勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【225話】 ブドウを収穫

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狂騎士の斧作戦17日目

今日は狂騎士作戦の中のブドウの収穫作戦決行の日
既に日も暮れて星も巡りアジトでは酒盛りが始まっている。

日が暮れる頃リリア達がカモフラージュの中で待機していたら予定通り酒樽が数個アジトに運び込まれて来た。
ビケットが用意したお酒だ。無防備に街道を運搬させ、計画通りに戦利させたようだ。続いてブリザとネネが囚われの身として連れてこられた。
「ブリザ達大丈夫かなぁ?」
リリア達は心配するが見守るしかない。
リリア、ミスニスで念のためいつでも射撃が始められるように弓を準備。
デューイとダーゴもスタンバイする。
「ブリザなら上手い事やると思うが… 気が強いところがあるし、万が一その場で戦闘になった時のために準備だけはしておいてくれ」ビケットの言葉が思い出される。
いくら作戦上の犠牲とは言え、その場で服でも脱がされるようならブリザだって黙っては… いや、ブリザだからこそ黙っていないだろう。
そもそも「ブリザは気が強いところがあるし」どころかリリアの知る限り気の強さもプライドの高さも知り合いの中でトップを争う女性だ。
連れてこられたブリザ達がどうなるかリリアはハラハラしながら見ていた。

戦利された酒樽は倉庫に入れられずそのままテント近くに置かれた。どうやら早速飲むようだ。
ブリザ達もアジトに連れてこられ最初は何事かもめているようだったがバーンズとチャビィが出てきて何やら話をするとそのまま格子の洞窟に押し込まれていた。
何をどうしたかわからないがブリザも上手に作戦を遂行している。


日が十分落ちた後、ビケットがリリア達のカモフラージュにやってきた。
「沢の入り口もメンバーが待機している。いつでも決行できるぞ。私はここで指揮をとるからリリア達は作戦通りに動いてくれ」ビケットが言う。
普段なら定時巡回がある時間だが今日の収穫に気をよくしてかアジトでは数名の見張り以外は酒に酔っている様子。

午後まで雨が降っていたが夜空はすっかり晴れている。
リリアが星座を見上げると真夜中より前だ。アジトではいよいよ酒が盛んになっている。
「入り口のメンバーもアジトのメンバー全員が沢に居るのを確認したって」
使い魔の妖精サラがやってきて報告する。
「よし、作戦開始だ。連中も酣になってきた、そろそろブリザ達が連れ出される頃だ。ブリザが連れ出され、リリアが賞金首を射たら作戦決行だ。それ以前に沢を離れる者がいたら速やかに処分してよい。作戦開始以降は通信のイヤリングでの会話を許可する」ビケットがサラに伝えるとサラは飛び去って行った。


リリアとミスニスはカモフラージュを出て弓をスタンバイ。
賊達はすっかり酔って騒いでいる。中には泥酔状態の者も出て来た。盗ませた樽に睡眠剤や幻想薬が入っている。効果を出してきているようだ。
男たちが騒ぎながら囚われの女性達を格子から引っ張り出して来た。
ブリザとネネはわざと騒いで嫌がって手間をかけている。
「よし、決行」ビケットが短く命令を出した。

リリアとミスニスが立ち上がり弓を構える。
ダーゴはロープを投げおろすとスルスルと沢に下りていく。さすがゴブリン、身軽だ。
賊は既にリリア達にもダーゴにも気がつかない程酔っている。

リリアも大胆に狙いをつける。
リリアの狙いの先にはバーンズがいる。
ブリザが芝居をしてバーンズにまとわりついている。ネネの傍にいるのがチャビィで間違いがないようだ。
そもそも捕らえた女性に手を付ける時は偉い奴からという暗黙の了解みたいなものがある。
リリアも観察中、見飽きるほど見たチャト団メンバーだが、ブリザとネネが核心的に奴らの居場所を教えてくれている。
リリアがバーンズを狙い、ミスニスはチャビィに弓を向ける。

“父さん、リリアは務めとして人を射ます。母さん、リリアの行いにお許しを、神よ、リリアの進む道が正しくあらんことを…”
リリアが呼吸を整えると全てが静寂の世界になった。
バーンズの後ろ姿、ブリザが媚びる様にバーンズにまとわりつく。
リリアが呼吸をすると香辛料を効かせた料理の匂いが一瞬した。
ブリザの腕がバーンズに絡みつくように腰に腕を回す…決行の合図が出た…
「っは!」
矢が尾を引いてバーンズの背中に刺さった…
ブリザがバーンズをしっかり腕に抱え込みなおした。
リリアの二矢目がバーンズの背中を捉える。

「決行」ビケットが短く通信をいれた。
リリアはバーンズに矢が刺さったのを確認したら急いでロープを伝って崖を滝壺側へと降りていく。
沢ではダーゴが待機していた。
リリアが降りきると今度はリリアがミスニスのサポート、3人とも降下完了。
「よし、作戦通りにいこう」ミスニスが言う。
リリア達も戦闘に加わる。
酒に酔っている者が多いせいかあまり騒ぎになっていない。


夜中前の沢
リリア達はすっかり戦闘を終えていた。
まぁ、ほぼ戦闘にもならなかったと言ってよい。ブドウの収穫は上々だ。
ビケットの作戦が恐ろしいほどハマり完璧に近い形で突入を終えた。

沢に下りたリリアは弓を手にアジトを強襲。
リリア達がバーンズを射たのを合図にブリザ、ネネは現場からデューイと他五名が沢の入り口方面から突入をした。
アジトでは幹部を中心にわずかに抵抗があったのみでほとんどの者は酔って、あるいは完全に泥酔状態で戦力にならなかった。
リリア達の被害はゼロ。賊は突入の際に入り口の見張り三名が殺され、沢でも抵抗者が一名殺されたのみであった。
バーンズ、チャビィも怪我をしているが生け捕り、その他の賞金首も生け捕りに成功。
囚われていた女性達も全員無事に保護できた。

「ゴーレムをはじめとするステルス班はこのまま沢の入り口で朝まで近づく者がいないか見張ってくれ。まずは今日運び込んだ樽は全部捨てるんだ。今ある荷物は全部連中の荷馬車に積んで夜明けと共に街に戻る。突入班は荷物を馬車に積んでくれ。私が懸賞首と捜索願いが出されている者の確認をする。ブリザ、ネネ、レナード達のマジック班は賊共に人身売買先の情報を聞き出してくれ。手段は任せるがあまり悲鳴が出ないような方法にしてくれ。バネッサ、女性たちの健康を見てくれ」
ビケットが次々と指示を出していく。

「リリアも見張りより女性達のケアをしたいよ。それに賊から情報を聞きだすんでしょ?それも見てみたい」リリアがビケットに言う。
ネネ達が魔法陣を用意している。どうやら魔法による尋問のようだ。
「うん、リリアはこういった事は初めてか… はっきり言おう。リリア向けの内容ではない。魔法による苦痛と精神支配の中で口を割らせる。今回はまだ見張りをしていてくれ。それにリリア達だけでは見張りも足りていない状況だ。よろしく頼む」
「… そう、なら… わかったよ」
そう言われてはリリアも納得せざるを得ない。それに、やはり見ても気持ちが良い物ではなさそうだ…大人しく見張りをしていた方が良い。
「さ、私が一番最初に全部吐かせてやるわよ」
ブリザは何だか生き生きとしているようだ。


夜明けが来た。
リリア達は馬車に荷物を積み街に向かう。
一睡もしていないので眠いが今日は街に着いたら休めそうだ。気合を入れてがんば。

回収された荷物と共に保護された女性達を荷台に乗せて幌で隠す。
そして衛兵に引き渡す二人の賞金首も目隠しに手錠姿で荷台に押し込まれる。
後は死体が三体程荷台に積まれた。
「え!三人は死体になったの?… あれ?十人近くいたよね?生きたまま乗せるのはバーンズとチャビィだけ?」リリアが不思議がる。
「Dead or Aliveだから生きていても死んでいても金額は変わらないわ。三人は死体に変えてお持ち帰り、バーンズとチャビィは公開処刑がお似合いよ。まぁ、もう正気じゃないかも知れないけど… 後の金にならない連中は情報価値が無くなれば用無し、間引きしたわよ。生きたまま連れ回すなんて逃走や反乱の元よ、ナンセンス、始末したほうが早いじゃない。それともリリアが垂れ流しの掃除してくれる?」ブリザは当然と言った様子で淡々としている。
「いや… 嫌だよ… ってか絶対ブリザに捕まりたくない…」リリアが呟く。
「あら?私、精神系魔法は得意ではないわよ。ネネの方がよっぽど酷い事するのよ。昨日も一番死にたがっていたのはネネに尋問される連中だったわ」ブリザが言う。
「… えぇ… ネネが…ねぇ…」リリアは眉を寄せて呟く。

「さぁ、出発だ。馬車に乗り切れない者は旅行者を装って歩くように」
ビケットの合図があり馬車は朝焼けの中山道を下り始めた。
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