ロイレシア戦記:青の章

方正

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第二十二話

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 まだ薄暗い朝方に目を覚ました。というよりも寝付けなかったのが正しい。
 朝焼けの光に星が飲み込まれていくのが窓から見える。白のワンピースの寝間着のまま立ち上がり、隣のベットに視線を移すがクロウの姿は見えない。ソファの方へと視線を移すと肘置きに頭を乗せて刀を抱きしめる様に寝ている姿が目に映った。
 テーブルに空のワイン瓶とチーズの欠片が皿の上に乗っていた。静かに寝息を立てて、警戒心も無しに眠っている。
 仄かに香るクロウが飲んだであろうワイン瓶から匂う部屋の中。窓を開けてその匂いを夏の朝の独特な湿気交じりの風でかき消す。
 今日はいよいよヴィオの戦いの結果がどう判断されるかわかる日だ。
 窓の淵に腰掛けて黒い髪を風に靡かせて外を見つめていた。遠くに見える山には朝露で発生した霧が森に白のべールで覆いかけていた。
 日が登っていくほどに白のべールは徐々に薄くなって消えて行った。
「んぁっ。あれ、お嬢、お早い事で」
まだ夏とはいえ少しだけ冷える朝の風に当てられて、頭に手を当てて首を軽く回しながら目を覚ましたクロウ。久しぶりに上物のワインや色々な酒を飲んだせいか顔色が悪そうだった。
「おはよう。顔色悪いけど大丈夫?」
体を起こして、水が入った瓶をテーブルから掴み取りそのまま口を着けて喉を鳴らして飲む。
 そして、再びベットに横になった。
「時間までもう一度、寝やす……」
覇気のない声を出して、眠りについた様子。
 空が青さを取り戻していく毎に、次第に外が慌ただしくなっていく。使用人達の声で城内はあっという間に賑やかさを取り戻す。
 昨日の正装のまま、寝ているクロウの横で授与式用の軍服に着替えを済ませた。使用人がドアをノックして朝食と暖かい紅茶を運んできてくれた。
 2人分の朝食をテーブルに並べて、時間になったらもう一度呼びに来ると言って部屋を出ていく。クロワッサンにサラダとベーコンエッグ、湯気がまだ立っている紅茶。クロウの反対側のソファに座って、少し冷えた体に紅茶を啜って体の中を温めた。
 クロウが再び目を覚ます頃には紅茶の二杯目を注いでいるところだった。
 顔色は一回目を覚ました時と比べて、少しだけ顔色は良くなっていた。無理矢理詰め込むように朝食を口に放り込んで、すっかり冷めきった紅茶で流し込んでいた。
「そんなに大急ぎで食べなくても良かったんじゃない?」
すべての皿を空にしたクロウは猫の様に大きく背伸びをした。
「王城の飯以上に旨いものなんて中々食べる事なんてありませんからねぇ。それにほら」
クロウは視線を扉の方に移すと、さっきとは別の使用人が扉をノックして入ってきた。式を行う大広間へと案内するという事だった。
 お互いに服装を整えて、大広間へと使用人の後ろに着いて行った。
 まだ、人が少なくまばらの中で最前列に座る。戦場に向かう前と同じ場所。私が前に座り、クロウは気だるそうな表情を浮かべて立っている。
 数分経って次第に人が入り、すべての席は埋まる。号令が鳴り、国王様とご子息4名がこちら全体を見渡せるステージの上に用意された座席に座った。
「これより、授与式を執り行う!名を呼ばれたものはマクバーン様の元へお越しください!」
使用人がそう言って号令を掛ける。一人一人が功績を読まれて、報酬を受け取る。
 私の名前が呼ばれて、マクバーン様の元で跪く。クロウも私の斜め左後ろで同じように膝を着いた。
 横の使用人が功績を読み終えると顔を上げた。左の瞳は白く色がなく、右の瞳は黒いが色が薄くなっているようだった。
 しばらく、私を見つめた後でゆっくりと言葉を発した。
「奮戦ぶりを聞かせてもらった。ヴァイオレットの為にありがとう」
ありがとうございますと感謝の言葉を述べた。
 立ち上がった時に奥のヴィオと視線が合う。お互いに静かに微笑んで次の人と入れ替わるようにして座席に戻った。
 全員が終わると最後はヴィオの成果について話し出す。
「これより、ヴァイオレット指揮下の評価を行う!」
マクバーン様がそう言うと、その直後に声を発した者が居た。
「お待ちください。父上様。ヴァイオレットが起こした軍規違反について報告があります」
そう言いだしたのは三男のレイウス様だった。一同が彼に注目して、大広間全体がざわつく。
 そして、沈黙を促す様に三回だけ手を叩いて鳴らすと一人の兵士が一人の少年を連れて入ってくる。皆が何者だと興味を視線で表していた。
 兵士は第三師団のレイウス様指揮下だろう。少年は10代半ばで髪の毛はぼさぼさ、服装からして農民の子だろうと予想できる。
 中央まで少年を連れてくると、レイウス様は近づいて腰と膝を曲げて視線の高さを同じに合わせた。
「少年。名前は?」
厳格な性格をしているという方とは思えない優しい語り掛けだった。その言葉に答える様に少年は言葉を発した。
「マルコ・グローリーです。レイウス様」
皆が少年の声に耳を傾けて静かに聞いている。そして、注目も集めている。
 私とクロウも少年とレイウス様に視線を移していた。
「マルコ。いいかい?ここで嘘を着いたら、どんな人であれ処刑される。素直に全部話すんだ、いいね?」
その言葉に少年は深く頷いた。
「まずは、君の村で何が起きたか詳しく聞かせてくれ」
少年は不安そうな表情を浮かべてから、ゆっくりと話し出した。
「大人達が一斉に村の人達と父と母を殺しに来ました。負傷した兵隊さん達もまとめてです」
少年が言うには、複数名の大人たちによって村人全員が虐殺されてしまったという。一通り話し終えると、レイウス様は少年の肩を小さく優しく叩いた。
「辛い事を思い出して、勇気を出して話してくれてありがとう」
レイウス様は立ち上がると、マクバーン様の方へと視線を向けた。少年の言葉通りなら虐殺が合った事は間違いなさそうだ。しかし、それがヴィオが行ったという決定的な証拠がない。
 皆がざわつき出す。嘘ではないのかや信用できないという言葉が小さい声で飛び交う。
「この少年は督戦隊が保護しました。そして、ヴァイオレットに質問がある。丁度、陣内に居なかったという報告を受けているが何処に言っていたのか教えてくれないか?」
皆が視線をヴィオの方へと移した。疑惑を向けた視線や虚偽だと言って欲しいという期待の視線といった様々な眼差しが向けられる。
 しかし、ヴィオが答える前に言葉を発したのはマクバーン様だった。
「マルコよ、後で詳しく話を聞かせてくれ。一旦、この度の式はここまでとする。ヴァイオレットについての追及や調査は後ほど行わせて頂こう」
マクバーン様がそう言うと少年は大広間の外へと連れ出された。
 周囲がヴィオはどうなるのかと騒ぎ出す。そして、マクバーン様は衛兵達に視線を向けてヴィオを連れ出した。
 使用人が今日はここまでという事を皆に伝えて、各々部屋へと戻っていく。
 レイウス様が行った事は皆の心に疑惑の種を植え付ける事だったのかもしれない。同時にヴィオの心に深い傷も付けてしまった。
 ほとんど全員が大広間を立ち去ってから私達は後にした。
 部屋に戻ると糸が切れた人形の様にソファへと座り込む。
「お嬢……姫さんどうなるんですか?」
クロウが部屋の扉を閉めると言葉を発した。そして、紅茶を入れてくれた。
「わからないのが本音。もしも、本当だった場合は確実に王位継承権は剥奪でしょうね」
目の前のテーブルに赤焦げた色の紅茶が入ったティーカップが置かれる。それを両手で持ち、湯気に息を吹きかけてからほんの少し温度を下げる。
 紅茶の水面に疲れた顔をした私が映った。あんなに頑張ったのにヴィオの成果が一瞬で壊されてしまったような気がする。
「今日まで王都に泊まって、明日には帰りましょうか。私達が残ってもしょうがない」
そう言ってほんのりと甘い紅茶を一口だけ含むとテーブルに戻す。
「わかりました。皆にそう伝えてきます」
クロウが部屋から出ていくと私は窓を開けた。外には夏至祭で賑わう街が視界に入る。
 窓の淵に棒の様に真っ直ぐ腕を伸ばして掴む。流れ込んでくる湿った風を顔に受けて大きく深呼吸した。
 彼女なら大丈夫。きっと。
 どんな困難もヴィオなら乗り越えれるはず。
「ごめんね。私は何にも出来なさそう」
己の無力さをつい言葉にしてしまった。
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