勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【124話】 スピッター

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「あッつ! 熱い! いやぁ、点火した、燃えちゃう」リリアが慌てて林の中で転げまわる。
「先輩、今ヒールするっすよ!じっとして!」
「オフェリア、スピッターから倒して!」
「ココア、少し下がって、スピッターとファイアーフラワーが沸いてる」ペコが指示を出す。

Day3
サンボーンの班が昨晩は夜番だったが、やはり何回か出動があったようだ。
夜通し雨が降り、午前中は少し晴れたのちに午後から小雨が続く。
朝から村周辺の掃討にでたリリア達と各班だが、雨、晴れ、小雨ときて植物系魔物がスクスクと育っている。
スピッターは植物だが名前の通り敵が近づくとスズランの様な形をした口に似た花からブッと粘液を吐いくのだ。体に着いて空気に触れるとどんどん粘性があがり、動きが鈍る。
呼吸を塞がれなければこれ自体に生命の危険はないものの、動けなくなり間接的に大けが等に繋がることが多々ある。一度くっついて粘着してしまったらお湯などで丁寧に取る必要がある。人によっては肌がかぶれる。
リリア達は朝からかなりこのスピッターとファイアーフラワーに手を焼いている。

スピッターだけなら大した脅威はないのだが…
液の粘着質に油分があるのか、ファイアーボールがヒットした途端、発火することがあるのだ。ファイアーフラワーとスピッターが蔓延っている… 危険なコンビネーション

「あち!あちち!うあ!! 指に火が! あっつ!!」リリアは体に着いたスピッターの液がファイアーボールを受けて発火してしまった。リリアが慌てて転がり回り手で払う。
「リリア、手で払っちゃだめ! じっとして!」ペコが注意する。
「あっつい!いや! 消えない!火が!」
リリアが慌てて転がるので、体に着いた液が広がり、手のひらにも火がついている。
「とりあえず盾になるっす!先輩!落ち着くっす」
「私がとにかく狩るわ、ブラックはリリアをお願い」
オフェリアが無理に植物の群れに飛び込む。
「リリア、じっとして!消化するから、あんた落ち着きなさいよ」ペコがリリアに駆け寄る。
「わ!こっちにも沸いてる、火の玉飛んできた」
後ろに控えているココアが叫ぶ、周囲を囲まれてしまった…


「リリア、ちょっと慌て過ぎよ。落ち着いて対応したら火傷しないから」
リリアはペコに注意される。
全員、川で一度体を水洗いしながら小休止。重大な危機にはならないが、地味にジワジワと体力と魔力を削られる。火属性のペコと基本能力が結構高いブラックはまだしも、リリア、オフェリア、ココアは疲労が見て取れる。
ペコ以外は何度か点火している。ブラックもかなりの確率で点火されているが、自分で何とかし、自分で治癒している。
「数が数だけにやっかいっすねぇ!」ケロっとしている。
午後も夕方に近い時間だが、雨上がりで日が差し始めた。気温が上がり、蒸し蒸しとし始めている。
「ちょっと、おやつ休憩しよう。燃えたり水に浸かったり、体調崩すよね………… こちらリリア。ホテル-4で休息中」
リリアが各班に通信する。今日はどこの班も通信のほとんどが植物系魔物との交戦だ。苦戦しているようだ。


「皆、お疲れ様。大変だったよね。リリアの班も大変だったよ… そうそう、すんごい数でねぇ… まぁ、リリアの班はあたしがいるからね… 心配ないよ… え!あたしが一番心配の種? まったぁ!ビヨルグも隅におけないなぁ!…」
今日の活動を終えて班全員を迎えるリリア。
今日は、とにかく植物系がすごかったので少し早めに切り上げを決定した。
「リリアよ!各班消耗しているみたいだし、今日は早いけど撤収しようよ」
リリアが通信すると「やったぜぇ!芝刈りも飽きたとこだったぜ」「了解、こっちもクッタクタ」「撤収了解、帰って飯、風呂、村の女の子!」
疲労していたのだろう、各班喜んで応答。
が、掃除して進んだ帰り道も結構植物が生えていた。各班戦いながら帰村。
村に戻ったら戻ったで
「村周辺も凄くて、村人が出歩けない」とシェリフ達が戦闘しているので、それに参加して掃討を続けた。日暮れ過ぎにようやく掃討が終了し、この日は終わり。
「帰って休めると思っていただけにそこから戦闘は精神的に魔法使いにはつらいよね」
「集中力を切らしたら戦士だって同じだ。最後の最後で疲れたな」
皆、泥だらけ、液まみれ、どの班員もほとんどが一度は液が発火したらしくって、鎧や装備が焦げている。
「ラウドロップ、おまえ、髭が焦げてるぞ」
「ペコ、焼けてないなぁ。仕事してなかったのか?」
「私は火属性」
「リリア、おまえぶっ飛ばされて路地に放りだされた娼婦みたいになってるぜ」
今日、何故かリリアはよく点火した。人間マッチ棒リリア。服も装備もボロボロ。
皮グローブは発火と水分を繰り返して含み劣化が進んで切れてしまった。弦を弾く指先が切れて血が滲んでいる。
「髪がチリっちゃうよ」ポニーテール命のリリア。


この夜はほとんど全員、夕食が終わると早々に部屋に引っ込んで休んでしまった。
全員お疲れ。

「リリア、明日から配給のポーション増やしてよ」
「早めに休憩日を入れようぜ」
「村のシェリフと自警団の活動範囲を広げて貰おう」
「飯がもうちょっと豪華になれば、文句はねぇよ」
「OKよ!皆がんばってるものね! リリアちゃんが何とかするわよ」
食事を終えて部屋に戻る冒険者達の意見を聞いたリリアは別な方角に歩いて行った。
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