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愛はどんな形にもなる

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 皇帝は、皇太子の前に仁王立ちし、見下ろした。

「・・・・テオドール。」
「・・・・・・・・・。」

「お前が何を言ったか、私は既に知っている。」
「・・・だからなんです?・・・。」
「やってくれたな。お前はそうやってまた火種を作ったんだ。」
「・・・リリィを、こんな所へ連れてくるからです。」
「あぁ、お前も反省が必要だ。引き離されたいか?簡単だぞ?」

 その言葉にテオドールは父を見上げた。
「リリィが!侮辱されて俺だけ黙っている訳にいくか!!!!」
「そうだ。反省しろ。お前の行動で、リリィがいらぬ侮辱を受けたのだ。」
「っ・・・。」
 テオドールは悔しそうに唇を噛んだ。

「陛下っ!!私が悪いのですっ!!!テオ様は悪くありません!!」
「リリィ・・・お前はそう言うが、そなたよりテオドールの行動が一番の問題なのだ。
 だからこんな騒ぎになっている。皇太后を侮辱したのは、間違いであった。
 これからどんなに厄介になるか、まだ分からないようだ。」
皇帝は皇太子を睨みつけた。

 「ロスウェル達がついているからと、自惚れるのも大概にしろ!!!!」

「っ・・・・」

 その通りだ。ロスウェル達が、24時間リリィベルを守ってくれていて。
 その身が安全だからこそ、落ち着いていられる。
 本来なら、毒を盛られようと、暗殺者を向けられようと・・・
 すべてから守る事など不可能な事・・・。

「・・・・リリィはここから出してください・・・・。
 リリィが反省するべきことなど御座いませんっ・・・・。

 すべての責任は私がとります。どうか・・・お願いいたします。」

「そのつもりだ。お前はここに残りなさい。お前の言った通り、
 その病は治せまい。リリィ、立ちなさい。」

 そう言って皇帝はリリィベルに手を差し出した。

「いやっ・・・嫌ですっ陛下!!私もここに残りますからっ・・・
 どうかっ・・・殿下を責めるのはお止めくださいっ・・・。」
 涙を浮かべてリリィベルは必死だった。

「私も反省致しますっ・・・だから・・・離れて居たくないのですっ・・
 どんな場所でも構いませんっ・・・離れたくありませんっ・・・。

 どうか、お許しくださいっ・・・・。」
 そう言って、蹲った。

 その姿を見て・・・テオドールは、自分の罪をまた痛感したのだ・・・。
 泣きながら許しを請う姿に、胸が引き裂かれる。

「お許しくださいっ・・・ごめんなさいっ・・・・。」
「・・・やめろ・・・リリィっ・・・・。」
 テオドールは、悲し気にリリィにすり寄った。

「頼むからっ・・・・やめてくれっ・・・・・。」
 リリィベルを抱きしめて、テオドールは静かに涙を流した。
「ごめんっ・・・・ごめんっ・・・」

「・・・・・・・・・」
 皇帝は、2人を見て胸を痛めていた。

 本来ならば・・・こんなに愛し合う二人を引き裂く事などなくて良いはずなのに・・・。
 古い執念に憑りつかれて、2人の障害となる。
 こんなことは・・・・必要なかったのに・・・・。


 導かれる様に出会ったのに・・・その道は茨のようだった。

「二人とも、気が済まないのなら・・・一晩ここで過ごしなさい・・・・。
 明日迎えにくる・・・。わかったな・・・。それで対外的に許しを乞うたとしよう・・・。」


 本来、許しを請うなどなくてもいいはずなのに・・・・。

 皇帝は静かに部屋を出た。
 扉の前に立つのは、皇太后の使いの兵士ではなく、テオドールの騎士、イーノク達だ。

「・・・・二人は今日ここで過ごす。不自由のないように、フランクに伝えてくれ。」
「畏まりました。皇帝陛下。」

 皇帝は西の塔から出て行った。


「落ち着いて、事を運ばねば‥‥」
 皇太后にあらゆる暴言を吐いたのは事実。
 だが、不条理な事を言われてるのも事実。

 マーガレットの毒殺未遂。毒は既に手の中にある。
 給仕も、拘束している。
 その口から吐かせた後、ヘイドン侯爵が入手した事を立証しなければ‥


 自室に戻り、ロスウェルを呼んだ。

「殿下達は、どうですか?」

「あぁ、可哀想な事をした‥。2人は本来何も悪くない‥」
「はい‥‥」
「あの毒がどこで手に入るか分かったか?」

「時間が掛かりましたが、いくつか分かった事が・・・」
「なんだ?」
「あの毒は‥10年前に皇太后様に盛られたとされる物と同じであると。」
「!!本当かっ?!」
「はい‥‥図鑑に書いてある症状と当時の皇太后に出た症状の記録を見付けました。
めまいがし、高熱が出て、意識障害があると・・・。」

「‥なぜ、同じ物が?」
「あのグラスに入った成分を検証したらオゼリという毒草を粉末にし、水と混ぜ合わせ液体にさせたものでした。その為毒の効果は少し薄くあり少量でしたら死に至る事はありませんが、多量であれば死に至ります。」

「・・・その毒草は、どこにでもあるものか?」
「ヘイドン侯爵家が治める領地の森で見つけました。古い図鑑に載っていたその葉の形を具現化し、私が先日確認して参りました。数が少ないですが、間違いなく手に入ります。
少量だったのはあまり多く生えていないからでしょうね。」

「そうか・・・エレナのアンフォード侯爵家が元治めていた領地には?」
「ございません。ですので・・・。アンフォード家が用意した毒とは考えにくいです。
やはり、エレナ様の皇太后陛下の毒殺未遂は、エレナ様が起こした事ではなさそうです。
領地の薬師などにも聞いて回りましたが、知っている者は少ないです。
知っていた薬師を捕らえた方がよろしいかと・・・。ヘイドン侯爵家と繋がりがあるかもしれません。」」

「よくそんなに調べる事が出来たな?」
「毒草と毒草に似せた草を持ち込んでみたのです。よくこんな珍しい物を持ってきたと言われました。
間違えて口したら大変だと。少々慌てた様子でして、ただ一人だけ、その者は危ないから見つけたら採取していると言いました。裏で毒草を取引した可能性があります。そして、その者の父は当時の事件後亡くなっており、後継ぎが営む薬屋です。消されてしまう前に拘束した方が良いでしょう。」

「わかった。今夜すぐにその者を秘密裏に拘束しよう。」
「はい、陛下。」



皇太后の私室で、ライリーは絶えず涙を流していた。
「・・・・・・・」
皇太后はライリーには目を向けず、険しい顔をして観賞用の花を見つめていた。

このままでは、明日にでも皇帝に2人の身柄は解放されてしまうかもしれない。
魔術師達に守られている彼らを殺すのは難しい。

ヘイドン侯爵家は、毒を盛る計画に失敗した・・・。
ライリーもこの通りだ。皇太子に面と向かって言われて、泣き続けている。

泣き寝入りした所で、欲しい者は手に入らないが・・・。

自分も本当に欲しい者は手に入らなかった。

どうにかして、あの娘を城から出すことが出来れば・・・・。


「あぁ・・・・そうだわ・・・・。」

アドルフの息子がいた・・・。リリィベルの父親だ・・・。

あの者が傷を負えば、きっと娘は城を出ていくだろう・・・。

北部までの道のりを、わざわざ皇太子がついていく訳はない。
護衛はついても・・・隙はある。

そして、暗殺者達もたくさん、あの娘を狙っている。

父親の身に何かあれば、行かざる終えまい・・・・。

城に居た時は何をしても害することは出来なかったが。
今は北部にいる。いくら屈強な北部の守り主でもアドルフには劣る。

アドルフでさえ、死んだのだから・・・・。


「いつまで泣いてるつもりなの?」
「うっ‥‥でも‥殿下がっ‥‥‥」
「あんなもの、気が立っていたからだ。好かれて嫌なわけないだろう?気にするな。結婚してしまえばいい。」
「っぐすっ‥‥っ‥‥」

皇太后はそっと、ライリーの耳元で囁く

「女を殺してしまえばいい、事故に見せかけて‥」
「っ‥‥」
顔を上げて皇太后を見た。ニヤリと笑ったその顔を。
「城にいた方がと思ったが、こうなれば出てしまえばいい。皇太子の手の届かない場所でなら、邪魔は入らないわ。そうだわ‥‥貴族議会でイシニス王国の話をした者が居たわね‥父上に、その者を抱え込めるか話をして?今から私が言う事を聞いて‥‥?」

「‥‥‥‥‥」

ライリーは、涙を流しその囁きを耳にした。

それは、とても魅力的な囁きだった。
愛する者が、手に入らないなら、愛を向けられる者を殺せばいい‥‥‥
転がり落ちてくるのを待てばいい。
ただ手に入れたい‥‥
隣に並ぶのは自分でありたい‥‥


知らずに口元に笑みが浮かんだのに気付かない程‥‥
愛しさは狂気に変わる。



西の塔、暗い部屋の中で、テオドールとリリィベルはその身を寄せ合ってベッドにただ横たわっていた。

「‥‥‥‥‥」
何も、話さないテオドールに、リリィベルは眉を下げていた。

涙を流して、謝る姿を見て
更に傷付けてしまったと思っていた‥‥

皇太子という身分でありながら、自分といるせいでこんな部屋で‥‥
それでも私を抱き締めてくれる‥‥

私と出会い、自身の祖母と言い争うことになってしまった‥
私がブラックウォールの人間だから‥‥


それでも私を離さない‥‥
私も、あなたを離さない‥‥

この愛は‥‥誰にも引き裂けない‥‥‥

「‥‥テオ様‥‥」
「‥どうした?‥つらいか?」
そう言ってまた強く抱きしめた。

「テオ様と一緒なら‥つらくなどありません‥‥」
「‥そうか‥‥俺もだ‥‥」
「はい‥‥‥」


テオドールは、ただ一点を見つめ呟いた。

「俺達は‥何も悪くない‥‥」

「‥‥‥‥‥‥」

「悪くないよ‥リリィ‥」

「‥‥皇太后陛下は‥お祖父様がお好きだったのですよね‥‥」

「そうだ‥‥でもお前は悪くないし、
お前を愛する俺も悪くない‥‥俺に愛されるお前も‥‥」

「‥‥‥はい‥‥‥」

「だから‥絶対‥‥気にするな‥‥」
「‥はい‥‥‥」


「俺達は、運命なんだ‥‥この指輪がそうだろう?」

テオドールはそっと、リリィベルと指を絡めた。

「俺達は、巡り合う運命だ‥‥それ以外ないだろ?」

この指輪は道標‥‥


リリィベルは絡んだ手を見つめて涙を浮かべた。

「そうですね‥‥‥私は、あなたと出会う為に産まれました‥‥」


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