ハッピーエンドを待っている 〜転生したけど前世の記憶を思い出したい〜

真田音夢李

文字の大きさ
62 / 240

君に触れるだけで

しおりを挟む
皇帝が魔塔を訪れた。
テオドールに謹慎を命じてから5日過ぎた日の事だった。

手の拘束を解いても、テオドールは壁に寄りかかり座ったまま。
リリィベルが映る水晶玉を見つめているだけだった。

食事を用意しても、手も付けず。
ただ黙って、時折映るリリィベルだけを見つめていた。

笑う姿はあまり見られず、皇后の話に合わせて少し微笑むだけで…
いつもの天使のような笑顔は見られなかった。

夜には皇后に抱かれ眠り、食事もあまり喉を通らない様子だった。


水晶玉をただ見つめるテオドールの前に立ち、皇帝は口を開いた。
「テオドール・・・」

「・・・・・・」
テオドールは声がした方を一瞬見た。
「ギルドを3つ制圧した。明日貴族議会がある。」
「・・・・・・」
テオドールは無言のままだった。

「3つのギルドの中で、依頼主を三家、見つけたぞ・・・・」
「・・・・・」
「一つはホイストン伯爵家。年頃の娘がいる。お前がリリィベルを見初めた事に腹を立て、リリィを消すよう
伯爵が、ギルドに依頼をした。
二つ目、マッケラン伯爵家。同様だ。お前を慕っていた。
三つ目、ランドール侯爵家。ヘイドン侯爵家に対抗心を燃やし、歳が同じライリーを出し抜こうとしていたが、リリィベルが現れ婚約者になった事で、対抗する事が出来ず、腹を立てリリィベルの暗殺を依頼をした。」

「・・・・・はっ・・・・・・」
声を発したと思ったら、テオドールは鼻で笑った。

「どれもが、独断の依頼だった。繋がりはない。ただの嫉妬と権力を欲しただけだった。
だが、この三家はリリィベル暗殺依頼の罪で、牢屋行きだ。」

「報酬額も少しは減るだろう・・・。だが・・・・」

「暗殺依頼が止まる訳ではありません・・・・。」
ぽつりとテオドールが呟いた。

「あぁ・・・まだな・・・・。だが、いずれ、大物が釣れる事だろう・・・・・。」
「それが・・・父上の、やり方なのですね・・・。」

「あぁ。そうだ。時間は掛かっても、三家摘発されれば貴族達は動揺する。私達が、リリィベルの為に動いている事は、知らしめることができるだろう。」

「・・・そうですね・・・・」
今は何も出来ず、からっぽなテオドールは少しだけ悲し気な笑みを浮かべた。


「明日議会で討論する故、お前もその場に立ちなさい・・・。謹慎は解除とする。」

狭い部屋の鉄格子の扉が開かれた。

「風呂に入って、身支度をして会いに行け…リリィがお前が居なくて泣いている。」

「・・・っ・・・・・」
テオドールは瞳を震わせて、立ち上がった。けれど、少しも食べ物を取らなかった身体はふらりと揺れた。
それを父は受け止め、その弱った身体を抱きしめた。

「・・テオ・・叩いて、すまなかった・・・・。お前はずっと心を痛めていたはずなのに・・・・
ごめんな・・・。つらい思いをさせた・・・リリィにも・・・・。」

「いいえ・・・力を貸して下さり・・・ありがとうございます・・・っ・・・不甲斐ない私を・・どうかお許しください・・・・」

「不甲斐ないものか!!!お前は、私の大切な息子だ!!私が生きている限り、どんな事をしても、お前を守る…。お前は・・・皇太子だが、私の愛する息子だ・・・・。」

「・・・はい・・・道を外さぬよう・・・まだ私を・・・導いて下さい・・・・お願いします・・・・」

「私はお前を信じている・・・・。きっと安心して眠ることが出来る・・・・。早くリリィのところへ行きなさい・・・。お前を待っている・・・・。」

「はい・・・・・・。」

ロスウェルが、テオドールの肩にそっと触れた。
「あぁ、同じ顔が抱き合ってる。いい光景ですね。殿下、浴場まで送ります。あと、何か食べて下さいね。リリィベル様が心配なさいます。」
そう言ってにこっと笑った。
「ありがとう・・・ロスウェル・・・・。」
「いいえ、さぁ、いきましょ?」
ロスウェルが指をパチンと鳴らした。

一瞬で浴場にたどり着いた。
「ロスウェル・・・なぜ私まで連れてきた?」

「ははっくっついてるからですよぉ。せっかくですから一緒に入ってはいかがです?この通り殿下はフラフラです。あ、私も一緒に入ろうかなー。」
「ふっ・・・そうだな。そうしよう。」

「えっ・・・やっ・・・いいですっ・・・・。」
テオドールは慌てて後退りした。

「テロンテロンなんですから、溺れて死にたいですか?」
ロスウェルがテオドールの服に手をかけた。

「あ、そうだ、従者に軽食と飲み物を持ってこさせよう。なにか食べなければ倒れる。」
父は早々にベルを鳴らした。

「ちょっ・・・やぁめ・・・・」
抵抗する力が残ってないテオドールは、2人の成すままだった。


結局、水分を取らされ、果物やパン粥などを食べさせられ湯船につかったテオドール。
広い浴場で父とロスウェルは至極の顔をして湯に浸かっている。

「いやぁ・・・やっぱ城の風呂は広くて最高ですね・・・誰も入ってこないし。」
「当たり前だ。誰が皇族の湯に浸かるんだ。そんな不届き者はお前ひとりで十分だ・・・。」
「権力最高ー・・・・」

「・・・・・・・」
もう訳が分からなかった。なぜ三人で風呂に入っているのか・・・・。

髪まで洗われた始末だ。完全に子供じゃないか・・・・。

「テオ、お前を謹慎してから、もう5日経っている。」
「へっ?」
そんなに時間経ってたの?
「その間、リリィベルは問題なかった。暗殺者もしっかり防げている。少しは安心してくれ・・・わかったか?」

「はい・・・・。」
不本意だが、納得せざる終えなかった。

「寂しいからずっとマーガレットと寝ていたが、問題はない。もちろん。狙われているリリィの部屋だ。お前も安心して、夜は寝るんだ。」

「はい・・・・父上・・・・・」

「殿下ぁ、眠れなかったら寝させてあげますよ?強制的に。」
その言葉にテオドールは笑った。
「いや・・・それはごめんだ・・・。」

表情が解れたテオドールを見て、2人はやっと安心したのだった。

身支度を整えて、テオドールはリリィベルの部屋に向かった。
いざ部屋の前に立つと、緊張した。
扉を叩こうとしたその時、内側から扉が開いた。リリィベルが部屋から出てきたのだ。

「・・・・・・・あ」

「・・・・・・・・」
リリィベルはぽかんとしながらテオドールを見つめた。

見つめていると、ほっとしてきたテオドールは、笑みを浮かべた。
「リリィ・・・・ただいま・・・・。」

そう言うと、リリィベルの眼から大粒の涙が零れ落ちる。
「テ・・オ・・・・様・・・・・」
そのまま泣き顔になり、リリィベルはテオドールに抱き着いたのだった。

「うぅぅっ・・・・テオ様・・・・っ会いたかったです・・・っ・・・・
どうしてそんなにやつれているのですかっ・・・そんなにお忙しかったのですかっ?

私はっ・・・寂しくてっ・・・会いたくてっ・・・苦しかったですっ・・・」
か細い腕で、必死にしがみ付き泣く姿を見て、テオドールは切なく目を細めた。

「一人にして・・・すまなかった・・・・」
そう言って、リリィベルを力いっぱい抱きしめた。

抱き合う二人を、後ろから見ていた父とロスウェルだった。
「あぁあぁあぁあぁ・・・・」
「なんだ?」
「ありゃ、今日が初夜になりそうですね?」
「馬鹿者・・・暗殺者が来てるのにそんな事できるか」
「それもそうですね。ただ勢いだけなら、懐妊しそうな勢いで。」
「その口を閉じろはしたない!」
「避妊魔術掛けときましょうか?」
「あるのか?」
「いいえ?」
「時間返せくそがっ」
皇帝は肘鉄を、食らわそうとしたが、ロスウェルはそっと掌で魔術盾を広げた。

「ほんっと‥‥‥ムカつくその盾」
皇帝がギラリとロスウェルを睨んだ。

「つい癖で‥申し訳ありません?有能なもので」
「ハッ‥‥‥その口を縫い付けてやりたい」
「自分で出来ますよ?」
「おぉおぉじゃあやってくれ俺の為にな!」
「ははっ、お断りします。」
「お前を炙るのが楽しみだ。イカのようにな」
「陛下ぁ‥‥私は、イカよりタコがいい‥‥」
「あぁっ?」
「この口から墨を吐いてやります」
「クソボケてめぇこの」
「あぁあぁあぁあぁ汚い汚い皇帝とは思えない」
「おめぇがそうさせて」


「父上、ロスウェル‥‥」
言い合いしていた2人に声をかけた。

皇帝とロスウェルは、ハッと声のした方を見た。

真顔のテオドールと泣いてるリリィが見ていた。
「うるさいです。お帰りください。」


「「‥お邪魔しました‥」」
2人はぺこっと頭を下げた。
そして、身を寄せ魔術により姿を消した。


テオドールは、ため息をついて、そのままリリィを抱き上げて部屋の中へ入った。

ソファーに座り、リリィベルを膝に乗せ向き合った。
「リリィ?」
「‥‥うっ‥‥‥うぅっ‥‥‥」
口許を押さえて小さく泣くリリィベル
テオドールは、そのままリリィベルの手の甲に口づけした。

「テオ様‥‥‥どうしてそんなにやつれているのですか‥っ
何も食べていないのですかっ?」

「お前こそ、痩せたんじゃないか?また羽が生えたのか?」
「揶揄わないで下さいっ‥‥私が聞いてるんですっ」
「お前に会えなくて、食べる気になれなかった‥
そんなにひどい顔か?泣く程嫌か?」

「そんな訳ありませんっ!怒りますよっ!」
そう言ってテオドールの首に抱き付いた。
泣きながら怒ってるリリィベルにテオドールは目を細めた。

「あぁ‥‥怒ってくれ‥‥‥俺を殴っていい‥‥」

「‥‥‥っ‥テオ‥様‥‥」

「お前を1人にした‥‥こんなに泣かせた‥‥
苦しめた‥‥こんな俺を、殴ってくれ‥‥‥」

リリィベルは身体を少し離し、テオドールの顔を見つめた。

「悪かった‥‥‥お前を、泣かせてしまった‥‥‥」

今にも泣きそうなテオドールに、リリィベルはまた顔を歪ませて、その頬を包み込んだ。

「では‥‥我儘な私も叱って下さいっ‥‥」
「なぜ?お前は我儘じゃないだろ?」

「いいえ‥お仕事のテオ様を労らずに‥‥ただ泣いて過ごした私は、婚約者として失格ですっ‥‥。

けれどっ‥‥いっぱい怒っていいですからっ‥‥‥
どうか私を側に置いてくださいっっ‥‥っ‥」

「俺が‥‥お前を離すことはねぇよ‥‥‥」
そう告げてリリィベルを引き寄せて口付けた。


俺が、勝手に、震える手で刀を握り‥‥

この国の皇太子としての品格を保てずにいたんだ‥

側に置いてほしいのは、俺の方だよ‥‥

血濡れた手で、お前を抱き締めた、俺は罰を受けた。
まだ、この手は血まみれだ‥でも、

お前に触れるだけで‥


「リリィ、愛してるよ。」
「私も愛しています‥‥」


俺は、生きていける‥‥

もう、無くしたくないと、心が叫ぶんだ。

お前を知らない、俺にはなれない。

お前に触れられるが、どんなに幸せか‥‥‥

お前は知らないだろう‥‥?



今、目の前にいるお前が‥‥‥夢の様に消えないように‥

必死に、しがみ付いているんだよ‥‥
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!

ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。 前世では犬の獣人だった私。 私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。 そんな時、とある出来事で命を落とした私。 彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています

六花心碧
恋愛
お気に入り小説の世界で名前すら出てこないモブキャラに転生してしまった! 『推しのバッドエンドを阻止したい』 そう思っただけなのに、悪女からは脅されるし、小説の展開はどんどん変わっていっちゃうし……。 推しキャラである公爵様の反逆を防いで、見事バッドエンドを回避できるのか……?! ゆるくて、甘くて、ふわっとした溺愛ストーリーです➴⡱ ◇2025.3 日間・週間1位いただきました!HOTランキングは最高3位いただきました!  皆様のおかげです、本当にありがとうございました(ˊᗜˋ*) (外部URLで登録していたものを改めて登録しました! ◇他サイト様でも公開中です)

兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした

鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、 幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。 アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。 すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。 ☆他投稿サイトにも掲載しています。 ☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。 幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

処理中です...