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1章「運命の幕開け」
7話 別れはいつも突然に
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「お父様!」
訓練場にやってきたメンバーに呼び出され、わたし達は大急ぎで屋敷に帰ってきた。
案内されたのはお父様の寝室。そこに広がっていた光景にわたしは息を飲んだ。
「……おとう、さま?」
「なにが、あった」
張り詰めたリオンの声が遠くに聞こえる。
だってベッドには大怪我をしたお父様が横たわっていたのだから。
「魔獣に、やられたんです。聞いていた話とは違う大型が現れて、その攻撃から俺たちを守って……!!」
「医者は……! 癒やし手はいないのか!」
「……っ、すみません。手は尽くしたのですが、もう……」
ベッドの周りで大勢の人が騒いでいる。
あのリオンが珍しく取り乱し、声を荒げている。この事態がただ事ではないことは嫌でも分かった。
幼い私は大人達の蚊帳の外で。お父様が苦しんでいる光景を、呆然と見つめていることしかできなかった。
「————リ、ラ」
か細い声が確かに聞こえた。
「リラ、リラ……いるか?」
弱々しい声。強くて優しいいつものお父様の声とは正反対だった。
お父様は朦朧とした意識の中でゆっくりと手を動かし、わたしを呼んでいた。
「……っ、おとうさま! わたしはここ!」
その瞬間、わたしの体はすぐに動いた。
大きな大人たちの体を押し除けて、お父様に駆け寄る。
お父様の体には包帯がぐるぐる巻きにされていた。真っ白な包帯が真っ赤に染まっていく。特にお腹のところの怪我がひどい。これは誰がみても助からないのは一目瞭然だった。
「おとうさま。おとうさま。大丈夫よ! 絶対に助かるから」
わたしは涙を堪えて、こちらに向けて伸ばされた大きな手を両手でぎゅっと握りしめた。
こんなときに治癒魔法が使えたら。でも、どれだけ念を込めてもそんなに上手くはいかなかった。
前世の私、ゲームの中だったら治癒魔法は簡単に使えた。けれど、ここはゲームの世界じゃない。
「リラ……ああ、可愛い娘……近くで顔を見せてくれ」
あんなに強かったお父様がこんなに弱々しくなっている。
それだけで涙が止まらなくなって、わたしの目からは堪えきれずに大粒の涙がこぼれ出した。
「……泣くな。お父様はいつもお前の傍にいる」
「やだよ。お父様。絶対助かるから。わたしだって、助かったんだから」
そう、死にかけていたわたしが一命を取り留めたのだからきっと奇跡は起こる。
助けを求めるように周りをみたが、皆視線をそらした。
「リオン、お父様が……!」
「…………っ」
リオンに助けを求めると、悔しそうな声で歯を食いしばっていた。
その表情を見て、お父様は苦しそうに、かかかと笑う。
「なぁに、気にするなリオン。お前のせいじゃあない」
「……すまない」
その一言が全てだった。
リオンは悔しげに拳を握り締めている。彼が謝るということはそういうことだ。
わたしは信じられなくて頭を横に何度もふる。
「いやよ! なんで諦めるの! だって、お父様はまだ生きてるのにっ! ようやく、せっかく、会えたのに!」
転生した先の父。
とても大きくて、強くて、優しくて、前世の私の父親とは正反対だったが大好きだった。
そんな人とこんなに早く、こんな風に別れるなんて受け入れられない。
「――リオン、リラを頼んだぞ」
「命に、変えても」
その言葉を聞いたお父様は満足そうに微笑んだ。
「じゃあな、リラ。どうか……幸せに」
お父様の手から力が抜け、瞳からどんどんと光が消えていく。
「――パロマ、今いくよ」
その言葉を最後に、お父様は動かなくなった。
体から力が抜け、わたしはその大きな手を受け止めきれずぐったりと床につく。
部屋の中は静寂に包まれていた。
これが最強クランマスター・ノエル=レーヴェの最期。
そしてわたしの唯一の肉親との別れだった。
訓練場にやってきたメンバーに呼び出され、わたし達は大急ぎで屋敷に帰ってきた。
案内されたのはお父様の寝室。そこに広がっていた光景にわたしは息を飲んだ。
「……おとう、さま?」
「なにが、あった」
張り詰めたリオンの声が遠くに聞こえる。
だってベッドには大怪我をしたお父様が横たわっていたのだから。
「魔獣に、やられたんです。聞いていた話とは違う大型が現れて、その攻撃から俺たちを守って……!!」
「医者は……! 癒やし手はいないのか!」
「……っ、すみません。手は尽くしたのですが、もう……」
ベッドの周りで大勢の人が騒いでいる。
あのリオンが珍しく取り乱し、声を荒げている。この事態がただ事ではないことは嫌でも分かった。
幼い私は大人達の蚊帳の外で。お父様が苦しんでいる光景を、呆然と見つめていることしかできなかった。
「————リ、ラ」
か細い声が確かに聞こえた。
「リラ、リラ……いるか?」
弱々しい声。強くて優しいいつものお父様の声とは正反対だった。
お父様は朦朧とした意識の中でゆっくりと手を動かし、わたしを呼んでいた。
「……っ、おとうさま! わたしはここ!」
その瞬間、わたしの体はすぐに動いた。
大きな大人たちの体を押し除けて、お父様に駆け寄る。
お父様の体には包帯がぐるぐる巻きにされていた。真っ白な包帯が真っ赤に染まっていく。特にお腹のところの怪我がひどい。これは誰がみても助からないのは一目瞭然だった。
「おとうさま。おとうさま。大丈夫よ! 絶対に助かるから」
わたしは涙を堪えて、こちらに向けて伸ばされた大きな手を両手でぎゅっと握りしめた。
こんなときに治癒魔法が使えたら。でも、どれだけ念を込めてもそんなに上手くはいかなかった。
前世の私、ゲームの中だったら治癒魔法は簡単に使えた。けれど、ここはゲームの世界じゃない。
「リラ……ああ、可愛い娘……近くで顔を見せてくれ」
あんなに強かったお父様がこんなに弱々しくなっている。
それだけで涙が止まらなくなって、わたしの目からは堪えきれずに大粒の涙がこぼれ出した。
「……泣くな。お父様はいつもお前の傍にいる」
「やだよ。お父様。絶対助かるから。わたしだって、助かったんだから」
そう、死にかけていたわたしが一命を取り留めたのだからきっと奇跡は起こる。
助けを求めるように周りをみたが、皆視線をそらした。
「リオン、お父様が……!」
「…………っ」
リオンに助けを求めると、悔しそうな声で歯を食いしばっていた。
その表情を見て、お父様は苦しそうに、かかかと笑う。
「なぁに、気にするなリオン。お前のせいじゃあない」
「……すまない」
その一言が全てだった。
リオンは悔しげに拳を握り締めている。彼が謝るということはそういうことだ。
わたしは信じられなくて頭を横に何度もふる。
「いやよ! なんで諦めるの! だって、お父様はまだ生きてるのにっ! ようやく、せっかく、会えたのに!」
転生した先の父。
とても大きくて、強くて、優しくて、前世の私の父親とは正反対だったが大好きだった。
そんな人とこんなに早く、こんな風に別れるなんて受け入れられない。
「――リオン、リラを頼んだぞ」
「命に、変えても」
その言葉を聞いたお父様は満足そうに微笑んだ。
「じゃあな、リラ。どうか……幸せに」
お父様の手から力が抜け、瞳からどんどんと光が消えていく。
「――パロマ、今いくよ」
その言葉を最後に、お父様は動かなくなった。
体から力が抜け、わたしはその大きな手を受け止めきれずぐったりと床につく。
部屋の中は静寂に包まれていた。
これが最強クランマスター・ノエル=レーヴェの最期。
そしてわたしの唯一の肉親との別れだった。
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