【完結済】これが勇者の倒し方

犬噛 クロ

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3.

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 まんことは、まんことは……まんこだろう。
「女性器」。どれほど思考を重ねても、記憶をさらっても、それに代わるものを思いつくことができない。
 真っ白になったジェントリンの脳内に、勇者の放った不適切発言がじわじわと浸透していく。

「何を言っている、貴様あッ!」

 愚弄されているのか。
 灰色の肌を赤く染め、ジェントリンは体を起こそうとする。が、やはり黒蜘蛛の糸を使った拘束具はビクともしない。

「うあっ!? いったぁ……!」

 ジェントリンは再び虚しくひっくり返り、地面にしたたか後頭部をぶつけた。そんな彼女に構わず、勇者ニュートルーは自らの鎧に手を掛けた。
 黄金色に輝くそれは、勇者の首から肩、胸、下半身の脛までを覆っている。人間界随一の鍛冶屋が鍛え上げ、魔法使いたちがまじないを施した、この世で唯一魔王に対抗でき得る魔法の鎧だ。だが「古の竜」の凶悪なブレスを受け止めたせいで、今やその表面はひび割れ、持ち主であるニュートルーが触れた途端、役目を終えたとばかりにポロポロ砕け始めた。

「フルアーマーは着脱が大変だからなー。壊れてくれて、都合良かった」

 ――そりゃまあ、今はガラクタかもしれないが。
 しかし我が身を守ってくれたはずの、しかも大層価値のある鎧を、ニュートルーは埃を払うかのようなぞんざいな手振りで、自らの体から剥がし落とした。
 先ほど名剣を投げ捨てたときと同じく……。どうもこの男はどんな業物だろうと、こだわりだとか愛着だとかを全く抱かないタイプらしい。
 鎧――だったもののかけらを全て払い落とした勇者は、それだけでは終わらず、無傷だったインナーウェアまでせかせかと脱ぎ出した。
 下着まで取り去って、まるっと一糸まとわぬ姿となったニュートルーと対面する羽目になり、ジェントリンは悲鳴を上げた。

「やめろ!? なんか着ろ! かっ、風邪を引くかもしれないし……! 嫌だあ! 変なものを見せるなっ!」

 たとえ異種族だとしても、人間はジェントリンたち「古の竜」の仮の姿と、体の作りがよく似ている。つまりジェントリンは、雄の裸を見るのが恥ずかしいのだ。

「そんな格好で、なっ、何をする気なんだ!?」

 魔王の威厳などどこへやら、ジェントリンが慌てふためいて尋ねる。そんな彼女を、ニュートルーは唇を真一文字に引き結び、見下ろした。
 ……フルチンで。

「お前と、セックスを、する」
「……!?」

 あまりに衝撃的な事態に遭遇すれば、茫然自失となるのは魔物とて同じである。ジェントリンは正気を失い、ぽかんと口を開けながら、ニュートルーの青い瞳をただ見上げるしかできなかった。
 その隙に勇者は電光石火、行動を起こす。ジェントリンの両足首にハマっていた拘束具を外すと、膝頭を掴み、左右にガッと開いた。

「!?」

 突然のことに反応が遅れたジェントリンは、急いで足を閉じようとする。が、ニュートルーはそれを許さなかった。
 魔王の脚力と勇者の腕力がせめぎ合う。

「離さんか、貴様ッ!」

 ジェントリンの制止は、勇者の耳に届いていないようだ。彼の視線はただ一点に注がれていた。
 そう、無理矢理開こうとしている、ジェントリンの足の間に。

「安心しろ、ジェントリン。確かに俺は童貞だが、いきなり突っ込むような、思いやりのないことはしない。お前にも楽しんでもらえるように、がんばるからな」

 ――勇者は、どうていだった……。

 そんなどうでもいい情報に一瞬でも気を取られたせいで、とうとうジェントリンの足はすぱーんと大きく広げられてしまった。

「この状況で、何をどう楽しめと言うんだッ! 手を離せ!」
「ああ、お前のまんこは、本当に美しい、可愛い……」
「ま……とか言うな!」

 その「美しく可愛い」性器の持ち主からの抗議を無視して、ニュートルーはジェントリンのそれに口を付けた。最初は何か高貴なものに対するかのような恭しい振る舞いだったものが、徐々に息が乱れ、貪るように激しく舌を動かし始める。勇者はすぐに、獣(ケダモノ)へと変わっていった。

「いやあっ!」

 見られたこともなければ、さわられたこともない。そんな秘密の場所を、よりによって敵対していた男に暴かれ、ジェントリンは悔しいやら悲しいやらで、すっかり取り乱してしまった。

 ――死んでしまいたい。

 舌を噛もうとしたそのとき、ニュートルーの指がジェントリンの口の中へ侵入してきた。

「んうっ!?」

 ジェントリンの舌の代わりに鋭い牙を受け止めたニュートルーは、だが呻き声一つ立てない。ただポツリと、低い声で告げた。

「長であるお前が死んでしまえば、魔族は人間たちの手により、一匹残らず殺されるだろう」
「!」

 冷たいくらいの物言いに、ジェントリンは我に返った。
 ニュートルーの言うことは、確かにそのとおりかもしれない。だがジェントリンが生き延びたとして、何ができるのか。

 ――私は勇者との戦いに負けたのに……。そんな情けない魔王に、果たすべき役目など残されているのか?

 ジェントリンの赤い瞳に浮かぶ懐疑的な色を拾い上げ、ニュートルーは言った。

「確かに俺はお前に辛くも勝利したが、人間対魔族の戦い自体に勝負がついたわけではない。『古の竜』が――最強の魔物であるお前が生きている限り、お前たちに敗北はないのだ」

 勇者の指を噛んだまま、もごもごと魔王は聞き返す。

「……ろ(ど)ういう意味ら(だ)」
「お前が人間の反魔族連合の中心国にでも降り立って、先ほどの『魔染』とかいう技を二、三発ぶっ放せば、お前たちの勝ちだ。俺たち人間には、あのとんでもない攻撃に抗う手段が、もうない。お前を倒せる武器や、お前のブレスに耐えられる防具は、今さっき壊れてしまったからな。あれらを新たに作るのに、また百年はかかるだろう。――此度の戦いは俺たち人類にとっても、魔族を潰す最後の機会だったのだ」

 ジェントリンの口から自らの指を引き抜きながら、ニュートルーは続けた。

「人は確かに数の上ではお前たちを凌駕する。だが結局は、烏合の衆だ。能力的にも、お前たち魔族に敵わない」
「…………………」

 ニュートルーの話が本当だとしたら、勇者である彼の責任は大変重い。この世にひとつだけの対抗手段である武器と防具を託されたこの男が、魔王であるジェントリンに負けたなら、人類はそれまでということだ。魔族にじわじわと攻め滅ぼされていくことだろう。
 それなのにニュートルーは、せっかく倒した魔王の首を刎ねることもせず、なぜかいやらしいことをしようとしている……。
 何を考えているのか。

「なぜお前は、敵の要である私を、さっさと殺さない? お前たちにとって、私は脅威なのだろう?」
「なぜそんなことをしなければならないんだ。何度言わせる気だ。お前は俺の旅の目的そのものなのだぞ」

 目的というのは、ニュートルーが先ほど述べたアレのことだろうか。
「自分に合うまんこを探していた」とかいう、どアホというか、突き抜け過ぎていて、やすやすとは信じることができない理由――。
 今度はニュートルーが、ジェントリンを探るように隙なく見詰めている。

「逆に魔王、俺はお前に聞きたい。お前はどうして人間を滅ぼそうとしなかった? お前の力があれば、容易だったろうに」
「……………」

 ジェントリンは形良い唇を噛んでから、苦いものを吐き出すように口を開いた。

「……戦いと虐殺は違うものだ。人間は敵だが、滅ぼすようなことはしたくない。私たちは何かの縁で、同じ世界に生まれた種族どうしなのだ。自分たちが助かるために、だからもう一方を消し去っていいとは、どうしても思えなかった……」

 一族を率いる長としては、甘いのかもしれない。だが強大な力を持つ一個人としては、大切な信念だろう。そういった考えを持たなければ、ジェントリンは暴発を繰り返す、大量殺戮兵器と何ら変わらなくなってしまう。

「だから、正々堂々と勝負したかったのだ」
「……我ら人類は、敵がお前で、命拾いしたな」

 ジェントリンの答えを予想していたのだろうか。勇者は特に驚いた風もなく、人懐こく微笑んだ。

「……ふん」

 ――素っ裸で人様、いや魔王様の上に跨っている、こんな野蛮な男に認めてもらっても、嬉しくもなんともないぞ……!

 ジェントリンはむくれて、横を向いてしまった。だがそれをいいことに、勇者は躊躇なく無慈悲にも彼女への辱めを再開させる。

「だっ! だからっ、やめんかっ! 大体、なんだ! こんなことが目的で、お前は私と戦ったのか!? 神聖なる戦いをなんと心得る!」
「俺も先ほどの戦いに命を賭けたのだ。その結果、勝利し、お前を得た。お前を抱くのは、勝者として正当な権利だ」

 ただの下品なスケベ男のくせに堂々と反論する。そんなニュートルーの態度が、ジェントリンの怒りの火に油を注ぐ。

「だーかーら! こんなことのために……!」
「――お前は永遠に他者と交われない苦悩を、『こんなこと』と片付けるのか」

 ふと声色を変え、ニュートルーが言い返してくる。
 ジェントリンは戸惑った。

「え……」

 天上を覆っていた厚い雲は、少しずつ空に溶け始めている。か細い太陽の光を背負ったニュートルーは、思い詰めた表情をしていた。

「俺はモンスターにしか性欲を感じない」
「………………………………………………………は?」

 思いも寄らないが、どうでもいい告白に、だが意表を突かれたのか、ジェントリンの頭の中は再び真っ白になった。

「理由は分からん。だが物心ついたときから、俺は人間の女に一切興味を持てなかった。その代わり、魔族を――魔族の雌を見るたび、心がかき乱された」
「…………………」

 ニュートルーが語るのをぼんやり聞きながら、ジェントリンは遠い親戚のことを思い出していた。
 歳を経ても独身を貫いていたその男性は、実は夜な夜な家畜を性的に加虐しており、最期は牝馬を犯そうとしたところで蹴られて、死んでしまったという。
 勇者も、この親戚と同じようなものだろうか。つまり――。

「お前はへんたいなのか……」

 ざっくり言ったあと、後悔した。逆上されたらどうしよう。拘束されている今では、逃げることも身を守ることもできない。
 だが勇者は顔色ひとつ変えず、むしろ胸を張った。そのせいで、彼の下半身にて猛っていた肉の棒がぶるりと重そうに揺れて、ジェントリンはひっと身をすくませた。

「なんとでも言うがいい。まともでない自覚はある」
「ま、待て! お前がそういう性癖なのはともかく、別に私じゃなくても……! こう言ってはなんだが、その辺の魔族でも良かったんじゃないか!?」

 そう、下級魔族で満足しておけば、勇者の肩書きを得るための努力も、命を賭して魔王と対決する必要もなかったろうに。
 もっともなジェントリンの疑問に、ニュートルーはため息をつきながら答えた。

「何匹か、試してみたのだ。だが、ダメだった。たいてい小さくて……サイズが合わなかったのだ。それ以外では巨人だとか、今度は大き過ぎた」
「サイズが」

 知らず復唱してから、ジェントリンは思わず勇者の股間で存在感を主張するそれを見て、慌てて目を逸らした。
 魔王とはいうものの、箱入りの乙女でもあるジェントリンには、彼のイチモツがそんなに相手を選ぶものなのかどうか分かりかねる。
 でも、かなり……すごく大きいのではないか……。

「俺は絶望し、何日も何日も引きこもった。そんな生活の中、家にあった書物で、お前たち『古の竜』のことを知ったのだ。人によく似た仮の姿と、竜の巨躯を使い分けるという生きもの。世界を滅ぼすことも可能な、魔族の力ある長……。もうお前しかいないと思った……!」

 しみじみ語りながら、ニュートルーはジェントリンのすんなり細い太ももを持ち直した。そして硬く張り詰めたペニスを、薄い丘へ擦り付ける。

「ちょっ、そんなもんくっつけるな! 汚いだろ!」

 縦の割れ目に沿って、ペニスが上下する。つるつるしたその表面に花芯が撫でられるたび、今まで経験したことのない感覚が、ジェントリンの体内を駆け巡った。

「んっ……!」
「感じているのか、ジェントリン」

 魔王の反応を見て、勇者は調子に乗ったのか、ますます勢い良く腰を押し付けてきた。

「やめ、やめろ! ふざけるな!」

 口ではそう言うものの、ジェントリンはそれほど嫌ではなかった。
 理由は三つ。自分が抗えば、同族が殺されてしまうのではないかという不安。
 もう一つは、この未知の快感を、もっと知りたいと思ってしまった。
 そして最後は、この男が――勇者ニュートルーが、なぜか気になるからだ。
 勇者と魔王という立場だからお互いの存在だけは知っていたが、会うのは今日が初めてで、だから恋心などでは断じてない。むしろ初対面の女性の、性器にばかり関心のある男なんて、軽蔑に値する。
 だがなぜか、引っかかる。――「惹かれている」なんていうのは悔しいから、あくまで「引っかかっている」程度だ。
 思えば、同族の者たちは畏怖の念や敬意を寄せてくれることはあっても、寄り添ってくれるわけでもなく、離れたところから眺めているだけだった。
 ニュートルーの「魔族にしか性の対象にならない」という、その最低最悪なヘキはひとまず置いておくとして……。こんなにもストレートに求められたのは、ジェントリンにとって初めてのことだ。

「あ、あっ……!」

 ジェントリンの性器から溢れた蜜が、ますます二人の触れ合いを滑らかにする。

「気持ちいい……! お前もだろう、ジェントリン」
「……っ」
「もう、いいか? いいよな? 入れたい……!」
「…………………」

 飢えた野良犬ように、そんな風にガツガツ乞われれば、断りづらい。いや、普段玉座に君臨している魔王だったならば、きっぱりと断ったのであろうが……。
 人との勝負に負けて、組み敷かれた――今ここにいるのは、一匹の魔物の雌に他ならない。


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