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涙の雨
しおりを挟む「ねぇ!聞いた?この近くのお花屋さんあったじゃない?
そこの店主の女性とその子!皇太子様がエスコートして城にまで連れて行ったそうよ?顔見知りのようだったわ!」
「私、ちょうど見ていたわ!!すごく綺麗な女店主よ?
あんな女性だったかしら?!」
「それに‥実はね?あのお花屋さんの女店主って‥
元貴族らしいのよ?!貴族が平民になって暮らしているなんて!考えられる?!」
「そうそう!貴族様が平民になるなんて!なにか事情があったのかもしれないわ?じゃなきゃ、貴族の生活を捨てて平民になって暮らすなんてあり得ない!」
「それに初めて近くで見たけれど、皇太子様、とっても格好良かったわ‥女性と子供を連れてエスコートされるなんて、
はぁぁ‥思い出すだけでときめくわ!」
「こ‥そうだ、子供よ!!近くで見た?!
髪は店主と同じ髪だったの!だけどね、皇太子様と同じ瞳の色なんですって!子供が言ってたもの!」
「そうなの?!まぁでも、同じ瞳の色は珍しくはないけど‥」
「何言ってるの?!皇太子様の瞳は他の人と比べ物にならないわ!あの瞳の奥には星がキラキラ輝いてるって聞いたわよ?!それだけ群を抜いて綺麗なのよ!」
「皇太子様もそうだけど‥あの女の人も美人だったわ‥」
「確か、銀色の髪をしていたわね!!!」
「そうよ!!銀髪の貴族なんて‥そうよ!ほら!
結構前に騒いでたじゃない!伯爵家の‥」
「あぁ!!!まさかグランディール家の‥?」
「すごく捜索されてたのに!こんな目と鼻の先にいるなんて考えられない!」
「あぁ~気になるわぁ!」
予想通り、女性達を中心に帝国中に先日のロマンス劇場は広まった。その話は日が経っても収まる様子はなかった。
新聞にまで載って瞬く間に話が進んでいく。
「ふっふっふっ‥‥想像以上だ。」
「オリヴァー様、その笑い方、まるで悪役になったようだわ?」
城内も大騒ぎだ。一部でしか知らされていなかった母様と俺が、堂々と城に招かれ皇太子と一緒に食事をした。
数多いお喋り好きなメイド達に一斉に広がり、兵士達、
城へ出入りする貴族達。
「この話‥我が家にも届いてるわよね?」
母様が寂しげに呟いた。
「あぁ‥銀髪はグランディール家特有だし、きっと噂を聞いて確かめに来るであろうな。ずっとマーガレットを探していたのだから‥」
「お父様とお母様、後悔はしていないけれど、
どんなに悲しんでいた事が‥合わせる顔がないわ‥
お父様が私を探していると‥家の者達が探していたの、
聞いていたから‥」
母様の瞳に涙が浮かんだ。
母様と俺は、魔術で他の人には分からないようになっていた。探し出せないのも無理はない。
そんなある時、皇太子宛に手紙が届いた。
「グランディール家から謁見の申し入れだ。」
父様が、手紙を持って俺達の部屋にやってきた。
「あぁ、やっぱり‥」
「そうだ。銀髪の女性が城に招かれていると聞き、
姿を確認させて欲しいと言っている。マーガレット、
すまなかった。やっと、ご両親に会わせてあげられる」
父様は涙をこぼした母様の肩を抱き寄せた。
その3日後、グランディール伯爵夫妻がやってきた。
「皇太子殿下にご挨拶申し上げます。」
「あぁ、頭を上げてくれ。手紙の通り、別室で待たせている。確かめてくれ‥」
皇太子に連れられ、グランディール夫妻は、
神妙な面持ちで手に汗を握り、皇太子宮の温室にやってきた。
温室で待っていた俺と母様。
「‥‥っあ‥‥マー‥ガレット‥」
一眼見た瞬間に、夫人が涙をこぼした。
母様も目に涙をいっぱい溜めて呟いた。
「お母様‥‥、お父様‥」
「マーガレット!!!」
夫妻は母様に駆け寄りその身体を抱きしめた。
「うぅ‥‥お父様‥っ‥お母様っ‥」
ポロポロと涙をこぼし3人は抱き合って膝をついた。
力が抜けてしまう程、この再会を喜び涙した。
声を上げ涙を流す両親は、帰ってきた娘を離すまいと抱き締め続けた。
「あぁぁぁ‥‥っっ‥マーガレットが‥
うちの娘が‥‥っ‥‥うぅ‥っ‥帰ってきた‥あぁ‥‥
私の娘がぁぁっ‥‥あぁぁっ‥‥‥‥」
天を仰ぎ、確かめるように大声に出し、喜び
涙を流すグランディール伯爵。
その姿を俺は花の中に隠れてこっそりと見ていた。
《あぁぁぁぁ‥‥‥‥俺のっ‥‥》
《俺の‥‥‥っっ‥俺の‥‥‥‥》
《ぁぁぁあああっ!!!!‥‥
‥‥‥いやだぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!‥‥‥》
心が、割れそうになっていた。
ボタボタと雨のような音が響いた。
意識は、真っ暗闇に放り出された。
『‥暁‥‥大丈夫だ‥‥』
両眼が塞がれた。
声だけが聴こえる‥‥‥
「‥‥っあっ‥‥‥ぁぁ‥‥‥ぅ‥‥‥っ‥
‥れぃ‥‥らぁぁ‥‥‥」
ここは、地獄だ‥‥‥
『暁‥‥‥大丈夫だから‥‥』
この声は礼蘭じゃない‥‥‥‥
けれど、今は‥‥‥
塞がれた手に‥‥縋りたくてたまらない‥‥‥
「っ‥‥ぅ‥‥っ‥れ‥いらぁ‥‥‥っ‥‥‥‥
れいらぁぁぁぁあああああっ!!!!!!」
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