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2話 父上の言葉
しおりを挟む「父上、お願いがあります 」
俺はシンシアと会った翌日、父上の元へ向かった。
「何だ? 」
「昨日シンシア姫と婚約以来初めて会いましたが、僕はシンシア姫とは気が合いそうにありません。この婚約はなかったことにしていただけませんか? 」
「だめだ 」
「え?、何故です? 」
父上の即答すぎる回答に、一瞬思考が停止する。
「カインクラムは何故そう思う? 」
父上は片肘をつきながら真っ直ぐに俺を射抜くような眼差しで問いかける。
「そ、それは・・・ 」
ただ単に気に入らないとか言っても今の父上の様子じゃ聞き入れてくれない気がする。
しまった、何も考えずに来てしまった。
しばらく固まってしまった俺を見て、父上は嘆息して少し眼差しを和らげる。
「お前はシンシア姫の何を見た? まだよく分かりもしないで言っているのではないか? 」
「それは・・・ でも僕はシンシア姫とは気が合いません 」
「本当にそんな事を言っているのか? 」
父上は大きなため息をつく。
それを見て、またしまったと思った。
俺は王子だ。好き嫌いで結婚出来るわけじゃないって分かってた。いや、頭では理解していたのに、今の俺の行動は正しく王子として失格な行為だ。
そう思うと、恥ずかしくなって父上が見れなくなる。
「カインクラム、シンシア姫の事をもう少し見てみろ、会話しろ、そうしたらおまえが今思っている事が正しいのか、正しくなかったのか分かるだろう、急ぐ必要は無い、お前なりの正しい答えが出たら、その時もう一度聞いてやろう 」
「・・・・・・はい、申し訳ございません 」
父上に言えば何とかなるだろうという安易な考えで来たしまったことを後悔しつつ、とりあえず何か婚約破棄を決定的に出来るネタを持ってこなければ父上も納得してくれないと思い直して父上の執務室を出た。
「カイン様、如何でしたか? 」
部屋を出た所で待ち構えていた侍従のジュナが俺の後に従いながら問いかけてくる。
「ダメだった 」
俺は短くそれだけを言って自室へと向かって早足で歩く。
「やはりですか・・・で、どうされます? 」
「うん・・・ どうしようかな 」
ジュナはいつも正しい。
俺が5歳、ジュナが15歳の時から仕えてくれているので、兄のように親しく感じている人間だ。
ジュナは白銀の長い髪と黒曜石のような瞳で、外見は俺から見ても綺麗で女性から騒がれてたりする。それは置いといて、性格が真面目だから俺がする事は大抵反対する。
それが結果として正解の場合がほとんどなんだけど、反対しつつも結局俺に従ってくれる優しい所がある。
そんなジュナにどうするか訊ねられて、脚を止めて考える。
何かシンシアがダメだと納得させるネタを探さないといけないな・・・
なんて事を考えながらふと窓から眼下に見える庭を眺めると、そこにシンシアの姿があった。
「・・・とりあえず考えるより行動するか 」
そう言って足早に歩き出す俺に、ジュナが慌てて着いてくる。
「どちらに? 」
「庭にシンシアがいるんだ、とりあえずシンシアの元に行ってみる 」
俺は3階から下に降りる階段に手を掛けながらジュナを見ること無く答えて、そのまま階段を駆け下りた。
「カイン様! お待ちください! 」
ジュナが慌てて付いて来ていたけど、いつもの事だ、後から王宮内で走るなと小言を言われるんだろう。だけど、今はそれよりもあいつにどうやって帰ってもらうか、だ。
さっき三階の窓から見えた庭に行ってみると、シンシアは庭園の中に設けられたベンチに座っていた。
「何やってるんだ? 」
俺は無造作にシンシアの居るベンチまで近づいて声を掛けた。
「これはカインクラム様、こんにちは 」
俺に気が付いて、シンシアは立ち上がると淑女の礼を完璧にこなして挨拶をする。
「そんな挨拶はいい、何をしていたんだ? 」
「はい、お庭を散歩させて頂いておりました。とても素敵なお庭ですね 」
にっこり微笑んで俺を見るシンシアを見て思わずドキッとする。
昨日も思ったけど、こいつ噂で聞いていた以上に可愛い。
柔らかそうな緩いウエーブを描く淡い金色の髪も、大きくてこぼれそうなエメラルドグリーンの瞳も、華奢な身体、白い肌、柔らかな微笑み、全部可愛いじゃないか・・・
「カインクラム様? どうかなさいましたか? 」
「な、何でもない。うちの自慢の庭園だからな、だけどここよりも東の棟の南側にある庭はもっと凄いぞ 」
「まぁ、そうなんですか? 」
「うん、行ってみるか? 」
「よろしいのですか? 」
「ああ、こっちだ 」
素直に喜ばれて思わず言ってしまったけど、父上はもっとシンシアを見ろって言ってたしな、それに、可愛いけど、卒の無い動き、会話、俺は騙されないぞ、こういう奴は絶対腹黒に決まってる。本性を見抜いてやる。
俺は前に立って歩きながら、ちゃんと付いて来てるか後ろを振り返る。
シンシアはちゃんと付いてきている。
だけど、よっぽど深窓の姫なのか、歩く時も従者の腕に捕まって歩くんだな、うちの妹達なんて率先して従者の前を歩くのに、えらい違いだ。
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