異世界はどこまでも自由で

メルティック

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ホーナスト小国

3-1.言伝

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「この場所って不思議だね。タジくんが起きるまで、一緒にいいかな?」

 俺はこくりと頷いて、不思議な服を着た少女を隣に招く。快く、ちょこんと座ってくれた彼女をまた見つめ直す。しかし奇抜な服だ。相変わらず黒の上に緑蛍光色の模様がきらきらと映えており、ぴったり肌を隠しているがそれでいてゆとりがある。更にこれまた黒い、ぶかぶかとしたマフラーのようなものが首に巻かれ、それも丁度口元を隠すようになっている。
 まじまじと眺めていると、フークが気付いてこちらを向く。黄色に近い色だろうか――その瞳には潤い、淀み、凹凸といったものが全く感じられなく、ある種記号めいている。人形の目とも似つかわぬ、まるで眼球の上にシールが貼り付けられているかのような――

「そんなに珍しいかな」

 じっと見つめているとそんな事を言われて、首を縦に振る。フークは頬を人差し指でかきながらぷいと正面を向き直った。

「あんまり見ないで欲しいな」

 眉をひそめながらそう言った彼女の表情には、しっかりとした人間味があってどこかホッとした。うぐいす色の長髪をかきわけながら、彼女は言葉を続ける。

「ただここに来たかった訳じゃなくてね、この前言った通り、君の力になれるんじゃないかなって思ったんだ」
「力……?」

 一つ彼女が頷くと、続ける。

「オトコ様から、伝言を預かってるの。タジくん達についていった時に、教えてくれたの」
「――なっ、なんて言ってたの!?」

 ここでまた意外な名前を出されて驚き、ばっと迫ってしまう。ちょっと上半身の距離を取られながらも、言葉が続けられる。

「えっとね、『これは想定外の出来事だ、私達はここで彼らの望むであろう事に従い、破滅してしまうかもしれないし、しないかもしれない。もし滅んだ時、君には覚えていてほしい。ホーナストという地に次の予兆が見えるのだ』……一字一句、間違わず、伝えました」

 俺に向かってぺこりと礼をした。それを聞き、まずそれが本当に確かなのかを彼女に聞いた。ただの彼女の想像であったり、自己解釈が混じっていないのか、再度問うた。勿論そんな訳ない、とすっぱり言われたが、オトコ様が話したところなんて聞いていないため信じがたい。そして何より、それを伝えるって事は――

「もしかして、ホロトコ村が――」

 すぐにシトレア、そしてその妹、気前よくしてくれた村の人々、エリシエ、ヴィルシスの顔が浮かんだ。

「それは分からない。タジくんについていっちゃったから、本当にそうなったかどうかは分からないよ。まさかこんな形で会えるなんて夢にも思わなかったし――これ言っちゃうと、駄洒落になっちゃうかな」

 くすくす笑ってそう言いながら、フークは話を終える。俺はその言葉にほっとしたような、しかしどこかもやもやするものが残った。すると突然立ち上がり、歩き出した。

「ちょっと暇だし、一緒に歩こうよ」
「あー、でも俺、待ってる人がいるんですよ」
「……こんな所で?」

 ふわりと老人の声が浮かび上がる。何故あの人を待つのか分からないが、待ちたい、と心のなかで強く思っていた。フークはそんな俺を見て、首をかしげた。

「タジくんと、私以外に、誰かいるの?」

 俺は頷いて、その老人について話をした。フークは何も答えなかった。

「……タジくんだけは、私の事を、ちょびっとだけど認識できてるみたいだから、さ。そんな人誰一人いなかったから、一緒に何か遊んでみたいかなって思って――ダメかな?」

 ちょっと八の字眉になった彼女の境遇は分からないが、彼女がそうしたいのなら、言伝のお礼にも、そうするべきだろう。

 それから俺達は走り回って遊んだ。灰砂をなぞって絵を描いてみたり、でっかい山を作ってみたり、そこから手を突っ込んで手を繋いだり、なんてこともした。灰砂はとてもさらさらで、すぐに手が通った。その際の彼女の顔が本当に楽しそうで、嬉々としながら次の遊びの提案をするので、こちらもつられて、久方ぶりに子供のようにはしゃいでしまった。こんな単純なことで楽しめたのって、いつまでだったろうか。どちらかというと、自分の娘と遊んでいるかのような、そんな感覚に陥っていた。

 遊び疲れてどさっと二人で寝転んだ時、ふと思い浮かんだ事があった。

「そういえば、エリシエさんの事知ってるんだっけ」
「エリシエ――あぁ、ね」
「クリミナレドってのが、彼女の本名?」
「ううん、どっちも正しいよ」
「そうなんだ」
「なんでエリシエを選んだのかは分からないけど――」

 そうフークが言った瞬間、ぼそりと小さな一言が聞こえてきた。

「ほんっと、悪趣味」

 思わずフークの方を見てしまい、フークもこちらを見ていた。マフラーから微かにこぼれた口元が魅力的に映る。彼女はまた上を向いて、喋りだした。

「そろそろ夢が閉じちゃうね、起きたらここの事は忘れてるかもしれないけど――私の名前を覚えてくれていたように、しっかり刻まれてるって信じてるからね」

 そう言ったフークは、にこりと笑ってこちらを向き直した。のぞく口元もまた口角が上がり、しっかりと微笑みが作られている。

 そしてすぐに頭の中が真っ白になっていき、意識が朦朧としてくる。



~~~ ~~~ ~~~~~~~



 一つおおきなあくびを出してから目を覚ました。眠りが深く快眠できたためか、とても気分が良い朝だ。すぐに、山中が干し肉を食べていることに気付く。

「あ、タジさんおはようございます――」
「起きろ! 新人に用がある!」

 突然家のドアが開き、見覚えのある紫髪の少女が現れる。

「うぇぇっ!? ちょ、リジッドラットさん、俺確か鍵――」
「壊してはいない、我にかかればこんなもんちょちょちょいのちょいだ」

 相変わらず眼帯がずれてる――そんな事はさておきだ、突然押しかけられてきたことで、山中は干し肉を口に入れかけてるところで固まっている。

「ナッ、なんですか……?」

 そしてそんな彼から、上ずった声が出た。

「そうだ、新人! お前を少しの間、我の元で飼おうと思ってだな」
「か、飼う!?」

 山中の顔がみるみる内に赤くなっていった。そしてリジッドラットは俺の方を見て「よいか?」などと言ってきている。

「新人、お前には見込みがある。仕込みがいがあると思ってだな、我の最初の眷属になるに値するかもしれない、と判断した故!」

 いつの間にか山中の後ろにいて、ぽんとその両肩を叩いた。

「借りてくぞ?」
「や、山中ちゃんがいいなら俺はどっちでもいいけど――」
「ふ、不束者ですが……」

 山中はぺこりと、誰もいないところに向かってお礼をした。正直何をされるか知らないが、山中は確かリジッドラットさんの事可愛いとか何とか言ってた気がするし、願ったりかなったりなんじゃないかな、と思ってる。
 話は円滑に進んでいき、暫くの間預かるらしく、たまにギルド越しで顔を見せるということで話が決まった。ギルド越しってことはつまりミルチュットさんとも接点を作るってわけで――イライラしてきた。これが嫉妬なのだろうか。
 笑顔のリジッドラットに引かれる山中を、複雑な気持ちで見送った。

 金もあるわけだし、当分生活には困らない。最近したのは人助けと、こわ~い箱を届けるクエスト。ここらで一つ旅クエでも受けて気晴らししようかな、という気持ちでギルドにやってくると、新しく貼られたクエストが目についた。


     *****     *****     *****

依頼主:ネーア=ホーナスト

依頼内容:某小国の姫をやっております。ちょっとした諍いでここまで一人で家出してきました故、どこか二人旅に連れてくださると嬉しゅう存じます。

報酬:ございません。


ギルドタイトル:早く戻った方がいいと思います【即決】
タイトル考案者:ミルチュット・ミストート

     *****     *****     *****


 ミルチュットさんの名前がまず目について、依頼内容もなんだか凄いことでおったまげた。とにかくこんなクエスト滅多にあるもんじゃない。即決、姫と二人旅なんて――すぐに、どこの馬の骨か知れないやつにクエストを取られてしまうじゃないか!
 早速いかがわしい考えを持った野郎が依頼に近付いていく。俺は思いっきりそいつにぶつかって無事に阻止、依頼をゲットした。そしてすぐさま走って依頼を受付まで持っていく。

 ミルチュットさんに渡した。軽蔑されたような目で見られて、鼻で笑われた。

「ちょっと待っててくださいねー」

 奥に引っ込んだ。
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