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【25話】 ポート・オブ・ルーダとパウリス神
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帰るまでが戦争と言っていたリリアだが、自分はちゃっかりルーダ港に立ち寄っていた。
海辺の砦まで来たのだから、ルーダリ王国最大の港町を見ずに帰る手はない。
海路を通じあらゆる情報、商人、人種が集まっているらしい。最近急激に発展し過ぎて、混沌としており、魅力もあり、危険も多い街。
リリアに言わせれば、
「治安が悪い町ほど、活気があって楽しいものよ」らしい。
リリアは港を見下ろせる階段に座って、港湾を眺めている。手には揚げパン。
「何であんな物が水に浮くのかしら…」
大小さまざまな帆船が停泊している。中規模サイズは桟橋に係留されているが、大型の物は沖で停泊し、手漕ぎのカッターで人が、中型船が荷物の上げ下ろしに往復している。
船員、人足、商人、それをお目当てにする女性達等がアリの如く動き回っている。
桟橋付近には荷物が山と積まれている。凄い量なのだが、見ていると見事に管理されているらしい。どう管理されているか分からないがかなりの手腕だ。
「夕立になりそうね。宿をとってから、街を一回り」揚げパンの残りを食べ終わるとリリアは立ち上がった。
沖から灰色の雲が足早に近づいていた。
「これ、これを見たかったのよ…」
リリアは夕立が過ぎ、日が暮れ始めた娼館街の入り口に立っていた。ルーダリア最大の歓楽街は簡素な塀で区画整備されていてこの一画だけ特別扱いの様だ。
この入り口の両側に女神パウリスの像が立っている。
向かって右側の像は体を正面にして、全裸だが胸と肝心な場所を手で隠すように立っている。左側の像は服を着ているが、両手を頭の後ろに組むようにし、緩やかに体を傾かせ、上半身を捻るように立っている。服を着ているがリリアには左の像の方が艶やかに見える、不思議なものだ。
ポーズは違えど本の挿絵で何度か見たことがある物凄く色気たっぷりナイスバディをしているパウリス神である。
リリアは村等で度々、このパウリス神を引き合いに出される。リリアの体型と自由奔放な考え方に対するあまり良い意味でない引き合い対象だ。
性の解放を肯定している女神として、歓楽街や女性奴隷層の信仰対象とされていて、当然村人が信仰している大地や調和の神信仰者からはやや軽蔑視されている。
それをリリアに当てはめるので調べてみたが、世の中にかなり曲解されている神らしく、物質的に豊かでなくとも、人は自分の五感を満たすことで幸福になれる的な教えらしい。己の欲求を素直に認め、相手の欲求を受け入れることで幸せは作れるといった内容と、神話中の女神パウリスはナイスバディなので他の神々から告られまくったという内容が合わさって解釈が広まっているようだ。
そんな訳でリリアはルーダ港にあるこの像を見てみたかったのだ。
「悪く言われているけど、とっても良い素朴な神じゃないかしら」
リリアは像の足に触って挨拶をするとそのまま娼館街に入って行った。
リリアは娼館街にあるシュライン・オブ・パウリスの建物内にいる。
寺院のような役割の場所だが、娼館街がある場所にはたいてい存在するらしい。
ここに来た本来の目的はこの建物内に売られているアイテムの購入だ。
リリアがパウリス神に興味を持つのは、実際にご加護があると知ったから。リリアは合理主義者なので実益を重要視する。
その他の神々はどちらかというと
“信仰したら、良い事がある可能性が高まる期待を持って生きられる境地に達せます”的な感じなのだが、パウリス神は実際にご加護があるのだ。
歓楽街の入り口からここまで結構大変だった。リリアを見ると、女性、男性、次々と寄って来て
「お姉さま、僕を一晩中弄んでください」とか
「お前、強がっていても一皮剥けば、虐められて喜ぶ変態女だろ、俺を買って悦びに溺れろ」だの
「女性同士が分かりあえていいものなのよねぇ」とか
「この巨乳低能女、さっさと女王様の足をおなめ」だの
「今なら乱交部屋に男性お客様が入ったばかりなので、すぐ始められます」とか、とにかく呼び込みがすごい。それぞれ殺し文句や得意分野があるようだ。
リリアはまだそんな境地には達していない。普通で良い、酒場の恋愛で十分。
「間に合っています」を連発しながらかいくぐる。
シュラインの場所がわからず、“無料案内所”なるところで聞いてやって来たのだ。
「無料案内も何も、質問だけで金とられたらたまったもんじゃない」と思うリリア。
「これで、そなた様にも信者と同じ効果が付与されました」
女性プリーストがリリアの上腕にパウリス神の刻印が入ったブレスレットを装着し、祈りと祝福を捧げて言った。
説明によるとアイテムの効果で食あたり等、不衛生による病気、感染、伝染病を防げるうえに、不妊耐性になるらしい。確実な効果を得られるアイテムの上、娼館街で働く女性なら無料。そうでない者には本来有料らしいのだが、ローンのように一定期間内にどこかの街でお布施を払うか、他人の要求に答えることで効果が持続するらしい。あくまで貧困層の希望である神とのこと。
「要求って、性的な事なの?」リリアが聞くと
「支持層が支持層なので、勘違いされますが、基本的に人に感謝される事を行えばそれで良いです」との説明。
「すごく良い神じゃない。自由でナイスバディだとなんでこうも勘違いされがちなの?…」リリアは女神パウリスに親近感を覚える。
「では、リリアちゃんは凱旋お祝いで鶏料理を食べますよ」ニコニコと独り言を言うと足早に歓楽街を抜けていく。
リリアは鶏肉、葡萄酒、そして、上手にリリアの気を引いてくれる男がいる事を期待して、酒場に向かうのだった。
海辺の砦まで来たのだから、ルーダリ王国最大の港町を見ずに帰る手はない。
海路を通じあらゆる情報、商人、人種が集まっているらしい。最近急激に発展し過ぎて、混沌としており、魅力もあり、危険も多い街。
リリアに言わせれば、
「治安が悪い町ほど、活気があって楽しいものよ」らしい。
リリアは港を見下ろせる階段に座って、港湾を眺めている。手には揚げパン。
「何であんな物が水に浮くのかしら…」
大小さまざまな帆船が停泊している。中規模サイズは桟橋に係留されているが、大型の物は沖で停泊し、手漕ぎのカッターで人が、中型船が荷物の上げ下ろしに往復している。
船員、人足、商人、それをお目当てにする女性達等がアリの如く動き回っている。
桟橋付近には荷物が山と積まれている。凄い量なのだが、見ていると見事に管理されているらしい。どう管理されているか分からないがかなりの手腕だ。
「夕立になりそうね。宿をとってから、街を一回り」揚げパンの残りを食べ終わるとリリアは立ち上がった。
沖から灰色の雲が足早に近づいていた。
「これ、これを見たかったのよ…」
リリアは夕立が過ぎ、日が暮れ始めた娼館街の入り口に立っていた。ルーダリア最大の歓楽街は簡素な塀で区画整備されていてこの一画だけ特別扱いの様だ。
この入り口の両側に女神パウリスの像が立っている。
向かって右側の像は体を正面にして、全裸だが胸と肝心な場所を手で隠すように立っている。左側の像は服を着ているが、両手を頭の後ろに組むようにし、緩やかに体を傾かせ、上半身を捻るように立っている。服を着ているがリリアには左の像の方が艶やかに見える、不思議なものだ。
ポーズは違えど本の挿絵で何度か見たことがある物凄く色気たっぷりナイスバディをしているパウリス神である。
リリアは村等で度々、このパウリス神を引き合いに出される。リリアの体型と自由奔放な考え方に対するあまり良い意味でない引き合い対象だ。
性の解放を肯定している女神として、歓楽街や女性奴隷層の信仰対象とされていて、当然村人が信仰している大地や調和の神信仰者からはやや軽蔑視されている。
それをリリアに当てはめるので調べてみたが、世の中にかなり曲解されている神らしく、物質的に豊かでなくとも、人は自分の五感を満たすことで幸福になれる的な教えらしい。己の欲求を素直に認め、相手の欲求を受け入れることで幸せは作れるといった内容と、神話中の女神パウリスはナイスバディなので他の神々から告られまくったという内容が合わさって解釈が広まっているようだ。
そんな訳でリリアはルーダ港にあるこの像を見てみたかったのだ。
「悪く言われているけど、とっても良い素朴な神じゃないかしら」
リリアは像の足に触って挨拶をするとそのまま娼館街に入って行った。
リリアは娼館街にあるシュライン・オブ・パウリスの建物内にいる。
寺院のような役割の場所だが、娼館街がある場所にはたいてい存在するらしい。
ここに来た本来の目的はこの建物内に売られているアイテムの購入だ。
リリアがパウリス神に興味を持つのは、実際にご加護があると知ったから。リリアは合理主義者なので実益を重要視する。
その他の神々はどちらかというと
“信仰したら、良い事がある可能性が高まる期待を持って生きられる境地に達せます”的な感じなのだが、パウリス神は実際にご加護があるのだ。
歓楽街の入り口からここまで結構大変だった。リリアを見ると、女性、男性、次々と寄って来て
「お姉さま、僕を一晩中弄んでください」とか
「お前、強がっていても一皮剥けば、虐められて喜ぶ変態女だろ、俺を買って悦びに溺れろ」だの
「女性同士が分かりあえていいものなのよねぇ」とか
「この巨乳低能女、さっさと女王様の足をおなめ」だの
「今なら乱交部屋に男性お客様が入ったばかりなので、すぐ始められます」とか、とにかく呼び込みがすごい。それぞれ殺し文句や得意分野があるようだ。
リリアはまだそんな境地には達していない。普通で良い、酒場の恋愛で十分。
「間に合っています」を連発しながらかいくぐる。
シュラインの場所がわからず、“無料案内所”なるところで聞いてやって来たのだ。
「無料案内も何も、質問だけで金とられたらたまったもんじゃない」と思うリリア。
「これで、そなた様にも信者と同じ効果が付与されました」
女性プリーストがリリアの上腕にパウリス神の刻印が入ったブレスレットを装着し、祈りと祝福を捧げて言った。
説明によるとアイテムの効果で食あたり等、不衛生による病気、感染、伝染病を防げるうえに、不妊耐性になるらしい。確実な効果を得られるアイテムの上、娼館街で働く女性なら無料。そうでない者には本来有料らしいのだが、ローンのように一定期間内にどこかの街でお布施を払うか、他人の要求に答えることで効果が持続するらしい。あくまで貧困層の希望である神とのこと。
「要求って、性的な事なの?」リリアが聞くと
「支持層が支持層なので、勘違いされますが、基本的に人に感謝される事を行えばそれで良いです」との説明。
「すごく良い神じゃない。自由でナイスバディだとなんでこうも勘違いされがちなの?…」リリアは女神パウリスに親近感を覚える。
「では、リリアちゃんは凱旋お祝いで鶏料理を食べますよ」ニコニコと独り言を言うと足早に歓楽街を抜けていく。
リリアは鶏肉、葡萄酒、そして、上手にリリアの気を引いてくれる男がいる事を期待して、酒場に向かうのだった。
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