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ダメでしたか?

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皇帝は少し重い足取りで、皇太后が監禁されている部屋へと向かった。
その部屋の前には、ロスウェルが騎士として姿を変えて待っていた。

「陛下・・・・」

ロスウェルが皇帝に頭を下げる。

「ん・・・何事もなかったか?」
「はい・・・。」

返事をして、扉の前から退けた。


そっと扉を開くと、椅子に座った皇太后がそこにいた。
地味なその一室は、その位に相応しくない部屋だった。

「・・・・・・・・・」

皇帝の目に映るその後ろ姿、月日を重ねた事を思い知る。


綺麗だったブラウンの髪は白髪が混じっていた。
何度も見ていたはずなのに。思い知る。

小さな頃、その後ろ姿を何度見たことか・・・・。

そして母が振り返る。

「・・・・オリヴァー・・・・」
その凛とした声は変わらなかった。


「・・・あなたを尋問します。」
皇帝は眉を顰めて、そう告げた。


皇太后の目の前に立ち、その顔をまっすぐに見た。

「まず、側室エレナが、あなたを毒殺しようとしたという偽装を行った事はあなたを治療した医師が、日記で残し、さらに今回、皇后マーガレットにも同じ毒を盛ろうとした事を、医師の息子が証拠として残していました。」

「そう。残念ね。」

「そして、リリィベル・ブラックウォールに暗殺者を向ける指示と、ダニエル・ブラックウォールへの奇襲。それも、ブリントン公爵家があなたの指示で致しましたね。

使いのレナードは、ダニエル・ブラックウォールが捕らえました。」

「・・・そう、あのレナードを捕まえたのね・・・。はっ・・・」

皮肉気に笑った。


「そして、ここからは憶測です。あなたは、アドルフ・ブラックウォールと、妻、グレースを・・・
事故に見せかけて殺害しましたか?」

「!!・・・」
その言葉に、皇太后は目を見開いた。

「・・・あなたの、リリィベルへの執着が、私にそう思わせました。
殺したい程、ブラックウォールが憎かったですか?」


「・・・・・・・・・」

皇太后は少し俯いた。そしてすぐに唇は弧を描いてその顔を皇帝に向けた。

「よく回る頭だ・・・オリヴァー・・・

そうだ。アドルフとグレースは、私があの世へ送ってやった・・・・。

レナードが、崖から馬車事落とすように仕向けてやった。箱に収まって居れば
あの強き者も、なにも役には立たない・・・。」

「っ・・・何故・・・・・」

皇帝は悲し気に眉を顰めた。

「・・・何故?高貴なる私を捨てて、あの男は北部で幸せに暮らしていた・・・・。

私は、皇帝の元に嫁いですぐに、あの者どもに子供が出来た。ダニエルだ・・・・。

それから20年間、アドルフとグレースを何度も殺そうとした・・・。

アドルフを殺すのは容易ではなかった、殺すのに20年もかかった・・・。


私は・・・この国の世継ぎを設けても・・・陛下はよくやったとしか言葉をかけて下さらなかった。

お前が産まれてからも・・・お前へ愛情は注いでも、私を見てはくださらなかった・・・。

すぐにエレナが後宮に入り・・・エレナに愛情を注いだ・・・・。


エレナが現れるのならば・・・なぜ、私は皇后となった?

愛した男には愛されず、愛されるはずの男にも愛されず・・・・。」

そう言って、オリヴァーを悲し気に見た。


「・・私は・・可哀想だろう・・?息子よ・・・。」

「・・・・・・・・」

オリヴァーは、口を閉ざした。

哀れな母、愛されなかった女・・・・。


「だからと言って・・・殺していい理由などありません・・・・。」
そう言った途端に、皇太后の顔は怒りで歪んだ。


「私は・・・・グレースが大嫌いだ・・・・・。

リリィベルも・・・反吐が出そうだ・・・あの女に似たあの娘だ・・・。


私が必死で作り上げたこの城で、テオドールがグレースに似た女と結ばれる?


あの女の髪を見るだけで・・・燃やしてやりたい程の思いだった。



ふっ・・・どうせ、魔術師共らに守らせていたのだろう?

そうやって誰かに守られて生きている。私は自分の身を守ってこの城で暮らしてきた・・・。


私はマーガレット、お前の妻も大嫌いだ・・・。平々凡々とお前に愛され能天気に暮らしている女‥。

滑稽か?それでもかまわぬ・・・。グレースは殺してやったんだ。

リリィベルを殺せなかったのは、悔やまれるがな。」


「母上!!!!!!」
最後の言葉に、オリヴァーは声を荒げた。

「・・・お前に母などと呼ばれたくはないわ。陛下にそっくりなお前がっ・・・・・。」

もはや、母が子に向ける顔でなかった。

「お前も・・・父親の様にマーガレットが死ねば、誰かを迎えるのだろう?

男は良いな。年を取っても、新しく女さえ出来れば、その地位と金でどれだけ女を抱えられる事か。」

「っ・・・私はっ・・・マーガレットが例え死んでもっ・・・誰も迎える気はありません!」

「ふっ・・・さようか・・どうでも良いわ。」

「っ・・・あなたに、アドルフとグレース殺害の罪も追加します・・・。」
悔し気に皇帝は、そう告げた。


「・・・・後悔など、しているものか。」
そう告げた皇太后は、ひどく冷たい顔をしていた。



皇帝は、静かにその場を去ろうとした。

そして、告げた。

「処刑は3日後です・・・・。」
「・・・・・・・・」


そして背を向けていた母に、息子は振り返った。

「息子である私は・・・あなたを愛していました・・・

それだけでは・・・いけませんでしたか・・・っ・・・?

私はあなたを最愛の母と‥‥思っていきてきましたっ‥


私が少しでも・・・あなたを満たせる存在であったならっ・・・

あなたの罪を、少しでも減らす事が出来たかもしれないっ・・・

っ・・・・次に会うのは、断頭台です・・・・。


どんな母であっても・・・子は母を愛していました・・・・・・。


1つでも、あなたの罪が・・・軽くなるのなら・・・・・



望まぬあなたから私が産まれた罪を・・・


私が‥‥懺悔致します‥‥。」


「‥‥‥‥‥」

その言葉に振り返りもせずに、皇太后は子を見る事は無かった。


扉を閉めて、オリヴァーは、壁に手をついた。

その両頬は涙に濡れていた。

「っ‥‥うぅっ‥‥‥‥」


片手で目を覆った。その場に膝を付かずに済んだのは、
側で‥‥ロスウェルがその腕を支えてくれて居たからだった‥。


幼き日の記憶‥。

花が好きな母は、よく中庭に居た。
剣の稽古が終わるとそこへ行った。

父と母が揃って居るのは夕食の時が時々で‥

父は、授業中にやってきては頭を撫でてくれた。

母の姿を中庭で見つけては、走って行った。


私の声に気付いた母は、

笑っていたはずだった‥。

その日気に入った一輪の花を持って行った私ごと、

あなたは、笑って受け止めてくれました‥‥。




決して‥‥愛情がないと‥思う事はなかった‥‥。


私はそれぞれに愛を受けて育った‥‥。


あなたが苦しんでいた事も知らずに、
私はあなたを愛して居ました。

綺麗な母を‥‥‥優しかった母を‥‥‥


けれど‥‥私の愛は‥あなたには伝わって居なかった‥‥。

親子の愛ではダメでしたか‥‥?

あなたを癒す存在になれませんでしたか‥‥?



どんなに罪を重ねても‥‥

あなたは私の愛する母でした‥‥。


大人になって、どんな言葉を発したとしても‥‥‥


私はあなたを愛していました。
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