5 / 44
⑤ジェフリー公爵
しおりを挟むヘンリー王子との面会が早く終わったのは良いけれど、この後どうしようかしら。
お父様はお仕事中だし、ミカもお父様の仕事をしていると思うので邪魔をしちゃダメよね。わたくしはアフタヌーンティーを頂いたあとの退室予定だったのでお迎えもまだ来ないはず。どうしましょう。
とりあえず部屋を出てお父様の執務室の方へ向かって歩いていると、後ろから声をかけられた。
「レイラ嬢?」
どなたかしら?
振り返ると、そこにはジェフリー・ルシフェル・イルザンド公爵様が立っていた。
ジェフリー様は現国王陛下の末の弟君で、乙ゲーの五人いる攻略対象の一人です。
わたくしは主人公では無いので関係ないけれど、レイラとジェフリー様は仲が良く、主人公が嫉妬するシーンがあったと思います。
「ジェフリー様、ごきげんよう。」
「こんにちは、なにかお困りのように見えましたが?」
ジェフリー様は確か御歳二十七歳で王族らしい金髪の髪を背中まで伸ばして一つに束ねている。瞳の色は灰色で大人の物腰を携えた美形紳士です。
ゲームの中ではレイラとジェフリー様のお話は出てこなかったので、どのような仲なのかはよく分からないけれど、仲良くするのは問題ないわよね。
でも、さすがジェフリー様、困ってるのがよく分かりましたわね!
「ええ、少し時間が出来てしまって、とりあえず父の元へ行こうかと思っておりましたの。」
「そうでしたか、では私に少しお時間を頂いてもよろしいですか?」
ジェフリー様は物腰柔らかに私に尋ねる。
「時間・・・ですか?空いていますけれど・・・」
なにか御用かしら?
「では、あちらでお茶などいかがでしょう?」
「はい、ご一緒させていただきますわ。」
にっこり笑って返すとジェフリー様はクスリと笑ったけれど、レイラは気が付かなかった。
ジェフリー様に連れられてやって来たのは城の西側の庭園にある東屋のひとつだった。普段目につかない奥地ににあるその場所は緑豊かな場所で、周りに色とりどりの花が咲き乱れ幻想的な空間になっている。
「まぁ・・・ここは素敵なところですわね。」
「私の秘密の場所なんです。」
「こんな素敵な場所があったなんて、知りませんでしたわ、さすがジェフリー様ですわね!」
今まで見たことの無い景色にわくわくする。
「気に入って頂けたようで良かったです。お茶とお菓子を用意させましたのでゆっくりしていきましょう。」
レイラのはしゃぎ様にくすくすと笑いながらお茶を進めるジェフリー様。
「まぁ、まぁ、とても可愛らしいお菓子ばかりですわね!食べるのが勿体無いですわ。」
レイラは色とりどりのお菓子にキラキラとした瞳で眺める。
「まだありますので遠慮なくどうぞ。」
ジェフリー様に促されて一つお皿に取って食べ始める。
甘さが控えめでとても美味しい。
わたくしはしばらく目の前のお菓子に夢中になっていたけれど、ハタと我に返る。
「ジェフリー様、わたくしに何か御用でした?」
ジェフリー様を見るとほおづえを付きながらにこにことわたくしを見ていた。
「あの、なにか?」
わたくしの顔になにかついているのかしら、ホイップクリームがついているの?
慌てて口元をナプキンで拭う。
「くくっ、なにか付いているわけではございませんよ、ただ、レイラ嬢があまりにもお可愛らしくいらっしゃるので、つい見つめてしまいました。申し訳ございません。」
くすくすと笑いながら答えるジェフリー様。
なんだかわたくし失態を犯してしまったようです。
思わず顔に熱が出るのがわかって下を向く。
「先日とは随分違いますね。」
唐突に先日と言われてなんのことか戸惑う。
「先日?と言いますと?」
なんの事かしら。
「先日の私のパーティでの貴方とは別人だなと思いまして。」
ジェフリー様の言葉を聞いて背筋がスーッと寒くなる。
リサ様をいじめた時だわ。ジェフリー様、見ていらっしゃったのかしら。
「な、なんのことですか?わたくしはいつも同じですけれど?」
「私もレイラ嬢の十五歳のデビュタントまでは、可愛らしいご令嬢だという認識で、さほど気にしていなかったのですが、公の場ではなんだか無理して大人ぶってる樣に見えましてね、大人びた振りをしたいお年頃かとは思いますが、無理をしておいでのようで気になりまして。」
ジェフリー様はテーブルに両肘をつき、組んだ手の甲に顎を乗せてわたくしをじっと観察するように見つめる。
「ぜんぜんそんな事ございませんわよ、わたくし、いつも通りですわ。」
「そうですか?転んだリサ嬢に手を伸ばしそうになっていましたが、何故引っ込められたのですか?私の気のせいでしたか?」
思いっきり見ていらっしゃったのね!
「わたくしも気分が優れなくなってしまって・・・お先に失礼したのですわ。」
「そうでしたね、すみません、変な事を聞いてしまって。」
「いえ、お気にかけて頂いて光栄ですわ。」
私はにっこり笑ったけれど、ジェフリー様はなんだかまだ伺うような表情です。
ゔ、素晴らしいお菓子達の味がしませんわ・・・
しばらく気まずい空気でわたくしの事を観察していたジェフリー様が、わたくしがお茶を飲み終わったのと同時に話し出す。
「ちょうどお迎えが来たみたいだね。」
そう言って歩いてきた小道を見る。
私もつられて小道を見ると、そこにはミカが頭を下げて立っていた。
「え?どうしてミカが?」
わたくしまだ呼んでいないわ。
「迎えをよこすように頼んでおいたのです。」
ジェフリー様がにっこり笑う。
ジェフリー様凄い!どうして分かったのかしら。
「今日はご一緒出来て楽しかったです。またお誘いしても良いでしょうか?」
「わたくしこそ、困っている事全てお見通しでしたのね、助けていただいてありがとうございます。ぜひまたご一緒させて下さいませ。」
そう言って素敵な東屋を後にした。
0
あなたにおすすめの小説
転生した女性騎士は隣国の王太子に愛される!?
桜
恋愛
仕事帰りの夜道で交通事故で死亡。転生先で家族に愛されながらも武術を極めながら育って行った。ある日突然の出会いから隣国の王太子に見染められ、溺愛されることに……
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
急に王妃って言われても…。オジサマが好きなだけだったのに…
satomi
恋愛
オジサマが好きな令嬢、私ミシェル=オートロックスと申します。侯爵家長女です。今回の夜会を逃すと、どこの馬の骨ともわからない男に私の純潔を捧げることに!ならばこの夜会で出会った素敵なオジサマに何としてでも純潔を捧げましょう!…と生まれたのが三つ子。子どもは予定外だったけど、可愛いから良し!
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
王宮地味女官、只者じゃねぇ
宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。
しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!?
王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。
訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ――
さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。
「おら、案内させてもらいますけんの」
その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。
王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」
副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」
ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」
そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」
けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。
王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。
訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る――
これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。
★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。
溺愛王子の甘すぎる花嫁~悪役令嬢を追放したら、毎日が新婚初夜になりました~
紅葉山参
恋愛
侯爵令嬢リーシャは、婚約者である第一王子ビヨンド様との結婚を心から待ち望んでいた。けれど、その幸福な未来を妬む者もいた。それが、リーシャの控えめな立場を馬鹿にし、王子を我が物にしようと画策した悪役令嬢ユーリーだった。
ある夜会で、ユーリーはビヨンド様の気を引こうと、リーシャを罠にかける。しかし、あなたの王子は、そんなつまらない小細工に騙されるほど愚かではなかった。愛するリーシャを信じ、王子はユーリーを即座に糾弾し、国外追放という厳しい処分を下す。
邪魔者が消え去った後、リーシャとビヨンド様の甘美な新婚生活が始まる。彼は、人前では厳格な王子として振る舞うけれど、私と二人きりになると、とろけるような甘さでリーシャを愛し尽くしてくれるの。
「私の可愛い妻よ、きみなしの人生なんて考えられない」
そう囁くビヨンド様に、私リーシャもまた、心も身体も預けてしまう。これは、障害が取り除かれたことで、むしろ加速度的に深まる、世界一甘くて幸せな夫婦の溺愛物語。新婚の王子妃として、私は彼の、そして王国の「最愛」として、毎日を幸福に満たされて生きていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる