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2章 悪女、決闘!
11話 悪女、勧誘
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「――え、お断りします」
慧、即答。
蘭華二度目の玉砕である。
「おやまあ……私はいつも振られてしまう運命なのかしら」
悲しそうに頬に手を当て嘆く蘭華に、慧の眉間に皺が寄る。
「あなた、自分がなにをいっているかわかっているの? 私は蝶月様の側仕えですよ。というか、何故あなたがこんなところにいるんですか」
「もちろん。わかっておりますわ。でも、私宮を移って侍女が一人もおりませんので、蝶月様にお一人侍女をお貸しいただこうと思った次第ですの」
慧が睨みをきかせても、蘭華は一切動じなかった。
「第一皇太子妃の侍女である私がなにが悲しくて追放された元妃の侍女にならなければいけないんですか」
「でも……あなたとてもつまらなさそうな顔をしているじゃない?」
今の生活に不満を抱いているのでは? と彼女は素っ頓狂に微笑んだ。
平然といい放つその表情が慧には癪に障り、眉間に皺を寄せた。
「ふざけないで。誰があなたなんかの侍女になるもんですか!」
「おや、私貴女に嫌われるようなことしたかしら」
「そういうところが大っ嫌いなんです!」
ふんっ、とそっぽを向けば向かいからくすくすと愉快な笑い声が聞こえてくる。
「嫌いということは私を好きになってくれる可能性があるということですねっ!」
「……はあ?」
「だって好きの反対は無関心ですもの。私に嫌いという感情を向けていただけるということは……まだ望みがあるということ!」
慧のことなんて露知らず、蘭華は一人楽しそうにぶつぶつと呟いている。
そして満面の笑みで慧に微笑み書けた。
「うふふっ、必ずあなたを振り向かせてみせますわ! 楽しみにお待ちくださいね!」
そういって、蘭華は新しいおもちゃでも見つけたかのような表情をして宮を後にしていった。
「なんなのあの人……」
嵐が過ぎ去ったあとのように、廊下はしんと静まりかえる。
なんだかどっとつかれた気がする。
「ほんっとにムカツク! なんなのあの自由奔放な生き物はっ!」
ずんずんと足音荒くたてながら慧は廊下を歩いていく。
大っ嫌い大嫌い大嫌い――!!
(覚えてなさい、紅蘭華!)
自分には決して出来ない自由奔放なあの女。
その姿をまじまじと見せつけられ、更に慧は蘭華への嫌悪感を増したのであった。
*
「はあっ!? 第一皇太子妃の侍女を引き抜く!?」
その晩、あばら屋に龍煌の絶叫が響き渡った。
「ふふ、声が大きすぎですよ。龍煌様」
二人で食卓を囲みながら、蘭華はにっこりと微笑んだ。
今日の夕飯は倉庫に眠っていたいつのものかわからない米と荒れ果てた畑に生えていた野草の雑炊。
「私が出掛けている間、龍煌様が屋根などを綺麗に治していただいたので雨風はしのげるようにはなりましたが……如何せん、私の料理技術では龍煌様をご満足させられないかもしれません」
龍煌は今日一日、家の修繕に尽していた。
その甲斐もあり、あばら屋だったはずの住処は人が住める状態となり、目の前にある畑も少しは使えるようになった。
とはいえその主は身の回りの世話を全て侍女たちに任せていた元妃と、長年幽閉されていた廃太子。
自活能力は皆無だ。となると、早く侍女が必要となってくる。自分たちの生活のためにも。
「二人きりの生活も楽しいけれど、一人くらい味方がいないと。計画も前に進めませんしねえ。それに毎日、雑炊を食べることになります」
「……だからといって、何故皇太子妃の妃なのだ」
「だってあの子……私たちと同じ目をしていたんですもの」
その言葉に龍煌は首を傾げる。
「この世に辟易とした暗い目。でもその奥に、新たな刺激を求める光を隠している――」
それに、と蘭華はさらに続けた。
「私、一度欲しいと思ったものは是が非でも手に入れたい性分ですの」
頬に手を当て、うっとりと呟く蘭華を見て龍煌は「好きにしろ」と呆れたように頭を抱えるのであった。
*
後日、蝶月のもとに一通の手紙が届く。
それに目を通した彼女の手が震えた。
「慧を侍女に迎え入れたい!? 蘭華のやつ、なにを考えているの!?」
「た、ただの悪戯ではないのかと思うのですが……」
苛立つ蝶月の傍で、慧は内心焦っていた。
(あの人、本気だったの……!?)
「あの女。どこまでも、私を小馬鹿に! 追放された妃が、第一王妃の侍女を奪おうだなんて!」
恥を知りなさい! ときぃぃぃと叫んでいる。
「うふふ、下剋上の下剋上ですよ。蝶月様」
そしてどこからともなく、彼女は現れる。
蝶月の宮に現れた蘭華はゆったりとした足取りで側に来ると、その地に膝を突いた。
「蘭華! あなた、どの面を下げて私の宮に!」
「……元々は私の住処。侵入経路など幾らでもあります」
にこりと微笑む蘭華に、蝶月はぐっと歯を噛みしめる。
「慧を欲しいだなんて、あなた一体何様のつもり!?」
「彼女は蝶月様にとってとても大切な侍女。誰もただでとは申しておりませんよ。ですから、ここは決闘と致しましょう」
蘭華は蝶月を見上げ、優雅に笑う。
「決闘!?」
「はい。私が勝てば、侍女を頂きます。私が負けたら……そうですね、この私が蝶月様の侍女となりましょう」
「は、はは……」
最初はひきつった笑みを浮かべていた蝶月が、次第に高笑いに変わっていく。
「いいわ、いいわっ! あなたを侍女に出来るなんて、こんな面白いことはない!」
「……ということは」
「面白いわ! その勝負受けて立とうじゃない! 決闘よっ!」
勝ち誇る蝶月をみて、蘭華はそれは大層嬉しそうににっこりと微笑むのであった。
慧、即答。
蘭華二度目の玉砕である。
「おやまあ……私はいつも振られてしまう運命なのかしら」
悲しそうに頬に手を当て嘆く蘭華に、慧の眉間に皺が寄る。
「あなた、自分がなにをいっているかわかっているの? 私は蝶月様の側仕えですよ。というか、何故あなたがこんなところにいるんですか」
「もちろん。わかっておりますわ。でも、私宮を移って侍女が一人もおりませんので、蝶月様にお一人侍女をお貸しいただこうと思った次第ですの」
慧が睨みをきかせても、蘭華は一切動じなかった。
「第一皇太子妃の侍女である私がなにが悲しくて追放された元妃の侍女にならなければいけないんですか」
「でも……あなたとてもつまらなさそうな顔をしているじゃない?」
今の生活に不満を抱いているのでは? と彼女は素っ頓狂に微笑んだ。
平然といい放つその表情が慧には癪に障り、眉間に皺を寄せた。
「ふざけないで。誰があなたなんかの侍女になるもんですか!」
「おや、私貴女に嫌われるようなことしたかしら」
「そういうところが大っ嫌いなんです!」
ふんっ、とそっぽを向けば向かいからくすくすと愉快な笑い声が聞こえてくる。
「嫌いということは私を好きになってくれる可能性があるということですねっ!」
「……はあ?」
「だって好きの反対は無関心ですもの。私に嫌いという感情を向けていただけるということは……まだ望みがあるということ!」
慧のことなんて露知らず、蘭華は一人楽しそうにぶつぶつと呟いている。
そして満面の笑みで慧に微笑み書けた。
「うふふっ、必ずあなたを振り向かせてみせますわ! 楽しみにお待ちくださいね!」
そういって、蘭華は新しいおもちゃでも見つけたかのような表情をして宮を後にしていった。
「なんなのあの人……」
嵐が過ぎ去ったあとのように、廊下はしんと静まりかえる。
なんだかどっとつかれた気がする。
「ほんっとにムカツク! なんなのあの自由奔放な生き物はっ!」
ずんずんと足音荒くたてながら慧は廊下を歩いていく。
大っ嫌い大嫌い大嫌い――!!
(覚えてなさい、紅蘭華!)
自分には決して出来ない自由奔放なあの女。
その姿をまじまじと見せつけられ、更に慧は蘭華への嫌悪感を増したのであった。
*
「はあっ!? 第一皇太子妃の侍女を引き抜く!?」
その晩、あばら屋に龍煌の絶叫が響き渡った。
「ふふ、声が大きすぎですよ。龍煌様」
二人で食卓を囲みながら、蘭華はにっこりと微笑んだ。
今日の夕飯は倉庫に眠っていたいつのものかわからない米と荒れ果てた畑に生えていた野草の雑炊。
「私が出掛けている間、龍煌様が屋根などを綺麗に治していただいたので雨風はしのげるようにはなりましたが……如何せん、私の料理技術では龍煌様をご満足させられないかもしれません」
龍煌は今日一日、家の修繕に尽していた。
その甲斐もあり、あばら屋だったはずの住処は人が住める状態となり、目の前にある畑も少しは使えるようになった。
とはいえその主は身の回りの世話を全て侍女たちに任せていた元妃と、長年幽閉されていた廃太子。
自活能力は皆無だ。となると、早く侍女が必要となってくる。自分たちの生活のためにも。
「二人きりの生活も楽しいけれど、一人くらい味方がいないと。計画も前に進めませんしねえ。それに毎日、雑炊を食べることになります」
「……だからといって、何故皇太子妃の妃なのだ」
「だってあの子……私たちと同じ目をしていたんですもの」
その言葉に龍煌は首を傾げる。
「この世に辟易とした暗い目。でもその奥に、新たな刺激を求める光を隠している――」
それに、と蘭華はさらに続けた。
「私、一度欲しいと思ったものは是が非でも手に入れたい性分ですの」
頬に手を当て、うっとりと呟く蘭華を見て龍煌は「好きにしろ」と呆れたように頭を抱えるのであった。
*
後日、蝶月のもとに一通の手紙が届く。
それに目を通した彼女の手が震えた。
「慧を侍女に迎え入れたい!? 蘭華のやつ、なにを考えているの!?」
「た、ただの悪戯ではないのかと思うのですが……」
苛立つ蝶月の傍で、慧は内心焦っていた。
(あの人、本気だったの……!?)
「あの女。どこまでも、私を小馬鹿に! 追放された妃が、第一王妃の侍女を奪おうだなんて!」
恥を知りなさい! ときぃぃぃと叫んでいる。
「うふふ、下剋上の下剋上ですよ。蝶月様」
そしてどこからともなく、彼女は現れる。
蝶月の宮に現れた蘭華はゆったりとした足取りで側に来ると、その地に膝を突いた。
「蘭華! あなた、どの面を下げて私の宮に!」
「……元々は私の住処。侵入経路など幾らでもあります」
にこりと微笑む蘭華に、蝶月はぐっと歯を噛みしめる。
「慧を欲しいだなんて、あなた一体何様のつもり!?」
「彼女は蝶月様にとってとても大切な侍女。誰もただでとは申しておりませんよ。ですから、ここは決闘と致しましょう」
蘭華は蝶月を見上げ、優雅に笑う。
「決闘!?」
「はい。私が勝てば、侍女を頂きます。私が負けたら……そうですね、この私が蝶月様の侍女となりましょう」
「は、はは……」
最初はひきつった笑みを浮かべていた蝶月が、次第に高笑いに変わっていく。
「いいわ、いいわっ! あなたを侍女に出来るなんて、こんな面白いことはない!」
「……ということは」
「面白いわ! その勝負受けて立とうじゃない! 決闘よっ!」
勝ち誇る蝶月をみて、蘭華はそれは大層嬉しそうににっこりと微笑むのであった。
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