侯爵令嬢は弟の代わりに男として生きることを決めました。

さらさ

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4話 騎士団見習いの日常

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入隊して一ヶ月、隊の訓練は朝早く、ランニングから始まる。
僕は体力には自信があるので、ランニングは余裕だ。

「貴族の坊ちゃんは体力がないなー。」

ランニングが終わってへとへとになって倒れ込む奴らを呆れ顔で見下ろす。

「お前も貴族の坊ちゃんだろうが。」

その横で、息を整えながら割と平気そうな顔で僕を小突くのはギルだ。

「まさかお前がこんなに体力あるとは思わなかったぜ。」

ガシガシと、僕の頭をなでながら話すギルから手を跳ね除けて、一歩距離を置く。
僕は男と偽るには小さいし、女顔だから、体力と剣技だけは誰にも負けないように努力して来たつもりだ。

「それは褒めてんの?貶してんの?」

ギルを睨みつけながら、クシャクシャにされた髪を撫で付ける。

「褒めてるんだよ、お前凄いよな、小さいのに、剣の腕も俺と互角とか、すげーよ!俺、結構自信あったんだけど、お前に初日負けた時はびっくりしたぜ。」

「小さいは余計だ。」

僕はギルの腹に軽くパンチを入れる。

「剣は入隊前まで剣術学校に通ってたからな。」

剣術学校では負け無しだった。腕には自信があった。それだけの努力をしてきたんだ。
だけど、ギルに、二回目の手合わせの時にあっと言う間に負けてしまった。

ギルに負けたから言う訳じゃないけど、ギルは相当強い。
体格差があるからしょうがないとギルは言うけど、それを抜いても僕は勝てないと思う。
ここに来て、上には上がいると学んだ。

ギルはたまに口は悪いけど、気さくな奴で、誰とでもすぐ仲良くなる。
次男だと言ってたけど、面倒見が良いので、まだ下に弟がいるのかな?

ギルとの相部屋生活は、最初は緊張したし、僕が女だと疑われてるんじゃないかと警戒したけど、そんな様子は全くなく、僕を本当に男だと思っているようで、上手くやれてると思う。



「おい、メシ行くぞ!」

部屋に帰って着替えをしていると、ギルが話しかけて来る。

「ちょっと待って、ギルもう着替えたのか?」

僕はカーテンを閉めたベッドから話し掛ける。

「ああ、こんなのちゃっと脱いで着りゃお終いだろう。」

そう言われると、そうだけど、カーテンの中だと動きにくいんだよな・・・

「外で着替えりゃ楽なのに、いつもそこで着替えるよな。」

全然怪しむ様子はなく、ただめんどくさくないか?と言う風に話すギル。

「うるさいな、これでも、華奢な身体を気にしてんだよ!お前みたいなガタイのいいやつに見られるのは余計恥ずかしいから見るなよ!」

本当のことを混じえつつ牽制をする。

「見ねーから早くしろよ。」

ギルはそういう所真面目なのか、僕の意見は素直に聞いて守ってくれるので助かる。
やんちゃなガキだと、悪ふざけで覗いてきたりとかしそうだけど、今の所ギルにそんな感じはない。

「お待たせ。」

僕はカーテンを開けると、ベッドの上から飛び降りながら答える。

「お前本当にいい所の坊ちゃんかよ、階段使えよな。」

「え?めんどくさいじゃん。」

「元気があっていいけど、怪我すんなよな・・・ってお前に限ってそれは無いか!」

僕の頭を撫でながらちょっと恥ずかしそうに言うギル、どうやら僕はギルにとって弟的な扱いになってそうだな・・・

僕は頭に乗るギルの手を払い除けながら、心配してくれる事に少し嬉しさを感じていた。




「お前、小さいんだからもっと食えよ。」

ギルが僕の食事量に心配そうに自分の肉を僕の皿に載せる。

「僕はこれでいいんだよ!こんなに食べれないから入れないでくれ!」

「食わないと大きくなれないぞ!」

「ギルは僕のお母さんか!」

食堂でも同じ班の連中は自然と固まるため、周りは同じ班の連中だ。
僕とギルのやり取りを、またやってる・・・とため息混じりに暖かく見守っている。

そんな時、たまたま通り掛かった他の班の連中が僕達を見下ろす。

「お嬢ちゃんみたいなチビが一緒だと、班の評価が下がるから大変だよな。」

くすくす笑いながら三人が僕を見下ろす。
コイツら、確か四班の奴らだよな?

「誰がチビだって?」

僕が冷静に奴らを見てると、声が聞こえる。あれ?僕まだ言ってないぞ?そう思って横を見ると、立ち上がったのはギルだった。

「ギル、いいよ、言いたい奴には言わせておけ。」

僕の静止に納得がいかないのか、ギルが僕の手をはらいのける。

「ほら、おチビちゃんはビビってるじゃん、お前も素直に座っとけよ。」

背の高いギルにちょっと圧倒されながらも、自分たちの優位を示したい奴らはギルを挑発する。
 
「今なんつった?もういっぺん言ってみろ!」

ギルが僕の為に熱くなってくれるのは嬉しいけど、場所が悪い。
ここは教官達も使う食堂だ、目をつけられると厄介だ。

「ギル!僕は良いから座ってくれ!そんな奴らは無視していいよ。」

僕は無理やりギルを引っ張って座らせると、三人は蔑んだ目で見下ろす。

「とんだ腰抜けだな。」

 吐き捨てるように言うと、三人は笑いながら去って行った。





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