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4話 失った者
しおりを挟む「ごめん、気が付かなくて、こんな所に連れてきてしまった 」
目が見えないのに花を見せられても何も感じないだろう、それなら早く言ってくれれば良かったのに・・・
「いえ、花は香りだけで十分楽しめます。それに、自然の香りは私好きなんです。心が落ち着きますので 」
なんでもない事のように言って微笑むシンシアは、本当にそれを楽しんでいるようだった。
「もう少し先に東屋があるからそこで座って話そう。花に囲まれた場所だから空気もいいんだ、歩ける? 」
もう少しシンシアの事が知りたくなった。
噂で聞いていた時は嫌で仕方なかったのに、本人は全く嫌味を感じさせない。
「お気遣いありがとうございます。歩くのは問題ありません。ただ、この城には来たばかりですので従者の手を借りています。もう暫くで出て行くことになりますで、慣れるまでに至らないと思いますが、お気になさらないでください 」
そうか、俺は婚約破棄すると言ったから出ていくつもりなのか・・・ある意味俺にはなんの興味もないんだな・・・
そう思うと何故か一瞬胸が締め付けられた。
「分かった。普通に接するけど、なにか不都合があったら遠慮なく言って欲しい 」
「はい、ありがとうございます 」
にっこり笑ったシンシアはやっぱり目が見えないのを感じさせない。
真っ直ぐに俺を見ているようで、だから余計わからなかったんだ。
「さっき、青い薔薇は見たことがないって言ってたけど、目が見えないのは生まれつきじゃないのか? 」
東屋に到着してシンシアが座るのを待ってから問いかける。
「はい、7歳までは普通に見えていました 」
シンシアの言葉に少し息を飲む。
7歳・・・俺が魔力を失ったのも7歳だ。
「それってもしかして・・・加護受けの儀式が関係してるのか? 」
「よくお分かりですね、そうです。私は加護受けの儀式の後、視力を失いました 」
俺だけじゃなかった、加護受けの儀式を受けて何かを失ったのは、シンシアも同じだったんだ。
ああ、いや、同じじゃない、シンシアは癒しの加護を持ってる。
「癒しの加護と引き換えに視力を失ったのか・・・ 」
俺のつぶやきに、シンシアは困ったように微笑んだ。
きっと加護の代わりに視力を無くしたことは散々言われ続けてきたことなんだろう。
「シンシア、俺の事は聞いてると思うけど、俺も加護受けの儀式で魔力を失った。しかも、俺は加護も授かることが出来なかった能無しなんだよ 」
下には下が居ると知ってもらって、シンシアの心が少しでも救われるなら、俺の能無しも役に立つんじゃないかと思った。
「カインクラム様の事は聞いてますわ 」
「やっぱり、俺の能無しは他国にまで広がってるのか、そりゃ皆この国の事を案ずるはずだよな、ハハッ 」
から笑いしか出て来ないけど、今更この事実はどうしようもないんだから仕方がない。
「カインクラム様は・・・ きっと将来誰もが膝まづく素晴らしい方になりますわ 」
「慰めを言ってくれてるの? ありがとう、そんな未来が待ってるなら俺も希望が持てるけどね 」
俺が無能なのを貶す奴はいても、励ましてくれたのは彼女が初めてだ。
それが、なんの根拠もないただの社交辞令だとしても。
「俺は魔力を失って、シンシアは視力を失った。何かを失った者同士なんだね、俺達は、だけどシンシアには癒しの加護がある。俺からしたら羨ましいよ 」
本当に羨ましくてつい口にした言葉に、シンシアは困ったように微笑んだ。
「あっ、」
その表情を見て余計なことを言ったと思った。
「ごめん!目が見えなくなるって怖いよね、羨ましいだなんて言って本当にごめん 」
目が見えなくなって加護を授かるより、魔力を失う方が全然マシじゃないか、それを羨ましいなんて、俺は本当に能無しだな。
「全然気にしていないので、お気になさらないでください 」
シンシアはにっこり微笑んだ。
真っ直ぐに背筋を伸ばして微笑む姿は、視力を無くした事を悔やんで後ろを向くこと無く、ただ前を向いて進む、とても強い人に見えた。
実際そうなんだと思う。
俺が聞いていたシンシアは、王族としての誇りを持った勇敢で優しく、美しく強い人、誰の前でも平等で、神の加護である癒しの力を使うシンシアは、「聖女様」と崇められるほどで、俺なんかとは月とすっぽんの存在なんだ。
嫌という程比べられて、卑屈にならないわけが無い。
ずっと嫌いだったシンシアは、やっぱりとても俺なんかとは比べ物にならない立派な存在なんだ。
それを今、改めて実感した。
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