侯爵令嬢は弟の代わりに男として生きることを決めました。

さらさ

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29話 優しさ

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お腹の激痛に目を覚ますと、ギルの姿が目に入った。
そうか、僕カルロス様に助けられたんだよな。
ギルが来てくれて、ギルの大丈夫そうな顔を見たら安心して、そのまま気を失ってたんだ・・・

「ギル・・・大丈夫?」

あちこちに傷テープを貼った痛々しい顔が僕を見て微笑む。

「良かった、目が覚めたか、俺は大丈夫だ。」

そう言ってあまりの痛みに出る僕の冷や汗を拭ってくれる。

僕のベッドに腰掛けるギルの顔を見ると、横にクラウス様が居るのに気が付いた。
クラウス様もにっこり微笑んでいる。クラウス様はギルが呼んだんだろうか?

「クラウス様?」

「目が覚めて良かった。・・・痛いのか?」

僕のつらそうな顔を見てクラウス様が心配そうに聞いてくる。

「クラウス様、すみません。」

僕達がケンカしたことで、団長であるクラウス様に迷惑をかけてしまったんじゃないだろうか?

「クリスは謝ることない。ギルに大体の成り行きは聞いた。パーティー会場でもクリスは手を出していないんだろ? 非は明らかに相手にあるし、大勢でやり返すなんて、騎士としての誇りも何も無い奴を相手の団長も庇いはしない。」

クラウス様はそう言ってくれるけど、元々は僕が巻いたタネだ。
ギルも巻き込んでしまった。

「それでも、元々は僕があいつらに関わったのがいけないんです。」

そう言った後、ギルの痛そうな顔にそっと触れると、ギルがビクッと反応する。

「ギル、巻き込んでごめん。」

僕が謝ると、ギルが何故か泣きそうな顔をした。

「俺なんかどうなってもいい。それより、お前の綺麗な顔に傷でも残ったら・・・っ」

何故かギルは、言葉をつまらせながら自分の事よりも僕の心配をしてくれる。

「別に、傷が残ったって、ちょっとは男らしく見えていいくらいだよ。それより、ギルの男前な顔に傷がつく方が僕は嫌だな。」

僕が平気な顔をして笑うと、ギルが僕の顔をそっと包み込むように触る。

「そんな事言うな。」

そう言って、さらに泣きそうな顔をする。

「守ってやれなくてごめん。」

「何言ってるの? 僕男だよ? 守られる女の子じゃないんだから、守ってもらわなくても、自分でなんとかしないといけないんだ。これくらい何ともないよ。」

そう言うと、今度はクラウス様までもが泣きそうな顔で僕の頭を撫でる。

「クリス、私もとても心配したんだ。ギルの言うことも理解してやってくれ。」

「はい・・・、ギル、心配してくれてありがとう。僕はまだまだだね、もっと強くならなくちゃね。」

そう言うと、二人して「お前は充分強いから頑張らなくていい」と言われてしまった。
何かよほど心配させてしまったみたいだ。

「クラウス様、ギル、心配させてしまってごめんなさい。」

僕がとりあえず謝ると、二人して僕の頭を撫でてくれる。

「クリス、痛みは大丈夫か? 辛かったらこれを飲んどけ。」

ギルが痛み止めを出してくれたので、僕は飲むために起き上がった。

「痛っ、」

「大丈夫か?」

ギルがそっと背中を支えてくれる。
薬を受け取ると、クラウス様が水の入ったコップを差し出してくれる。
なんか病人みたい。

薬と水を飲むと、口の中が切れているせいか水が染みる。
痛みに顔を歪めると、心配そうに覗き込むので、大丈夫だと微笑んでみせる。

「痩せ我慢しなくていい、痛いなら痛いと言えよ。」

ギルがそう言ってくれるけど、痩せ我慢してるのには他に理由がある。
痛みよりも、二人の優しさに泣いてしまいそうなんだ。
どうして僕なんかにこんなに優しくしてくれるの?
今気を許すと、涙が溢れて止まらなくなる。そう思ったから無理に笑顔を作って平気そうな顔をする。

「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。」

そういった後、僕はクラウス様に優しく抱きしめられていた。

「ク、クラウス様? 」

焦る僕の背中を優しく撫でてくれる。

「クリス、痩せ我慢しなくていい、泣きたいなら泣けばいいんだよ。」

クラウス様の温もりと、優しく響く声に、感情が込み上げる。

「クラウス様、僕大丈夫だから、 そんなに優しくしないで! 」

僕はクラウス様から離れようとしたけど、離してくれない。

「何故? クリスに優しくしたいと思ったからしているんだ。」

ヤバい、涙が溢れる。

「今、ギルとクラウス様の優しさに泣きそうなの! それ以上優しくされると本当にダメになっちゃう。みんなの前で泣くなんて恥ずかしいんだ! だから離して! 」

本当の事を言ったのに、クラウス様の手が緩む所か、ギルまでもが反対から抱きしめる。

「泣きたいなら泣けばいい。俺達は笑わない。クリスの味方だ。」

味方・・・そう言われて張り詰めていたものが一気に崩れる。

僕は二人にしがみついて泣いた。
怖かったとか、痛かったとかじゃない。
二人の温かさに、涙が止まらなくなった。

しばらく泣いていたけど、ずっと二人は僕の背中を、頭を撫でてくれていた。




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