その女、悪魔憑きにつき

犬噛 クロ

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8.悪魔たちの謝肉祭

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 さて、どうするか。魔法を解くならともかく、薬だったらお手上げだ。護に連絡して、解毒剤を手に入れるか――などと考えを巡らすティンカー・ベルの頭に、景はぎゅっと抱きついた。

「すき、すき、すき」
「おい、景」

 景を離したいが、力加減が分からない。不安定な体制で力任せに引っ剥がせば、床に落としてしまいそうだ。

「ティンカー・ベルがいれば、本当はティンカー・ベルがいれば、なにもいらないのに」

 景は鬱々ダラダラとくだを巻き続けた。――いや、これが本来の彼女なのだろう。
 未練たっぷり。勇気がなくて、正直になれなかった。それが今、例の薬のおかげで表に出ているのだ。

「諦められない! 諦められないよお! こうしてあなたに触れて、声を聞いていたら……!」

 ティンカー・ベルがいれば、満たされる。
 ティンカー・ベルがいれば、なにもいらない。
 怖くない。寂しくない。

 ――幸せって、こういうことじゃないの?

「抱いて。ティンカー・ベルのものにして。私、処女だよ! 悪魔とかそういう人たちは、処女が好きなんじゃないの!?」
「どこ情報だ、それは……」

 質の悪い酔っぱらいのように、景は絡んでくる。ティンカー・ベルはいささか面倒臭そうに、彼女の相手をした。

『愛シテル。離レタクナイ』
『ヒトツニナリタイ』

 頭の中でチカチカと七色の光が明滅する。目を開けていられなくて、景は瞼を閉じた。

『生マレ変ワリタイ』
『新シイ世界デ』
『アナタト生キル』
『ダカラ』

 光が瞬き、消えるそのとき、複数の人影が浮かび上がった。
 黒い肌の美しい女の人。黒衣を纏った精悍な男性。小さな、とても小さな赤ん坊。景の知らない人たちだ。
 だが最後に現れた少女には、唯一見覚えがあった。
 少女の唇が動く。その動きに釣られるように、景は言った。

「私を……………………食べて」

 ――あれは、愛莉鈴ちゃん……?

 愛莉鈴は昔、ティンカー・ベルに魂の一部を取り込まれて、救われた少女だ。
 思い出すと同時に、景はハッと我に返った。

「私、な、なにを……」
「……………………」

 ティンカー・ベルは無言で、景を見詰めている。
 悪魔の表情は険しい。不用意に古い傷に触れて、怒らせてしまっただろうか。

 ――なにをやっているんだろう、私は。

 好意を押しつけて、ティンカー・ベルに迷惑をかけて。自分が情けなくなり、景はわあわあと泣き出した。酒に溺れた泣き上戸のごとしである。

「ごめんなさい、ごめんなさい! ごめん……!」
「……………………」
「嫌いにならないで……」
「……………………」

 どれだけ謝っても、ティンカー・ベルの反応はない。景はどんどん不安になっていく。

「……もしかして」

 しゃくり上げながら、景はティンカー・ベルの顔をこわごわと覗き込んだ。

「もしかして……。ティンカー・ベルは私のこと、ずっと嫌いだったの……?」

 そのとき、ティンカー・ベルの脳内で、なにかが弾け飛んだ。

 もう限界だ。おしまいだ。
 愛莉鈴のことは別にどうでもいい。ただの過去だ。
 しかし麻生 芽衣子のことは気にしていた。あの善良な老人を裏切ることになってはいけないと、軽挙な行動をしないよう己を戒めてきたのに。
 我慢、我慢、我慢。
 ――しかし、終焉の時は来たり。

 大蔵田 景は、危なっかしくて、放っておけない客だった。大成する能力と素質はあるのに、自己肯定感が低く、いつだっておどおどしているから、良くないものを引きつける。
 景を幸せにしてやりたい。それは悪魔というより、男の持つ庇護欲からくる感情だった。――愛と呼んで、差し支えないだろう。
 だが悪魔と時長く過ごした人間は、自らの内より暗黒を引きずり出し、怪物になってしまう。だから離れなければ、と。

 だから、だから――我慢して、我慢して我慢して我慢して、我慢して我慢して我慢して。

 本当は、ずっと好きだったのに。

 景といると、安らぐ。落ち着く。優しい気持ちになる。自分が悪魔だと、忘れてしまいそうなほどに。
 その大いなる価値を、魅力を、景自身はどうして分からないのか。全くもって不可解だ。



「あの……。ティンカー・ベル?」

 景の問いかけにはやはり応えず、ティンカー・ベルは彼女を抱き上げたまま、ずんずんと部屋の奥へ進んだ。そして魔法で奥の押入れから布団を引っ張り出し、畳の上に敷くと、その上に景を放り投げた。

「いたっ!」

 したたか尻を打った痛みにうめく景の上に、ティンカー・ベルはのしかかった。
 凛々しい顔が眼前に迫り、景は息を呑む。

「――よかろう。もう、どうなってもいい。お前の望みどおり、食い尽くしてやる」

 景がなにか言う前に、ティンカー・ベルは彼女の唇を塞いだ。
 突然のキスに驚き、反射的に避けようとする景を許さず、ティンカー・ベルは獲物の後頭部をガッチリ掴み、舌を差し入れた。
 ――そう、もう逃がす気はないのだ。

「悪魔の本気を見せてやる」

 ゾクゾクするような低音の声でつぶやくと、ティンカー・ベルは景に馬乗りになり、彼女のブラウスを左右に大きく裂いた。

「あっ!」

 勿体ない。でもバーゲンで四千円だったし、二年くらいみっちり着たからいいか……。
 いや、それどころではない。自分は今、愛しい男性に犯されようとしているのだ。

 ――でも、嬉しいと思ってしまう……よ。

 どういう顔をしていいか分からず、景は唇を噛んだ。
 ティンカー・ベルは景の下着を剥ぎ取りながら、噛みつくようなキスを繰り返した。いや、実際に噛んでいる。唇や頬や首筋に悪魔は牙を立て、そのたびに景は小さく震えた。

「やっ……」

 羞恥からとはいえ、景が少しでも拒絶するようなことを言えば、許さないとばかりに、ティンカー・ベルは彼女に深く口づけた。舌も歯も舐め回し、唾液を啜り、送る。

「この濡れ具合、薬のせいだけか?」

 ティンカー・ベルは景の膣に中指を埋め、肉壷の熟し加減を確かめた。満足したのか指を引き抜くと、悪魔は自分のズボンを下着ごと下ろした。その拍子にぶるんと重たそうに揺れながらペニスが現れ、それを目撃した景は、恥ずかしそうに目を逸した。

「なにを純情ぶっている。この間など、我が分身を舐めまくったくせに」

 ティンカー・ベルは自身を掴むと、その幹で横たわった景の腹をペチペチと叩いた。

「ちょっ……! そ、そういう下品なことしないで! は、初めてなんだから、もうちょっと……! お、乙女ちっくに……」

 上半身を起こし申し立てるが、途中で恥ずかしくなったのか、景の主張は尻窄みになってしまった。

「贅沢言える立場か、お前は。だがまあ、我は優しい悪魔だからな。忘れられない初体験にしてくれよう」

 癖のある悪魔の言である。信じていいのか、どうか……。
 それでも深呼吸して、景は自分自身を落ち着かせようとした。
 しかしなぜティンカー・ベルは、自分を抱いてくれる気になったのだろうか。

 ――「抱いて」とお願いしたから? それとも、怒らせたから?

 待ちに待ったそのときは、いきなり訪れた。

「いくぞ」
「えっ!?」

 掛け声の直後、ティンカー・ベルは景の足を掴み、大きく開くと、一切の手加減なしに、いきり立った陰茎をズボッと彼女の性器に押し込んだのだ。
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