悪役令嬢は訳あり執事に溺愛される

さらさ

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⑥執事の特権(ミカエル)

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「ミカ!来てくれてありがとう、今日はヘンリー王子様との談話が早く終わってしまってどうしようかと思っていたのよ。でも、お父様の御用は大丈夫だったの?」

馬車に乗り城を出ると、唐突に話し出すレイラお嬢様、城の中では使用人にこんなふうに話しかけることが出来ないので、喋りたくてうずうずしていたのだろう。

「ジェフリー様より使いを頂きまして、お迎えにあがらせていただきました。ご主人様の手伝いは終わっていましたので大丈夫ですよ。」

「そう、良かった。あの東屋には初めて行ったのだけど、とても素敵な所だったわ。ジェフリー様がご用意してくださったお菓子もとても美味しかったのよ。」

興奮してキラキラとした瞳でニコニコと話すレイラお嬢様はやはり天使です。

「それはようございましたね。」

俺はニッコリと笑って返す。

「それより、東屋は随分離れたところにありましたが、おみ足は大丈夫ですか?」

「さすがミカ、痛かったの~。」

そう言ってドレスの裾を少し上げるレイラお嬢様、しゃがみこんで高いヒールの靴を脱がせると、赤くなっている。

「少しマッサージ致しますね。」

俺はレイラお嬢様の可愛らしい足をゆっくりとマッサージする。

「ねえ、ミカ、ジェフリー様は私がこの前のパーティでリサ様を虐めてた事ご存知のようなの。大丈夫かしら。」

跪いてレイラお嬢様の足をマッサージしていると、上から声が降ってくる。
どうやら俺の様子を覗き込みながら話をしているようで、声が近い。ということは、顔を上げるとすぐ近くにお嬢様の顔があるのだろう。

「ジェフリー様は特にレイラお嬢様に危害を加えようとされているようには見受けられませんでしたので、大丈夫だと思いますよ。」

俺は顔を上げずレイラお嬢様の可愛らしい足を見たまま答える。
そう、ジェフリー様は以前からレイラお嬢様を観察していたのを知っている。
初めは警戒したが、レイラお嬢様の姿を見てやんわりと微笑まれる姿を見て、兄が妹を見守るような光景に感じた。
俺だけが知っているレイラお嬢様を覗かれているようで、あまり気分は良くないが、今の所レイラお嬢様の素を見ても特に誰かに言おうとかいう気もなさそうなので、そのままにしている。
まあ、警戒を怠るつもりは無いけど。

「そう?ミカが言うなら大丈夫なのね?良かった。」

レイラお嬢様は俺の言葉に安心したのか、ほっと息を吐く。
今のレイラお嬢様の顔はマッサージの効果もあって、気の抜けた眠そうな顔をしているだろう。
そっと見上げると、やはり顔が近い。そしてやはり眠そうな顔をしている。

「今日は朝早く起きちゃったので眠いわ。」

レイラお嬢様は俺が顔を上げたのを見て訴えかける。

「どうぞお休み下さい。到着しましたら起こして差し上げますので。」

「うん、ありがとう。」

そう言うと、しばらくしてレイラお嬢様は眠りに落ちた。
俺は靴をそっと低いパンプスに履き替えさせると、前のめりのまま寝てしまったレイラお嬢様の横に座り、俺の肩にもたれかけさせる。
安心しきって眠る無防備なレイラお嬢様の、天使の寝顔を見ていられるのは、屋敷につくまでのしばらくの俺の至福の時だ。

レイラお嬢様と出会ったのはお嬢様が九歳、俺が十三の時、九歳の少女と言えば恥じらいや大人びた所が出てきてもいい頃だが、レイラお嬢様は俺に対しては恥じらうことなくなんでも言ってくれる。なんでも頼ってくれる。
頼もしい兄と思われているのかもしれないけど、何にせよ、こういう表情は俺にしか見せない。
それは男と見られていないとも言うが、今はこれでいい。

しばらくして馬車はグレイシス家に到着した。
出迎えたメイドに伝える。

「レイラお嬢様はお休みなので床を用意してくれ。」

レイラお嬢様を起こさないようにそっと伝えると、お嬢様を抱き上げて部屋までお連れして、そっとベッドに寝かせる。
天使の寝顔を独占できるのはレイラお嬢様専属執事の特権だ。






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