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繋いで、心 8

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 その命は、テオドールの刀によって尽きた。
 王城の広間にて、拘束具を付けられた国王は崩御した。


 その様子を、じっと見つめていたレティーシャ王妃。
 そして、そのすべてを見て居た城の者達。

 1人の国王の最側近が声を張り上げた。

 国王の側近達は皆ロスウェルの作り出した縄で縛られている。だが、国王の妻、王妃は玉座につきその様子を見ているなんておかしい。

「国王が斬首刑にされたのです!王妃の首も差し出すべきでしょう!!あなたはこの国の国母でしょう!!!

 なぜです!私達がこうして縛られ貴方はなんの責任も負わないと言うのですか?!」

 国王より年下な眼鏡をかけたその中年の側近、そして執事までもが王妃を睨む様に見て居た。国王に仕えていた者達はみな縛り上げられ床に座らされている。

 その声にテオドールは目を細めた。

「俺はな、人を殺しに来たわけじゃねぇんだ。

 王妃は、ポリセイオに必要な人材だ。要はこれから俺の監視下で国を、民を支えなければならない。」

「ですが!!!そもそも魔術師とやらは王妃が作り出したと言うではありませんか!!!帝国で罪を犯したのもレリアーナ王女様!!レティーシャ王妃様に罪はないとおっしゃるのですか!納得できません!」

 テオドールは、スッとその者の前に立った。

「お前の意見など俺が聞くとでも?」
「わっ‥私は!!侯爵家の当主であります!!
 こんな事をして!王妃だけ残し、王国が‥‥‥」

「だから‥‥‥お前達の意見などもうどうでも良いのだ。
 わからないか?ポリセイオは、生まれ変わる時だ。

 この腐った国王に仕えていた者達は、私の独断で排除する。
 これは決定事項だ。国王は死んだ。」

「っ‥‥‥だからと言って‥‥なぜ私達までっ‥‥。」

「これから一人一人を尋問する。俺の目に敵う者がいれば生かしてやる。‥‥お前は、機会を捨てたがな‥」
「そんな!!!私は!!!」

 テオドールはその男の膝を踏みつけた。

「俺が手遅れだと言ったら最後、覆ることはない‥‥
 残念だったな‥‥。」

 男の体はガタガタと震えた。テオドールの目が本気だからだ。


 ここで意見した事で生き残る機会を失った。
 帝国の皇太子は、そういう人物なのだ。


 明日の朝日を拝める事は叶わない‥‥‥。



「皇太子殿下‥‥‥。国民にはいつ?」
 ロスウェルはテオドールを見た。

「まずやる事がある。ロスウェル、この者達は全員この王城の地下牢へ移動させておけ。」


「‥‥畏まりました。」
 ロスウェルも静かに同意した。指を鳴らした一瞬で、
 部屋にいた者達は姿を消した。いや、地下牢へ放り込まれた。



 そして、テオドールはレティーシャ王妃に近づいた。


「約束した物を、そなたに返す。」

「あぁっ‥‥‥っ‥‥。」

 その黒い箱を見て、レティーシャ王妃は瞳に涙を浮かべた。
 その箱に触れるのに、指が震えた。

 胸に抱き締めて、優しい命の鼓動を感じる‥‥。



 これは奇跡だ‥‥‥。



 レティーシャ王妃の私室の地下、3人はレオンのいる地下室に入った。

 今日もいつもの様にレオンは鉄格子に背を預け、天井を見上げていた。



「レオンっ‥‥‥」
 レティーシャ王妃が震えた声でその名を呼んだ。

 ゆっくりとレオンは振り向いた。
 レティーシャ王妃の後ろにいる、テオドールと同じマジョリカブルーの髪色の男、いや魔術師が目に入った。

「その方々は‥‥?」
 レティーシャ王妃は、レオンに皇太子が来ている事は伝えていなかった。そして、彼等が誰なのかも。

「‥‥レリアーナが言っていた‥‥帝国アレキサンドライトのテオドール皇太子殿下と、帝国の魔術師様です‥‥。


 っ‥‥‥あなたの‥‥心を‥‥‥見つけて下さった‥‥。

 私達の恩人です‥‥‥。」

 嬉し涙で、その美しい顔が濡れていた。
 レオンは少し混乱していた。けれど、レティーシャが胸に抱くそのモノの鼓動を感じた。

 思い至ったレオン、その取り出された心臓が混乱と喜びでドクドクと鼓動が速くなっていた。

 レティーシャもそれを感じ、レオンの胸にそのモノを押し当てた。


 それが本人に帰る瞬間、ひまわりの様な暖かな色が溢れた。
 ドクンと、レオンの胸が鳴る。


「っ‥‥‥はっ‥‥‥。」

 その一体感に‥レオンの瞳から一筋の涙がこぼれた。




 この高鳴る鼓動は、自分の中で鳴っている。

 早い‥‥そして苦しい、泣き出しそうで‥‥

 叫びたい気持ちになった。


 ずっと、何年も離れていた命。

 愛する者の手で帰ってきた。

 命よりも大切だった人‥‥‥。




 その時のことを、今も鮮明に覚えている‥‥‥。


 命を捨ててもいいから‥‥生きていて欲しい‥‥‥。

 たとえその姿を見られなくなっても‥‥‥


 彼女達が生きていてさえくれれば‥‥


 そう思ったんだ‥‥‥。


「ぅ‥‥‥あぁっ‥‥‥なんてっ‥‥‥こんな‥‥‥こんな日がくるなんてっ‥‥‥。」


 レオンは胸を押さえて蹲りボロボロと涙を流した。

 声を抑える事はできなかった。

 此処にいれば‥‥愛する人に会えた‥‥。
 例え何十年縛られても、生きているか死んでいるのかわからなくても‥‥。その姿を見る事ができた‥‥。


 幸せだった‥‥。

 でも、こんな日が来るとは思わなかった‥‥‥。

 命が戻り‥‥外へ出て‥‥‥。


 ガチャンっと施錠が空いた。ロスウェルが鍵を開けたのだ。

 レティーシャ王妃がすぐさまの中に入って、レオンに抱きついた。


「愛しいレオンっ‥‥‥私のレオンっ‥‥‥‥

 良かった‥‥‥っ‥夢の様だわっ‥‥‥貴方を抱きしめる事が出来るなんてっ‥‥。」


 レオンの苦しげな泣き声が、地下室に響いた。


 その姿をテオドールとロスウェルはしばらく眺めていた。
 悲しい2人を救う事が出来た‥‥。


 あとは、この国をどうするかだ。

 国王は、皇太子によって死んだ。
 ポリセイオの政治について関与する事となる。

 王妃だけでは、貴族らを収めるのは難しい事だろう。
 テオドールは、既に考えていた。


 国民には知るべき事がある。それを果たしてこそ、
 自分の言葉が生きるのだ。



「レティーシャ王妃。」
 テオドールは、遠慮がちに声を掛けた。
「っ‥‥はい‥‥‥っ‥‥殿下‥‥。」

 レティーシャ王妃はレオンを抱きしめながらテオドールの方へ目を向けた。

「レオンはもう大丈夫だな?この件は解決だ‥‥いいな?」
「はいっ‥‥ありがとうございましたっ‥‥‥」

「よし‥‥国王は俺が首を刎ねたし、帝国で捕らえている王女とモンターリュ公爵、2人はいつでも処罰出来る状態となった。

 だが、この国の今後についてだが‥‥。」

「はい‥‥‥。」


 テオドールは、帝国の皇族として最善と思われる策を2人に伝えた。


 それは、少し難しいことかもしれないが、
 決して出来ない事でははずだ。
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