勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【102.5話】 ゴグスタフ先生

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「リリアが求人募集を出すんですか?」カウンターで情報紙を読んでいたコトロが顔を上げた。
「そよ、あたしあの子たちの魂と関わるのよ」リリアは努めて自然に答える。どうせ反対されるのだろう。
「…… フゥ… 魂は国民ではないですよ。税金も納めていない、働いてもいない、財産も所有していない、儲けにもならない… リリアは幽霊苦手ですよね。それでもやるんですか」コトロがため息交じりに言う。
「… やるよ…やるのよ」リリアの表情には決意が現れている。
「リリアの悪いクセですね、良い所でもありますが… 求人なんか出さなくても教会のファーザーとかシャーマンでもプリーストでも、それこそアリスでも… いなければ紹介しますよ。まぁ、経験の為に求人を出してみるのも手ですけど、でも読むのはこの街の連中なのでこの界隈で皆忙しかったら引受人も出て来ませんよ」
「そっか… 職種の違う人が公募するから意味があるけど、冒険者ギルド間だったら声かける者も読む者も変わらないのか…」
「街に来ている他所者以外は意味があまりないですね… 魂を送り出すだけではなく複雑な事情に対応したいなら、大教会の大司祭に相談が良いですよ… 面識ですか?無いですよ。ルーダ・コートを仕切る司祭ですよ、自分で行ってみるしかないです」

リリアは大教会に来た。大きくて立派な教会。
年のいった修道夫が対応して大司祭に取り次いでくれた。
が、大司祭しばらく待っていたが忙しすぎて会えないので司祭に回された。
司祭は現場を離れて久しく、今回のような案件はファーザーに相談するべきだと言う。
で、ファーザーは実務が忙しく、出張サービス出来るのは来月になるらしい…
「散々待たされたけど、ビフォーアフター何にも変わらないじゃない」
リリアが大教会を後にしようとしたら最初に取り次いでくれた修道夫が気の毒に思ったのか声をかけてくれた。
「ひょっとしたら、クローバー東地区にある緑の精霊教会に行かれたら力になれるかも知れません」アドバイスしてくれた。
何だ、たらい回しにされた時間は何だったんだ…

「ゴロキに精霊教会なんてあったかな?」
リリアは呟きながらクローバー東地区に入っていく。
クローバー地区の用水路を挟んで東は通称ゴロキ地区。
以前水路にかかる橋の側にゴロキという潜りのポーション屋があった事からこの先の地区は特に通称で呼ばれている。
貧民窟、治安が悪く外から女性一人で来る場所ではない。リリアは武器を装備した冒険者だからまだ安全だ。が、夜なら絶対に一人では立ち入れない。
「無意味に時間くったから直接来ちゃったけど、絶対に一人じゃ来たくない場所よねぇ。こんな場所に教会なんてあったかな?」リリアは荒んだ街中を歩く。
ホームレスが多く何をしているか分からんような連中が路上にたむろし、勝手に掘っ立て小屋が立てられ、少しでも天風が凌げる場所には違法の屋台が並ぶ。
ただ…
「安くて美味しいじゃない、この豚串」
B級グルメがメチャ安で美味しいのを発見。
リリアはまず教会を発見しよう…

「こ、ここね… 教会…」
散々探し回って… と、言いたいが人に聞いたらすぐに教えてくれた。
この地区で教会と言ったらここ以外は無いらしい。
“きょうかい”っと手書きの看板が出ている。“きょうかい”と書かれていないとビンテージ物のあばら家と見分けがつかない。

「あの、緑の精霊教会でしょうか?… ファーザーに面会したくて…」
擦り切れたノレンを押し通ると一間の空間に何人かシスターが忙しそうに病人を看ている。
「ファーザー?先生の事でしょうか?でしたら、先生はご覧の通り忙しいのですが…」奥を指さす先には祈祷中のゴブリンがいる。
「先生?… いや、まぁ呼び方はとにかく、除霊、鎮魂、葬祭に力を貸してくれる人を探してここに来たんだけど…」リリアは拍子抜け。
教会にゴブリン?ファーザーでは無くて先生?どうなってんだ?
「それならここではゴグスタフ先生の事だと思いますが… とにかく忙しいのでお待ちください」シスターが言う。


「そうか、話はわかった。その二人の子供魂を鎮魂し、その他の諸事情があるなら何とかするわけだな」リリアの話しを聞いてゴグスタフが言う。

ゴグスタフはゴブリン・シャーマン。小さい時に城外で瀕死の重傷を負って倒れていたのを教会の人間に保護されて以来人間社会で育ってきたゴブリン。
もともとシャーマンの能力を授かって生まれ、頭脳も明晰で王立学校を卒業してファーザーになる資格を持っている。が、王国社会の都合上ファーザー職には着けず先生と呼ばれながら、この地区の貧民街で聖職者活動をしている。
なんだか扱いが悪い気がするが
「俺か?俺はここ連中とここの暮らしが好きだ」
と、今の奉仕活動が性に合っているようだ。教会の偉そうな人間ども見習え!!
「戦力はあたしが準備しとくわ。何か用意する物ある?できれば早く出発したいけど… よかった!じゃ三日後の早朝に出発ね」リリアが喜ぶ。ゴグスタフ、腰の軽い人のようだ。


よくわからないがとりあえず準備は整った。物理女リリアには理解が足りないが、何事も経験、あの子供達も放ってはおけない。やってみよう。
ゴグスタフはざっくばらんで周囲の信頼も厚い様だ。
リリアは呪い(まじない)の装飾された小さな一間を見回す。
「ねぇ、この緑の九官鳥って何かしゃべるの? こんにちは!」リリアは先生の肩にとまる鳥に話しかけた。
「てめぇ、俺は使い魔だ!緑の九官鳥を見たことあるか!俺はオウムだ!」
リリアはすげぇ怒られた。
ゴグスタフ先生は愉快そうに大笑いしている。
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