23 / 44
㉓ミカの試練(ミカエル)
しおりを挟む俺はグレイシス侯爵様の部屋を出ると、お嬢様の部屋に向かう前にお茶の用意をする為、キッチンに向かった。
今日はレイラお嬢様にとって忘れられない日になってしまっただろう。
レイラお嬢様の気を少しでも紛らわすことが出来ればいいんだが・・・
そう思いながら、俺は馬車の中で話していたアールグレイのミルクティーの用意をして、レイラお嬢様の部屋へと向かった。
部屋に入ると、レイラお嬢様はミーナに髪を乾かしてもらっていた。
表情は穏やかで落ち着いている。
良かった。少し落ち着かれたみたいだ。
俺は食事をするかレイラお嬢様に確認するが、やはり答えは「いらない」だった。
予想はしていたので、お茶と一緒にスコーンを用意して来ていた。
俺がレイラ嬢様の方へ近づくと、紅茶の香りに気がついたのか、レイラお嬢様がぱっと嬉しそうな顔になる。
「アールグレイのミルクティーね!」
俺はレイラお嬢様のその笑顔に癒されるんだよ。
レイラお嬢様にそう言いたい。
けど、俺は使用人。立場をわきまえないといけない。
俺と一緒にお茶をしたいと言ってくれたレイラお嬢様と、しばらくの間、紅茶とスコーンの話で盛り上がる。
そして、食べ終わった頃、レイラお嬢様が改まって俺に謝辞を述べる。
俺は感謝されることは出来ていない。
レイラお嬢様に怖い思いをさせて、怪我までさせた。
俺はレイラお嬢様の白い肌のあちこちに、小さな擦り傷があるのを見る。
俺は全然守れていない。
俺はちゃんと守れなかったことをレイラお嬢様に詫びた。けれど、レイラお嬢様はそれを否定する。
俺が居たから助かったのだと言ってくれる。
そして、話している最中、レイラお嬢様が急に言葉を詰まらせた。
見ると、みるみる青ざめた表情になっていく。
しまった、レイラお嬢様に今日の事を思い出させてしまった。
身を縮めて震えるレイラお嬢様を見て、俺は戸惑った。
今俺が触れると、余計怖がらないだろうか、男に触られるのは嫌じゃないだろうか・・・
俺はレイラお嬢様の隣まで行って少し距離を開けてしゃがみこむと、レイラお嬢様の顔色を伺うように下から見る。
「レイラお嬢様、俺が触れても大丈夫ですか?」
俺は触れていいのかわからず、レイラお嬢様に確認する。
すると、俺が傍にいることに気がついたレイラお嬢様が、俺に飛びついてくる。
俺はその行動が予想外で、レイラお嬢様を受け止めるのが精一杯で、後ろに倒れそうになるのを何とか堪えるが、尻もちをついてしまった。何とも不格好な状態だ。
「ミカ!!怖かった・・・っ!」
俺にしがみついて震えるレイラお嬢様を、俺はそっと抱きしめた。
しばらく背中をぽんぽんと優しく叩きながら抱きしめていたら、少し落ち着きを取り戻したレイラお嬢様が問いかける。
「・・・ミカ、何故触れていいのか聞くの?」
何故・・・レイラお嬢様は俺が怖くないのだろうか、
「・・・今男に触れられるのは、怖いかと思いまして・・・」
俺は、俺の一言で、また嫌な事を思い出さないか戸惑いながら答える。
すると、レイラお嬢様は俺の胸に埋めていた顔を上げて俺を見る。
「ミカに触れられて嫌なんて事は絶対無いわ。大丈夫よ。」
その顔には戸惑いも、遠慮も無く、当たり前の事のように答えるレイラお嬢様。
この顔は・・・俺の事、完全に男と見てないな・・・
まぁ、何度も思ってたことだけど、今日ほど自覚させられる日は無いな。
だけど、そのおかげで、こうしてレイラお嬢様の傍に居られるんだと思うと・・・なんか微妙だな・・・
「はは、信頼頂けて光栄です。」
俺は思わず複雑な思いを表に出して笑ってしまう。
「何それ、ミカ、変よ?」
俺の表情を見て、レイラお嬢様がクスクスと笑う。
「そうですか?」
俺は笑うレイラお嬢様をしばらく見つめる。
良かった。少し嫌な事を忘れてもらえたようだ。
だけど、夜一人になるのは怖いんじゃないだろうか?前回の時もあまり眠れなかったようだし・・・
「レイラお嬢様、今日は眠れそうですか?」
俺の問いかけに、レイラお嬢様は何かをしばらく考えられているようだった。
たぶん、一人になるのは怖いけど、俺を拘束する事を戸惑っているのだろう。
「眠れそうになければ、傍に居ますので、どうか安心してお休みください。」
俺はレイラお嬢様にそう伝える。
「それだとミカが休めないわ。」
やっぱり、レイラお嬢様は俺の事を心配してくれていたんだ。俺の事を心配するなんて、レイラお嬢様らしい。
だから俺は、いくらでもレイラお嬢様の為なら・・・と思える。
「私は一日くらい寝なくても大丈夫です。」
そう答える俺に、レイラお嬢様は即答で答える。
「それはダメよ!・・・じゃあ、わたくしが眠ったらミカもこの部屋で寝ていいわ。」
いい案だとでも言うように、レイラお嬢様が俺を見る。
もしもし?レイラお嬢様、それどういう意味か分かってます?
同じ部屋で寝る?
いくら俺の事を男と思ってなくても、それは不味くないですか?
「ん?どうしたの?ミカ?」
あ、ダメだ、レイラお嬢様、完全に俺の事を男と思ってないわ。
「私も一応男なんですけどね・・・」
複雑な思いで言う俺を、レイラお嬢様はきょとんとした顔で見つめる。
・・・いたたまれない・・・俺が悪かった。
レイラお嬢様は純粋なんだよな。
俺は使用人、言わば、物だ。
物が変なことを考えたのがいけない。
「分かりました。レイラお嬢様がお眠りになったら私はここのカウチを使わせていただきます。よろしいですか?」
俺はカウチを借りることを確認すると、レイラお嬢様も申し訳なさそうに謝る。
「うん、本当はベッドでちゃんと休んで欲しいけど・・・ごめんね。」
「全然大丈夫ですよ。私はどこででも寝れます。」
レイラお嬢様は使用人の俺の事まで心配してくれる。
本当にお優しい方だな・・・
と思っていたら、レイラお嬢様が悪戯っぽく言う。
「わたくしのベッドで一緒に寝る?」
・・・・・・
「レイラお嬢様!」
さすがにそれは笑えない。
失礼ながらレイラお嬢様にゲンコツをコツンと当てる。
レイラお嬢様は舌を出して笑っていた。
「ミカ、手繋いでいい?」
レイラお嬢様が布団に入られると、俺を見て言う。
その可愛い仕草に、思わず理性が飛びそうになるが、ぐっと堪える。
俺は失礼してベッドの脇に座ると、レイラお嬢様の手をそっと握った。
手の温もりにほっとしたのか、レイラお嬢様はしばらくして寝息をたて始める。
この状況、かなりヤバいな。
俺、頑張れ・・・
0
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ
しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”――
今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。
そして隣国の国王まで参戦!?
史上最大の婿取り争奪戦が始まる。
リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。
理由はただひとつ。
> 「幼すぎて才能がない」
――だが、それは歴史に残る大失策となる。
成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。
灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶……
彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。
その名声を聞きつけ、王家はざわついた。
「セリカに婿を取らせる」
父であるディオール公爵がそう発表した瞬間――
なんと、三人の王子が同時に立候補。
・冷静沈着な第一王子アコード
・誠実温和な第二王子セドリック
・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック
王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、
王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。
しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。
セリカの名声は国境を越え、
ついには隣国の――
国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。
「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?
そんな逸材、逃す手はない!」
国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。
当の本人であるセリカはというと――
「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」
王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。
しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。
これは――
婚約破棄された天才令嬢が、
王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら
自由奔放に世界を変えてしまう物語。
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
やけに居心地がいいと思ったら、私のための愛の巣でした。~いつの間にか約束された精霊婚~
小桜
恋愛
ルディエル・アレンフォードは森に住む麗しの精霊守。
そんな彼が、いよいよ伴侶を迎えようと準備を始めているらしい。
幼馴染という関係に甘んじていたネネリア・ソルシェは、密かにショックを受けていた。
そろそろ彼との関係も終わらせなければならないけれど、ルディエルも精霊達もネネリアだけに優しくて――?
「大丈夫。ずっと居たいと思えるような場所にしてみせるから」
鈍感なネネリアと、一途で奥手なルディエル。
精霊に導かれた恋は、本人だけが気づかない。
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
【完結】捨てられた皇子の探し人 ~偽物公女は「大嫌い」と言われても殿下の幸せを願います~
ゆきのひ
恋愛
二度目の人生は、前世で慕われていた皇子から、憎悪される運命でした…。
騎士の家系に生まれたリュシー。実家の没落により、生きるために皇宮のメイドとなる。そんなリュシーが命じられたのは、廃屋同然の離宮でひっそりと暮らすセレスティアン皇子の世話係。
母を亡くして後ろ盾もなく、皇帝に冷遇されている幼い皇子に心を寄せたリュシーは、皇子が少しでも快適に暮らしていけるよう奮闘し、その姿に皇子はしだいに心開いていく。
そんな皇子との穏やかな日々に幸せを感じていたリュシーだが、ある日、毒を盛られて命を落とした……はずが、目を開けると、公爵令嬢として公爵家のベッドに横たわっていた。けれどその令嬢は、リュシーの死に因縁のある公爵の一人娘……。
望まぬ形で二度目の生を享けたリュシーと、その死に復讐を誓った皇子が、本当に望んでいた幸せを手に入れるまでのお話。
※本作は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さんにも投稿しています。
※表紙画像はAIで作成したものです
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる