ハッピーエンドを待っている 〜転生したけど前世の記憶を思い出したい〜

真田音夢李

文字の大きさ
85 / 240

前にもあったね

しおりを挟む
 裏の城門から出て2人は姿を変えた。

 リリィベルの金髪は、綺麗な黒髪へと変化した。
「・・・・・・・・・」

 その姿を見て、テオドールは泣きそうなくらい顔を緩めた。


 礼蘭・・・・だな・・・・。


 振り返ったリリィベルは、ポカンとしてテオドールを見た。

「・・・・テオ様・・・・・。」

「あぁ・・・。どうだ・・・?」

 黒髪のテオドールを見て、リリィベルはその小さな唇を開けたまま。

 凝視するその瞳を黙ってみていた。


「・・・・・あ・・・・・」

 口から漏れた先の言葉を、期待してしまう。
 リリィベルの瞳がほのかに滲んで見えた。

「・・・・お義父様・・・みたい・・・・・。」



「・・・そうか・・・・」
 テオドールは少し切なげに笑った。

「この髪は・・・・。」
 自身の髪も一房手に取り驚くリリィベル。
「あぁ・・・魔術師に変えてもらったんだ。元々分かりづらい様にしてもらってるが、
 ほら・・俺達、目立つから・・・。」

「それもそうですね・・・。テオ様が城下に現れたら、大騒ぎになってしまいます。」
「お前も・・・だろ?婚約者?」
「ふふっ・・・はい。」

 2人は手を繋いで、城下まで繋がる裏道を歩いた。

「・・・・・・・・」

 テオドールは自身で言いだしたけれど、思った以上に動揺していた。


 黒髪が靡く度に胸が高鳴っている。

 夢で何度も見ていた。黒髪のリリィ・・・・いや礼蘭・・・・

 どちらとしても、同じ人物・・・・。

 リリィの瞳は、濃紺の瞳で、髪を黒くするだけで、そのものだった。



「なぁ・・・リリィ?」
「はい?」

「・・・今日は・・・バレないように・・・・名前を変えないか・・・?」

「あ・・・そうですね。テオ様って・・・呼んでしまったら・・・・。」


「あぁ・・・だから・・・。」


 足を止めて、リリィベルを振り向かせた。


「俺の事は・・・・あき・・・・・」





「あき・・・・・・・。」

 黒髪のリリィがそう口にした。


 涙が出そうだ・・・・。


「あぁ・・・あきって・・・呼んで・・・・・。」


「あき・・・・・」
 リリィベルは、真顔で、呟く。



 あき・・・・・


 あき・・・・・



 何故、こんなに泣きたくなるのだろう・・・・。


「・・・・・あきっ・・・・・」
 何度もそう呼びたくなる・・・。

 目の前のテオドールが・・・・泣きそうなのに、嬉しそうだから・・・。
「あき・・・・・」

「・・・・あぁ・・・・。」

「あき・・・・・」

 心が喜んでいる気がした・・・。


 テオドールと向き合い、リリィベルはその手をぎゅっと握りしめた。


「では・・・・私は・・・・?」

 アキは懐かしげに口にした。

「今日は・・・れい・・・と、そう呼ぶ・・・・・。」



「れい・・・・?」

「あぁ・・・・今日のお前は・・・・れいだ。・・・れーい・・・・・?」

 首を少し傾げて、アキはレイを呼んだ。

「れーい・・・・・・れい・・・」

 アキは何度も、レイを呼ぶ・・・・。

 レイは、涙目で笑った。

「なぜだか・・・しっくりするのは・・・何故でしょうね・・・?」


「俺達2人の・・・秘密の名前だよ・・・。レイ・・・・。」

 アキは、レイの手を引いて歩きだした。



 2人の空気は、不思議なものとなり、まるでテオドールとリリィベルという名を
 忘れてしまいそうだった。


 アキは、空を見上げて微笑んだ。

 これは、俺達の愛してるのサイン・・・・。

 あきとれい

 小さな時から、そう呼ぶと、2人で嬉しく思っていた・・・。


 大人になっても、そう呼ぶと、愛が滲んできて止まらなかったんだ。




 城下につながる道。
「さぁ・・・・そろそろ街だぞ、レイ?」
「わぁ・・・・」

 レイは、その賑やかな街中を見て目を輝かせた。
「王都は賑やかだろう?どうだ?レイ」

 アキはレイの顔を覗き込んだ。


「うん!すごい!ねぇアキっ!!あれ見たい!!!」




 一瞬テオドールは目を見開いた。

 街に出て、レイと呼ばれた瞬間に、リリィベルは普段の敬語を崩して話した。

 それはまるで、本当に礼蘭だった。

「おいっ・・・レイ!」

 走り出すレイを、アキは追いかけた。

 そして笑った。嬉しくて・・・懐かしくて・・・・。


「アキっ!早く!」
 振り返ったレイが、眩しく見える。

「わぁーってるよ!!待てよレイ!」


 街中に溶け込む。アキとレイが・・・・2人の世界に入り込んでいく。


 出店の食べ物を買って分け合って食べる事も

 綺麗なブティックに飾られているドレスを見ていても

 飲み物を買って、2人で交互に飲み合う事も・・・・。

 民たちが手作りしたアクセサリーを見る時も・・・。


「あ、これ可愛い。見てみて!アキ、この栞すごい綺麗!」
「おっ・・いいじゃん。買うか?」
「うん!!今読んでる本があるからそれに使いたいっ」
「おばちゃんこれ買う~。」

 レイが気に入った栞を手に取り、アキは購入した。
「ほい。」

 それを嬉しそうに受け取った。
「ありがとっアキ!」
 そう言って、レイはアキの頬にキスをした。

「ははっ大げさだな。もっと買ってやるからその分キスしろよ。」
 アキはレイの唇にキスをした。

「ふふふっ・・・アキはキス魔だなぁ。」
「嬉しいくせに・・・。」

 そう言ってもう一度キスをする。

「お客さん!いちゃいちゃするなら余所でやってね?」

 店員にそう言われて、笑って誤魔化した2人は、また手を繋いで歩き出した。



 出店街を少し離れると、休める広場に出る。
 ベンチに座り、アキはその長い足の踵を片方の膝に乗せ、背もたれに腕を伸ばした。

「疲れてないか?レイ。」
「大丈夫!楽しい!」

 アキはその黒髪を撫でていた。
 レイは自然とアキの腕に頭を乗せて寛ぐ。
 そして、空を眺めた。

「すごい空がきれい・・・・。」

「あぁ・・・。」

 アキは、レイを見て返事をした。

「・・・・アキ・・・・?」
「・・・ん・・・・?」



 レイは、また名を呼んだ。

「アキ・・・・」



「レイ・・・・?」


 レイは、ふと隣を見て、アキの顔を見た。
 瞳が合う・・・。そっとアキに顔を近づけた。



「あき・・・・・・・ら・・・・・」

 アキの唇にキスをした。

 アキは、目を見開いて、そのキスを受け入れた。



 あぁ・・・・お前の中でも・・・俺(あきら)は今も・・・生きている・・・・。



 少し唇を離して、角度を変えた。
 あきらの目に涙が浮かんだ。


「れい・・・・ら・・・・・。」




 前にもあったね‥


 俺達が‥‥こんな風に、昔に戻った瞬間が‥‥‥



 この世界でも、何度もキスをした・・・。

 けれど、魂がまた・・・喜んでいる。

 その名を呼び合う事が・・・・。


 悲しくて・・・・悲しくて・・・・・

 おかしくなりそうだ・・・・。



 長いキスの果て・・・・。

 レイの閉じた瞳が開いて、また閉じて

 涙を零した。





 長い夢を・・・見ているようだ・・・。




 人込みの中、自分たちだけ、時が止まっていたような気がした。
 見つめ合って、頬を撫でる。

「レイ・・・。さっき通りにあった、宝石店を見に行かないか?」
「ん・・・・?」

「俺さ・・・考えたんだ。指輪に変わる、2人の大切な思い出にしたいんだ。
 結婚式で、それを一緒につけたい。」

 レイは嬉しそうに微笑んだ。
「うん・・・・・・。あ・・・・。」

「ん・・・・・・?」

 アキがもう一度レイに唇を寄せた時。

「あたし・・・アキに言わないと・・・いけ・・・ない・・・・事が・・・・。」




 それだけ言い残して、


 ・・・レイは、夢から覚めた。



 ピタリと止まるレイに、アキは不思議そうに首を傾げた。
「・・・なんだ・・・・?」


 リリィベルはハッと目を見開いて、テオドールを見た。
「・・・アキ・・・様・・・・・。」

 心配そうな瞳でレイを見つめるアキ。
「・・・・レイ?」

 パっとレイは俯いた。
「あっ・・・なんでもありません・・・・。」



 今、私は・・・・何を言おうとしていたの・・・・・?

 それに・・・・ここまでの間・・・・ずっと・・・・。


「アキ様・・・私ずっと・・・なんて口を・・・・。」
「・・・・・・・・」


 テオドールはその様子を見て、察したのだった。

「いいんだ。俺と2人の時は、その方がずっといい。堅苦しいのは嫌なんだ。
 様もいらない。俺たちは、婚約者で、いずれ夫婦になるんだぞ?」

 リリィベルの髪を撫でた。


 どうやら・・・・忘れては・・・・ないようだ・・・・。

 これまでが、どんな風だったか・・・・・。


「アキ・・・?」

「あぁ・・そうだよ・・・?」



「では・・・・テオ・・・・も・・・?」
 恥ずかしそうに見上げるリリィベルを見て、微笑む。

「そ・・・。それでいい。最初からそう言ったのに。様なんかいらねぇんだよ。」

 そう言って、また口付けをした。

「・・・じゃあ・・・そうする・・・・ね・・・?」

「あぁ・・・。そうしてくれ・・・・。」


 夢から覚めたとしても、俺の側にはいつもお前がいる。

 その事実は変わらない。

 礼蘭も、リリィベルも、どちらも同じだから・・・。





 テオドールはリリィベルを連れて宝石店へやってきた。
「アキ・・・何を?」

 キョロキョロと見渡すリリィベルに、テオドールは笑みを浮かべた。
「あぁ、これだ。」

 ショーケースの中にあるのは、ピアスだった。
「・・・イヤリングではない・・・ですね・・・・。」
「あぁ、耳に穴をあけるからな敬遠されがちだが・・・・怖いか?」

 じっと見ていたリリィベルだったが、その言葉に首を振る。

「いいえ?イヤリングは落としてしまうかもしれないし・・・。
 この方が、離れないよね・・・?」
 少し照れながらリリィベルはテオドールを見つめた。

「あぁ・・・だから、いいだろ?一つを2人で、分けないか?」
「・・うん・・・。」

 手を重ねて笑い合った。

 その日、その宝石店で、特別にオーダーメイドをした。
 身分は伏せたが、運び先を城に指定したら、ひどく不思議そうな顔をされた。

「皇太子殿下の命令であるから、必ず、丁寧に仕上げるようにな。」

 そう言って、テオドールとリリィベルは店を出た。


 2人でデザインしたピアスは、満月を縁取りした円の中に、雪の結晶のような細やかな星の形に宝石を細工をする様にしたものだった。

 月が星を守れるように・・・・。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!

ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。 前世では犬の獣人だった私。 私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。 そんな時、とある出来事で命を落とした私。 彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした

鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、 幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。 アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。 すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。 ☆他投稿サイトにも掲載しています。 ☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。

公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています

六花心碧
恋愛
お気に入り小説の世界で名前すら出てこないモブキャラに転生してしまった! 『推しのバッドエンドを阻止したい』 そう思っただけなのに、悪女からは脅されるし、小説の展開はどんどん変わっていっちゃうし……。 推しキャラである公爵様の反逆を防いで、見事バッドエンドを回避できるのか……?! ゆるくて、甘くて、ふわっとした溺愛ストーリーです➴⡱ ◇2025.3 日間・週間1位いただきました!HOTランキングは最高3位いただきました!  皆様のおかげです、本当にありがとうございました(ˊᗜˋ*) (外部URLで登録していたものを改めて登録しました! ◇他サイト様でも公開中です)

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。 幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

処理中です...