイ侯爵家本邸で大切に飼われている。
あのふわふわもこもこと、天使の様に愛らしい年の離れた弟アンドレイにはもう一度会っておきたいという気持ちはあるが…手紙を書いてあげようとプーシュカは心に決めていた。

「今朝も帝城へは向かわれるのですか?」
プーシュカの髪を梳き、整えながらデュシーカが尋ねる。
「ええ。殿下のお計らいでサロンが解放されているの。昼食もご用意頂けるそうですし、夜会ではばたばたしてしまうから先に皆様にご挨拶をしないと」

本来であれば公爵令嬢が一度に会するというのは、社交期の間でも稀な話だ。
当然、公爵令嬢たちにお近づきになりたいであろう参加者たちが集中することが考えられる。
日中のサロンだけが、令嬢達だけで集まっていられる最後の機会だ。

「勿論、夜会の準備もあるから、お昼を頂いたらこちらに戻るわ」
「プーシュカ様。油断してあまり食べすぎないで下さいね。…帝都にいらしてから食事量が増えましたよ」
ちくりとしたデュシーカの諫言に、プーシュカがうっ、と、図星をつかれ口を結ぶ。
「…だって。オルランでは見た事ないものばかりなんだもの…」
「気持ちはわかりますけれど、ロスティスラブ領に行けばまた違った料理が食べられますし…向こうでは今みたいに好きなだけ食べるという訳には参りません。今から胃を縮めておかないと、困るのはプーシュカ様ですからね」
さらにずけずけと刺していくデュシーカの言葉に、プーシュカは居心地を悪くする。
「もう手遅れのような気がするけれど…分かった。なるべく気を付ける」
「まぁ、お昼に沢山食べておけば夜に入らなくて丁度いいかもしれませんが」
「そうやって惑わすのはずるいわ!意地悪!」

くすくすと、使用人たちの楽しげな笑い声と共にプーシュカの叫びがエフスターフィイ上邸宅に響いた。






「あら、御機嫌よう。貴女もいらしたのね、プーシュカ」
「御機嫌よう。どうぞ、こちらが空いているわよ」

帝城のサロンへ入ると、既に数名の…いずれも別室を借りていた公爵令嬢達が和やかに話し込んでいた。
入ってきたプーシュカの姿に…最早何の恐怖や嫌悪もないらしく、親しい友と同様の気安い笑顔を浮かべて招いた。

「御機嫌よう、皆様方。…お早くていらっしゃるのですね」
淑女の礼をとり、彼女たちの輪に入り…席につく。
「上邸宅にいるなら『支度が遅れている』という言い訳もできるけれど。…流石に、城の中でのんびりはできないわ。落ち着かないし」
令嬢の一人が笑いあう。

「私も枕を持参していなかったら今頃、一睡もできていなかったと思うわ。プーシュカとかコーラ達は毎日戻っていたでしょう?面倒そうだなって思っていたけど…その分しっかり眠れたんじゃない?」
「ええ…はい。それは勿論。…ですが、何度か…うっかり遅刻しそうになりました」
プーシュカが笑うと、令嬢達がああー、と納得したように頷いて綻ぶ。

「わかるわー。普段、社交期の時なんかは特に早くてもお昼前でしょう?こんなに早くなんて起きた事がなかったもの…家に戻ったらもうすぐ倒れるでしょうね」
くすくすと笑い合ううちに、令嬢の一人…ラードゥガがプーシュカを見て首を傾げた。
「…そういえば、プーシュカは一度オルランへ戻るの?」
「いえ。明日の朝、シェルシェン様を追ってそのままロスティスラブ領へ伺う手筈になっております」
「そうなの。いいなぁ、ロスティスラブ領ってすっごく栄えているし、整備されていてとても綺麗なのよ。流行の最先端だし…私も行きたいなあ」
溜息を吐きながら、ラードゥガが髪をくるくると弄りだす。
「あら…では、領地に戻る前に遊びにいらっしゃる?」
突然、背後から溌剌とした聞き覚えのある…美しい声が響いた。
勿論今し方サロンに入ってきたシェルシェンだった。

「シェルシェン様!」
立ち上がって挨拶しようとする全員を制し、くすくすと笑いながら手近の空いた席に座る。
「皆様お早いこと…随分盛り上がっていたのね。私は本当に構わないのだけれど…どうする?」
そう綻ぶシェルシェンに、発端のラードゥガは悲しげな顔を浮かべる。
「本当に、本当に残念ですわ、シェルシェン様。…私、本当に…是非ともついて行きたい所なのですが、交流会が終わり次第すぐに領地に戻らないといけないんです。例の縁談の件で…」
「ああ…そういえば以前、言っていたわね。残念だわ」
ラードゥガの寂しげな笑顔に、他の令嬢たちは事情を知っているのだろう…誰もが彼女を心配し見守るように見つめている。

「ラードゥガ。私も途中まで道中が同じなのだし、一緒に行きましょう。一杯お喋りして、…ね?」
「わ、私も…私は少し寄り道になりますけど方向は一緒ですし…時間に余裕がありますから」
別の公爵令嬢たちがそう微笑むと、ラードゥガもほっとした様な笑顔を浮かべる。
「ありがとうございます」
和やかな空気が出た後、令嬢リゼタがシェルシェンに向かって声を上げる。
「私はロスティスラブ領を通過させて頂きますので、道中ご一緒させて頂いても宜しいでしょうか。ねえ、フローラ、そうしましょう?」
「ええ、良いわね。…宜しいでしょうか、シェルシェン様」
リゼタの隣に座っているフローラも頷き、手を挙げる。
「ええ、勿論よ」
結局、数名の…自領に戻る令嬢たちがそれぞれ同じ方向同士でかたまり、シェルシェンやプーシュカ達と同様に示し合わせて出発するという約束をし始める。

社交期の終わる頃は貴族が一斉に帝都から出ていく都合上、一時に揃って城門を出ていくことはできない。各家それぞれのタイミングで自領に戻るので、どこかの家と一緒に…という現象は生まれない。
勿論、偶然ということはあるが…それでも皆急いで帰らねばならないためそれぞれ足並みをそろえるという事もない。

「令嬢同士で一緒に帰るなんて、初めてだから新鮮だわ」

そう笑いあう公爵令嬢達を眺めながら、プーシュカも穏やかに微笑む。

プーシュカが帝都を訪れる際はいつも必ずキーロフとユーリーと…3人で一緒に帝都へやってきて…プーシュカ自身は社交界に出席せずともエフスターフィイ家で過ごし、そして帰る時も一緒に帰ってきた。
オルランから帝城までの道のりは決して良くはないが、かといって苦しくはない。
2人がいたから、何の不安もなかったし、退屈でもなかった。

きっと彼女たちも、…道中を安心して、楽しく戻れるだろう。

その後、遅れてやってきた令嬢達が合流し…他愛のない、色々なお喋りに花を咲かせているとあっという間に昼になってしまった。
昼食の支度の為に、使用人や女中たちが忙しなくサロンに出入りしていると…ふと、何気ない顔をしてニコライがやってきた。

「殿下!」
令嬢たちが一斉に立ち上がり、臣下の礼を取る。
「やあ…邪魔して済まない。…賑わっていると聞いて、少し様子を見に来たんだ。改めて全員が揃っている所を見ると、眩しさで目が潰れてしまうね」
そう微笑むニコライに、令嬢たちも嬉しそうに微笑む。
「それに全員…交流会が始まる前よりずっといい顔をしている。花が咲き誇っているようだ。…私も、実験段階とはいえ…開催して本当に良かったと思えるよ」
「…殿下、少し宜しいでしょうか」
シェルシェンが手を挙げると、ニコライは勿論、と笑顔を浮かべてシェルシェンに促した。
「今回の交流会は…本当に、私たちにとって得難い経験を積ませて頂きました。これも全て殿下の、我々へのご厚情と素晴らしい手腕によるものです。皆様を代表して、お礼を申し上げたく存じます」
シェルシェンの一礼に、誰彼ともなく…全員がニコライへ向けて頭を下げる。
「いやいや。こちらこそ、君たちのおかげで色々と勉強をさせて貰ったし、何よりこうして各家の繋がりが強くなってくれたことを誇らしく思っている。昨日も述べたが、君たちのおかげだよ」
そう言った後、やや寂しげな笑顔を浮かべる。
「しかし、これだけ見事な宝石たちが帝城に集まったというのにまた手放さなくてはいけないなんて、本当に惜しい。君たちが城を出て行ったら、宮中がすっかり色あせてしまうな」
令嬢たちはニコライの世辞を額面通りに受け止めたりはしないものの、それでも悪い気分はしない。
頬を染めてくすくすと笑い合っている。
「…ああ、そろそろ昼食か。是非同伴させて頂きたいところだったが、申し訳ない。公務が残っていてね…夜会ではまた君たちの美しい姿を楽しみにしている。では、ゆっくりしていってくれ。ああ、そうだ、シェルシェン。…話があるんだ、途中まで一緒に来てくれないか?」
「畏まりました」

そう言ってニコライはシェルシェンを連れ出し、サロンから出ていく。
残された令嬢たちは…帝城での最後のランチを心行くまで楽しむ事にした。










「くるしい…」

昼過ぎ。
エフスターフィイ上邸宅に戻ったプーシュカが、珍しく青い顔をしてふらふらと椅子に座る。

「ほら、言ったじゃないですか。油断されないようにって」
デュシーカがそら見た事か、と、両手を腰に当てて冷ややかな視線で主を見つめる。
「だって…夜会は立食形式で、あんまり豪華なものは出さないって…加えて最後だからと、殿下がとびきりの料理をご用意して下さっていて…」
呆れて溜息を吐くデュシーカが、背中を摩る。
「全くもう。吐いちゃった方が楽ですよ」
「勿体ない…」
「そうは仰られましても、コルセットは締めますからね。頑張って消化なさってください」
コルセット、という単語にプーシュカが体をすくめる。
「オルラン人って本当に意地が悪い…」
「何を仰いますか、プーシュカ様も立派なオルラン人でしょうに…とにかく、少しお休みになったらとにかく体操と、お散歩でもいいので長くお歩きになってくださいね」
「解ったわ、そうする。そうするから、もうちょっとだけ待って…」

口うるさい姉の様な傍付きに叱咤されつつ、プーシュカは日が暮れるまでずっと…完全に自業自得なのだが…憂鬱な気分で過ごすことになった。






夜会にはまだ少し早い時間帯。
エフスターフィイ侯爵家上邸宅に、一台の馬車が入っていく。
レトヴィザン家の紋章が入った馬車だった。

馬車から降りてきたクロウンに、上邸宅の使用人…特に女中たちは思わずため息をついた。

流行を取り入れた、華美過ぎない…小洒落た礼服で身を整え、肩まで伸びていたブラングレーの髪もきちんと後ろで一つ結びにして整えている。
ニコライがおとぎ話に出てくる清廉な”白馬の王子様”ならば、こちらもまた、おとぎ話に出てくる”若き妖精王”の面差しというのだろう。
凛々しい色気があるニコライとはまた違った、儚げな色香がある。

「お迎えに上がりました。僕のパートナー、プーシュカ!」

恭しくお辞儀をするクロウンはどこか息を弾ませ、顔を綻ばせている。
一昨日に会った時とは比べ物にならない程輝いた笑顔は、間違いなくシェルシェンの親戚だと納得させるほど目映い。

「わざわざのお迎え、痛み入ります。…ですが、少し時間にはまだ早いようですね。…宜しければ、中でお茶でも如何でしょうか」

淑女の礼を取ったプーシュカが首を傾げる。誘いを待っていたかのように、クロウンはにっこりと微笑んだ。

「すみません、気が逸ってしまって。僕、その…実は今まで、身内以外で女性と同伴した事がなかったので。…失礼があってはいけないし、それに、早くプーシュカとお話しがしたくて」

先日の恐怖に満ちた言動はどこへやら…というより、この二日間で何があったのだろうと思わせる程クロウンは煌びやかに微笑んでいる。
あまりに甘いその表情は、女中たちのハートを鷲掴みしたのだろう…遠くで、女中が顔を真っ赤にして悶えるのを我慢している様に見えた。

あまり彼女たちを刺激するのは可哀想だ…と、プーシュカは足早にサロンへと案内する。

最近では千客万来であるエフスターフィイ上邸宅のサロンだ。
プーシュカとしてもすっかを心得るようになっていた。

「…失礼を承知で言いますが、想像していたよりずっと…なんというか、質素なのですね」

来客用ソファに腰かけながら、クロウンがしげしげと周囲を見回す。
侯爵邸ともあれば、やはり上邸宅にも金をかけるべきところなのだろうが…元々このエフスターフィイ上邸宅はオルラン上邸宅の敷地内であり、訪れる客もオルラン家の人間だけだったのだから、必要以上に飾り立てる事などは考えていないような内装になっている。
プーシュカ自身、華美に飾り立てたりなどしない無骨なオルラン城で育っている為、寧ろ華美に飾り立てた内装は落ち着かない。
調度品も決して安いものではないのだが…有体に言ってしまえば、華やかさに欠けているのだ。

「来客を想定していない作りでしたので…クロウン様のお屋敷に比べたら、つまらないでしょう」
「いいえ、居心地が良い部屋です。僕は好きですよ。落ち着いていて…僕が侯爵位を継いであの家に手を加えるとしたら、こういう感じの方が良いな」
心からそう言っているのが分かる程…クロウンは目を大きく開き、楽しそうに眺めていた。
やがて、顔を真っ赤にして緊張し強張った女中が菓子とお茶を持ってくる。
「ありがとう」
女中にお礼を言うプーシュカに、女中も軽くほっと安堵しながら微笑み…一礼した。
そのやりとりを、クロウンは不思議そうに目を丸くして見つめる。

「君はいつも女中にいちいちお礼を言っているの?」
女中が部屋から出て行った後、クロウンは疑問をそのままプーシュカにぶつける。
「ええ。当然の仕事だとしても、労って貰えた方が嬉しいでしょう」
「うーん、そういうものかな…」
興味深そうに、プーシュカの言葉を反芻する。
「クロウン様は確か、宮廷で仕事にしておられるとお伺いしております。普段はどういった事をされているのですか?」
「僕?僕はニコライ殿下の財政管理を。って言えば分かりやすいかな…」
なるほど、と頷くプーシュカが口を開く。
「財政管理という事は、当然、殿下が今までに使った公務費や経費などを把握し、調整していらっしゃるのでしょう?…殿下に月ごとの決算報告を出して、『今月は黒字だった。お前のおかげだ、ありがとう』と褒めて頂けたら…嬉しくありませんか?」
「うーん…殿下が僕や他の臣下を褒めるなんて滅多にないからなぁ。そんなこと言われたら具合悪いのか?って思っちゃいそう」
「殿下はクロウン様を全面的に信頼されているからということでは?優秀でいらっしゃるのですね」
プーシュカのお世辞にも、クロウンはやはりうーん、と首をひねる。

「金勘定なんて、誰でもできるよ。僕は見ての通り筋肉が付き辛い。だから騎士訓練にも向いてなくて、父上からも期待されてなくて。足りない分、頭を使う位しか取り柄がない。だから、与えられた仕事くらいこなして当然じゃないと駄目っていうか…」
「そんな事ないですよ。…その様に責任感のお強いクロウン様だから殿下も信頼しておられるのでしょう。クロウン様が努力している事、もっと正統に評価されるべきです。…貴方は頑張っていらっしゃるのでしょう?」
プーシュカの言葉に、クロウンは恥ずかしそうに顔を赤くする。
「頑張って…。…うん、まあ、必死ではあるけど。…そう、なのかな。僕、…頑張ってるのかな」

恐る恐るプーシュカを見ると、プーシュカはくすくすと笑っていた。
「直接見ているわけではないですから、私には解りかねます。ご自身に問いかけてみてください」
プーシュカの言葉に、クロウンは自分の胸に手を当てて…それまでの自分を少しだけ振り返る。
そして、ゆっくりと頷いた。
「…うん、頑張ってる。…毎日、いかに殿下の機嫌を損ねないように財布の紐を厳しくするか、とか、どうやってお金を引っ張ってこようかとか…ああ、そうだ。貴女たちの交流会。あれだって、やりくりとか、国庫から引き出すのに凄く大変で…」
「では、今回の交流会が恙なく進行できたのも皆クロウン様のおかげなのですね。とても良い計らいをしてくださって、公爵令嬢の皆様方もとても満足しておりましたよ。私もとても楽しく過ごさせて頂きました。この貴重な経験は、ずっと忘れる事はないでしょう。…私たちの為に、本当にお疲れ様でした。ありがとうございます、クロウン様」

そう言って、プーシュカが深々と頭を下げる。
クロウンはそれを見て、はっとした。

「あ、勿論、僕だけの仕事じゃないよ。皆でだけど。うん…でも凄く、頑張った。…それで…貴女達が楽しんでくれたなら、…その、嬉しいな」
そう言いながら、口元が恥ずかしそうにもごもごと…けれど緩まっていく。
「…そっか。…そっか、こういうことか。…うん、解ったよ、プーシュカ。…認められるって、ちょっとしたものでも…嬉しいことだね」
クロウンが微笑むと、そうでしょう、とプーシュカも笑って頷く。
「プーシュカといると、色んなことに気付かされるな。…あ、そうだ、気付いたって言えばずっと気になっていたんだけど、良いかな?」
頷いて先を促すプーシュカに、クロウンが真剣な…けれど、本当に不思議そうな顔をして首を傾げた。

「御令嬢たちの滞在期間の食事なんだけど…もしかして、傍付きや連れてきた使用人の全員にも内緒で分けてたりしてた?途中からその、当初試算していた金額よりもずっと予算オーバーしてて…特に昼食。あ、勿論、昼食分の費用は国庫から出る予定だから心配しないで。…でも、随分大人数で食べてたんだね?」


プーシュカは内心…かつてない程の冷や汗を流しながら…自分史上最高の微笑みでクロウンの疑問を封殺した。




「…あ、そろそろ良い時間だね…少し話し足りない気もするけど。行こうか?」

その後もクロウンと他愛のない話…お互いの家での話などに花を咲かせていると、時計の長針がバチン、と、12を指し示した。
あと1時間ほどで、夜会が始まる。そろそろ、会場へと向かう時間だ。

プーシュカの前に手が差し伸べられる。
勿論、手袋の上でだが…男性にしては細身の身体つきとはいえその手はプーシュカよりも大きく、長い。
プーシュカは頷いて、…キーロフとユーリー以外で、初めて男性の手を取った。

「はい」


導かれる手は丁寧に、慎重に握られている。
緊張しているのか、握り方がぎこちなく…どこかたどたどしい。

全てを包み込むような…決して離れないよう強く握るキーロフのような頼もしさはない。
決して傷つけないよう…労わるように優しく繋ぐユーリーとも違い…プーシュカにも緊張が伝わる。

(…不思議)

クロウンのやや後ろをついて行きながら、プーシュカはその手をまじまじと見つめる。

(繋ぐ人が違うだけで、こんなにも違和感があるものなのね…)

2人はそれぞれの馬車に乗り込み、ゆっくりと帝城へ入っていく。

帝城の入口では既に、参加者たちの馬車が続々と円形に回りながら停車を待っているため、がやがやと忙しない。

プーシュカはクロウンの手に引かれながら馬車を降り、帝城の華やかなホールへと並んで歩いて行った。
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