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27話 絆(シルル)
しおりを挟む俺はセイラ嬢の前まで行って両肩を掴んでいた。
「お兄ちゃんが死んで半年後? 私の乗ってたバスが事故にあって・・・」
その言葉に、俺は言葉を失った。
そして、セイラ嬢をぎゅっと抱きしめた。
「・・・俺は早くに死んじまったけど、心菜は早く俺の事なんて忘れて幸せになって欲しいって思ってた。なのに・・・俺の歳より若くで死んだのかよ・・・」
しばらく無言でぎゅっと抱きしめた後、肩越しにつぶやく。その言葉に、心菜は頷いてから俺の背中にそっと手を回した。
「うん、心菜にはずっと優しいお兄ちゃんだった、大好きだったのに、お兄ちゃんの事忘れるなんて出来なかったよ、だから、バスが事故にあった時ね、これでお兄ちゃんのところに行けるって思ったの 」
いつの間にか心菜・・・セイラは俺の胸に顔を埋めて泣いていた。
「会えて嬉しい・・・! 」
「うん・・・うん・・・ 」
心菜の最後の願いが本当に叶ったのか、俺たちはここでもう一度会うことが出来た。
「お兄ちゃんと同じ所に転生出来て、しかも兄妹じゃ無くなってるのに、お兄ちゃんには別に好きな人がいるなんて・・・最悪・・・」
しばらく無言で泣いていたと思うと、不意に俺の腕の中で悪態をつく。
妹よ・・・俺もシスコンだったから妹と兄妹でなくなったのは嬉しいけど、お前も相当なブラコンだったのか・・・知らなかったぞ。
「くくっ、お前、俺と恋愛するつもりだったのかよ 」
前世の妹の小さい頃とかを思い出してしまってなんか可笑しくなる。
「あ、酷い! これでもめちゃくちゃお兄ちゃん大好きっ子だったんだからね!」
「うん、知ってるよ、そんなお前が俺も可愛くて仕方なかった 」
俺が腕をゆるめて顔を見ると、セイラも顔を上げて俺を見る。
「でも今はリリアンナ様が好きなんでしょ? 」
「うん、好きだ、一生守ってあげたい 」
この気持ちはどうしょうもない。
「はー、王子様にそんなセリフ言って欲しかったなー 」
セイラは俺から離れると背を向けて呟くように話す。
「やっぱり上手くいかないわね、今度はお兄ちゃんを独り占めできるチャンスだったのに、私がシナリオ通りに戻そうとしないで、もっと普通にしてたらお兄ちゃんも私に引かれてたかな 」
独り言のような妹の言葉に、俺は少し思いを巡らせてみる。セイラ嬢の笑顔は俺も可愛いし素敵だと思った。
物怖じしない明るい性格もいいと思う。それでもやっぱり、俺はセイラ嬢には好意を寄せることは無かったと思う。
もうずっと心に決めていた人がいる。
彼女の喪失した姿は見たくないと思っているから、彼女を裏切ることはしない。
「ごめん、やっぱり俺はリリアンナ以外考えられない 」
考えて出た答えを素直に告げると、セイラは振り向いてにっこり笑った。
「うん、そう言うと思ってた 」
そして俺に近づくと、見上げて顔をまじまじと見る。
「前のお兄ちゃんもカッコよくて好きだったけど、今のお兄ちゃんはみんな虜になっちゃうくらい素敵な王子様なんだよね、全然別人になっちゃったんだね 」
「それを言ったらお前もだろ、でも、今は血の繋がりは無くても心は繋がってる。俺はずっとお前の兄だよ、これからは俺がずっと見守ってる 」
セイラの頭を撫でながら、自分にもそうなのだと認識させるよう、つぶやいた。
「ありがとう 」
そう言って俺を見上げて笑った顔は心菜の笑顔だった。
容姿も髪の色も違うのに、何故かセイラと心菜が重なって見えた。
「シルル様がダメってわかったから、私は隣の第三王子が現れるのを待つわ 」
セイラのその言葉に、あの話には続編があった事を思い出す。
そう言えば、俺とセイラとの仲を邪魔する奴が続編で居たな。
「ジャスタ王子か、確かに彼もイケメンだったよな 」
俺は逞しい妹に笑いが込み上げるのを押さえきれずに吹き出しながら、隣の王子の事を思い出す。
「うん、今度は邪魔しないでね 」
「邪魔なんてしないよ、応援してやる 」
そう言って俺達は微笑みあった。
コンコンコン
兄妹の和やかなその雰囲気を壊すようにドアが鳴る。
「誰? どうぞ 」
俺の返事を待ってドアが開いて姿を見せたのはカイとセフィア、エルヴィンだった。
「失礼致します。まだここにいらっしゃいましたか 」
会釈をして部屋に入ると、三人は俺の隣にいるセイラを一瞥する。
「どうした? 」
三人の雰囲気に、何かあったのだと悟る。
「暗くなってもジュリアスが寮に戻らなかったので、直ぐに探しに行きました。二手に別れて探した所、エルヴィンとラースがジュリアスが閉じ込められているのを見つけました 」
「ジュリアスが? 何故? 」
セフィアの説明を聞いて、疑問しか浮かばない。
遊び人のジュリアスが帰らないからって探すか? それに、何で閉じ込められていたんだ?
「そこにはもう一人、一緒に閉じ込められている人がいました 」
「まさか! 」
セフィアの声に真っ先に声を出したのはセイラだった。
「そう、セイラ様には心当たりがおありのようだ 」
セフィアが睨むようにセイラを見下ろす。
「リリアンナ嬢が閉じ込められていました 」
「リリアンナが? 」
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