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㉖癒しの力
しおりを挟むユリアンさんからそのうち居なくなると聞かされた翌朝、ユリアンさんのことを考えるとあまり眠れなくてぼーっとした頭のまま、着替えを手伝ってもらう。
今日は気がつくと、ベッドの両脇に薔薇の花束が置いてあった。
うとうとしてた間に置いたのかな?
全然気が付かなかったよ。
とりあえず、着替え終わって部屋を出ようとした時、外で何かが落ちるような音がした。
「ん?なんの音?」
俺はそっと扉を開けてみる。
「!!ユリアンさん!!」
扉の外には、いつも待っていてくれるはずのユリアンさんが、血を流して倒れていた。
「ユリアンさん!」
俺は慌てて駆け寄った。
背中を刺されてる。
強いはずのユリアンさんを刺すなんて、誰が?
そう思って辺りを見回すと、逃げていくメイドさんの姿が目に入った。
「捕縛!」
俺は思わず叫んでメイドさんの動きを封じた。メイドさんは動きを封じられてその場に倒れ込んむ。
「シン・・・ラ・・・私とした事が・・・女性に油断してしまいした。」
ユリアンさんは俺を見て笑う。
「ユリアンさん!喋らないで!」
どんどん血が流れていく。どうしたらいいの?
俺は傷口を手で抑えながら途方に暮れる。
誰か、助けて!
次第にユリアンさんの意識も遠のいていくのがわかる。
「ヤダ、ユリアンさん!」
俺はボロボロと涙をこぼしながらユリアンさんの傷を、治れ治れと念じながら一生懸命押さえた。
そうだ、神様!俺に癒しの力くれなかった?どうやって使えばいいの?
今使わないと意味ないよ!
そう思いながらユリアンさんを見下ろしていると、涙がユリアンさんの上に落ちた。
その瞬間、落ちた部分が光った。
「え?」
今なんか起きた?
そう思って瞬きをすると、目に溜まった涙がハタハタとユリアンさんの上にこぼれ落ちる。
また光る。
何が起こってるの?
目を見開く俺の目に、みるみる傷が塞がっていく様子が目に映る。
何?
「シンラ、すごいな、お前の涙は癒しの力を持っていたのか。」
後ろから声がして振り向くと、グレンが立っていた。
「グレン、西の庭園に居なかったの?」
いつもなら西の庭園にいる時間だ。
「人間の血の匂いがしたから、シンラかと思って来た。」
「良かった。グレンが来てくれたら安心だ。ユリアンさんを助けて!」
俺はほっとしてグレンに助けを求めた。
「お前が今助けただろ。」
「え?そうなの?」
「シン・・・ラ・・・」
ユリアンさんを見下ろすと、ユリアンさんが意識を取り戻したところだった。
「ユリアンさん!良かった・・・!」
俺は横になるユリアンさんにしがみついて泣いた。
「ユリアン、感謝しろよ、シンラがお前の傷を治したんだ。」
「そうなんですか?シンラはなんでも出来るのですね。」
ユリアンさんはそう言うと、片手で俺の頭を撫でてくれた。
「シンラ、あれはなんだ?」
グレンが遠くで転がるメイドさんに気がついて指さす。
「あ、逃げてたからとりあえず捕縛の魔法掛けといたの。」
そう言うと、グレンが魔法で転がるメイドさんを引き寄せた。
「魔王陛下!申し訳ございませんっ!」
メイドさんは動けない状態で、グレンに謝る。
ん?なんで謝ってるの?
まさか、グレンの差し金?
いやいや、グレンに限ってそんな事しないよ!する訳ないじゃん!
グレンはユリアンさんの事は認めてたんだよ?
「何の目的でユリアンを刺した?」
「・・・・・・」
グレンの問い掛けに黙り込むメイドさん。
「ユリアンは人間にしては魔力も高く、戦闘能力も高い。そんなユリアンを油断させて傷を負わせたことについては褒めてやる。だが、シンラを泣かせるやつは許す訳にはいかない。」
そう言って転がるメイドさんを睨みつけるグレン。めちゃくちゃ怖いよ。
「ヒッ・・・」
メイドさんも小さく悲鳴をあげて固まっている。
「グレン、威嚇してどうするの。」
俺の言葉に、グレンは「そうか」と呟くと、しゃがみこんでメイドさんの顔を片手で持ち上げる。
「何故こんな事をした?」
顎を持ち上げられてグレンに見つめられたメイドさんは真っ赤な顔になって目線をそらす。
うん、イケメンのその攻撃は直視できないよね。
「・・・申し訳ございません。魔王陛下があまりにも苦しそうでしたので・・・あの人間さえ居なければ、シンラ様と身体を重ねることが出来るのではないかと・・・」
は?
えーっと・・・この人は何を言ってるのかな?
「勝手な判断をするな。俺がシンラを抱かないのはユリアンが居るからでは無い。」
そうだよね、俺、笑顔で浄化できるし、抱く必要ないもんね。
「でも、とても苦しそうにしていらっしゃるのが見るに忍びなく・・・」
「お前にそんな心配をしてもらう必要は無い。」
訴えるメイドさんにグレンは厳しい言葉をなげかけた。
そして、メイドさんは駆けつけた兵士さんに連れて行かれた。
「ユリアン、すまなかった。」
グレンがユリアンさんに向き直って頭を下げる。
「魔王陛下のせいではありません。シンラが居てくれたおかげで助かったのですし、問題ありません。」
ユリアンさんは血を流した分、少し辛そうだけど、頭を下げるグレンに向かってにっこりと返す。
自分の指示でもないのに頭を下げるグレンもさすがだけど、刺されたのに笑顔で返せるユリアンさんも大人だなー。
俺は二人を尊敬の眼差しで見つめて、とにかく、ユリアンさんが大事に至らなくてよかったとほっとした。
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