悪女ですがなにか~追放悪妃は廃太子を道連れに後宮生活を謳歌する~

松田 詩依

文字の大きさ
12 / 30
2章 悪女、決闘!

11話 悪女、勧誘

しおりを挟む
「――え、お断りします」

 慧、即答。
 蘭華二度目の玉砕である。

「おやまあ……私はいつも振られてしまう運命なのかしら」

 悲しそうに頬に手を当て嘆く蘭華に、慧の眉間に皺が寄る。

「あなた、自分がなにをいっているかわかっているの? 私は蝶月様の側仕えですよ。というか、何故あなたがこんなところにいるんですか」
「もちろん。わかっておりますわ。でも、私宮を移って侍女が一人もおりませんので、蝶月様にお一人侍女をお貸しいただこうと思った次第ですの」

 慧が睨みをきかせても、蘭華は一切動じなかった。

「第一皇太子妃の侍女である私がなにが悲しくて追放された元妃の侍女にならなければいけないんですか」
「でも……あなたとてもつまらなさそうな顔をしているじゃない?」

 今の生活に不満を抱いているのでは? と彼女は素っ頓狂に微笑んだ。
 平然といい放つその表情が慧には癪に障り、眉間に皺を寄せた。

「ふざけないで。誰があなたなんかの侍女になるもんですか!」
「おや、私貴女に嫌われるようなことしたかしら」
「そういうところが大っ嫌いなんです!」

 ふんっ、とそっぽを向けば向かいからくすくすと愉快な笑い声が聞こえてくる。

「嫌いということは私を好きになってくれる可能性があるということですねっ!」
「……はあ?」
「だって好きの反対は無関心ですもの。私に嫌いという感情を向けていただけるということは……まだ望みがあるということ!」

 慧のことなんて露知らず、蘭華は一人楽しそうにぶつぶつと呟いている。
 そして満面の笑みで慧に微笑み書けた。

「うふふっ、必ずあなたを振り向かせてみせますわ! 楽しみにお待ちくださいね!」

 そういって、蘭華は新しいおもちゃでも見つけたかのような表情をして宮を後にしていった。

「なんなのあの人……」

 嵐が過ぎ去ったあとのように、廊下はしんと静まりかえる。
 なんだかどっとつかれた気がする。

「ほんっとにムカツク! なんなのあの自由奔放な生き物はっ!」

 ずんずんと足音荒くたてながら慧は廊下を歩いていく。
 大っ嫌い大嫌い大嫌い――!!

(覚えてなさい、紅蘭華!)

 自分には決して出来ない自由奔放なあの女。
 その姿をまじまじと見せつけられ、更に慧は蘭華への嫌悪感を増したのであった。



「はあっ!? 第一皇太子妃の侍女を引き抜く!?」

 その晩、あばら屋に龍煌の絶叫が響き渡った。

「ふふ、声が大きすぎですよ。龍煌様」

 二人で食卓を囲みながら、蘭華はにっこりと微笑んだ。
 今日の夕飯は倉庫に眠っていたいつのものかわからない米と荒れ果てた畑に生えていた野草の雑炊。

「私が出掛けている間、龍煌様が屋根などを綺麗に治していただいたので雨風はしのげるようにはなりましたが……如何せん、私の料理技術では龍煌様をご満足させられないかもしれません」

 龍煌は今日一日、家の修繕に尽していた。
 その甲斐もあり、あばら屋だったはずの住処は人が住める状態となり、目の前にある畑も少しは使えるようになった。
 とはいえその主は身の回りの世話を全て侍女たちに任せていた元妃と、長年幽閉されていた廃太子。
 自活能力は皆無だ。となると、早く侍女が必要となってくる。自分たちの生活のためにも。

「二人きりの生活も楽しいけれど、一人くらい味方がいないと。計画も前に進めませんしねえ。それに毎日、雑炊を食べることになります」
「……だからといって、何故皇太子妃の妃なのだ」
「だってあの子……私たちと同じ目をしていたんですもの」

 その言葉に龍煌は首を傾げる。

「この世に辟易とした暗い目。でもその奥に、新たな刺激を求める光を隠している――」

 それに、と蘭華はさらに続けた。

「私、一度欲しいと思ったものは是が非でも手に入れたい性分ですの」

 頬に手を当て、うっとりと呟く蘭華を見て龍煌は「好きにしろ」と呆れたように頭を抱えるのであった。



 後日、蝶月のもとに一通の手紙が届く。
 それに目を通した彼女の手が震えた。

「慧を侍女に迎え入れたい!? 蘭華のやつ、なにを考えているの!?」
「た、ただの悪戯ではないのかと思うのですが……」

 苛立つ蝶月の傍で、慧は内心焦っていた。

(あの人、本気だったの……!?)
「あの女。どこまでも、私を小馬鹿に! 追放された妃が、第一王妃の侍女を奪おうだなんて!」

 恥を知りなさい! ときぃぃぃと叫んでいる。

「うふふ、下剋上の下剋上ですよ。蝶月様」

 そしてどこからともなく、彼女は現れる。
 蝶月の宮に現れた蘭華はゆったりとした足取りで側に来ると、その地に膝を突いた。

「蘭華! あなた、どの面を下げて私の宮に!」
「……元々は私の住処。侵入経路など幾らでもあります」

 にこりと微笑む蘭華に、蝶月はぐっと歯を噛みしめる。

「慧を欲しいだなんて、あなた一体何様のつもり!?」
「彼女は蝶月様にとってとても大切な侍女。誰もただでとは申しておりませんよ。ですから、ここは決闘と致しましょう」

 蘭華は蝶月を見上げ、優雅に笑う。

「決闘!?」
「はい。私が勝てば、侍女を頂きます。私が負けたら……そうですね、この私が蝶月様の侍女となりましょう」
「は、はは……」

 最初はひきつった笑みを浮かべていた蝶月が、次第に高笑いに変わっていく。

「いいわ、いいわっ! あなたを侍女に出来るなんて、こんな面白いことはない!」
「……ということは」
「面白いわ! その勝負受けて立とうじゃない! 決闘よっ!」

 勝ち誇る蝶月をみて、蘭華はそれは大層嬉しそうににっこりと微笑むのであった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。

火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。 王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。 そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。 エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。 それがこの国の終わりの始まりだった。

処理中です...