26 / 30
26話 セイラ嬢(シルル)
しおりを挟むリリアンナ嬢に好きだと伝える事が出来た翌日、ジュリアスからセイラ嬢についての報告を受けた。
まさか、ほんの少しの嫌がらせを受けていたのかもしれないけど、その噂のほとんどが自作自演?
俺との噂もわざとセイラ嬢が付き合っているように思わせる素振りをしていたのか? なぜ?何のために?
俺を射落とす為ならもう少し違った方法は無かったのか?
ダメだ、本人に問い質したい。
その日の放課後、どうしようか悩んだが、俺はセイラ嬢を呼び出した。
「シルル様、お話ってなんですか? 」
セイラ嬢はまさか自分の行いがバレているとも知らず、何時ものぶりっ子笑顔で小首を傾げて問いかける。
「うん、今日来てもらったのは、セイラ嬢が虐められてることについて確認をしたくてね、まぁ、座って 」
俺の言葉に従ってセイラ嬢は正面に腰掛ける。
「リリアンナ様の事ですか? 」
明るい笑顔で俺を見る。
「そうだね、セイラ嬢がリリアンナを貶めようと、わざと噂を広げたことかな 」
にっこり笑顔で俺も返す。
けれどその言葉に、セイラ嬢は一瞬眉を動かしただけで、すぐに笑顔に戻る。
「私が噂を? なんの事ですか? 」
まぁ、簡単には認めないだろうな。
「俺の情報網を舐めないで欲しいな、調べる気になれば直ぐに分かるんだよ、昨日セイラ嬢と話して、その後リリアンナとも話をした。俺はリリアンナを信じる。だとしたら誰が君を虐めているのか、調べれば直ぐにわかったよ 」
今回はジュリアスの情報網の凄さを改めて実感した。
入学当初は、ジュリアスの女好きにも困ったものだと思っていたけど、ある時、ジュリアスの女好きは情報収集も、兼ねていると知ってそれ以上止めるのを辞めた。彼は女性と話したことを全て覚えている。一人一人が話す内容はたわいない話だが、繋ぎ合わせれば重大な真実が見えることもある。それは分かっていたけど、今回ほど彼の能力に驚かされたことは無い。
「何故? リリアンナ様が嘘をついているとお考えにはならないの? 」
「俺は婚約者のリリアンナを信じる。優しいリリアンナが嘘をつくなんて考えられない 」
真っ直ぐにセイラ嬢を見て答えると、セイラ嬢は目線を逸らして何かブツブツとつぶやく。
「そうよ、そもそもリリアンナの性格が違うのよ、だからおかしなことになってるのよ 」
ん? リリアンナの性格が違う? 何言ってるんだ?
「だから、王子ルートに上手く乗れないんだわ 」
んん??
今なんつった?
俺の疑問を他所に、セイラ嬢は尚もブツブツと独り言をつぶやく。
「悪役令嬢が悪役令嬢らしくないのがそもそもおかしいんだわ」
「ちょっと待った! 」
決定的な言葉に、俺は立ち上がってテーブルに手を着くと、前のめりにセイラ嬢を見た。
俺の突然の動きに、セイラは驚いたように俺を見る。
「え? 」
「君は・・・もしかして転生者? 」
「・・・・・・・・・え? 」
セイラ嬢は一瞬俺の言葉が呑み込めなかったのか、数秒後にもう一度疑問符を浮かべる。
「コンビニ、スマホ、SNS、何の事か知ってるよね? 」
俺の問いかけに、セイラ嬢の表情が明らかに変わる。
「まさか・・・シルル様もそうなの? 」
「うん、ここは『私と王子様のキズナ』の中だろう? 」
その言葉が決定打だったのか、セイラ嬢の表情が一変する。
「え? マジで? 」
なんか久しぶりに聞く言葉でちょっと新鮮だなぁ、なんて感傷に浸っていると、セイラ嬢も前のめりに俺に近づく。
「シルル様は・・・前世男よね? 」
「もちろん 」
「何で『私と王子様のキズナ』を知ってるの? そういう趣味の人だったの? 乙女系男子? 」
「いや、至って普通・・・だと思うんだけどな、妹がこの小説好きだったんだよ 」
「へぇー、妹がいたんだ、でも、妹の本を読んでたんだね、やっぱ乙女男子じゃん 」
「・・・そうなるのか・・・俺、悪役令嬢のリリアンナが好きだったんだ、なんか可哀想でさ、だからこの世界に転生したとわかった時は絶対リリアンナを甘やかすって決めたんだ 」
「そういう事か、だからシナリオが変わっちゃったのね、元から王子が婚約者を溺愛してたら他になびくなんて無いわよね 」
ふぅっと溜息をつきながら椅子に座り直してソファに背を預けるセイラ嬢。
「シナリオ通りにしてたらそのうち元に戻るかなって思ってやってたのに、意味なかったんだ 」
「ごめん 」
セイラ嬢はシナリオ通りに演じようと必死だったのかもしれない。そう思うと、なんか憎めない。
「・・・悪役令嬢が好きって、うちのお兄ちゃんみたい 」
空を見上げながらつぶやくその言葉に、俺と同じような事を思う人がいたんだと安心する。
「セイラ嬢にはお兄さんがいたんだ 」
「うん、死んじゃったけどね・・・え? ・・・まさか・・・シルル様はお兄ちゃん? 」
「は? 俺とセイラ嬢は同い年だし、俺は王族だぞ、母の素性もしっかりしてる。そんな訳・・・」
そこまで言ってセイラ嬢が何が言いたいのか理解した。
「まさか・・・心菜? 」
俺は一度落ち着けていた腰を浮かせてまた身を乗り出した。
このテーブル、邪魔だ。
「ホントに、お兄ちゃんなの? 」
今目の前にいる、この学園に入学してから4年、ずっと一緒に居たセイラ嬢が妹の心菜?
ちょっと待って、俺は死んで生まれ変わった、じゃあ、心菜は?
「お前・・・いつ死んだ?! 」
10
あなたにおすすめの小説
強すぎる力を隠し苦悩していた令嬢に転生したので、その力を使ってやり返します
天宮有
恋愛
私は魔法が使える世界に転生して、伯爵令嬢のシンディ・リーイスになっていた。
その際にシンディの記憶が全て入ってきて、彼女が苦悩していたことを知る。
シンディは強すぎる魔力を持っていて、危険過ぎるからとその力を隠して生きてきた。
その結果、婚約者のオリドスに婚約破棄を言い渡されて、友人のヨハンに迷惑がかかると考えたようだ。
それなら――この強すぎる力で、全て解決すればいいだけだ。
私は今まで酷い扱いをシンディにしてきた元婚約者オリドスにやり返し、ヨハンを守ろうと決意していた。
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
※他サイト様にも掲載中です
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です
hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。
夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。
自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。
すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。
訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。
円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・
しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・
はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?
異世界転生した私は甘味のものがないことを知り前世の記憶をフル活用したら、甘味長者になっていた~悪役令嬢なんて知りません(嘘)~
詩河とんぼ
恋愛
とあるゲームの病弱悪役令嬢に異世界転生した甘味大好きな私。しかし、転生した世界には甘味のものないことを知る―――ないなら、作ろう!と考え、この世界の人に食べてもらうと大好評で――気づけば甘味長者になっていた!?
小説家になろう様でも投稿させていただいております
8月29日 HOT女性向けランキングで10位、恋愛で49位、全体で74位
8月30日 HOT女性向けランキングで6位、恋愛で24位、全体で26位
8月31日 HOT女性向けランキングで4位、恋愛で20位、全体で23位
に……凄すぎてびっくりしてます!ありがとうございますm(_ _)m
【完結】悪役令嬢ですが、元官僚スキルで断罪も陰謀も処理します。
かおり
ファンタジー
異世界で悪役令嬢に転生した元官僚。婚約破棄? 断罪? 全部ルールと書類で処理します。
謝罪してないのに謝ったことになる“限定謝罪”で、婚約者も貴族も黙らせる――バリキャリ令嬢の逆転劇!
※読んでいただき、ありがとうございます。ささやかな物語ですが、どこか少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。
《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる