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移ろい行く

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指輪を手にしたその日の夜。ベッドに入った後、胸元からこっそりと指輪を取り出した。
「・・・・・・」

俺はレイラの記憶が蘇り、興奮していた。だから…お母様に…。

強く当たってしまった。お母様にあんな声を荒げるなんて、しちゃいけなかったのに…。
王子ならば、早々と婚約者を決めても問題なんてない。爵位が高ければ自分の後ろ盾となり、
帝国の為になるだろう。

でも…


指輪は俺には大きすぎて、つけられない。
ベリーに頼んで、首にかけられるくらいのチェーンを用意してもらった。
それを指輪に通して、首下げる事にした。

いつも一緒にいるんだ。これからはずっと。

その指輪がレイラの一つの様に…大事に、この胸に…。


指輪を握って眠りにつく。いい夢を見られる気がした。暖かく感じた。



「昨日はごめんなさい。お母様・・・・」
翌朝、俺はお母様に頭を下げた。
「テオッ・・・やめてちょうだい!」
お母様は慌てて俺を抱きしめた。
「あなたが悪いんじゃないわ。私が悪かったのよ。」
「でも、お母様に・・・・」
「大丈夫、大丈夫だからね?」

俺の頭を撫でてくれる優しい手。良かった。お母様は怒ってない。

「さぁ、もう二人とも、過ぎたことは忘れて朝食にしよう。」
俺たちの手をとり、笑顔のお父様。

「「はいっ」」
みんな笑顔になれた。よかった。これでいつも家族だ・・・・。









「おい!!ヘルムつけとけよ。」
「わっわかってるよ!!!!!なくちゃ無理だよ!!!」

騎士団の騎士たちが、ざわざわしながら話している。


「次っ!はやくしろ。」

「はっはい!!!!」

ヘルムを被り、ブレストプレイトと、カントレット装備の騎士が目の前に立つ。

「はじめ!!!!」


模擬剣を構え合う。見極める、相手の一瞬の隙を‥‥


今だ


「ハァァッ!!!!!」
左足で地面を蹴り上げる。右足がついたと同時に剣先でヘルムのど真ん中を撃った。

「うっ!!!!」

クタっと膝を付き、相手はヘルムを振動させ倒れ込んだ。


「・・・また一発かよ・・・・鉄じゃぁ衝撃が違うのか・・・・・」

面を撃っても、胴を撃っても、小手を撃っても衝撃でみんな痺れて動けなくなってしまう。



「殿下・・・申し訳ありませんが・・・・・」
そう言った騎士団長のうしろにはへたり込んでいる騎士たちがたくさんだった。

「なぁ、いつになったら身につくんだよ。稽古が足りねぇよ!お前たちも俺みたいにやれよ!」
「精進いたします・・・・」
剣を鞘へ納め、肩に担いだ。
「おう・・・じゃねぇと、騎士団が弱いみたいじゃないか。いい加減俺を打ってくれよ。あと、打ち込みで続けてやれ!20秒ずつだ!あぁ、木刀でやれ、実戦はあれでいけるけど、稽古にゃならねぇ、いいな?」







俺は、15歳になった。

指輪を手にしてから7年。指輪を手にしてから、ロスウェルは言った。
「アレ?光が・・・・?あれれ?」
目を点にして驚いていた。どうやら、星の加護が見られなくなったらしい。
それはハリーも同様だった。
「えっ?手品?」
目を丸くして不思議そうにしていたな。

俺は今でも、指輪を誰にも見せないように胸元に下げて隠し続けた。

指輪のおかげで、不思議と外部には見られなくなったのだ。
アレクシスが翌年の9歳の誕生日に言っていた。


『去年は・・・・はぁ、甘かったなぁ…その頭の中身は角砂糖かなにかか?』
「うっさいわ!!!勝手に見るな!!!」

『好きなんだ‥‥許せよ』
そう言って俺に顎クイしたアレクシス

「そんなんやってねーよ!!!!爆せろ!!!!」

『おや?違ったか?見事な仕草であろう?これくらいやらねば…』
「うっせーホスト!!!!」

15歳の記憶をまんまとからかったアレクシスだった。

9歳、10歳、11歳、12歳、13歳、14歳、15歳と、毎年アレクシスはやってきた。

俺はレイラとの記憶を取り戻す度に、どんどん強くなっていた。

年齢に反映したものではなく、8歳の俺に前世の15歳の記憶を思い出したように

記憶はランダムに思い出されていく。

その時その時で、幸せだった時間を俺は順調に思い出していた。

けれど、あの指輪の事はまだわかっていない。ただ、懐かしいと思うだけ。
それが大切だと思うだけ。


俺の大切な記憶を毎年からかって消えていくアレクシスだった。

今年は16歳の誕生日、3か月後に誕生祭が行われる予定だ。ちょうど緑が眩しく暑い夏になる。

「テオドール王子殿下!大変です!!」
演武場に俺の側近となった、フランクが走ってやってきた。
「なんだよフランク!まだ何もやってねぇーよ。」
「王子殿下!皇帝陛下がっ・・・・皇帝陛下が崩御されました!!」
「なんだと!?」

「すぐ陛下のところに・・・・」

聞いてすぐ走り出した。


陛下の寝室にたどり着くと、涙を流した皇后陛下とお母様がいた。
陛下の横たわる隣で、お父様がその手を握り一筋涙を流した。





‥ダメだ‥



みちゃダメだ





俺は‥‥見てはいけない‥‥‥
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