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約束

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 魔術師達による色鮮やかな花びらが式場にふんわりと舞い上がる。
 その光景に式に出席した者達は歓声を上げた。

 2人の誓いの口付け。


 そして、キラキラと2人の頭上から星の粒が落ちる。

「‥‥‥あんな演出あったか?」

 オリヴァーは拍手しながら首を傾げた。


 2人の頭上の星‥‥。


 ロスウェルに昨晩言われた言葉が蘇って少しだけ複雑だった。


 月はテオドール、星はリリィベル。


 悪と善の象徴。




 テオドールは悪ではない。この帝国の皇太子として凛々しく育ってくれた。
 そして、唯一無二の愛する者と出会ってこうして幸せそうに‥‥‥。


「‥‥‥‥また‥‥‥」

「あら、テオもリリィも泣いてるのね、よっぽど嬉しいのね。」
 少し涙ぐんだ皇后マーガレットがそう言った。
 隣でオリヴァーは黙った。



 また、泣いている‥‥。



 確かに、昨日の様子を見たら、泣く程嬉しいのだろう。


 どんな因果で星と月で結ばれ、その象徴であるこの場所で結婚式をして、
 涙を流しその夫婦の結びに歓喜しているのだろう。


 遠くで、ロスウェルが待機している。
 ロスウェルの魔術でこの光景は帝国の広場に、テオドールが提案した水晶版に待機した魔術師達の力で映り、集まった国民達が見ている。

 この帝国の皇太子と皇太子妃の結婚を‥‥‥。


 いや‥‥‥それだけじゃない‥‥‥。


 2人が結ばれているだけじゃない。

 因果となった‥‥‥魂‥‥‥。



 彼等が涙を流している。



「‥‥‥‥‥ぅー‥‥‥ん‥‥‥‥。」

 オリヴァーは少し考え込んで拍手を続けた。


 2人が祭壇を降り、2人で下がっていく。


 涙の跡を残しながら、嬉しそうに顔を見合わせ笑い幸せな道への扉を開けた。


「‥‥‥マーガレット、我々も行こうか。」
「はい、オリヴァー様‥‥。」

 マーガレットの手を取り、皇帝と皇后が儀式殿を後にする。
 その繋げた手をふと見て、オリヴァーは握る手に力を込めた。

「オリヴァー様?」
「いや‥‥なんでもない‥‥。パレードがあるから急ごう‥‥。」



 ‥‥‥昔から、テオドールは、少し変わった男の子だった。


 頭もよく、剣術も、教える前から身に付いていて、
 非の打ち所がない子だった。


 そして、女の子を極端に嫌がった。

 城に来てからありとあらゆるパーティーでも警戒するような目で周りを見ていた。


 婚約の話も、ひどく怒っていた‥。


 今思えば、リリィベルを待っていたのか‥‥‥。


 それくらい、強い結び‥。




 なぜ分かる?どうやって?


 自分がもし、生まれ変わったら‥‥‥

 再び、マーガレットと出会いたい‥‥。






 生まれ変わったら‥‥‥





 ああ‥‥‥なんとなく‥‥‥腑に落ちる‥‥‥。




 もしも、本当に俗に言う前世があるなら、

 自分も同じく、マーガレットを探す事だろう‥‥。




 この世でどんな結末を迎えようとも、


 次の世があるのなら、再び、マーガレットを愛したい‥‥。





「だとしたら‥‥2人は、どんな想いで終えたのだろな‥‥‥。」




 控え室に戻ったテオドールとリリィベルは、きつく抱き締めあった。


「テオってば‥‥」


 噛み締めるように、テオドールはリリィベルを抱き締め涙を流した。

「‥‥許せ‥っ‥‥‥今日なにもかも済んだなら‥‥っ

 お前を守るためにっ‥‥‥強くなるっ‥‥‥約束だっ‥‥‥


 でも今はっ‥‥‥このままで居させてっ‥‥‥」



 綺麗なウェディングドレスを着たリリィが、あの時の礼蘭と重なって、予行練習の時を思い出し頭を巡った。


 礼蘭を失った後、繰り返し見た映像の中の礼蘭を‥‥


 叶わなかった夢が時を越えて、世界を変えて現実となった。






 俺の花嫁は‥‥‥‥此処いる‥‥‥‥。


 あの時叶えられなかった夢を、たくさん叶えよう‥‥‥。




「この時を‥‥‥ずっと‥‥‥待ってた‥‥‥ね‥‥‥暁‥‥‥。」


「!!!!」



 ドクンと胸を打つ、同じ声からその名を呼ばれる‥‥


「ぁあっ‥‥‥‥あぁっ‥‥‥‥待ってたよ‥‥‥礼蘭‥‥‥っ‥‥‥‥。」




 この世界で、自分達は暁と礼蘭という名前ではない。
 けれど魂と心は、あの時と同じだ。
 溶け合う魂。喜ぶ身体。



 2人の人生は、まだ続いていく。




 途切れることのない愛の世界。






 神殿を出ると、遠くで帝国民達が大きな歓声をあげて2人を祝福していた。
 たくさんの笑顔が、2人に向けられる。

 国民達に手を振り、2人は皇室の馬車に乗りそのまま帝都を一周し城へ戻る。その後を皇帝と皇后がついて回った。
 どの道を進んでも、2人を祝う笑顔は絶えなかった。

 喜ばしいこの日を皆が見ている。
 2人の幸せそうな笑顔を。


 城門の前、ここにもたくさんの人々が集まっていた。
 護衛の騎士団に守られ、2人は馬車が停まる。


 皇太子と皇太子妃を呼ぶ声が響く。


「みんな、ありがとう!!」
 嬉しそうなテオドールが国民達にそう声を張った。

 黄色い声も混じるその中で、テオドールに手を引かれリリィベルが馬車を降りた。


 美しい装いの2人を見てうっとりとため息を漏らす人々が絶えない。

 それくらい今日の2人は一層輝いていた。

 泣き腫らした頬はこっそり治癒魔術を使って完璧だ。



 裏で皇太子と皇太子妃が腫れる程泣いている事は、誰も知らない。
 2人だけの秘密。

 何食わぬ顔で微笑んで大勢が集まる大ホールへと向かった。


 夕暮れから始まる2人の披露宴は2人のダンスが始まりの合図となる。
 この日のために何度も練習されたオーケストラが優雅に音を鳴らす。



 ホールの中心で幸せそうに踊る2人を、皆が微笑ましく見ている。

「なぁ、誕生日の日を思い出さないか?」
「ふふっ・・・はい。」

 テオドールの胸に頬を寄せてリリィベルは微笑んだ。
「俺はな?お前だと・・・すぐに気が付いたんだ。」
「テオは、いつから・・・・。」

「俺は・・・俺はな・・・・。」


 生まれ変わった瞬間から、暁の記憶を持ったまま・・・・ここへ来たんだ。


「生まれた時から、お前を・・・ずっと探してた・・・・。」
「私はね・・・・。」

「わかってる・・・・。お前は、俺が皇子だなんて知らなかったんだろ?」

 くるりと回り、距離をとった。そして引き寄せられて身体を寄せ合い、見つめあった。


「がっかりした?」
 リリィがそう呟いた。
 そんなリリィベルに、テオドールはふるふると小さく首を横に振った。


「いいや・・・。お前が、俺のために・・・ずっと・・・ここに来られなかったことも・・・。
 俺がお前を思い出すたびに、お前を思い焦がれるたびに・・・お前が体調を崩すって・・・

 お前と出会ったときに知ったんだ・・・・。だから・・ここに来ることが出来なかったんだろ?」

「会いに来たんだよ・・・?テオの8歳の誕生日祭の時・・・・でも・・・・。」
「ああ・・・8歳の誕生日・・・俺はお前を思い出して激しく感情を乱した・・・。
 お前を強く焦がれたから・・・お前がここに来られなかった・・・。

 もう・・・二度と・・・俺の為に無理するな。」


 優雅なワルツで身を寄せ合いテオドールは、真剣な瞳をリリィベルに向けた。

「お前は・・・ずっと・・・俺が守る・・・。だから・・・もう二度と俺の為に自分を犠牲にするな・・・。俺が・・・今度こそ、どんなことをしてもお前を守るから・・・。」

「・・・もう、あなたを泣かせたりしません・・・。絶対に・・・。

 私は、今度は、ずーっとあなたのそばにいるんだから・・・。」

 そう言ってリリィベルは笑った。
 その笑顔に、テオドールは柔らかく微笑んだ。


「ずっと一緒だ・・・。お前を二度と・・・離さない・・・。」


 リリィベルを後ろから抱きしめステップを踏み、テオドールは幸せそうに笑った。

「覚えてるか?あの時したかった、写真を・・・絵にしてもらおう?」
「ふふっ・・ここには写真はないもんね。」

「ああ、不思議だな。俺たち二人だけ、文明が進んでるからな。」
「あははっ」


 2人だけが知る世界。その会話に二人はクスクスと笑ってダンスを続けた。

「この世界では、俺は皇太子で、お前は皇太子妃だ。」
「ふふっ・・・皇太子殿下?」
「なんだ?」

「私を世界一のお嫁さんにしてくれたんだね。」
「位だけじゃないぞ?女として、世界で一番、幸せな花嫁だ!」


 ジャンっと音楽が終わりを告げた。
 2人はつないだ手を離さずに見つめあった。


 ニッと笑ったテオドールは、そのままリリィベルの手を引っ張った。
 そして、思うままにその唇にキスをした。

「これは、俺たちの永遠のお約束だ。な?」
「ふふっ・・・。うんっ!」




 毎日毎日、星の数ほどキスをしよう。

 それは前世からの約束。
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