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3話 シンシアの告白

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「この階段を昇った先だ 」

俺は階段を軽い足取りで半分くらい登った所で振り向いた。
すると、付いてきていると思っていたシンシアはまだ階段の下に居た。

「どうしたんだ? 」

「何でもありません、お先に行ってください 」

そう言って階段を登り始める。
従者は相変わらずシンシアの隣にピッタリと付いたままだ。
ドレスで階段は登りにくいのか? まぁいいか、先に登って待ってれば来るだろう。

先に昇って待っていると、しばらくしてシンシアと従者が登ってきた。

「すみません、お待たせ致しました 」

「ああ、ドレスだと登りにくくて大変だな、ここをくぐれば庭園だ 」

俺はまた先に立って歩く。
アーチをくぐれば庭園だ。今は丁度薔薇が見頃なんだ、女性なら喜ぶだろうな。

あれ? 俺シンシアを喜ばしてどうすんだ?
それに弱点を見つける為に来たのに先に歩いてどうすんだよ、俺!

「カインクラム様? 」

突然立ち止まった俺を不審に思ったのか、首を傾げるシンシア。

「ああ、ここからはお先にどうぞ、俺の後ろ姿があるとこの景色を見るのに邪魔だろ? 」

「そんな事ありませんわ、でもお気遣いありがとうございます 」

俺は最もらしいことを言って先に行かせる事にした。

シンシアは会釈をして俺の横通り過ぎる。何処までも卒がないな。

「・・・・・・とても素敵な所ですね、とてもいい香りです。空気もとても綺麗 」

「そうだろ? ここには珍しい青薔薇も咲いてるんだぜ 」

「そうなんですか? 」

「うん、こっちの薔薇の色も綺麗だけど、俺は青薔薇が好きだな 」

「こちらは赤い薔薇ですね 」

俺が指さした薔薇の色を、シンシアの従者が言葉にする。
今まで話してなかったのに急に会話に入ってきたな。

「私は赤い薔薇も好きですわ、でもカインクラム様がお好きな青薔薇はもっと素敵なんでしょうね、私青薔薇は見た事がないんです。どんな感じかしら 」

柔らかく微笑むシンシアは今のところ完璧で、欠点なんて見つけられない。
でもそのうちボロが出るかもしれない。

「青薔薇はこっちにあるぞ 」

見たことが無いのなら驚くかもしれない、その拍子になんかボロを出すかもしれない。
そう思って俺はまた先に立って青薔薇の元に案内した。

 
しばらく歩くと青薔薇が咲く区画に近づいてきた。遠くから見る青薔薇一色の景色も俺は好きなんだけど、今の所シンシアの反応はない。
やっぱり俺が前に居るから見えないのか?
俺そんなにデカく無いんだけどな・・・

「シンシア、凄いだろ? 」

「・・・ええ・・・」

もっと驚くかと思ったのに、シンシアの反応はやっぱりいまいちだ。
青い薔薇はあんまり好みじゃなかったのかな。

「シンシア様、素晴らしい景色です。まるで海が広がるような、それでいてその一つ一つが実は薔薇なので、花の形がなんとも愛らしい 」

「まぁ、そうなの? それは素敵だわ 」

何故か従者の言葉を聞いて嬉しそうに話すシンシアを見て、俺は嫌われてるのか? と思った。

ーーーああ、そういえば昨日俺がシンシアに婚約破棄するって言ったんだった。
そりゃわざわざ来たのにそんな事言われたら嫌いにもなるか、まぁ、そのうち帰ってもらうから嫌いならそれでいいけど、それでも俺の前であからさまにやるって事は、やっと少しボロを出したのか?

「ああ、一度見てみたいわ 」

何を言ってるんだ、シンシアは。

「目の前にあるのに何言ってんだ? 」

俺の何気ない言葉に、シンシアはピクリと反応して俺を見る。

「あの・・・カインクラム様はご存知ないのですか? 」

「何を? 」

なんか遠慮がちに聞いてくるけど、何の事を言ってるのかさっぱり分からない。

「・・・・・・私、目が見えないのです 」

「・・・・・・え? 」

目が見えないと言ったシンシアは俺を真っ直ぐに見つめて申し訳なさそうに微笑む。

「見えないって・・・ 」

俺を真っ直ぐに見ているシンシアが実は俺が見えていない? なんの冗談だ?

「はい、全く見えないんです 」

「じゃあ、今俺を見てるのはどうしてだ? 」

「声の方向と位置で、話している方の位置と距離、背の高さはだいたい分かるので、この辺りかな・・・という方向を向いているだけです 」

平然と俺を見て話すシンシアはやっぱり見えているようにしか思えない。

「本当なのか? 」

「ええ、嘘をついても仕方のない事ですし、国でもあまり私の目が見えない事を知っている者は居ませんでしたが、ご婚約者のカインクラム様のお耳には入っているかと思っておりました。最初にお話出来ず申し訳ございませんでした 」

そう言われてもまだ信じられない。
シンシアの瞳は俺を捉えているのに、この綺麗なエメラルドグリーンの瞳が映しているものがシンシアには見えていないなんて、シンシアが嘘を付いているんじゃ無いかとさえ思ってしまう。

だけど、言われてみれば従者がずっと横に付いているのも、階段を上る時少し遅かったのも納得が行く。



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