勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【28.5話】 リリアは床上手

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「おい、お前明日は予定あるのか?」男が女に聞く。

夜更けになり食堂も静かになってきた。
宿屋の一室では男女がベッドにあられもない姿で転がっている。先ほどまでどってんばったんと騒音公害を引き起こしていたが、今しがた静かになったところ。男も女も汗ばんで上気した体のクールダウン中だ。

「おい、明日何か予定あるのか?」
同じ質問が来た。が、リリアは今、とても満足気分だ、このまま眠りに落ちていきたい。夕食を済ませ、適当にお酒も入り、ちょっと気の利いた口説き文句で誘われ、今心ゆくまでどってんばったん楽しんだところだ、寝落ちの条件は整った、これ以上人は何が必要だろうか。
「… んん…」リリアは目をつぶって顔を男の胸に寄せる。リリアはこのまま寝落ち希望。
「おい、お前しばらく俺と一緒になれよ」
一晩だけじゃなく、リリアと毎晩過ごしたいのね?まぁ無理はない、リリアは頑張りましたからね。
「… んん…」リリアは少しだけ片目をうっすら開けて、相手と視線を合わせてあげる。気の利いた口説き文句なら聞いてあげてもいいわよ合図。
「どこか町を移動するのか?明日からどうするんだ」
「… ふぅん…」やっぱり目を閉じますね。口説きではないのね。どちらにせよリリアは今のところ誰かに所属する気はないのよね。
「おい、俺達上手くいくと思わないか?」
町中で石を投げたら2回に1回は異性に当たるのよ、お互いわざわざ相手を限定する必要ないじゃないねぇ。リリアはコロっと寝返りを打つと男と反対方向に向く。もう寝ましょう。
「おい!」男はちょっと強引にリリアを掴んで自分の方に向ける。
「ぁ… ぅぅん…」ちょっと声がでる。さっきまで大暴れしていたので、まだ体の細胞がざわついているよう。
そうねぇ… 男は見栄っ張りでちょっと自信過剰でちょっと強引なくらでないとねぇ。
リリアもそういうの嫌いじゃなわ。リリアは腕を相手の腰にまわして頭を胸につけながら、足でベッドの冷たい場所を探る。体がポカポカなのだ。
「俺が守ってやるぜ、しばらく一緒に町を巡ろう」
“守ってやる”ですか… 口説きとして良いじゃない?リリアは重い瞼をゆっくりと押し上げて相手をうっすらと見る。切れ長の目、長いまつ毛の間から覗かせる、輝く瞳。ゆっくりと瞬きするリリア。その先を聞いてあげますよ。
「お前、弓士なんだろう、俺の剣盾と組めば遠距離も接近も最強だ」
「… んん…」最強かどうか知らないけど、戦術的に相性はいいわよね。でも、リリアには戦術的相性とかどうでもいいの。リリアちゃんをゲットするにはもっと違うことなのよ。リリアはちょっと顎をあげて、相手と視線を合わせる。もう一度チャンスよ、リリア獲得のラストチャンスなのだ。
「俺はここから西に行く予定だ。お前も一緒に来いよ」
「…………ふぅ…」リリアは大きく呼吸する。豊かな胸が弾む。残念ね、時間切れ。リリアは誰にも属さない。

「残念ね、あたしは東よ」リリアはベッドから身を起こして、コップを手に乾いた喉を潤す。
「日の出前にはお別れね… 気に入ってくれたのなら、もう一回?」ちょっと悪戯っぽく笑うリリア。
男は無言でリリアの腕を引き込んだ。

大柄な男女が暴れるので、声が、ベッドの軋みが部屋いっぱいに満ちていく。
リリアは17歳だ、計算でないのなら弓とベッドは天性の素質としかいいようがない。
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