14 / 21
第二話 ハッピー性奴隷ライフ
8(完)
しおりを挟む翌日、朝。
集落の南の外れに建つディオローナのロッジに、グライアとエウフロシュネが駆け込んできた。
「ディオローナ様! メグラーダ・フィランスがいません! 逃げたようです!」
「昨日の夜の在宅確認時には、いたらしいんだけど……! どうやって鍵を開けたんだろ、あいつ!?」
「……おはよう、グライア、エウフロシュネ」
応対したディオローナは、決まり悪そうに姉妹を自宅に招き入れた。直後グライアたちは、びっくりして固まる羽目になる。
「あ、おはよーございまーす! 今から朝ごはんなんですけど、グライアさんたちも一緒にどうですか? 僕ったら、いっぱい作り過ぎちゃって!」
「あ……!?」
まさに捜索中のメグラーダ・フィランスが、そこにいたのだ。
メグは料理の乗った皿を手に、ダイニングとキッチンを甲斐甲斐しく行き来している。
「……………………」
メグを見て点になった目を、グライアとエウフロシュネはディオローナに向けた。
「いや、その、あの。あいつ、昨日、勝手に来て、それで……」
「昨日作ったハンバーグを、パンに挟んだやつとぉ。あとは、スープでーす!」
もじもじと歯切れ悪く言い訳するディオローナと、エプロンを着けて、新妻よろしくうきうき働くメグと――。
二人を見比べて、グライアは呆れるような、エウフロシュネは面白がるような顔になり、ダイニングチェアに腰を下ろした。
「――もらうよ。美味そうだ」
「わー、いい匂い! メグちゃんも、お料理できるのねえ!」
「えへへ、簡単なものしか作れませんけどぉ。あ、飲み物はコーヒーと紅茶と、あとオレンジジュースがありますが、どれにします?」
「……………………」
顔を真っ赤にしたディオローナが、最後にこそこそと座につく。
こうして四人は、一緒に朝食を摂った。
メグの作った朝食は、一同に好評だった。
後片付けまできっちり終えてから、メグは意気揚々と外へ出ていく。グライアとエウフロシュネも、途中まで一緒だ。
「家に戻って、ボンボアの世話をしてから、今日も畑をお手伝いする約束になってるんです。茄子が食べ頃だから、晩ごはんは麻婆茄子にしようかな~」
滞在わずか三日目でありながら、メグラーダ・フィランスの、この順応ぶりはなんなのか。
畑へと去っていくメグの背中を、姉妹は道の途中で足を止め、見送った。
「まあ……。泣かれるよりはいいけどよ」
グライアたちの住まいは、建ち並ぶロッジの東の端にあった。姉妹は隣同士で暮らしている。
「ディオローナ様が贄をお食べにならないの、本当に心配だったからな。メグみたいな、ああいう変わった男なら案外……って。予想が当たって、そこは良かった――けど」
一度自宅に戻ってから、グライアは趣味の狩りに、エウフロシュネはほかの女たちとヨガで汗を流す予定である。
今日もまた楽しい一日が始まるわけだが、姉妹の足取りは重い。
「サプリのつもりが、劇薬だった……みたいな?」
「エウフロシュネ、やっぱりお前も感じるか? あの男――」
「お姉もでしょ? ――うん。あいつ、アホなだけじゃなくて、なんか、なんか……」
二人は口を噤む。
幽霊を見た者は、それを語ってはいけない。――呪われるから。
そのような迷信を、本件とは全く関係のない話なのに、なぜか姉妹は思い出していた。
「ま、あいつ、ディオローナ様を傷つけるつもりはないようだが。ていうか、あの人が、黙ってやられるわけはないしな」
「うんうん。ディオローナ様みたいな天然には、あれくらい強引で、わけ分かんない男のほうがいいのかもねー」
強引に気を取り直して、姉妹は自分たちの住まいへ戻った。
午前中、ディオローナは集会所の地下にある書庫で、調べ物をしていた。メグラーダ・フィランスが在籍しているジグ・ニャギ教について、興味を覚えたのだ。
書庫の蔵書は数百冊。相当な時間を割いて、ようやく該当する書物を見つけたが、知りたいことはたった数頁しか書かれていなかった。ジグ・ニャギ教は、かなりマイナーな団体らしい。
「世を乱す魔を誅すために天より遣わされたのが、ジグ・ニャギ教が戴く神、ニャーギである……」
ディオローナは薄暗い書庫内で、ランプの灯りを頼りに、本を読み進めていった。
「あ、フクロウ……」
ディオローナの顔がほころぶ。なんでもニャーギのお供はフクロウなのだそうで、数カ所ある挿絵の女神の側には、必ずフクロウが描かれている。
そして、ディオローナは思い出した。そういえばメグに、「もし時間があったら、ボンボアと遊んでやってほしい」と頼まれていたのだ。
「そろそろ行ってあげたほうがいいかな……」
本に栞を挟み、棚に戻すと、ディオローナはメグのロッジへ向かった。
鳥かごは、ダイニングテーブルの上に置かれていた。部屋の窓を換気のために開けてから、ディオローナはボンボアを出してやった。
「よしよし、寂しかったか? また草原に散歩に行くか?」
肩に乗って甘えてくるボンボアの頭や首を撫でながら、ディオローナはぽつりとつぶやいた。
「――お前のご主人は変わってるよな……。私のような化けものに、愛を誓うなんて」
『僕の全てをあげるから、あなたの全てを僕にください』
昨晩の情事の、あのときメグが叫んだ言葉を思い出すたび、ディオローナの体は熱くなる。
胸が早鐘を打ち――そして。
氷を飲み込んだように、すっと冷える。
「そんなこと、できるわけないのに……」
浮かれていては駄目だ。
ディオローナは、自分にそう言い聞かせる。
――私には、みんなを守るという使命があるのだから。
だけど、それはいつまでだろう……?
「くー?」
ディオローナから表情が消える。心配したボンボアが、彼女の顔を覗き込んだ。
「ああ、ごめんごめん、ボンボア。さあ、行こうか」
ディオローナがボンボアに微笑みかけたところで、ロッジのドアが大きな音を立て、開いた。
こんな乱暴な開け方は、この部屋の主であるメグではあるまい。
ディオローナが玄関を確かめれば、果たしてそこに立っていたのは、大男だった。
確か――。
「レンドリュー……」
粗野な振る舞いや暴言により、問題ばかり起こしていた男だ。外界へ戻したほうがいいとの意見が多く、近いうちにそのように取り計らう予定だったのに。
「へへっ。名前を覚えててくれたとは、光栄ですなあ。女王様」
レンドリューの服は、大量の血に染まっている。そして彼は、脇に女を抱えていた。
「ティラ……!」
集落で暮らすズメウの一人だ。
ティラは弱々しく顔を上げた。
「ディオ、ローナ……様……」
ティラの顔は赤く腫れ、口と、骨を折られたのか曲がった鼻から、ダラダラと血が垂れていた。
「お前らズメウが強いったって、俺様の敵じゃねえ! このクソアマみたいに、ワンパンで沈められるぜ!」
レンドリューは得意げに吠えている。
「てめえら、俺のことを無視しやがって! 全員ぶっ殺して、ハラワタをぶち撒けてやる! どうせ、お前らみたいな化けものなんか殺しても、誰にも咎められねえからな!」
――そうだ。私たちは、化けものだ。
だから私たちと、恋愛なんて、できるはずがないのに。
血の匂いが室内に充満していく。急速に黒く染まっていく頭の中で、ディオローナはメグラーダ・フィランスの言葉を繰り返した。
『僕の全てをあげるから、あなたの全てを僕にください』
――私の全てを渡したら、あの男はその重さに潰れるだけだ……。
「殺す前に、いい夢を見させてやるよ! 男が欲しいんだろ!? 俺はずーっと、お前を犯したかったんだよォ! 男なしでは生きられない、下品な女王様ァ!」
ティラを床に投げ捨てると、レンドリューは舌なめずりをしながら、ディオローナに近づいて行った。
~ 終 ~
0
あなたにおすすめの小説
贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる
マチバリ
恋愛
貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。
数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。
書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
魚人族のバーに行ってワンナイトラブしたら番いにされて種付けされました
ノルジャン
恋愛
人族のスーシャは人魚のルシュールカを助けたことで仲良くなり、魚人の集うバーへ連れて行ってもらう。そこでルシュールカの幼馴染で鮫魚人のアグーラと出会い、一夜を共にすることになって…。ちょっとオラついたサメ魚人に激しく求められちゃうお話。ムーンライトノベルズにも投稿中。
肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです
沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
兄様達の愛が止まりません!
桜
恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。
そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。
屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。
やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。
無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。
叔父の家には二人の兄がいた。
そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる