ロイレシア戦記:青の章

方正

文字の大きさ
3 / 27

第三話

しおりを挟む
 謁見の間で会談を終えた私達は、マクバーン様主催で大広間でパーティを開かれることになった。
 ドレスのままで私とクロウは2階から全体を見渡せる位置で二人で並んでいる。
 テーブルの上には生ハムとチーズが盛られた小皿と、大皿の上には綺麗に彩られたローストビーフや蒸された野菜。
 グラスに注がれた赤いワイン少しずつ飲む。口を付けたところには、口紅の痕が着いている。
 支柱に背を掛けて、クロウはグラスの中をゆっくりと回している。
「物資が不足しやすい冬の時期とはいえ、王城はこんな旨い物出せるんですねぇ」
小さいフォークで、まだ湯気が立つ赤いニンジンに刺して、口に運ぶ。
 口の中で小さく砕いて飲み込む。
「王城だからね。下の方は食事どころじゃないみたいだけど」
1階へと視線を移すと、貴族たちが話し合っていた。
 世継ぎの事や自身の権益の話が聞こえる。
 私はため息を吐いた。難しい話は勘弁してほしい。
 家にいた頃は、縁談の話がたまに来ることがあった。
 剣術がうまい奴にしか娘を渡さないとか言って、その度にお父様やクロウが相手していた。
 今まで、勝った人どころか互角な戦いをした人と出会ったことがない。
「あの頃にはこんな贅沢が出来るとは思わなかったですけどね」
クロウは少しずつグラスの中のワインを飲んでは、中身を回転させている。
 たまに、ローストビーフを口に運んでいる。
 空になったワイングラスをテーブルに置いて、彼の隣に並んで腕を組む。
「あなたは殺されそうなところを私が救ってあげたのよね。元傭兵さん?」
彼はその言葉を聞くとめんどくさそうにぼさぼさの頭を掻いた。
 残ったワインを一気に飲み干すと、ボトルから新しく赤い液体を注ぐ。ブドウの匂いが鼻に付いた。
 クロウは元々傭兵で渡り歩いていたが、私の家の領土内で衛兵と問題を起こした。
 精鋭揃いの衛兵団全員相手に3日3晩戦い続けて、その結果クロウは力尽きる。
 私が処刑されるところを助けてからは、武闘会に参加させることになる。
 主に力を証明させることと、優勝させることで死罪をなくさせる事。
 結果は領土の治安維持軍を務めていた。当時の騎士団長を倒して優勝した。
「誰もクロウが勝利するなんて思っていなかっただろうし、今では狼騎士とか獅子騎士とか言われて人気者だからね?」
クロウは興味なさそうに、グラスの中身を回していた。
 傭兵だったせいか、名誉とか称号とか興味が無いらしい。
 そんなのよりも酒とか金が欲しいらしい。名誉では飯が食えないとか。
「フィオラ・ライト・イエルハート様。ヴァイオレット様がおよびですが、よろしいでしょうか?」
初老の眼鏡をかけた執事が私に声をかけた。
 私がクロウを見ると、頷いて残っていた赤ワインを一気に飲み干した。
 立て掛けていた私の武器を拾って、執事の後ろをついていく。
「ヴァイオレット様は中庭でお待ちです」
灯で昼間と同じぐらいの明るさの廊下を抜けた。外は既に日が沈んでいた。
 この城には二つの中庭がある。一つは私達の部屋から見えた空を見渡せる広い中庭。
 もう一つはドーム状にガラス張りの天井がある中庭だ。
 この国では育つ事が無い花や植物を見れるように厳密な管理をしている。
 何代か前の王が作ったらしい。
 彼女の母親が好んでよく訪れていたという。
 廊下の先に合った大扉を開くと彼女は居た。
 白い薔薇を目を閉じて、静かに匂いを嗅いでいる。
「ヴァイオレット様、私をお呼びでしょうか」
彼女の隣で跪いて、頭を下げる。
 赤い髪に赤いドレスを身に纏っていた。
 目を開いてから、顔の前から白薔薇を離すとテーブルの上に置いた。
 目つきは鋭い。
「辞めなさい。礼儀を重んじるなんてあなたらしくないですよ?フィオ」
その言葉が聞こえると、私は静かに立ち上がる。
 片足に体重を乗せてから、腰に手を当てた。そして、大きく息を吸った。
―――懐かしい花の香りがした。
「私らしくなかったわ。いつも通りでいいのね?ヴィオ」
私が放った言葉に対して、反応したのが二人いた。
 一人はクロウ。王族に対して、常に誠実に対応していた行動を変えたのだから。
 もう一人は彼女の後ろに居た大男。彼の表情は驚きの表情から、やがて怒りの表情へと変わっていく。
 やがて、剣の柄に手を掛けていた大男が刃を抜いた。
「貴様!姫様にそのような言葉を!」
私の身体に迫る刃は甲高い鉄の音と共に動きが止まった。
 後ろで立っていたクロウが刀を抜いて剣を止めている。
 二人の目つきは猛獣の様な目つきで睨み合っている。
 小刻みに震える刃は不気味な音を立て続けていた。
 奥に並んでいた二人のメイドが恐怖の表情で顔を染めている。
「お嬢を斬るなら俺がてめえを斬る!」
「黙れ!」
このままだと殺し合いになりそうだ。
「やめなさい。ヴァン」
「剣を納めなさい。クロウ」
彼女と同時に声を発すると、二人はゆっくりと距離を取って鞘に刃を納めた。
 しかし、彼らの目つきはいまだに殺気をまとった雰囲気を醸し出している。
 謁見の間でクロウが強いと言っていた男か。
 確かに只者ではなさそうだ。
 ヴァン、王族直下の騎士団元帥の名前だったはず。
「食事の途中だったでしょ?食事を用意させました」
メイド達がフルコースの前菜、野菜料理が盛りつけられた皿を四角形の木製のテーブルに二つ置いた。
 赤と黄に緑などの色とりどりの温野菜が湯気を上げている。
 野菜に掛かっている白いソースが食欲をそそるチーズの匂いをしている。
 私とヴィオの分。
 あとの二人のは別のテーブルに用意されるのだろう。
 けれど、いがみ合っている二人を背中に感じながら食事どころか話しずらい。
 何とも言えない雰囲気を打ち切ったのはヴィオの発言だった。
「ヴァン。殺気を抑えなさい」
「ですが……!」
私もクロウを視線で見ると、狼のような鋭い目つきをしている。まるで獣。
 イラついている証拠に片手の指を折り曲げては、開くという動作を繰り返している。
「クロウ。あなたね……」
「この野郎、お嬢を切りかかろうとしたんですけど?」
ヴィオと視線が合うと一緒にため息をついた。
 恐らく考えていることは同じ。この場でどちらが強いか証明させる事。
 この中庭の中央には、円状で石造りの床が広がっている。直径6メートルぐらいの大きさだ。
 やがて、ヴィオが声を発する。
「クロウと言ったかしら、あなたにはヴァンと模擬戦を行って頂きます。武器はお互いの腰に下がっている物を使う事。致命傷を与える位置に当てた方が勝利でいいでしょ。もちろん寸止めはする事です」
クロウの眼が輝き出してにやけた笑いを浮かべた。自分より強い人間と戦う時の眼をしている。
 彼が持っていたバスタードは私に突き出された。持っておけという事だ。
「クロウ!勝ちなさい!これは命令よ?」
クロウは私が言葉を発すると驚いた表情をして、笑みを浮かべて静かに頷いた。
 円形の石畳で向かい合って、お互いに構える。
 ヴァンは背中のクレイモアを抜くと、両手で握ってから下腹部で柄を握る。
 クロウは低く腰を落として鞘に入ったままの刀の柄を握り、いつでも抜けるように少しだけ抜いている。
「面白くなりましたね。そう思わないかしら?」
ヴィオは料理が置かれたテーブル左側に座ると、右手で反対側に座るように手のひらを向けて催促する。
 彼女はこの戦いを楽しんでいる。余興として。私の騎士の力を見る為に。
 私が席に座ると、メイド達は二つ並んでいるグラスに水を注いだ後で、食前酒として白ワインを注いだ。
 ヴィオの後に私の順で。メイド達は一礼して少しだけ距離を取った。
「どこで拾ったの?フィオの騎士は」
水を一口飲んで、カリフラワーをフォークで刺して口に入れてから噛み砕いて、飲み込む。
 一度大きな破裂音が響き渡る。
 恐らく、一撃で決めるつもりだったのだろう。重い剣撃が鳴り響いてから、彼らの戦いが始まった。
「元罪人で元傭兵、私の家主催での武闘会で優勝したの。彼は私の命を守る為だけに生きる事を誓ったわ」
彼女は顔色を一つ変えずに、湯気が立つ野菜を口に運んではたまに戦いを見ていた。
 元罪人なら驚くと思ったのだけど。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

竜皇女と呼ばれた娘

Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ 国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

慈愛と復讐の間

レクフル
ファンタジー
 とある国に二人の赤子が生まれた。  一人は慈愛の女神の生まれ変わりとされ、一人は復讐の女神の生まれ変わりとされた。  慈愛の女神の生まれ変わりがこの世に生を得た時、必ず復讐の女神の生まれ変わりは生を得る。この二人は対となっているが、決して相容れるものではない。  これは古より語り継がれている伝承であり、慈愛の女神の加護を得た者は絶大なる力を手にするのだと言う。  だが慈愛の女神の生まれ変わりとして生を亨けた娘が、別の赤子と取り換えられてしまった。 大切に育てられる筈の慈愛の女神の生まれ変わりの娘は、母親から虐げられながらも懸命に生きようとしていた。  そんな中、森で出会った迷い人の王子と娘は、互いにそれと知らずに想い合い、数奇な運命を歩んで行くこととなる。  そして、変わりに育てられた赤子は大切に育てられていたが、その暴虐ぶりは日をまして酷くなっていく。  慈愛に満ちた娘と復讐に駆られた娘に翻弄されながら、王子はあの日出会った想い人を探し続ける。  想い合う二人の運命は絡み合うことができるのか。その存在に気づくことができるのか……

金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉
ファンタジー
アルシャインは真面目な聖女だった。 しかし、神聖力が枯渇して〝偽聖女〟と罵られて国を追い出された。 郊外に館を貰ったアルシャインは、護衛騎士を付けられた。  そして、そこが酒場兼宿屋だと分かると、復活させようと決意した。 そこには戦争孤児もいて、アルシャインはその子達を養うと決める。 アルシャインの食事処兼、宿屋経営の夢がどんどん形になっていく。 そして、孤児達の成長と日常、たまに恋愛がある物語である。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

処理中です...