勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【219話】 狂騎士の斧作戦決行の日とリリアの右の金玉

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いよいよオペレーション・アックスオブバーサーカーが発動。

ビケットが用意した積み荷、馬車は朝一の開門と同時に列を成して出ていく商隊から遅れて出発。
タイミングが非常に重要だ。
意図的に荷馬車ごと賊に襲われて荷物を奪われなければいけない。鉄壁に守られているようでは手出しできないし、あまり無防備過ぎても怪しまれる。
アクシデントで出発遅れを演出しながら空きはじめた時間、兵士達の巡回する時間を見ながらビケット達の二台の馬車は出発。その後に続きリリア達が分乗した馬車も出発した。

先行する二台の馬車には大きなギルドに調達する武器、ハロウィンパーティーを開く貴族の装飾品類、高価な調度品、換金前の金のインゴット、その他お酒類を出荷すると噂を流しておいある。
ビケット達は海を渡ってきた商人を装い、ある程度それらをちゃんと買い取って馬車に積んでいる。
この荷物の中にターゲットの魔法を符術したアイテムを紛れさせてある。
ビケットが二台の馬車を管理し商人や護衛の姿をした他のメンバーが配乗されている。
リリア達、ステルス組の四人とダーゴ、馬車手役のブリザは荷馬車の後方を客車と乗客に扮してついて行く。


「ビケット達の馬車が見えなくなったけど大丈夫なの?」護衛席でリリアがブリザに聞く。
「前の馬車が戦闘になり足止めされたら十分追いつける。荷馬車が孤立している演出をしなければならない、手はず通りよ」ブリザが答える。
ビケット達の馬車は前方の商隊との距離を調整しながら進み、ブリザはその様子を見ながら距離を調節。
賊の手下らしき者が城門を出てしばらくはビケットの荷馬車を追跡するのをリリア達の馬車から確認、どうやらビケットの作戦通り撒き餌に食いついてきているようだ。
そして…
「あの連中、ついてきているよ」リリアが護衛席からそっと振り返って言う。
さらにリリア達の後方はドッグスのメンバー等、同じバウンティハンティングに乗り出したグループがリリア達をマークしている。
「想定内よ、ビケットの作戦に任せましょう」ブリザは全然気にしていないようだ。
「ねぇ、あいつらに邪魔されない?せっかくここまで準備してきたのに…」リリアが心配する。
「…………」ブリザは黙って聞き流した。
リリアが口をつぐむと馬車は再び静かになった。車輪の音、スプリングが撓む音、野鳥の声、トンビの鳴き声が近い。
デューイ、バンディ、ダーゴも全員静かにしている。
緊張もあるだろうが全員通信のイヤリングに入ってくる会話をじっと聞いている。
作戦上リリア達はイヤリングで交信を避けているが周囲の商隊、冒険者等からの通信が入ってくる。
距離をとって交信を断って作戦を進める今、周囲の状況を知るにはイヤリングから雑音混じりに入ってくるこの情報が頼り。また緊急を知らせる暗号が入ってくる可能性もある。全員静かに耳を澄ませる。


ブリザが少しリリア達を振り返った。目で合図を送っている。
一番大きな盗賊団が取り仕切っていると思われる地域に入った合図。
リリアは弓とホウキを手に緊張する。
「左の丘」ダカットが囁く。
リリアがチラっと見ると確かに何か動いた気がする。
「いた?」リリア。
「何かいた」ダカット。
リリアは指先でブリザにサインを送る。
リリアはダカットをちょっと高く抱えなおした。ダカットは全周囲を見渡してくれる。こんな場合は非常に便利。
T字路に差し掛かる。小道が山の中に分岐している。
右手の崖をそれとなく確認する。何かある…
リリアが崖周辺と崖下に視線を走らせると人影が動くのが見えた。
崖にはカモフラージュが設置され見張りがいるのだろう。今動いた影は恐らく連絡係に違いない。
普通だったらなかなか気がつかない、ハンティングを知り尽くしたリリアだからこそ気がついた。
「ダカット、右の崖」リリアがヒソヒソ。
「あぁ… 何か動いたな」ダカットもヒソヒソ。
「それだけ?」リリア。
「俺だって全部見て大変なんだぞ」ダカット。
しかし、確実に何か動き始めたのは感じ取った。
“右、いた”
リリアがブリザにサインを送る。
ブリザから確認が返ってくる。
“もう一度”
“右いた”
“みぎ みぎ いた いた”
“……了解”
「たぶんそろそろ」リリアは腹話術で付け加えた。

“全員スタンバイ”
ブリザが皆にサインを送る。大きな動きこそないが緊張が高まったのが感じられた。


「リリア、さすがね… だけどサインをもう一度勉強しなさい。さっきの意味では右の金玉になってるわよ」
ブリザが腹話術で注意する。

緊張感が高まる。
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